Section-8
更新履歴 21/10/6 文章のレイアウト変更・表現の修正
そうして私が、再度戦場に駆けつけた瞬間――
『マキちゃん! 大丈夫だった?
もう私、心配で心配で……』
すぐさまユキちゃんが、不安げな顔が目に浮かぶような、動揺気味の口調で通信を入れてくる。
雰囲気からしておそらく、ずっとこちらの心配をしていたのだろう。
確かに考えてみれば、先ほどレクリエーションルームで別れて以降、彼女には全く連絡を入れていなかった。
不安になるのは当然、ということだ。
ちょっと……いや、かなり悪いことをしたのかもしれない。
そこで私は、そんな彼女を安心させるため、しっかり自分と仲間の無事をアピールする。
「大丈夫大丈夫!
私もミッキーも、他のみんなも無事だよ!」
ユキちゃんは心底安堵した様子で、私のその返答に応じた。
『良かった……』
元気な声が聞けたので、ようやく不安が消えてくれた、というところだろうか。
相変わらずと言うか何と言うか、本当に心配性な人である。
……なんて会話を、私はユキちゃんと交わしていたわけだが。
そのせいで少しの間だけ、二人ともの手が止まった影響なのか――
「あっ! ユキちゃん! 前! 前!」
斉川君と春日井さんが、また多くの敵に囲まれてしまう。
せっかく志藤さんの指揮のおかげで、戦局が有利になってきているのに、これでは台無しだ。
呑気に話なんてしてないで、急ぎあの二人を援護しなくてはならない。
そこで私は、即座に残っている武装をフル稼働させて、勇ましく攻撃を開始――
「いっけえー!」
前衛の二人に迫る敵へと、目一杯に浴びせかけた。
もちろんミッキーと志藤さんの指示に反しないよう、十分な距離を確保した状態でだ。
それに続いてユキちゃんも、私に倣って援護射撃を実行、絶え間なく敵に撃ち込んでいく。
結果として二人を囲んでいる敵は、そのふたつの猛威に晒され、みるみる数を減らしていった。
ここまで戦力を削れば、春日井さん達が苦戦することはあまりないだろう。
そう感じた私は、支援の方は継続しながらも、いったん周囲に意識を向ける。
そこでは他のクラスメイト達が、私達と同様に激しく戦っていた。
先の志藤さんの指示に従い、的確に連携をとりながら。
見た感じ、私がここに来た時と比べて、段違いにスムーズな戦いぶりである。
その光景は自然と、これなら行けるかも、という期待を抱かせてくれる。
実際、そうやってしばし、皆で戦い続けていたところ――
(あれ……? なんか、良くなってきた?)
目に見えてはっきりと、戦況が好転していった。
戦闘中のクラスメイト達が、続々と見事な戦果を上げ始めたからだ。
まず美山さんが、自身の担当するアーチャーを、格闘戦にて圧倒した。
終始有利に戦いを進めた後、その機体をプラズマランスで貫き、危なげなく討ち取ったのである。
次いで柳井君も、その相方であるアサルトを狙撃で追い詰め、ついには武器の破壊に成功する。
しかもそうして抵抗の手段を失った相手に、すかさず追撃をかけ、瞬く間に仕留めてしまった。
また望月さんは、そんな風に活躍する二人を、主に防御面で同時に支援していた。
彼らの動きを阻害せぬよう、上手にビットを操りながら。
加えて他の敵も、私とユキちゃんの援護する、斉川君と春日井さんが撃ち落としていく。
数で押されなければ楽勝、とばかりに易々と。
元々規模がそれほどでもなかったせいか、戦況の変化は驚くほどに早い。
結果として、そう時間もかからぬ内に――
『これで……ラストっ!』
そんな春日井さんの咆哮と共に、最後に残る敵が貫かれて爆発、跡形もなく消失した。
おかげでもうレーダーには、私達以外の反応は無い。
要は絶体絶命の危機を、無事脱することができたのである。
それを実感した私は、湧き上がる喜びに任せて、声を限りに快哉を叫ぶ。
「やったー!」
するとそこに、たっぷりの徒労感で溢れている、ひどく不機嫌そうな声が届いた。
『クソ疲れたぞちくしょう……遅いんだよお前ら。
勝てたからいいようなものの、もし負けてたら……』
その主は無論、不満たらたらという口調で愚痴を垂れ流す、お疲れ気味の斉川君だ。
どうやら彼、私達が来るまでに、よほどの苦労をしたらしい。
今はそのストレスを、何とか晴らそうとしている最中なのだろう。
もっともその発言へは、いつものように春日井さんが介入し、瞬時に茶々を入れて場を和ませる。
『来てくれてありがとう、おかげで助かったよ、と斉川君は言っています。
私からも、みんな本当にありがとうね』
斉川君はそれに、慌てた様子で猛然と抗議した。
『勝手に変な通訳をするな!
正確性に問題がありすぎだろ! 名誉毀損で訴えるぞ……
って、うわっ! やめろ、蹴るな! 機体がボロボロなんだ!
面白がって蹴るんじゃないっ!』
こんな状況だと言うのに、相変わらず仲がいい。
その日常的で平和なやり取りは、私の中の『自分達は勝ったんだ』という実感を、さらに強めてくれる。
ちなみにそれは、他の皆も同じだったのか――
『ふう……』
『お疲れさま、スズ』
『うん、のどかもね』
『お疲れさま、柳井君』
『ん? ああ……そっちは大丈夫だったのか、朝倉』
『うん、私は大丈夫だよ』
そんな風にそれぞれが、のんびりとお互いの労をねぎらっていた。
声の端々に、これ以上ないくらいの安堵感をにじませながら。
もちろんそこには、誰一人として欠ける者などいない。
少なくとも今回は、犠牲なく戦いを終えられた、ということである。
それもこれも、志藤さん達が援軍に来てくれたおかげなのだし、ここはしっかり感謝をしておくべきだろう。
そこで早速、私は駆けつけてくれた人達に、一人一人お礼を言っていく。
最初は当然、巧みな指揮で一気に戦局を覆した、私達のリーダー志藤さんだ。
「志藤さん! ありがとう、来てくれて!」
しかし彼女はそれに対し、またしても良くわからないことを言ってきた。
先ほどと同じく、急に謎の感謝をされてしまったのである。
『いえ……私の方こそありがとう。
私が今ここにいられるのは、栗原さんのおかげですから。
改めてお礼を言わせてください』
ただそんな事を言われても、心当たり皆無のこちらとしては、大きく首を傾げるより他はない。
どうやら知らぬ間に、何かいいことをしたらしいようだが、覚えが無いので答えようがなかったのだ。
なのでとりあえず、無難な返事をしておく。
「ええと……うん、どういたしまして!」
志藤さんはそんな私の言葉に、同じく『どういたしまして』と、嬉しそうな声音で応じた。
その反応はやはり不可解だが、しかしあれだけ落ち込んでいた彼女に、こうして明るさが戻ったのだ。
今はそれを、素直に喜ぶべきだろう。
そう気持ちを切り替えてから、私はさらにもう一人の恩人、望月さんにもお礼を言う。
「望月さんもありがとう!」
するとなんと、彼女までもが、私に対して感謝の気持ちを伝えてきた。
『うん、こちらこそありがとう。
私も志藤さんと同じで、栗原さんのおかげでここに戻ってこれたから。
ここでちゃんと、お礼を言わせてください』
私としてはもう、軽いパニックである。
なぜなら人の役に立って感謝された、という経験が、人生を通じてほぼ初めてだったから。
それが何とも気恥ずかしくて、今は顔から火が出そうな心持ちだ。
ゆえにきちんと返事をしつつも、慌てて彼女との会話を打ち切る。
これ以上話していると、すごくみっともない状態になってしまいそうだったから。
「あの、その……う、うん、どういたしまして!」
それから最後、柳井君にも声をかけた。
ひょっとして彼も同じかな、だったら恥ずかしいな、と内心で少しだけ不安に思いながら。
「えっと……柳井君もありがとう!」
だが柳井君だけは、少々事情が違っていた。
『……ああ』
らしくもなく暗い声音で、短く答えを返すのみだったのだ。
いかにも元気がありません、みたいな雰囲気である。
周りは皆、勝利の喜びから明るく振る舞っているというのに。
なんで彼だけこんな感じなんだろう、と疑問を抱かずにはいられない。
でもまあ、例え今はああして、多少落ち込んでいるとしてもだ。
きっと学校に戻れば、いつも通りの明るく楽しい柳井君に戻ってくれるだろう。
だって私達には、これ以上望みようがない、大満足な結末が訪れたのだから。
ミッキーは助かったし、みんなも無事だったし、もうどこにも敵はいないし……と、暗くなる理由なんて何ひとつ無い状況なのだ。
向こうに帰れば、柳井君だってそれを実感し、気分が持ち直すに違いないのである。
そう、学校だ。
いつもの日常に戻れる、あの平和で穏やかな空間――あれこそが、今の私達に何より必要なものなのである。
ああ本当に、そちらに帰った時のことを考えるだけで、心の底から楽しさが湧き上がってくる。
なので私は、その待ちきれない、という気持ちに押されるまま――
「ねえ、みんな! これでもう、戦いは終わったんだし――」
これから自分達がすべきことを、目一杯に明るく宣言した。
「帰ろうよ! 私達の学校へ!」




