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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-06 『Flag-bearer』
66/173

Section-5

更新履歴 21/10/6 文章のレイアウト変更・表現の修正


「早く! ユキちゃん! 先に行っちゃうよ!」


「ま、待ってよ~」



 そう後に続く友人を急かしながら、私は学校の廊下を全力で疾駆していく。

 大切な人の元へと駆け付ける、というただひとつの目的のために。


 そして間もなく、目指すレクリエーションルームへと到達した。

 同時に部屋のドアを開き、前のめりになりながら、室内に飛び込んでいく。


 その先に見えたのは、綺麗に並んだゲーム用のシートの群れと、そこに座る四人のクラスメイト達だ。

 全員ヘッドセットを装着した状態で、シートに深く腰かけているため、まるで眠っているかのような見た目である。


 もちろんその中には、ミッキーも含まれていた。

 つまり彼は、今この瞬間も、存在そのものを懸けた戦いに身を投じているわけだ。

 目前のそんな光景は、私の中にある、『この人を助けたい』という思いをさらに強めていく。


 ゆえに早速、私は自分用のシートへ駆け寄り、素早くそこへ収まった。

 望月さんもそれに続いて、同じように彼女のシートへと腰かける。


 ただし、ユキちゃんだけは――


「速いよ~……待ってよ~」


 ようやくレクリエーションルームに到着し、その入り口を抜けたところだった。

 その足取りはどこか覚束ない印象で、声にも全く力が無い。

 どうやら本格的な戦いの前に、もうすっかり疲れ切っているようだ。


 とは言え一緒に来ると言っている以上、このまま私達だけが先に行くわけにはいかない。

 一人では危険な場面も多いはずだし、やはりここは、みんなで行動した方が安全だろう。


 そこで私は、焦りから口調を強めつつ、必死にユキちゃんを急かす。


「早く、早く!」


 しかしそれに応えた彼女が、自らのシートに近づいたところで、突然後ろから声がかかった。


「朝倉? お前らも……何やってんだ?」


 その不思議そうな声の主は、先ほど私達と別行動を取った柳井君だ。

 彼は部屋の入り口に立って、信じられないという表情でこちらを見ている。

 きっと私達が、急にゲームを始めようとしているのを見て、事情がわからず戸惑っているに違いない。


 そんな突然の友人の登場に、ユキちゃんはすかさず反応――


「マキちゃん達は先に行ってて!

 私もすぐ追いかけるから!」


 そう私達に声をかけた後、迷わず振り返り、柳井君に駆け寄っていく。

 今までの疲労困憊な様子が嘘のような、非常に俊敏な動作で。

 どうやらここに残って、柳井君に事情を説明するつもりらしい。


 それが少しだけ心配で、私は踏ん切りをつけられないでいたのだが。


「栗原さん、私達だけでも行きましょう! 

 朝倉さんは、柳井君がいれば大丈夫なはずです!」


 そう望月さんに言われて、確かにその通りだなと納得し――


「……うん、そうだね! 行こう!」


 すかさずヘッドセットを装着して、手探りでそのスイッチを入れ起動、『ムーン・セイヴァーズ』を開始した。


 すると一瞬で、視界が隅々まで真っ暗になり、手先すらまともに見えなくなる。

 ゲームの起動中に発生する、いつもの待機時間である。


 本当のところを言うと、私はこの時間があまり好きではない。

 暗闇の中では、色々嫌なことを思い出してしまうから。

 一刻も早く終わって、と圧迫感に耐えつつ願うばかりなのだ。


 もっともその嫌な時間は、あまり長く続くこともないので――


(終わった!)


 しばらくしてあっさり終了、それと同時に視界が明るくなり、目の前に母艦の格納庫が現れた。

 いつも通り、無事ゲームの中に来れたというわけだ。

 ……まあなぜだか一瞬、『この認識は何か違うかも』という気がしたけど……今は考えなくていいや。


 そう内心の疑問を片付けつつ、私はまず、自分の機体のチェックを行う。

 いつもゲームの最初にやる、機体の動作確認に取りかかったのだ。

 『いざって時に慌てないよう、そういう作業は余裕がある内にやっとけ』という、ミッキーのアドバイス通りに。


 そこで私がチェックを始めた、自分が日頃使用している機体のタイプは、D-2ストライカー。

 用意された十二のタイプの中では唯一、人型からかなり遠いフォルムをした……ええと確か……『突撃機』という役割の機体……だったはず。


 具体的な外観としては、まず腕に当たる部分が存在せず、脚部もかなり小さい。

 その代わり背中の中央に、『肩甲骨が巨大化して翼になった』ような形状の、大型のバックパックを背負っている。


 そこには拡散式のプラズマキャノンとか、たくさんのミサイルポッドとかが、所狭しと積み込まれていた。

 武器庫を丸ごと背負っているようなもの、と言えるのかもしれない。

 もちろん本体の方にも、小さいものから大きいものまで、様々な武器が満載だ。


 しかも他のタイプに比べて、一回り、いや二回りはサイズが大きい。

 全体の印象としては、膝から下が無い人間の像に、巨大なカブトムシの羽をくっつけたみたい……という感じだろうか。


 ちなみにその役割は、先ほど言及した通り、『突撃機』だそうだ。


 正直詳しい話はわからないが、『とにかく敵に近づいて武器をぶっ放せばいい、弾が無くなったら後退しろ』という、ミッキーの指示通りに動いている。

 難しいことを考えなくていいので、個人的にはものすごく楽である。


 そんな考えを巡らしつつ、私は手早く機体のチェックを終了し、特別な異常が無いことを確認した。


(うん……大丈夫、問題なし)


 それからすぐに移動を開始し、格納庫から外の宇宙に出た後、そこで必死にミッキーの姿を探す。


(どこ……ミッキー、どこ?)


 しかし残念ながら、私が彼を見つけるよりも早く――


(……! 気づかれた!)


 付近に展開していた敵軍に、私の方が見つかってしまった。

 彼らは私が出現すると同時に、反転してこちらへ向かってきたのだ。

 他の味方を包囲していた部隊が、矛先を変え攻め寄せてきたのかもしれない。


 当然それを無視すれば、母艦が攻撃されてしまうことになる。

 ゆえに仕方なく、私は自機に搭載されている武装を一斉に稼働させ、その一団の迎撃を行った。

 早くミッキーのところへ行きたいのに、と内心苛立ちながら。


「いっけー!」


 すると直後、機体側面の四門の大型ガトリング砲が火を噴き、敵軍に正面から打撃を与える。


 次いでバックパック下部から発射された、大量のミサイルも続き、そこに痛烈な追い討ちをかけた。


 さらにその猛威を逃れた敵も、バックパック上部に二門ある、拡散式プラズマキャノンの放射で掃討していく。


 結果として迫り来る敵の一団は、あっという間に瓦解していった。


 ちなみにこの一斉射撃が、私のいつもの戦闘スタイルである。

 作戦とか敵の特性とかの、難しいことをあまり考えなくていいので、単純な自分にはぴったりのやり方なのだ。

 代わりに味方と連携は取りづらいが、まあ元々そんなのできる気はしないし、やはりこれがベストの戦い方だろう。


 なんて事を考えている内に、私は自然と攻めてきた敵の撃退を完了する。

 圧倒的な火力で、瞬く間に追い払ってしまったわけだ。

 『集団相手の戦いは、お前の機体の得意分野だから自信を持て』という、ミッキーの言葉を思い出さずにはいられない。


 とは言え無論、調子に乗って好き勝手戦うのは厳禁である。

 この機体は高い火力の代償として、戦える時間が非常に短くなっているから。

 要は弾切れが訪れる前に、早くミッキーを見つけなければならぬのだ。


 それゆえ内心の焦りを強めつつ、私は追い求める人の探索を再開、結果として幸いにも――


(いた!)


 大した時間をかけることなく、ミッキーの搭乗する機体――A-2グラディエーターを発見することができた。

 少なからず損傷はしている雰囲気だが、とりあえずは無事なようである。


 ただし現在、彼は多数の敵から、周りを完全に包囲されている。

 そしてその目前には、いつかのコピー機体と思われる敵が、なんと二機も展開していた。

 どうやら今は、主にそいつらと戦っている最中らしい。


 加えてその後方からは、一機の『クロコダイル』が、彼に向け猛然と突進してきている。

 ミッキーはそいつの接近に気づいていない様子なので、今のところほぼ無防備に近い状態である。

 一刻も早く救援に向かうべき状況、と言えるだろう。


 だが駆けつけようにも、敵の包囲はたいへんに分厚い。

 いかに私の機体が高火力でも、無理やりに突破するのは相当危険だろう。

 そもそもこのストライカー、重武装のわりに防御力は普通なので、そういう戦い方は向いていないのだ。


 そんな事情から、私は突撃を躊躇し、一歩を踏み出せないでいたのだが――


(……あれ?)


 そこで突如、正面に小さな飛翔体が出現、ほのかな薄緑色の輝きを放ち始めた。

 横合いから急に割り込んできて、まるで迫る脅威から私を守るかのように、前方へバリアを展開したのだ。

 その現象が意味するところは、もちろんひとつしかない。


 ゆえに急ぎ私は、それを実行したであろう人に、詳しい意図を確かめる。


「望月さん? これって……」


 彼女はその質問に、一切の迷いなく答えた。


『行って、栗原さん! 私は大丈夫だから!』


 自分が援護するから、ダメージは気にせず敵陣を突破して、ということだろう。

 護衛のいない状態でそんな事をすれば、望月さんだって安全ではなくなるはずなのに。


 私はその彼女の気持ちに感動し、力一杯にお礼を言う。


「うん! ありがとう!」


 そして直後、スラスターを全開にして敵へ突撃、強引に包囲の突破を図った。

 自分を危険に晒してまで支援してくれた、望月さんの厚意を無駄にせぬよう、すかさず行動を開始したのだ。


 当然敵の方も、そんな私に反応、揃って集中砲火を浴びせてきたが――


「えーいっ!」


 私は望月さんの支援を頼りに、それらをひとつ残らず防ぎつつ、敵陣へと突進していく。

 反撃も繰り出して、進行方向の邪魔者を排除しながら、一気にその中心を切り裂いていったのだ。

 もちろん無傷では済まなかったが、おかげで深刻なダメージもなく、かなりミッキーに近づくことができた。


 しかし実際に、そこへたどり着く直前――


(ああっ!)


 なんと目の前で、ミッキーが『クロコダイル』に噛み付かれてしまう。

 結局その接近に気づかなかった彼が、後ろからの奇襲を受けたのだ。

 今にして思えば、あらかじめ警告しておけば良かったわけだが、こうなるともう後の祭りである。


 結果として彼は、腕を完全に食いちぎられ、戦う手段をほぼ失った。

 このままでは遠からず敵の追撃を受け、抵抗もできず撃墜されることだろう。


 そして、私は忘れてしまうのだ。

 彼のことも、彼と過ごした思い出も、彼がいればどれだけ安心できるのかということも。

 ミッキーの消失と共に、全てを失い、またあの不安な日々に逆戻りするのだ……!


 その辛い認識が、私の心に熱い火を灯す。


(そんなの……絶対に、嫌だ!)


 彼がいなくなるという運命を否定したい、絶対にそんな風にはさせるものか――そういう気持ちが、胸の中で激しく燃え盛ったのだ。

 何やらそれが全身から溢れ出て、今にも爆発しそうな感覚さえあった。


 そうして生まれた強い想いを支えに、私はさらに機体を加速させ、そのまま――


「ミッキー!」



 大切な人の名を叫びながら、迫り来る敵と彼との間に、自分の機体を割り込ませた――








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