Section-7
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『ではまず、全体の陣形を整えます。
美山さんは今すぐアーチャーに狙いを変更し、そちらへ接近戦を仕掛けてください。
柳井君は彼女が動きやすいように、アサルトとアーチャーを牽制してください。
その後、美山さんがアーチャーと戦闘に入ったら、次はアサルトの方へ攻撃をお願いします』
これぞまさしく勝利の女神、という雰囲気の凜とした声が、次から次へと号令を発していく。
遅れて戦場に現れた志藤さんが、今後の戦い方について、皆に指示を出しているのだ。
それを聞いた美山さんは、水を得た魚、という風にすかさず返答し――
『了解!』
直後に機体を反転させ、指示に従いアーチャーへ突進していった。
今まで相手していたアサルトから離脱し、迷うことなくまっすぐに。
そんな彼女を支援するのは、柳井君の狙撃だ。
彼は美山さんを追おうとしたアサルトを、的確に牽制射撃を行うことで妨害し、その動きを抑え込む。
また合間を縫って、アーチャーの方にも牽制を行っていた。
結果として例の二機は、行動を大きく制限され、満足に戦えない状態へと陥る。
その隙に美山さんは、爆発的な加速でアーチャーに接近、首尾良く得意の格闘戦に持ち込んだ。
あれなら戦いは、間違いなく美山さん優位に進むだろう。
それを確認した柳井君は、次いで志藤さんの指示通り、素早く狙いをアサルトに変更した。
そして遠距離が得意ではない敵に対し、射程外から間断なく攻撃を仕掛けていく。
やはりこちらも、味方側が有利な状況である。
その光景を見ていて、私はふと思い出した。
いつだかミッキーが、柳井君の機体の性能について、こんな風に語っていたことを。
『火力も速射能力もあまり高くはないから、装甲の厚い大型機への攻撃とか、数の多い小型機の始末とかには向いていない。
ただ射程と精度には優れているから、機動力が売りの中型機には強いんだ』
……とか何とか、言っていた気がするのだ。
正直意味は良くわからないが、きっとあいつとは相性が良いのだろう。
などと私が、色々な考えを巡らしている内にも、志藤さんは他のみんなへ指示を出していく。
『春日井さんと斉川君は、そのまま周辺の敵を掃討してください。
朝倉さんは春日井さん達の支援を、望月さんは美山さんと柳井君の支援をお願いします』
そしてそれに、相手がしっかり応じるのを確認してから――
『了解!』
『はい!』
最後に残る、私とミッキーにも指示を出してきた。
『橘君は、いったん母艦の方に戻ってください。
栗原さんはその護衛をお願いします』
まさに望むところ、というやつである。
どうやら志藤さんも、ミッキーがこれ以上戦うのは無理、と判断したらしい。
その事実に勢いを得た私は、早速ミッキーへ、彼女の言う通りにするよう呼びかける。
「ミッキー! 私がついてくから、一回母艦に戻って!」
結果さすがの彼も、志藤さんの指示に逆らう気はなかったのか、すぐさまそれに従ってくれた。
『わかった』
しかも反応が早過ぎて、少し驚いてしまうくらい素直にだ。
これまでしてきた言い争いを思うと、何やらちょっと複雑な気分である。
とは言え今は、兎にも角にも安全第一だ。
可能な限り早く戦場を離れ、傷だらけのミッキーを母艦に送り届けるとしよう。
ただそうして、私がミッキーを急かして移動を始めた直後、ふと志藤さんから思い出したように声がかかる。
『あ……栗原さん。ちょっといいですか』
それに対して、何か指示に聞き逃しがあったか、と不安になりつつ問い返した私へ――
「え? なに?」
彼女はなぜか、突然お礼を言ってきた。
『さっきはありがとう。
あなたのおかげで、私はまた戦えます』
当然私としては、頭に疑問符を浮かべて戸惑うのみだ。
「???」
だって志藤さんの言葉の意味が、さっぱりわからなかったから。
私の方には、彼女に感謝されるようなことをした覚えなど、これっぽっちも無かったのだ。
いったいどうして、私は今、お礼なんて言われたのだろう。
そう私が混乱しているのに気づいたのか、志藤さんはすぐ、謝罪して話を打ち切ってしまう。
『……すいません、邪魔をしてしまって。
気にせず撤退を再開してください』
私はそれに、とりあえずの返事をした後――
「う……うん」
人の話がわからないのはいつものことか、とすぐに気持ちを切り替えて、早速ミッキーと一緒に撤退を開始する。
今は余計な事を考えず、彼を守ることに集中すべきだ、と思ったから。
その想いが天に通じた、というわけではないのだろうが。
幸いにも、撤退中危ない場面はほとんど無かった。
一目散に逃げ去る私達を、積極的に追いかけてくる敵がいなかったからだ。
ミッキーほどでないとは言え、私の機体もかなり損傷がひどいので、素直に助かったという感じである。
これはきっと、援軍が来たことにより、戦局が好転したおかげだろう。
敵側としても、逃げに徹する私達を追う余裕は無いのだ。
その事実に感謝しつつ、私は母艦を目指して後退を続けていく。
するとその道中で、またも意外な事態が発生した。
そうしてしばらく撤退を続け、母艦に十分近づいたところで、ミッキーから思いがけない指示が出たのだ。
『……後は一人でも行ける。
お前は戦闘に戻れ。大丈夫だな?』
私はそれに、かなりの驚きを持って応じる。
「え……? う、うん」
だって彼、さっきはあんなにも必死に、私が戦うことに反対していたのだ。
それがここに来て、急に肯定的に変わったその態度が、どうにも不可解だったのである。
何がミッキーの心境を、こうして百八十度と言えるくらいに変えたのだろうか。
もっとも結局、認めてくれたとは言っても、口うるさいのは同じだったのだが。
『だがあんまり突っ込むなよ。できるだけ後ろにいるんだ。
それから危ないと感じたら、迷わずすぐひ逃げろ。いいな?』
相変わらず、全く信頼はされていないらしい。
そんなに子ども扱いしなくても、と心には不満が募るばかりである。
でも一方、心配してくれている気持ちは伝わってきたので、それはそれでちょっと嬉しかったりもした。
なので今度は逆らわず、彼に元気よく答えを返す。
「うん! じゃあ行ってくるね!」
それから即座に機体を反転させ、再び前線へと向かった。
ミッキーを助けられたことや、事態がうまく回り始めていることに、これ以上ないくらいの満足感を覚えながら。
またちょうどそのタイミングで、志藤さんから通信が入り、今後についての指示を受ける。
『橘君の撤退を確認しました。
栗原さんは朝倉さんと共に、春日井さん達の支援を行ってください。
ただ機体にダメージがありますので、できるだけ慎重に。
安全な距離から、無理せず援護射撃に徹してください』
私はそれを、勢い込んで受諾しつつ――
「りょうかいっ!」
胸一杯の前向きな意志が命じるまま、志藤さんの指示に従い、全速力でユキちゃんの支援に向かった――




