表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-06 『Flag-bearer』
67/173

Section-6

更新履歴 21/10/6 文章のレイアウト変更・表現の修正


「ミッキー!」



 ワニのように大口を開いて、私の大切な人を呑み込もうとする、巨大で恐ろしい敵。

 私は眼前のそいつ目がけて、まっすぐに前進し、そのまま体当たりを仕掛ける。

 相手の動きを妨害し、攻撃を失敗に終わらせるために。


 もちろん体当たりなんて強引な戦法が、良い選択とは到底思えなかったわけだが。

 しかし今は、ミッキーが敵のすぐ近くにいるせいで、武器を使った攻撃は難しい。

 だからこうして、直接ぶつかっていくくらいしか出来なかったのだ。


 結果として私は、そいつが口を閉じる直前、勢いのままその横っ腹に衝突した。


(……わああっ!)


 当然その反動で、機体が砕け散るかと思うほどに激しく振動する。

 またそれに続いて、内部にまで衝撃が伝わったらしく、脳振盪を起こしたかのように視界が明滅した。

 なんとなくだが、垂直なコンクリートの壁に、自分から頭突きでもしたような気分である。


 とは言えその一撃のおかげで、わずかに『クロコダイル』の進路がずれ、ミッキーの機体に食いつけなくなる。

 あいつは何も無い虚空で、顎を打ち鳴らすだけに終わったのだ。

 間一髪のところで彼を助けられた、と言っていいだろう。


 ただその見事な成果に、私が深く安堵した直後――


(あっ……!)


 今しがた退けた『クロコダイル』が反転、再び口を開きながら、猛然とこちらへ迫ってきた。

 どうやら狙いを、新たに出現した脅威――つまり私の方へと変更したらしい。


 しかもまずいことに、今の私では、それに十分な対応ができない。

 先の衝撃による不調から、未だ完全には立ち直れていなかったから。

 すぐに戦闘に移るなんて、ほぼ不可能な状態にあったのだ。


 それゆえ為す術なく『クロコダイル』の接近を許し、その大顎で胴体を丸ごと挟まれてしまう。

 それこそ狩りの標的となった、哀れな獲物のように。


 その途端、機体が音を立てて軋み始めた。


(くっ……あああ……!)


 敵が顎に力を込め、私を噛み砕こうとしているからだ。

 何やら万力でしっかりと挟まれ、徐々に押し潰されているような気分である。

 無論、こうも強烈な圧力、そう長くは耐えられないだろう。


 ならばと当然、そこから逃れようと、私は必死でもがいたのだが――


(う~ん! う~~ん!

 …………駄目、無理!)


 あまりにも敵の力が強く、容易に抜け出すことはできない。

 むしろ暴れるほどに、どんどん圧力が増すばかりなのだ。

 ゆえに心の中では、このままじゃ本当に噛み砕かれてしまう、という焦りだけが募っていく。


 だがその力がますます強まり、機体に本格的な破壊の危機が訪れようとした、次の瞬間――


「うおおお!」


 なんと今度はミッキーの方が、珍しく大きな声を上げつつ、満身創痍のまま『クロコダイル』に突進してきた。

 そしてその口内に自分の機体をねじ込むと、そこで突っ張り棒か何かのように、全身を思い切り押し広げた。


 おかげで一瞬だけ相手の動きが止まったので、彼はそれを確認してから、すぐさまこちらに攻撃の指示を出してきた。


『栗原! 撃て!』


 私は慌ててそれに応じ、まだ稼働可能だった、腹部のプラズマキャノンを発射する。

 ミッキーに当たらぬよう気をつけながら、ほぼゼロ距離で、開いた相手の口の奥に向かって。


 結果としてその一撃は、喉を通じて敵の心臓部に到達、そこで大きな爆発を引き起こした。

 それは敵の体の各所が砕け散り、バラバラに崩壊していくほどの激しいものだ。

 おそらく今の攻撃が、中枢を直接撃ち抜いたに違いない。


 おかげで私は、自然と敵の拘束から解放され、無事に自由を取り戻したのだが――


(わっ……わぁぁっ!)


 しかしそれによって起きた、猛烈な爆風に巻き込まれ、勢い良く後ろへ吹き飛ばされてしまう。

 当然機体のコントロールも失ったので、先ほどからの不調と相まって、文字通り手も足も出ない状態である。


 もっともしばらくして、そんな私を、ミッキーがきちんとキャッチしてくれた。

 回転しながら飛んでいく私を捕まえ、うまくそれを止めてくれたのだ。

 彼の方も、同じく爆風に晒されたはずなのに。

 相変わらず冷静沈着というか、やっぱり頼りになるとしか言いようがない。


 しかしその直後、私は彼から、もの凄い勢いで叱られてしまった。


『馬鹿野郎! 何やってるんだ! 死にたいのか!』


 きっと先ほどの私がした、無謀な行動を怒っているのだろう。

 ほとんど聞いたことのない、恐怖を感じるほどの強い口調が、その内心を如実に物語っている。


 そんな彼の態度に怯えつつ、私は何とか、自分の行動の意図を説明しようとしたのだが――


「だって……心配だったから……」


 ミッキーは聞く耳持たずという様子で、さらに強い否定の言葉をかけてきた。


『俺のことはいい! 大丈夫だから構うな!

 今すぐ母艦に戻れ!』


 だがその命令口調には、さすがの私も少々腹を立てる。

 だって強気な言葉とは裏腹に、彼はついさっきまで、絶体絶命に近い状況だったのだから。

 一応私はそれを助けたわけだし、こうも問答無用な言い方をされるのは、いくら何でも納得いかなかったのだ。


 なのでついつい、荒い口調でその指示を拒絶してしまった。


「やだ! 戻らない!」


 それが火に油だったのか、彼はより強引な言葉を投げかけてくる。


『危険だから戻れって言ってるんだ! わかれよ!』


 そうなるともう、売り言葉に買い言葉というか、私も意固地になって反論するのみとなった。

 それこそ、駄々をこねる子どもか何かのように。


「わかんない!

 だってさっき、ミッキーやられそうだったじゃん!

 一人じゃ無理だよ! 私も一緒にいる!」


 すると一瞬だけ、ミッキーが言葉に詰まる。

 きっと彼の方にも、私に危ないところを助けられた、という自覚があったのだろう。


 それでも彼は、こんな事では退けぬとばかりに、同じような指図を繰り返す。


『……ここにいたら、お前まで巻き込まれる!

 早く逃げるんだ! 俺のことは気にするな!』


 自分のことなんてどうでもいい、と言わんばかりの、不自然なほどに自暴自棄な態度だ。

 こんな危なっかしい状態のミッキー、やはり放っておくなんて不可能である。


 なのでこちらも諦めず、追いすがるように懇願、彼の説得を試みる。


「なら一緒に逃げようよ! それが一番安全だよ!」


 しかし向こうからの返答は、相変わらず取り付く島もない。


『それが無理だって言ってるんだ!』


 おまけにそれを受け入れられず、反抗気味に質問をした私へ――


「なんで! なんでっ!」


 詳しい説明すら行うことなく、またも自身の考えを押し通してきた。


『そんなの見たらわかるだろ!

 この損傷だ、俺は逃げられっこない!

 一人で行け!』


 ゆえにあくまで、私はその指示に逆らう。


「やだ! 絶対にやだ!」


 だってその時にはもう、疑いが確信に変わっていたから。

 ミッキーはこの戦いから生きて帰還するつもりがない、とはっきり実感できたのだ。


 もちろん、根拠などあってないようなものだが、とにかくそう直感したのだ。

 だからどんなに叱られようと、絶対に退くつもりはなかった。


 そんな私の頑固さに呆れたのか、次いで不意にミッキーが黙り込む。

 こんな言い合いをしていても埒が明かない、と感じたのだろう。

 となるとこれで、少しはその捨て鉢な考え方について、考え直してくれるかもしれない……


 だがそうして私が、彼の態度の変化に、淡い期待を寄せた直後――


『ぐあっ……!』


 突如ミッキーが、そう苦しそうな呻き声を上げると同時に、その機体が爆発を起こした。

 どこからか放たれた敵の一撃を、避けきれずまともに食らってしまったのだ。

 私に注意を向けていて、周りへの警戒が疎かになっていたからだろう。


 そういう彼の姿を見て、私はようやく、今が戦闘中だということを思い出す。

 呑気に口論なんてしている場合ではなかった、ということである。

 ここはすぐにでも、何らかの行動を起こさねばならない。


 なので早速、私は彼を助けるため、その機体に接近しようとしたのだが――


「ミッキー! ……わぁぁっ!」


 間を置かず、なんと私の機体にも激しい衝撃が走った。

 彼と同じく、こちらも敵の攻撃を受けてしまったのだ。

 狙われているのは、二人とも変わりないらしい。


 その現実に動揺しつつも、なら次の一撃に備えなければと、私は慌てて攻撃が来た方へ視線を向ける。


 すると――


(あ……!)


 少し離れた場所で、こちらに向けてピタリと狙いをつける、ブラスターの姿が見えた。

 しかも構えたその砲口には、すでに明るい光が覗いている。

 追撃の準備は、しっかり整っているというわけだ。


 ゆえにもう、回避ができるような余裕は無い。

 要するにこのまま、先ほどの攻撃をもう一度受けるしかない、という状態なのである。


 そうなれば当然、私は撃墜されることだろう。

 そして何もできぬまま、あっさり消え去ってしまうのだ。

 クラスみんなの、そしてミッキーの記憶から、跡形もなく完全に。

 それは私にとって、今にも大声で泣き出したくなるほどの、圧倒的な恐怖だった。


(い……いや……! いやっ!)


 ただそのあまりの恐ろしさで、私が本当に泣き声を上げる直前、唐突に――


(……えっ?)


 視線の先にいたブラスターの機体を、横合いから鋭く伸びてきた、一条の光線が撃ち貫く。

 その一撃によって、敵は大爆発を起こし、細かな破片になるまでバラバラに砕けていった。

 つまりはどこからともなく放たれた攻撃が、敵を撃破し、私を救ってくれたのだ。


 それを見た瞬間、私はその援護射撃が、誰によって為されたものなのかを直感する。


(これって……!)


 なぜならその光に、確かな見覚えがあったから。

 加えて敵に気づかれないほどの遠距離にいながら、あそこまで正確な射撃ができる味方に、一人しか心当たりがなかったから。


 ゆえに今の攻撃の出所を辿り、相手の姿を見つけ出してから、その名を喜びと共に叫んだ。


「ミッチー!」


 誰あろう、柳井満君だ。

 実際視線の先には、長大なスナイパーライフルをこちらに向ける、彼の機体が見えていた。

 どうやらユキちゃんの説得に応じ、私達の援軍として駆けつけてくれたらしい。


 しかもそれに続いて、全く予想だにしなかった、意外な人からの声が届く。

 それはこの苦境に光明をもたらす、勝利の女神からの福音であった。


『遅れて申し訳ありません。

 志藤明、これより本作戦の指揮をとらせていただきます』



 つまりは志藤さんが、再び指揮官として、この戦場に舞い戻ってきてくれたのだ――








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ