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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-07 『White knight』
80/173

Section-4

更新履歴 21/10/9 文章のレイアウト変更・表現の修正


(いない……か。まあ当然だけど)



 どこまでも広がる、茫漠とした漆黒の星の海。

 その暗闇に目を凝らし、ひと通り敵の姿を探した後、私は内心でそう呟いた。

 たった独り、母艦のすぐ側を静かに漂いながら。


 そう、実は今、私は宇宙空間にいるのだ。

 あのホームルームの一時休憩の間に、倉田先生に掛け合い許しを得て、そのまますぐ出撃したから。

 誰に相談することもなく、たった一人で。


 その目的は一応、敵の襲来に備えるため。

 未だその兆候は皆無なものの、警戒しておいても損はないはず、と考えてここに来たのである。

 古い表現をすれば、見張り番というところか。


 ……まあ本当の理由は、教室に戻って記憶の話をするのが辛かったから、ということなわけだが。

 直視したくない現実から逃げてきた、なんて言い方をしてもいいだろう。

 見張りも無駄ではないとは言え、今も真剣に議論しているはずのクラスメイト達には、少なからず申し訳ないと思う。


 ただその私の勝手を、倉田先生はわりとあっさり受け入れた。

 さして疑うような素振りも見せず、さっさと出撃の許可を出したのだ。

 少し前に、クーデター未遂なんて事件があったというのに。

 彼にしてみれば、自分の負担を減らそうとしたのかもしれないが、相変わらず考えの読めぬ人である。


 そんなこんなで、私は宇宙空間へと進出し、そこで自主的な警備任務に就いていたのだが――


(……何も起こらない)


 当然のように、どれだけ待とうとも、一向に敵は現れない。

 宇宙空間は変わらず静かで、騒乱の気配なんてどこにもなかったのである。

 まあ元々、何か当てがあったわけでもなし、ごく自然な結末とも言えるだろう。


 なので私は、それが良いことだとわかっていながらも、徐々に退屈し始める。

 結果ついつい意識を逸らして、無益な物思いに耽ってしまった。


(……どんな雰囲気だったんだろう)


 おぼろげにしか覚えていない、自分の恋した人の居住まいを、脳裏に思い描こうとしたのだ。

 ひょっとしたらそれが、記憶を取り戻すきっかけになるかもしれない、と少しだけ期待して。


 顔は……造形はわからないが、いつも笑顔を浮かべていた……ような気がする。

 うっすらとだが、脳裏にそんなイメージが残っているから。


 声は……優しく穏やかで、口調も真面目で丁寧なものだった……と思う。

 どうにか記憶にある、数少ない彼のセリフに対し、そういう良好な印象を受けるから。


 立ち居振る舞いは……常に落ち着いていて、スマートだった印象がある。

 ……あれ? いや、逆にちょっと動揺しやすいタイプだっただろうか。

 まあいずれにしても、どこかの誰かのように、ガサツで騒がしくないのだけは確かだ。


 ……どこかの誰かって、誰だっけか。

 急に浮かんできたけど、詳しくは思い出せない。


 ……だと言うのになぜか、そいつのことを考えただけで、ひどく気分がささくれ立ってきたぞ。

 これはむしろ、忘れた方がいいような奴、ということなのだろうか。

 ……うん、きっとそうに違いないから、もう考えるのはやめておこう。


 などとしばし、失われた記憶について考えを巡らしたところで――


(いやいや……理想の異性過ぎるでしょ、こんなの)


 私はふと、その自身の思考を笑った。

 頭に浮かんだ想い人の姿が、あまりにも非現実的だったから。


 だって今の想像を形にすれば、優しげな笑顔を絶やさない、聡明でスタイリッシュな人物像が出来上がってしまう。

 それでは完全に、少女漫画に登場する王子様だ。

 現実味なんて、ひと欠片もありはしない。


 となるとやはり、この記憶には私の願望が交じっている、と捉えるべきなのだろう。

 薄らいだ思い出を良いように補正したか、あるいはそもそもが空想に過ぎないのか。

 どちらにせよ真に受けぬ方が賢明、しっかり胸の中にしまい込んでおくとしよう。


 もっとも仮に、その予想が真実だとすると、私の理想はそういう王子様じみた男性になるわけだ。

 自分の趣味を突きつけられた気がして、何やらひどく気恥ずかしい。


 その事実にたどり着いた瞬間、私は自分に心から呆れ果てる。


(この状況で、何を考えてるんだか……)


 命懸けの戦いとか人類滅亡の危機とか、今はそんな状況だと言うのに、なんて馬鹿なことを考えているんだ……と、自ら突っ込みを入れたのである。

 実際、いつ敵が来るかわからないわけだし、ここはいったん気を引き締め直した方がいいだろう。


 そう決めると同時に、私は先ほどまでのくだらない思索を捨て去り、意識を集中した。

 眼前に広がる、相変わらず静かなだけの星の海へ。

 少なくない未練が、まだ心の奥底で燻っているのを感じながら。


 するとその直後、不意に違和感を覚える。


(ん……? 今、何か動いたような……?)


 暗闇に浮かぶ星の瞬き、そのとある一部分に、わずかな揺らめきが見えたのだ。

 まるで水面に映った月が、風に流されその姿を歪めた時のように。

 ひょっとしてまた、あの『オベリスク』とかいう奴が現れて、密かにこちらを狙っているのだろうか。


 ただもし、それが事実であったとしても、今はそう恐れることもない。

 出発前に倉田先生に聞いたところによると、あれには志藤さんが、しっかり対策を立ててくれたらしいから。


 なんと彼女、あいつの攻撃の兆候を察知して、その位置を特定可能なシステムを組み上げたらしい。

 攻撃に移る直前、敵の迷彩に少し乱れが生じる、という欠点を利用して。

 その揺らぎを母艦のレーダーで捕捉し、発見できるようにしたとのことだ。


 倉田先生によれば、敵機にそういう欠点があるのは、火力と隠密性の両立が困難だったせいらしい。

 志藤さんはそこを的確に突いて、奴を見つけ出す方法を提案したようだ。

 相も変わらず、常識外れなほどにハイスペックな人、と言えるだろう。


 そしてそのシステムは、倉田先生の協力もあり、私達がピクニックごっこに興じている間に完成した。

 だからそのおかげで、今は奇襲を受ける確率がほぼ皆無、という状態になっている。

 奴が攻撃してきたのなら、すぐにでも母艦から警告が届くはずである。


 つまり肝心なのは、その第一報を聞き逃さないこと。

 それゆえ私は、耳へと意識を集中し、来るかもわからぬ敵に備えていたのだが――


(……音沙汰無し、か)


 しばらく経っても、私の元に知らせが届くことはなかった。

 周囲は物音ひとつなく、死んだように静まり返ったままなのである。

 全ては私の勘違い、単なる取り越し苦労だった、ということなのだろうか。


 しかし仮にそうだとしても、油断する気はさらさら無い。

 だって連中には、今まで何度も煮え湯を飲まされているから。

 きっと馬鹿みたいに慎重、というくらいがちょうどいいに違いない。


 そこで、ならば今は何をすべきなのか、と色々考えを巡らした挙げ句――


(無駄になるかもしれないけど……一応、試してみようかな)


 私は自機を攻撃態勢に移行させて、頭部の小型機関砲を起動し、すぐさまそれを発射する。

 首を小刻みに旋回させながら、乱雑に周囲へばら撒いていったのだ。

 まるで芝生に散水するための、スプリンクラーか何かにでもなったかのように。


 これはもし、見えぬ敵が付近にいた場合、こうすれば偶然当たることもあるかもしれない……と思いついたがゆえの行動だ。

 電子的なレーダーでなく、物理的に索敵しようとしたのである。

 その発想に従って、私はしばし同様の作業を続けていった。


 だが、さして時間も経たぬ内に――


(さすがに、無理かな……?)


 自身の選択に、避けられず疑問が湧いてくる。

 そのあまりの効率の悪さに、我ながら少々絶望してしまったのだ。


 だってこんなの、いるかもわからぬ蚊やら蝿やらに対して、闇雲に殺虫剤を吹きかけているようなものではないか。

 偶然に頼りすぎと言うか、作戦としてあまりにいい加減なのである。

 直感任せで動かずに、もう少しきちんと考えるべきだった、ということだろう。


 そう自らの粗雑さに嘆息しつつ、私はいったん攻撃を停止した。

 そして神経過敏になっている自身を危惧し、そろそろ教室に戻るべきかな、と独り思案し始める。


 しかしその直後、なんとばらまいた機関砲の弾の内ひとつが、飛んでいった先で――


(なっ……!)



 突如、大きな爆発を起こした――








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