Section-5
更新履歴 21/10/6 文章のレイアウト変更・表現の修正
「早く! ユキちゃん! 先に行っちゃうよ!」
「ま、待ってよ~」
そう後に続く友人を急かしながら、私は学校の廊下を全力で疾駆していく。
大切な人の元へと駆け付ける、というただひとつの目的のために。
そして間もなく、目指すレクリエーションルームへと到達した。
同時に部屋のドアを開き、前のめりになりながら、室内に飛び込んでいく。
その先に見えたのは、綺麗に並んだゲーム用のシートの群れと、そこに座る四人のクラスメイト達だ。
全員ヘッドセットを装着した状態で、シートに深く腰かけているため、まるで眠っているかのような見た目である。
もちろんその中には、ミッキーも含まれていた。
つまり彼は、今この瞬間も、存在そのものを懸けた戦いに身を投じているわけだ。
目前のそんな光景は、私の中にある、『この人を助けたい』という思いをさらに強めていく。
ゆえに早速、私は自分用のシートへ駆け寄り、素早くそこへ収まった。
望月さんもそれに続いて、同じように彼女のシートへと腰かける。
ただし、ユキちゃんだけは――
「速いよ~……待ってよ~」
ようやくレクリエーションルームに到着し、その入り口を抜けたところだった。
その足取りはどこか覚束ない印象で、声にも全く力が無い。
どうやら本格的な戦いの前に、もうすっかり疲れ切っているようだ。
とは言え一緒に来ると言っている以上、このまま私達だけが先に行くわけにはいかない。
一人では危険な場面も多いはずだし、やはりここは、みんなで行動した方が安全だろう。
そこで私は、焦りから口調を強めつつ、必死にユキちゃんを急かす。
「早く、早く!」
しかしそれに応えた彼女が、自らのシートに近づいたところで、突然後ろから声がかかった。
「朝倉? お前らも……何やってんだ?」
その不思議そうな声の主は、先ほど私達と別行動を取った柳井君だ。
彼は部屋の入り口に立って、信じられないという表情でこちらを見ている。
きっと私達が、急にゲームを始めようとしているのを見て、事情がわからず戸惑っているに違いない。
そんな突然の友人の登場に、ユキちゃんはすかさず反応――
「マキちゃん達は先に行ってて!
私もすぐ追いかけるから!」
そう私達に声をかけた後、迷わず振り返り、柳井君に駆け寄っていく。
今までの疲労困憊な様子が嘘のような、非常に俊敏な動作で。
どうやらここに残って、柳井君に事情を説明するつもりらしい。
それが少しだけ心配で、私は踏ん切りをつけられないでいたのだが。
「栗原さん、私達だけでも行きましょう!
朝倉さんは、柳井君がいれば大丈夫なはずです!」
そう望月さんに言われて、確かにその通りだなと納得し――
「……うん、そうだね! 行こう!」
すかさずヘッドセットを装着して、手探りでそのスイッチを入れ起動、『ムーン・セイヴァーズ』を開始した。
すると一瞬で、視界が隅々まで真っ暗になり、手先すらまともに見えなくなる。
ゲームの起動中に発生する、いつもの待機時間である。
本当のところを言うと、私はこの時間があまり好きではない。
暗闇の中では、色々嫌なことを思い出してしまうから。
一刻も早く終わって、と圧迫感に耐えつつ願うばかりなのだ。
もっともその嫌な時間は、あまり長く続くこともないので――
(終わった!)
しばらくしてあっさり終了、それと同時に視界が明るくなり、目の前に母艦の格納庫が現れた。
いつも通り、無事ゲームの中に来れたというわけだ。
……まあなぜだか一瞬、『この認識は何か違うかも』という気がしたけど……今は考えなくていいや。
そう内心の疑問を片付けつつ、私はまず、自分の機体のチェックを行う。
いつもゲームの最初にやる、機体の動作確認に取りかかったのだ。
『いざって時に慌てないよう、そういう作業は余裕がある内にやっとけ』という、ミッキーのアドバイス通りに。
そこで私がチェックを始めた、自分が日頃使用している機体のタイプは、D-2ストライカー。
用意された十二のタイプの中では唯一、人型からかなり遠いフォルムをした……ええと確か……『突撃機』という役割の機体……だったはず。
具体的な外観としては、まず腕に当たる部分が存在せず、脚部もかなり小さい。
その代わり背中の中央に、『肩甲骨が巨大化して翼になった』ような形状の、大型のバックパックを背負っている。
そこには拡散式のプラズマキャノンとか、たくさんのミサイルポッドとかが、所狭しと積み込まれていた。
武器庫を丸ごと背負っているようなもの、と言えるのかもしれない。
もちろん本体の方にも、小さいものから大きいものまで、様々な武器が満載だ。
しかも他のタイプに比べて、一回り、いや二回りはサイズが大きい。
全体の印象としては、膝から下が無い人間の像に、巨大なカブトムシの羽をくっつけたみたい……という感じだろうか。
ちなみにその役割は、先ほど言及した通り、『突撃機』だそうだ。
正直詳しい話はわからないが、『とにかく敵に近づいて武器をぶっ放せばいい、弾が無くなったら後退しろ』という、ミッキーの指示通りに動いている。
難しいことを考えなくていいので、個人的にはものすごく楽である。
そんな考えを巡らしつつ、私は手早く機体のチェックを終了し、特別な異常が無いことを確認した。
(うん……大丈夫、問題なし)
それからすぐに移動を開始し、格納庫から外の宇宙に出た後、そこで必死にミッキーの姿を探す。
(どこ……ミッキー、どこ?)
しかし残念ながら、私が彼を見つけるよりも早く――
(……! 気づかれた!)
付近に展開していた敵軍に、私の方が見つかってしまった。
彼らは私が出現すると同時に、反転してこちらへ向かってきたのだ。
他の味方を包囲していた部隊が、矛先を変え攻め寄せてきたのかもしれない。
当然それを無視すれば、母艦が攻撃されてしまうことになる。
ゆえに仕方なく、私は自機に搭載されている武装を一斉に稼働させ、その一団の迎撃を行った。
早くミッキーのところへ行きたいのに、と内心苛立ちながら。
「いっけー!」
すると直後、機体側面の四門の大型ガトリング砲が火を噴き、敵軍に正面から打撃を与える。
次いでバックパック下部から発射された、大量のミサイルも続き、そこに痛烈な追い討ちをかけた。
さらにその猛威を逃れた敵も、バックパック上部に二門ある、拡散式プラズマキャノンの放射で掃討していく。
結果として迫り来る敵の一団は、あっという間に瓦解していった。
ちなみにこの一斉射撃が、私のいつもの戦闘スタイルである。
作戦とか敵の特性とかの、難しいことをあまり考えなくていいので、単純な自分にはぴったりのやり方なのだ。
代わりに味方と連携は取りづらいが、まあ元々そんなのできる気はしないし、やはりこれがベストの戦い方だろう。
なんて事を考えている内に、私は自然と攻めてきた敵の撃退を完了する。
圧倒的な火力で、瞬く間に追い払ってしまったわけだ。
『集団相手の戦いは、お前の機体の得意分野だから自信を持て』という、ミッキーの言葉を思い出さずにはいられない。
とは言え無論、調子に乗って好き勝手戦うのは厳禁である。
この機体は高い火力の代償として、戦える時間が非常に短くなっているから。
要は弾切れが訪れる前に、早くミッキーを見つけなければならぬのだ。
それゆえ内心の焦りを強めつつ、私は追い求める人の探索を再開、結果として幸いにも――
(いた!)
大した時間をかけることなく、ミッキーの搭乗する機体――A-2グラディエーターを発見することができた。
少なからず損傷はしている雰囲気だが、とりあえずは無事なようである。
ただし現在、彼は多数の敵から、周りを完全に包囲されている。
そしてその目前には、いつかのコピー機体と思われる敵が、なんと二機も展開していた。
どうやら今は、主にそいつらと戦っている最中らしい。
加えてその後方からは、一機の『クロコダイル』が、彼に向け猛然と突進してきている。
ミッキーはそいつの接近に気づいていない様子なので、今のところほぼ無防備に近い状態である。
一刻も早く救援に向かうべき状況、と言えるだろう。
だが駆けつけようにも、敵の包囲はたいへんに分厚い。
いかに私の機体が高火力でも、無理やりに突破するのは相当危険だろう。
そもそもこのストライカー、重武装のわりに防御力は普通なので、そういう戦い方は向いていないのだ。
そんな事情から、私は突撃を躊躇し、一歩を踏み出せないでいたのだが――
(……あれ?)
そこで突如、正面に小さな飛翔体が出現、ほのかな薄緑色の輝きを放ち始めた。
横合いから急に割り込んできて、まるで迫る脅威から私を守るかのように、前方へバリアを展開したのだ。
その現象が意味するところは、もちろんひとつしかない。
ゆえに急ぎ私は、それを実行したであろう人に、詳しい意図を確かめる。
「望月さん? これって……」
彼女はその質問に、一切の迷いなく答えた。
『行って、栗原さん! 私は大丈夫だから!』
自分が援護するから、ダメージは気にせず敵陣を突破して、ということだろう。
護衛のいない状態でそんな事をすれば、望月さんだって安全ではなくなるはずなのに。
私はその彼女の気持ちに感動し、力一杯にお礼を言う。
「うん! ありがとう!」
そして直後、スラスターを全開にして敵へ突撃、強引に包囲の突破を図った。
自分を危険に晒してまで支援してくれた、望月さんの厚意を無駄にせぬよう、すかさず行動を開始したのだ。
当然敵の方も、そんな私に反応、揃って集中砲火を浴びせてきたが――
「えーいっ!」
私は望月さんの支援を頼りに、それらをひとつ残らず防ぎつつ、敵陣へと突進していく。
反撃も繰り出して、進行方向の邪魔者を排除しながら、一気にその中心を切り裂いていったのだ。
もちろん無傷では済まなかったが、おかげで深刻なダメージもなく、かなりミッキーに近づくことができた。
しかし実際に、そこへたどり着く直前――
(ああっ!)
なんと目の前で、ミッキーが『クロコダイル』に噛み付かれてしまう。
結局その接近に気づかなかった彼が、後ろからの奇襲を受けたのだ。
今にして思えば、あらかじめ警告しておけば良かったわけだが、こうなるともう後の祭りである。
結果として彼は、腕を完全に食いちぎられ、戦う手段をほぼ失った。
このままでは遠からず敵の追撃を受け、抵抗もできず撃墜されることだろう。
そして、私は忘れてしまうのだ。
彼のことも、彼と過ごした思い出も、彼がいればどれだけ安心できるのかということも。
ミッキーの消失と共に、全てを失い、またあの不安な日々に逆戻りするのだ……!
その辛い認識が、私の心に熱い火を灯す。
(そんなの……絶対に、嫌だ!)
彼がいなくなるという運命を否定したい、絶対にそんな風にはさせるものか――そういう気持ちが、胸の中で激しく燃え盛ったのだ。
何やらそれが全身から溢れ出て、今にも爆発しそうな感覚さえあった。
そうして生まれた強い想いを支えに、私はさらに機体を加速させ、そのまま――
「ミッキー!」
大切な人の名を叫びながら、迫り来る敵と彼との間に、自分の機体を割り込ませた――




