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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-06 『Flag-bearer』
71/173

Section-10

更新履歴 21/10/6 文章のレイアウト変更・表現の修正


「倉田先生が味方になってくれるかもしれない、という可能性の話です」



 その言葉を聞いた瞬間、場に集う誰もが、揃って呆けたような呟きを漏らした。


「は……?」


 それは無論、志藤さんの話の内容が、まったくもって予想だにしないものだったからである。

 理解がすぐには追いつかず、揃って思考停止に陥った、と表現するのが妥当だろう。


 そんな風に混乱する私達へ、次いで彼女は、軽い前置きをした後――


「ええと、急にこんな事を言い出して、みなさん驚かれたとは思うのですが……

 でもこれは、きちんと根拠のある判断なんです。

 それをこれから説明しますので、また少し、私に時間をください」


 いったんこれまでに判明した、倉田先生についての情報を振り返っていく。


「まず倉田先生は今、私達全員のことを、兵士として戦場に送り出しています。

 その目的は、反乱を起こした機械軍団の侵攻を阻止し、人類が新天地へ旅立てるようにするため。

 ここまでの話から、それは確かなことです」


 次いでその中に含まれていた、解決されていない疑問点のいくつかを、こちらへ提示し――


「ただしなぜか、彼の態度はひどく不安定です。

 頻繁に挑発的な態度をとったり、暴力的に脅迫してきたりするのに、他方では優しく諭したりもする。

 こちらへの接し方に、全く一貫性が無いということです。

 私はそんな風に、先生の行動が不自然な理由を、自分なりに推測してみたのですが……」


 なんとそれを取っ掛かりに、この重苦しい空気を一撃で吹き飛ばす、起死回生の仮説を導き出してしまった。


「ひょっとして倉田先生も、『順化調整』というものの影響下にあるのではないでしょうか。

 だからこそ彼の振る舞いには、そうした不条理な部分が生まれてしまう。

 かつての私達が、ある種の異様な行動をとっていたのと同じように。

 全ては洗脳されているせい、と考えれば、色々なことに辻褄が合うのです」


 その瞬間、斉川君が目の色を変えて、興奮気味に彼女へ同意する。


「そうか! 確かにあいつ自身も、『自分は一般人』だと言っていた。

 そういう人間を軍人に仕立て上げるため、無理やりに洗脳を施す、ってことは十分にあり得る!」


 結果として二人の会話は、若干置いてけぼりな周りをよそに、さらに加速していくことになった。


「またそれに加えて、自分は監視以外してはいけない決まり、みたいな話もしていました。

 実際なぜだか、部隊の指揮は全て私任せです。

 それは戦闘の勝利を目指すに当たって、極めて不自然なルールでしょう」


「なるほど……。

 となるとそういう取り決めが作られた目的は、共謀して反乱を起こさないよう、互いのコミュニケーションを阻害したかったから……ってことになりそうだな。

 確かに、辻褄は合う」


「はい。それにその話は、先ほどの斉川君の話からも裏付けが取れました。

 きっと本来の倉田先生は、斉川君が思っていた通りの、真面目ないい教師なのでしょう。

 だから戦争をさせるために、洗脳を施すしかなかったのだと思われます。


 つまり彼は、本心からこの作戦に参加しているわけではなく、むしろ反対の立場ということですね」


 しかもその果てに、彼女は再び、場に集う皆の度肝を抜く事実を告げる。


「そして現在も、倉田先生の態度はひどく不安定ままです。

 それはやはり、私達と同様『順化調整』が解けかかっているから、と解釈すべきでしょう。

 より強いきっかけがあれば、さらにそれが弱まることも考えられます」


 そしてそれに、驚きつつ応じた斉川君へ――


「いや、おい……それってつまり……」


 自らの推論の内容を、詳しく説明――


「はい。もしかしたら、倉田先生の『順化調整』を解除できるかもしれない。

 そしてそうなれば、彼と協力関係が築ける見込みは大きい、ということです。

 元より乗り気でない以上、洗脳が解けた時点で、戦う理由自体を失うはずですから」


 次いでいつも通りに、理路整然と話をまとめた。


「また当然そうなれば、先生から様々な情報を得られますし、行動の幅も大きく広がります。

 私達が生き延びられる確率も、大幅に上昇することでしょう。

 これは間違いなく、前向きに検討してみるべき選択肢だと思います」


 直後、俄然場の雰囲気が明るくなる。

 思わぬところに道が開けたことを、誰もが心底喜んでいるからだろう。

 その証拠に皆の顔には、はっきりと活力が戻り始めていた。


 そんな流れに乗るかのように、次いでミッキーが口を開き、志藤さんに称賛の言葉を送る。

 何とも珍しいことに、ひどく素直な表現でだ。


「さすがだな。やっぱり頼りになるよ、志藤は」


 するとこちらも珍しく、志藤さんが照れたようにそれへ応じた。


「い、いえ……あくまで憶測ですから。

 確証が得られるまでは、何とも……」


 そのおかげで、すでに明るかった空気が、さらに楽しげなものへと変わる。

 もう以前の重苦しさは、部屋の片隅にも残ってはいない。

 漂う雰囲気だけならば、全ての真実が明らかになる前の、楽しい日常に近いとさえ言えるだろう。


 もっともそんな中で、私は一人、微妙に仲間外れという状態だった。

 志藤さんと斉川君の話が、本当はまだ良くわかっていなかったから。

 そのせいで迷いが生まれ、場の空気に今ひとつ乗り切れなかったのである。


 そこでその詳細について、こっそりとミッキーに問いかけてみる。

 相変わらず抱きついたまま、みんなには聞こえぬよう、ひどく小さな声で。


「……ねえねえ、なんでみんな喜んでるの?」


 彼はそれに、同じく小声で応じ、簡潔に説明してくれた。


「ん? あー……そうだな、えーと……

 倉田……先生が、本当は悪い人じゃなくて、しかも味方になってくれるかもしれない、って話になったんだ。

 志藤はまだわからないって言ってるが、結構うまく行きそうな感じだな」


 当然私は、告げられたその事実に驚き、慌てて内容を詳しく確かめる。


「えっ……! 先生悪い人じゃなかったの?

 じゃあみんなと仲直りできるってこと?」


 その質問に対するミッキーの答えは、とても力強いものだった。


「ああ、そうだ」


 どうやら本当に、倉田先生と喧嘩をしなくて済むらしい。

 つまりは本当に、あの平和で楽しい教室が戻ってくるかもしれない、ということだ。


 それが何より嬉しかった私は、心から喜びつつ、その道を見出してくれた恩人を称賛する。


「そっか! やっぱりすごいね! 志藤さん!」


 ただなぜかミッキーは、そんな私に軽く笑いかけた後、ひどく不思議なことを言ってきた。


「……すごいのは、お前も同じさ」


 そして私の頭を、もう一度不器用に撫でる。

 お前は良くやったんだぞ、と褒めるかのように。

 私としては無論、なぜそんな事になったかわからず、独り首を傾げるのみだ。


「???」


 彼はそんなこちらを、どこか楽しげな表情で眺めている。

 それがちょっと恥ずかしかった上に、涙もすっかり引っ込んでいたので、私はいったんミッキーから離れることにした。

 今日は本当に、覚えのないことで褒められてばかりだな、と改めて疑問に思いながら。


 そしてそれと同時に、ふと思い立つ。


(あっ……この気持ち、忘れたくないな。

 ちゃんとした思い出にしたい)


 今この瞬間を、何かの形でしっかりと残しておきたい、と。

 それがあまりに心地良くて、このまま過ぎ去るだけなのは、どこか寂しい気がしていたから。

 要は困難な戦いを乗り越えて、みんなで掴んだ勝利の喜びを、簡単には忘れたくなかったのである。


 加えてもうひとつ、そう感じた理由として――


(それはたぶん、みんなの役に立つことでもあるよね?)


 このクラスに対し、何かしらの貢献をしたい、という気持ちもあった。

 みんなと比べて、自分はあまりそれができていない、と少し焦っていたから。


 まあ実際、その通りだろう。


 まず志藤さんや斉川君は、みんながこれからどうすべきかを考え、必ず素晴らしい選択肢を提示してくれる。

 次いでミッキーや美山さん、春日井さんに柳井君などは、戦いの中でしっかりと活躍していた。

 そして望月さんには、さっき大切なところで助けられたし、ユキちゃんにはそもそも普段から支えられている。


 だと言うのに私の方は、明るく振る舞うくらいの取り柄しかない。

 色んな迷惑をかけるわりに、大してクラスの役には立っていないわけだ。


 だから『思い出を残す』という、みんなだって望んでいるはずの行為を、自分の手で成し遂げたいと願ったのだ。

 そうすれば晴れて、皆と肩を並べられる気がしていたから。

 ちょっと不純な動機という気もするが、まあ悪いことではないのだし、特に問題は無いだろう。


 そう内心で言い訳しつつ、早速その具体的な方法を求めて、私は必死で頭をひねったのだが――


(うーん、うーん…………うん、だめだ)


 残念ながら、何ひとついいアイデアは浮かばなかった。

 いくら思考を巡らそうとも、ひたすら空回りするだけに終わったのである。


 もっとも本来、それは当然のこととも言える。

 なぜなら私には、そういうアイデアをひねり出すのに必要な、知性や自主性が備わっていないから。

 事情も満足に理解できぬほど鈍い上、戦いの時も言われた通りに動くだけ……という現実を思えば、それは明白な事実だ。


 要するにまあ、自分の思いつきで何かやろうという発想自体に、そもそも無理があるわけだ。

 私ができることと言えば、みんなが頑張っているのを、横から応援するくらいだろう。


 ただそう自虐した瞬間、ふとそんな自分の言葉が、強く心に引っかかった。


(……応援?)


 そしてその感覚は、簡単な連想を経て、別の重要な言葉に到達――


(応援と言えば……体育祭とか?)


 私を見事、有力なアイデアの元へと導いてくれる。


「そうだ!」


 それは思い出作りと皆の応援、その両方を可能とする、一石二鳥な発想。

 さらに私にも可能で、絶対みんなも喜ぶだろう、という意義のある仕事。

 そういう至れり尽くせりな考えに、偶然たどり着けたのである。


 ゆえにすかさず、私を大声を上げて、皆の視線を自分に集めた後――


「ねえ、みんな!」


 さらに声を大にして、元気よく力一杯に提案した。

 これで全てがうまくいくはずだ、と心底確信できた、何よりも素晴らしい思いつきを。



「このクラスの、旗を作ろうよ!」








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