表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-07 『White knight』
74/173

Prologue

更新履歴 21/10/9 文章のレイアウト変更・表現の修正


 生意気って、いったい何だろうか。


 美山涼は、常々そんな疑問を感じていた。



 なぜなら自分が、たびたびそう言われるから。

 両親や教師や親戚などの、周りにいる大人全てに。

 私は今までの人生においてずっと、『お前は生意気』と、指摘され続けてきたのだ。


 その発端となるのは、大抵何らかの説教である。


 人が話しかけているのに、返事をしないのは良くないだろう、とか。

 ちゃんと挨拶をしなさい、相手に対してすごく失礼だから、とか。

 明らかに自分の方が悪いのに、なぜ素直に謝れないんだ、とか。

 屁理屈をこねて反抗するのは、幼稚な人間のやることだからやめなさい、とか。

 言葉使いが暴力的で、印象が悪いから変えた方がいい、とか……


 私は何度も何度も、そんな風に叱られ、振る舞いを改めるよう促された。

 しかもひどく高圧的な、有無を言わさぬ口調で、極めて一方的に。


 そしてそれに反発すると、決まって『子どものくせに生意気だ』と言われた。

 直接面と向かってはっきりと、あるいは遠回しに嫌味ったらしく。

 私は周囲の大人から、ごく頻繁にそういう扱いを受けていたのだ。


 だから自然と、思うようになった。

 なぜ自分は、そんな風に言われるのだろう、と。

 どうしてみんな、私を生意気だと感じるのだろう、と。

 何とかその状態を改善したい、生意気だと思われないようにしたい――そう、心から願うがゆえに。


 ちなみに辞書を引けば、生意気というのは、『自分の立場や能力を考えずに、尊大な言動や態度をとること』……と書いてある。

 どうやら私は、他人からそういう人間だと認識されているらしい。


 一応、それに自覚が無いというわけではない。

 実際態度が悪いことや、やたらに反抗すること、加えて屁理屈をこねることは良くあった。

 そんな自らの振る舞いについて、反省することも多いのである。


 しかし一方で、大いに不満を抱えてもいた。

 だってそう言った行動の全てに、実は明確な理由があったから。

 自身の事情を理解してもらえないことに、私は猛烈な葛藤を感じていたのだ。


 まず、話しかけられても返事をしなかったのは、そういう気力が無かったから。

 考えることや悩むことが多くて、つい人との関わりを億劫に感じ、反応が薄くなってしまったのである。

 心が疲れていたせい、と言い換えてもいいだろう。


 次いで挨拶をしなかったのは、別に無視したからではなく、何となく気が引けていたから。

 自分発信で相手に関わっていく、という行為が、いつの頃からか少し怖くなってきたのだ。

 良くないことだとわかってはいても、そこから一歩踏み出すのは、決して簡単ではなかった。


 あと悪いことをしたのに謝れない、というのは……ほとんどその通りだ。

 そう指摘された時、確かに私は、相手に謝罪ができていなかった。

 しかも自分の側に非がある、と十分に自覚していながら、である。


 ちなみにそうして、私が意固地になっていた原因は、単に頭の中が整理できていなかったから。

 私は謝罪よりも先に、まず『自分の何が悪いのか』を、自分できちんと理解しておきたかったのだ。


 だってそうでなければ、ただ理由もなく他人に従うことになってしまうから。

 自分の行動の根拠が、自分の外にできてしまうことになるから。

 その行為が、どこか自分の意志を薄めていくように思えて、どうしても嫌だったのである。


 そんなこんなで、謝罪の要求を拒むことになったわけだが……まあ客観的に見れば、駄々をこねる子どものような振る舞いだ。

 これに関しては、本当に言い訳のしようもない。


 またそれと似た話だが、やたらに屁理屈をこねることがあったのも、理由としてはほぼ同じである。

 私は言い争いで負けたくない時に、大抵そうして無理を押し通そうとするのだ。

 自分は本当は間違っているのかもしれない、と心のどこかで感じながら。


 なぜ私が、そんな自覚のある愚行に及んだのかと言えば、それもやっぱり『怖かった』からだ。


 もしこの論争で負けてしまえば、自分の価値観が否定されるかもしれない。

 その結果として、心が他人に支配されてしまうかもしれない。

 そういう根源的な恐怖があって、つい意地になっていたのである。

 こちらもやっぱり、弁解の余地無き、極めて幼稚な行動というしかないだろう。


 最後に言葉使いが悪かったのは、そういう色々なストレスにより、鬱屈が溜まっていたから。

 それが遠因となって、些細なことで感情が高ぶり、思わず口調が荒っぽくなってしまったのだ。


 そのせいで家族に対し、自分でも驚くほどきついことを言ってしまって、激しく後悔した経験も多い。

 だから私の日常生活は、いつだって自己嫌悪と共にあった。

 それに心を痛めつけられ、ますます物腰や言動が荒れていったのは言うまでもない。


 そうした様々な事情こそ、私が普段、あまり良くない態度を取っていた理由である。

 改めて振り返ってみると、確かに情緒不安定なこと甚だしい。

 生意気という指摘にも、十分な正当性があると言えよう。


 だからかそんな私に、周りはもっと厳しくなった。

 さらに執念深く、徹底的に私を『教育』しようとしてきたのだ。

 ほとんどの場合、『脅迫』や『侮蔑』という、決して褒められたものではない手段を用いて。


『そんなに言うことが聞けないのなら、この家を出て行きなさい』

『自分の力で生きていけない人間が、何を偉そうなことを言ってるんだ』

『協調性を身につけないと、将来ちゃんとした大人になれませんよ』


 それらは全て、『お前は劣った存在だ、だからより優れている自分の言うことを聞け』……という意味に聞こえた。

 あるいは『お前の考え方になど何の価値も無い、自分の価値観を受け入れればそれでいい』……そういう意味にも聞こえた。

 人間性そのものを、根こそぎ否定されているような気がしたのだ。


 当然そのいずれもが、ひどく屈辱的な扱われ方であり、耐え難い人格への攻撃でもあった。

 そう告げてきた相手を、暴力を振るいたいと思うほど、憎んだり恨んだりしてしまうくらいに。

 無論実行に移すことはなかったが、大きな心の負担になったのは確かである。


 ただもちろん、自分が未熟である、という事実に反論は無い。

 改めるべきところが多数ある、という自覚もきちんと持っている。

 指摘自体が間違い、とは思っていなかったわけだ。


 それでもやっぱり、その要求を受け入れることはできなかった。


 だって私にそう言った相手の方が、『ちゃんとした大人』ではなかったから。

 急に声を荒げたり、明らかな屁理屈をこねたり、果ては自分の過ちを認めなかったり。

 感情を制御できている、という印象がさっぱり無かったのである。


 要は私に対して、幼稚な行為だと注意してきた、数多くの至らぬ点――彼らはそれを、そっくりそのまま自分でも抱え込んでいたのだ。

 こっちは大人でそっちは子ども、というスタンスを維持しながら。

 そういうちぐはぐな態度は、私の中にある大人への不信感を、ますます増大させていった。


 だからその後も、私の振る舞いに変化が生じることはなかった。

 何ひとつわかってくれない相手を、信頼することなどできなかったせいで。

 認めていない相手の発する言葉が、心に響くことはなかったせいで。


 結果として私は、固く自分の殻に閉じこもるようになった。

 大人に何を言われても、残らず無視して受け流し、心を開くのは数少ない友達だけ。

 そんな風に、コミュニケーションそのものを拒絶し始めたのだ。


 なぜなら大人と関わるのが、ものすごく面倒になっていたから。

 どうせわかってもらえないんだし、何をしても無駄なら、最初から何もしなくていい。

 そういう諦めに囚われ、全てを投げ出してしまったのである。


 それはある種の強がりであり、また自己防衛のための思考なのだと、一応今ならわかるのだが。

 しかし当時としては、本当にどうしようもなかった。

 私はずっと、そういう孤独の中で、鬱々と毎日を過ごしていた。


 そんな時だ。

 そうしてすっかり心が固まりきって、もう何もかもどうでもいい、という暗い感情に囚われている時だったのだ。



 『彼』が、私の前に現れたのは――








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ