表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-06 『Flag-bearer』
68/173

Section-7

更新履歴 21/10/6 文章のレイアウト変更・表現の修正


『ではまず、全体の陣形を整えます。


 美山さんは今すぐアーチャーに狙いを変更し、そちらへ接近戦を仕掛けてください。


 柳井君は彼女が動きやすいように、アサルトとアーチャーを牽制してください。


 その後、美山さんがアーチャーと戦闘に入ったら、次はアサルトの方へ攻撃をお願いします』



 これぞまさしく勝利の女神、という雰囲気の凜とした声が、次から次へと号令を発していく。

 遅れて戦場に現れた志藤さんが、今後の戦い方について、皆に指示を出しているのだ。


 それを聞いた美山さんは、水を得た魚、という風にすかさず返答し――


『了解!』


 直後に機体を反転させ、指示に従いアーチャーへ突進していった。

 今まで相手していたアサルトから離脱し、迷うことなくまっすぐに。


 そんな彼女を支援するのは、柳井君の狙撃だ。

 彼は美山さんを追おうとしたアサルトを、的確に牽制射撃を行うことで妨害し、その動きを抑え込む。

 また合間を縫って、アーチャーの方にも牽制を行っていた。


 結果として例の二機は、行動を大きく制限され、満足に戦えない状態へと陥る。

 その隙に美山さんは、爆発的な加速でアーチャーに接近、首尾良く得意の格闘戦に持ち込んだ。

 あれなら戦いは、間違いなく美山さん優位に進むだろう。


 それを確認した柳井君は、次いで志藤さんの指示通り、素早く狙いをアサルトに変更した。

 そして遠距離が得意ではない敵に対し、射程外から間断なく攻撃を仕掛けていく。

 やはりこちらも、味方側が有利な状況である。


 その光景を見ていて、私はふと思い出した。

 いつだかミッキーが、柳井君の機体の性能について、こんな風に語っていたことを。


『火力も速射能力もあまり高くはないから、装甲の厚い大型機への攻撃とか、数の多い小型機の始末とかには向いていない。

 ただ射程と精度には優れているから、機動力が売りの中型機には強いんだ』


 ……とか何とか、言っていた気がするのだ。

 正直意味は良くわからないが、きっとあいつとは相性が良いのだろう。


 などと私が、色々な考えを巡らしている内にも、志藤さんは他のみんなへ指示を出していく。


『春日井さんと斉川君は、そのまま周辺の敵を掃討してください。

 朝倉さんは春日井さん達の支援を、望月さんは美山さんと柳井君の支援をお願いします』


 そしてそれに、相手がしっかり応じるのを確認してから――


『了解!』

『はい!』


 最後に残る、私とミッキーにも指示を出してきた。


『橘君は、いったん母艦の方に戻ってください。

 栗原さんはその護衛をお願いします』


 まさに望むところ、というやつである。

 どうやら志藤さんも、ミッキーがこれ以上戦うのは無理、と判断したらしい。


 その事実に勢いを得た私は、早速ミッキーへ、彼女の言う通りにするよう呼びかける。


「ミッキー! 私がついてくから、一回母艦に戻って!」


 結果さすがの彼も、志藤さんの指示に逆らう気はなかったのか、すぐさまそれに従ってくれた。


『わかった』


 しかも反応が早過ぎて、少し驚いてしまうくらい素直にだ。

 これまでしてきた言い争いを思うと、何やらちょっと複雑な気分である。


 とは言え今は、兎にも角にも安全第一だ。

 可能な限り早く戦場を離れ、傷だらけのミッキーを母艦に送り届けるとしよう。


 ただそうして、私がミッキーを急かして移動を始めた直後、ふと志藤さんから思い出したように声がかかる。


『あ……栗原さん。ちょっといいですか』


 それに対して、何か指示に聞き逃しがあったか、と不安になりつつ問い返した私へ――


「え? なに?」


 彼女はなぜか、突然お礼を言ってきた。


『さっきはありがとう。

 あなたのおかげで、私はまた戦えます』


 当然私としては、頭に疑問符を浮かべて戸惑うのみだ。


「???」


 だって志藤さんの言葉の意味が、さっぱりわからなかったから。

 私の方には、彼女に感謝されるようなことをした覚えなど、これっぽっちも無かったのだ。

 いったいどうして、私は今、お礼なんて言われたのだろう。


 そう私が混乱しているのに気づいたのか、志藤さんはすぐ、謝罪して話を打ち切ってしまう。


『……すいません、邪魔をしてしまって。

 気にせず撤退を再開してください』


 私はそれに、とりあえずの返事をした後――


「う……うん」


 人の話がわからないのはいつものことか、とすぐに気持ちを切り替えて、早速ミッキーと一緒に撤退を開始する。

 今は余計な事を考えず、彼を守ることに集中すべきだ、と思ったから。


 その想いが天に通じた、というわけではないのだろうが。

 幸いにも、撤退中危ない場面はほとんど無かった。

 一目散に逃げ去る私達を、積極的に追いかけてくる敵がいなかったからだ。

 ミッキーほどでないとは言え、私の機体もかなり損傷がひどいので、素直に助かったという感じである。


 これはきっと、援軍が来たことにより、戦局が好転したおかげだろう。

 敵側としても、逃げに徹する私達を追う余裕は無いのだ。

 その事実に感謝しつつ、私は母艦を目指して後退を続けていく。


 するとその道中で、またも意外な事態が発生した。

 そうしてしばらく撤退を続け、母艦に十分近づいたところで、ミッキーから思いがけない指示が出たのだ。


『……後は一人でも行ける。

 お前は戦闘に戻れ。大丈夫だな?』


 私はそれに、かなりの驚きを持って応じる。


「え……? う、うん」


 だって彼、さっきはあんなにも必死に、私が戦うことに反対していたのだ。

 それがここに来て、急に肯定的に変わったその態度が、どうにも不可解だったのである。

 何がミッキーの心境を、こうして百八十度と言えるくらいに変えたのだろうか。


 もっとも結局、認めてくれたとは言っても、口うるさいのは同じだったのだが。


『だがあんまり突っ込むなよ。できるだけ後ろにいるんだ。

 それから危ないと感じたら、迷わずすぐひ逃げろ。いいな?』


 相変わらず、全く信頼はされていないらしい。

 そんなに子ども扱いしなくても、と心には不満が募るばかりである。

 でも一方、心配してくれている気持ちは伝わってきたので、それはそれでちょっと嬉しかったりもした。


 なので今度は逆らわず、彼に元気よく答えを返す。


「うん! じゃあ行ってくるね!」


 それから即座に機体を反転させ、再び前線へと向かった。

 ミッキーを助けられたことや、事態がうまく回り始めていることに、これ以上ないくらいの満足感を覚えながら。


 またちょうどそのタイミングで、志藤さんから通信が入り、今後についての指示を受ける。


『橘君の撤退を確認しました。

 栗原さんは朝倉さんと共に、春日井さん達の支援を行ってください。

 ただ機体にダメージがありますので、できるだけ慎重に。

 安全な距離から、無理せず援護射撃に徹してください』


 私はそれを、勢い込んで受諾しつつ――


「りょうかいっ!」


 胸一杯の前向きな意志が命じるまま、志藤さんの指示に従い、全速力でユキちゃんの支援に向かった――








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ