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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-01 『Missing』
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Section-6

更新履歴 21/9/8 文章のレイアウト変更・表現の修正


 つい先ほど終えたばかりの、卒業式に関してのホームルームの後、俺はいつものようにレクリエーションルームへと移動した。


 相棒の悟を除く、他のクラスメイト全員と連れ立って。


 唯一の娯楽であるゲーム、『ムーン・セイヴァーズ』をプレイするために。



 そして到着と同時に、すぐさま自分のシートに陣取り、備え付けのヘッドセットを被ってゲームを開始した。

 その作品世界へと、再び入り込んだのである。


 そこではいつも通り、迫る敵軍と激しい攻防を繰り広げ、とりあえずその第一波を撃退したのだが――


(さて……これでひと区切り、になるが)


 それにより一定の戦果を上げたにも関わらず、俺は自らの不調を強く実感する羽目になっていた。


(なんか、調子悪いな……)


 なぜならここまで、思うように戦いが運ばず、満足にポイントを稼げていなかったから。

 いつもと比べれば、半分程度のペースだろうか。

 それゆえ心に浮かぶのも、ただひたすらに愚痴ばかりである。


(雑魚にもやたらと苦戦するし、倒すのに時間はかかるし、だから撃墜数も少ないし……はあ)


 ちなみに、その根本的な原因は――


(……それもこれも、みんなあいつのせいだ)


 我が親友、結城悟が遅刻をしていること。

 あいつはホームルームの終了後、ずいぶん経った今でも、さっぱりこちらへ合流する気配が無いのだ。

 さっき教室では、『すぐに後を追う』なんて言っていたくせに。


 だから日頃、悟とコンビを組んでいる俺は、ここまで不本意なソロプレイの最中である。

 うまくいかないのも当然の状況、というわけだ。

 まったくあの野郎、相棒を放り出したまま何をしているんだか。


 そう少しばかり苛立つ俺の耳に、次いでひどく事務的、かつ冷静な声が届く。


『敵軍第一波の殲滅を確認しました。

 でもすぐに第二波が来るはずです。

 みなさん気を抜かず、きちんと備えておいてください』


 戦況に関しての報告を行う、志藤明の声である。

 その後も彼女は、クラスメイト全員へ、淀みなくてきぱきと作戦の指示を出していった。

 相変わらずの大した指揮官ぶり、というわけだ。


 もっとも彼女自身は、積極的に前へ出て、どんどん敵を撃墜したりはしない。

 その搭乗機体が、他と比べて戦闘能力が低めな、E-1コマンダーだからだ。

 それでも皆に信頼されているのは、その的確な指揮能力の賜物だろう。


 そんな我らが指揮官殿は、皆に全ての指令を出し終えてから、その最後に俺へも指示を出す。


『木原君はそのまま遊撃を。

 でも決して無理はせず、敵の牽制と味方のカバーをお願いします』


 無闇に前へ出ず、慎重に立ち回れ、という意味だろう。

 具体性に乏しく、憂慮の混じったその内容から察するに、どうやら活躍を期待されてはいないらしい。


 もちろん今回の戦いにおける、自分の振るわぬ戦いぶりを考えれば、それも仕方のないことだと思う。

 己が微妙に戦力外であることを、俺だってしっかりと自覚しているのだ。


 なので俺は、志藤の対応に不満を感じつつも、特に逆らいはせず了承の意志を伝えた。


「……了解」


 するとその直後、視界内に浮かぶレーダーへ、敵機を示す多数の赤い点が映し出される。

 次なる敵軍のお出まし、というわけだ。

 それを受けて彼女は、再度全員に指示を飛ばした。


『敵軍第二波、出現しました。

 各自散開して、任意に戦闘を開始してください』


 その呼びかけに対して、即座にゲームをプレイ中のクラスメイト達が応答する。

 『はい』とか『了解』とか『任せて』とか、各員の個性がにじみ出た、バラバラな返事をしてきたのだ。

 声を聞く限りでは、そちらの調子はいつも通りであるらしい。


 そんな周りの状況に、ちょっとだけネガティブな感想を抱きながら――


(調子が悪いのは俺だけかよ……)


 であれば尚更、遅れるわけにはいかぬと、俺も早速そこに加わった。


「……了解!」


 そしてすかさず背中のスラスターを起動、機体を敵の方へ向けて、前進を開始する。

 苦戦しているのは自分のみ、という現状を自覚したことにより、胸の内の不満が強まっていくのを感じながら。


 すると間を置かず、そんな俺の前に――


(チッ……また雑魚かよ)


 ただでさえ過敏になっている神経を、より逆撫でするかのように、小規模な『バグ』と『ビッグアイ』の混成部隊が現れた。

 いつも通りの、十把一絡げな連中の集団である。

 ポイントのことを考えれば、できる限りやり過ごしたいところなのだが、まあ遭遇してしまった以上はそうもいかない。


 そこですかさず、俺はショットガンを構えて、眼前の敵へまっすぐ突撃――


「邪魔なんだよっ!」


 接敵と同時にそれを乱射して、自分に群がる雑魚どもを、片っ端から撃ち落としていく。

 苛立ちをぶつけるような、激しい咆哮を上げながら。


 結果としてほとんど苦も無く、瞬く間に敵集団の掃討を完了した。


(……よし! 終わり!)


 おかげでもはや、周囲には物言わぬ敵の残骸が漂うのみである。

 悟の支援が無くとも、この程度の相手なら楽勝というわけだ。


 とは言えここで、独り悦に入ってる暇も無い。

 より多くのポイントを稼ぐために、こんな小さい戦果で満足することなく、速やかに次の獲物を狩らねばならぬのである。


 ちなみになぜ俺が、そこまで気を逸らせているのかというと――


(なんせ、稼ぎ時だからな!)


 それは今回、ゲーム中で俺達に与えられているミッションが、『戦線の維持』というポイント稼ぎに適したものであるからだ。


 その具体的な内容は、一定時間、攻め寄せる敵の進軍を阻むこと。

 それゆえ作戦行動中、常に激しい戦いが続くので、一度に多くの敵機を撃墜することが可能なのだ。

 戦果ポイント獲得し放題、と表現していいミッションだろう。


 もっとも当然、それは部隊の誰もが同じなので、悠長に構えていたらすぐ差がついてしまう。

 だから可能な限り早い段階で、積極的な攻勢を仕掛けておきたいのである。


 ただし一方で、このミッションにはたいへん厄介なルールがある。


 それは所定の作戦時間が経過した後、部隊に撤退命令が出された場合、きちんと母艦へ帰投しないと撃墜扱いになる……という厳しいものだ。

 きっと作戦の性質上、最終的には戦場を離脱しなければならない設定だからだろう。


 当然そうなれば、すぐさま俺のアカウントは削除され、戦果ポイントもリセットされてしまう。

 くれぐれも深追いは禁物、というわけだ。


 しかし無論、いくらリスクがあろうとも、それを恐れて消極的になるのはいただけない。

 その程度で怯え縮こまっていたら、大きな戦果を上げることなど不可能なのである。

 ここはやはり、自分を信じて大胆に攻めるべきであろう。


 その決意を胸に、俺はさらなる敵を求め、索敵用のレーダーに視線を走らせていたのだが。

 しかし次いで、そうして独り意気を上げる俺へ、まるで頭から冷や水を浴びせかけるように――


(……あれは!)


 眼前に突如、おそろしく厄介な連中が立ちはだかった。


(くっ……数が多いな!)


 それは先ほどよりも多い、『バグ』や『ビッグアイ』の集団と、その中心に鎮座する二機の『ゴーレム』の姿だ。

 そんな大部隊が、今まさに俺へ向け迫っていたのである。


 無論この状況は、悟がいない今の俺にとって、かなり厳しいものだ。

 単純に戦力が足りず、敵に一人で対処するのが極めて困難だから。

 正直に言えば、誰かの手助けが欲しい。


 するとそうして目前の逆境に戸惑い、俺がますます焦りを募らせているところへ、不意に気遣わしげな口調の通信が飛び込んでくる。


『木原君、大丈夫? 手伝おうか?』


 そのどこか悟のような優しい言葉の主は、後方に控えている久保擁介だ。

 こちらが強敵に難儀しているのを見かね、支援を申し出てくれたのだろう。


 そんな彼の機体タイプは、B-3ブラスター。

 中遠距離戦の火力に優れた、援護にぴったりの砲撃機である。

 確かにあいつの助力を得られれば、この苦しい状況を打開できるかもしれない。

 まさしく渡りに舟、というわけだ。


 ただしその願ったり叶ったりの申し出を、俺は即座に強い口調で断った。


「い、いや、大丈夫だ! 一人で行ける!」


 なぜならここで彼の提案を承諾してしまえば、悟がいなければ役立たずな男、と思われかねないから。

 一人ではまともに戦えぬ情けないやつ、と評価されるかもしれないから。

 つまりはピンチだと言うのに、ついつい見栄を張ってしまったのである。


 そんな俺の露骨な強がりに、久保は一瞬だけ間を空けた後、彼らしい冷静な答えを返してくる。


『……うん、わかった。

 じゃあ支援が必要になったら連絡を。すぐにそっちへ向かうから』


 こっちの心情は全てお見通しの上で、プライドを傷つけぬよう対処した、というところか。

 何やら変な気を使わせたようで、ちょっとばかり申し訳ない。


 結果そうして自ら己を追い込み、すっかり引くに引けなくなってしまった俺は――


(こうなったら……)


 覚悟を決めて、今まで使っていたライフルとシールドを格納し、その代わりにプラズマソードを二本取り出した。

 さらにそいつを、武器をしまって空いた両手に、それぞれ構える。

 まるで小説や漫画に出てくる、二刀流の剣豪のように。



 ちなみにこれは、中距離の射撃戦を捨て、近距離の格闘戦で決着を付けるための準備である。

 なぜそうしたのかと言えば、それは自機の平凡な火力だと、距離のある戦いでは十分な成果が期待できないから。

 であれば例え強引であっても、相手の懐に入り込んだ方がいい、と考えたのだ。


 まあ当然、無理攻めゆえの損害は避けられぬ戦術なので、本来こういうことはしたくないのだが。

 しかしこの苦しい状況では、それもやむなしというところだ。

 全ては見栄を捨てられなかった自分のせい、その始末もまた、己が手でつけるべきだろう。


 固めたその決意に従い、俺はすかさず機体のスラスターを稼働させ、前進を開始した。

 そして先ほど発見した敵集団との距離を、一直線に詰めていく。


 さらに敵が、それに素早く反応し、自分へと群がってきたところで――


(正面突破!)


 再度加速、その中心に向け全速力で突進していった。

 しかも迫る敵に対し、あえて攻撃も回避も行うことなしに。

 もちろん端から見れば無謀な特攻だが、これもまた考えあっての行動である。


 実際俺は、そいつらの砲火で少なくないダメージを受けたものの、どうにか目的の方は達成する。


(……よし、動いてない!)


 その砲火の中に、後ろで控えている、巨大な『ゴーレム』達のものが含まれていなかったのだ。

 おそらくは同士討ちを恐れて、俺への攻撃をためらったからに違いない。


 つまりは強引に突進した結果、逆に敵の弾幕が薄くなった、というわけだ。

 俺が必ずそうなる、と予測した通りに。

 この隙を突けば、容易く奴らへの接近が可能であろう。


 ゆえに俺は、そのまま速度を緩めず――


(今の内に……!)


 最低限、進路を塞ぐ敵のみを切り捨てながら、一気に『バグ』と『ビッグアイ』の中を突破した。

 さらに多数の被弾をしつつも、目指す『ゴーレム』へ向け肉薄していく。

 おかげで互いの距離は、もうあとわずかというところだ。


 だがそうして、俺が自身の策の成功を確信し、『ゴーレム』への攻撃に移ろうとした……まさにその瞬間――


(……何だ? 敵が散って……まさか!)


 今まで俺に群がり、激しく攻撃を仕掛けてきていた敵集団が、なぜか突如散開した。

 そして一斉にこちらから距離を取り、周辺へと散らばっていく。

 それが意味する事実は、無論ひとつしかない。


 その推測通り、案の定二機の『ゴーレム』が、こちらへの攻撃を開始した。

 翼を大きく広げて、例の光弾をばらまき出したのである。

 要は同士討ちを避けるため、あえて小物どもを散開させてから、改めて迎撃に移ったわけだ。


 結果としてその攻撃は、奴らへと突進していた俺に続々と命中、全身の装甲を容赦なく削り取っていく。

 これだと至近距離からの被弾になるし、受け続ければ深刻なダメージは免れないだろう。


 しかしだからと言って、この期に及んで退くこともできないので――


(くそっ、やるしかない!)


 俺はさらに速度を上げ、損害覚悟で『ゴーレム』の内の一機に突撃し、間合いへ捉えると同時に攻撃へ移った。


「そこまでにしとけよ! お前っ!」


 右手のプラズマソードを大きく振り上げ、相手の左翼の付け根――人間で言う肩に当たる部分――へ、突進の余勢を駆って斬り下ろしたのだ。

 厄介極まりない、この光弾の嵐を阻むために。


 するとその一撃は、狙い通りの位置に直撃、みるみる相手の装甲にめり込んでいく。

 巨大な物体を切り裂く感触を、プラズマソードが握られた右腕に伝えながら。

 そして攻撃した箇所を、翼ごと両断する寸前で停止した。


 その瞬間、あれだけ激しかった光弾の嵐が、唐突に停止する。

 これは攻撃のためのエネルギーが、本体の方から供給されなくなったからだろう。


 要は以前に悟がやってのけたことを、ここで俺も真似してみたわけだ。

 まああいつに比べれば、ずいぶんとスマートさに欠けるやり方ではあったが。


 とは言えこれでもう、奴の左側にいる限り、例の光弾による攻撃を受けることはない。

 特攻の価値は確かにあった、と捉えて良いだろう。


 だがその成果に対し、俺が強い手応えを得た直後――


(やったか……いや!)


 眼前の『ゴーレム』が、予想外の行動に出た。


「……うわっ! なんだ!」


 突然激しく暴れ出し、体や翼を動かしながら、闇雲に主砲を乱射し始めたのだ。

 それは例えるならば、自分にまとわりつく蜂を追い払うため、必死でもがく人間のようである。


 無論、すぐ側でそんな事をされれば、格闘戦の間合いになど留まってはいられない。

 ゆえに俺はやむを得ず、プラズマソードを敵から引き抜くと――


(チッ、離れるしかないか!)


 即座に離脱して、その『ゴーレム』と一定の距離を保つ。

 あと一歩のところで仕留めきれなかった、と己の詰めの甘さを悔やみながら。


 しかもそこへ、周囲の敵からさらなる追撃が行われた。


(……こっちも仕掛けてきたか!)


 もう一方の『ゴーレム』及び、先ほど散開した小物連中が、雨あられと集中砲火を浴びせてきたのだ。

 しかもこちらを完全に取り囲んで、ほぼ全方位から。


 当然のことながら、そんな集中攻撃を回避できるわけがない。

 ゆえに俺は為す術なく被弾、全身に重いダメージを刻まれていく。

 絶体絶命のピンチに陥った、というわけである。


 その危機的状況を前に、すっかり精神的に追い込まれた俺は、つい無意味な行動に走ってしまった。

 この苦境の原因の一端となっている相手に対し、内心で激しく不満をぶつけたのだ。


(くそっ! これもあいつが中々来ないから……!)


 現状の劣勢は自分のせいでもある、という事実を棚上げしながら。

 しかも起きた事の責任を、残らず相棒に押し付けて。

 我が事ながら、非常に身勝手と言うより他はない。


 また冷静に考えれば、少々気持ちが入り込みすぎ、とも言えるだろう。

 だっていくらリアルであろうとも、これはあくまでゲームなのだから。

 そう熱くなったところで、別に何か得があるわけでもない。

 本来ならば、楽しむことに集中すべきものである。


 しかしそう認識していても、なぜだか俺の心は落ち着いてくれない。

 『ゲームの成績が悪い』ことに、奇妙な焦りを感じてしまうのだ。

 まるで誰かから、それを強く咎められでもしたかのように。

 俺はいったいどうして、こうも切羽詰まった感情を抱いているのだろうか……


 などと俺が、窮地の中で不可解な疑問に囚われ、動きを止めかけた……まさにその時――


(……え?)


 闇雲に暴れ回っていた、手負いの『ゴーレム』の砲口を、後方から伸びてきた一条の光が撃ち貫く。

 わずかな狂いもなく、惚れ惚れするほど鮮やかに。


 結果その『ゴーレム』は瞬時に爆砕、周囲の敵機を巻き込みながら、宇宙の藻屑と化していった。

 要はあれだけ苦戦していた難物が、一発の狙撃であっさり落ちてしまったのである。


 しかもその突如現れた光線は、続いてさらに幾本も出現し、俺の近くにいる雑魚連中を次々と叩き落としていく。

 その猛攻により大きな損害を出したせいか、次いで敵軍は、迅速に俺の包囲を解除した。


 さらにその後は、統率された動きで一気に後退し、少し離れた場所で再び集結を始める。

 おそらくは、いったん態勢を立て直そうとしているのだろう。


 俺はその突然の戦況の変化について行けず、独り硬直し呆然としていたのだが。

 ただ次いでそこへ、援護の主であろう相手から、たいへん爽やかな通信が飛び込んできた。



『ごめん、カイト! 遅くなった!』








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