Section-8
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ハイエナの群れに襲われるライオン、とでも例えればいいのだろうか。
眼前の光景には、どこかそんな印象があった。
なぜなら共に戦っていた三人が、いずれも完全に包囲され、その状態で激しい攻撃を浴びせられていたから。
ほぼ為す術ないままで、いいように翻弄されている、といった雰囲気だ。
さっきまで狩る側の猛獣だったのに、これではどう見ても狩られる側の獲物である。
そんな風に突如、味方が窮地に追い込まれた原因――それはおそらく、互いの距離が開きすぎてしまったせいだ。
要は各自が勝手に行動した結果、その位置が広く分散し、そこを敵に突かれてしまったわけだ。
連携を考えず戦った報いとして、各個撃破されそうになっている、というところだろうか。
迂闊と言うか軽はずみと言うか、機械相手に不甲斐ない戦いぶりである。
もっとも、かく言う俺だって、単独で突出していたのは事実なので――
(……こっちにも来たか!)
当然周辺には、続々と敵機が集結し始めていた。
それこそ群れからはぐれた獲物を、抜け目ない狩人達が狙う時のように。
このままだと俺も、連中に取り囲まれ、味方と分断されることになるはずだ。
ただでさえ数が少ないというのに、それでは間違いなくなぶり殺しである。
とにかくいったん、皆と合流するより他はない。
そう目的を定めた俺は、再び味方の状況を確認する。
そして最も近い距離にいるのが、斉川だということを把握してから、すかさずそちらへと向かった。
ちなみに現在斉川は、複数の『ゴーレム』とその護衛機に囲まれ、間断なく攻撃を受けている最中である。
正面以外の防御は薄い機体なので、かなり苦戦を強いられている様子だ。
一刻も早く駆けつけ、救援に入らねば危険だろう。
ゆえに早速、俺は斉川を囲む『ゴーレム』の内、自分に近い一機へ突進する。
そいつに狙いを定め、後方から奇襲をかけるようとしたのだ。
一応敵も、そんな俺に気づき、迎撃を行おうとしたものの――
「遅いっ!」
俺はその妨害のため、大型ブレードを構えつつ、一気に敵へ肉薄した。
さらに十分接近したところで、反撃が来るよりも早く、それを勢い良く横薙ぎに一閃する。
結果その『ゴーレム』は、俺の一撃で綺麗に胴体を両断され、直後に大爆発を起こして崩壊した。
砕けた自身の残骸を、周囲に乱雑にばら撒きながら。
同時に護衛の小物も散開したし、とりあえずは一段落というところだ。
その様子を向こうからも見て取ったのか、すかさず斉川が通信を入れてくる。
『橘か!』
俺はそれに応じつつ、彼の状態を確かめた。
「まだやれるか?」
すると斉川は、一応肯定の言葉を返してきたのだが――
『まあ……何とかな』
しかしこちらから見た限りでは、かなりの被弾が確認できる。
やはり側面や後方からの攻撃に、十分な対応ができなかったらしい。
鈍重な機体で単独行動していれば、まあ無理もない話なのだが。
そうしてはっきり、連携せずに戦うことの欠点を見せつけられると――
(……志藤がいればな)
戦闘に指揮は必要なんだ、と改めて痛感せざるを得なかった。
皆が実力を発揮するためには、誰かが戦場を俯瞰し、うまく連携を取るよう促さねばならぬのだ。
そこでいったん、現時点で最もその見込みがありそうな相手――斉川にそれを提案してみる。
「斉川。このまま無闇に戦ってても、各個撃破されるだけだ。
お前、部隊の指揮はできないのか?」
しかし彼からの返答は、至極もっともなものでしかなかった。
『無茶言うな。自分が戦いながら他の連中の面倒まで見れるか。
俺の機体は、そういうの専門じゃないんだよ』
確かに、自分も戦いながら味方を指揮する、というのはかなり難しい。
全く異なる作業を、ほぼ同時に行わねばならぬからだ。
将棋を指しながら野球の試合に出場する、とでも例えればわかりやすいか。
それを志藤は、搭乗機であるコマンダーの機能を活用し、巧みに実行していた。
そういうオプション装備が無い自分の機体では不可能、と斉川は言いたいのだろう。
結局、彼女がいなければどうにもならない、ということらしい。
となればここで、いつまでも無いものねだりをしていてもしょうがない。
事態を打開するため、今はとにかく行動あるのみ、というわけだ。
ゆえにとりあえず、俺は斉川に雑な指示を出してから――
『いったん残りの二人と合流するぞ!』
レーダーに目をやり、その二人の位置を確認しようとする。
不利な戦況に対し、胸の内でますます焦りが募っていくのを感じながら。
しかもそうして、徐々に追い込まれていく俺達の前へ、次いでたいへん厄介な敵が立ちはだかった。
(……! くそっ、こんな時に!)
一機の『アングラー』と、それを護衛する小型機の群れだ。
その規模は相当なものであり、また敵の種類も多種多様なため、ほぼオールスターと言えそうな編成である。
どう考えても、二人だけで戦うような相手ではない。
さらに間の悪いことに、奴は俺達の位置から見て、美山や春日井がいるのと同じ方向に陣取っている。
連中を突破しなければ、合流は不可能だと言っていい。
例え迂回しても、他の敵に囲まれるだろうし、ここは割り切って攻めるしかないようだ。
そう状況を把握した俺は、即座に覚悟を決め――
(やるしかない……!)
斉川に自身の支援を要請した後、間を置かず敵軍へ突っ込んでいった。
「斉川! 俺が奴に突っ込む! 援護してくれ!」
目標はもちろん、奴らの中核戦力たる『アングラー』だ。
あいつさえ片付ければ敵は撤退する、と踏んで最優先に狙ったのである。
すると『アングラー』が、そんな俺の動きに反応して、すぐさま迎撃態勢に入る。
大量のミサイルを、嵐のように撃ち放ってきたのだ。
無論このまま進めば、ただの飛んで火に入る夏の虫でしかない。
それを危惧したのか、すかさず斉川が反撃に移り――
『このっ!』
搭載火器を総動員して、迫り来るミサイルの嵐を迎撃し始めた。
俺に当たらぬよう、巧みにその射線をずらしながら。
一応そのおかげで、かなり数は減少したものの、やはり全ては落としきれていない。
そこでやむなく、俺も前進を止め、機関砲でミサイルの迎撃を行う。
そうして何とか、ミサイルの方には対処できたものの――
(……鬱陶しいな!)
そいつにかまけていたせいで、他の護衛機群に取り囲まれてしまった。
こちらがミサイルの処理に追われている隙に、こっそり前進してきていたのだ。
当然こいつらを倒さねば、『アングラー』へ到達することはできない。
ただ俺の機体では、その特性上、こういった連中への迅速な対処は難しい。
ここで悠長に戦い、足止めを食らっていたら、きっと瞬く間に追い込まれてしまうことだろう。
ならばと俺は、躊躇うことなく即断し――
(やるしかない……仕掛ける!)
周りを囲む敵に構わず、まっすぐ『アングラー』へ突進する。
行く手に立ち塞がった相手のみ、最低限の動きで排除しながら。
リスク覚悟で、強引に突破を図ったわけだ。
するとそんな俺を、敵もすかさず迎撃してきた。
『ビッグアイ』が赤い光線を、『サンフラワー』が小型のミサイルを、『バグ』達もそれぞれの武装を発射し、こちらへ雨あられと浴びせかけてきたのだ。
それはかなり濃密な弾幕であり、到底避けきれるものではない。
だが俺は、それを当たるに任せて放置し、そのまま一直線に進んでいく。
あえて攻撃を避けず、『アングラー』への接近を試みたのである。
致命傷になるもの以外は全て無視する、と事前に決めていたから。
おかげで何とか、多数の損傷を受けながらも包囲を突破し、無事に目標へ肉薄することができた。
そこで満を持して、手に持つ大型ブレードを振りかぶると――
「くらえっ!」
瞬時にそれを一閃、『アングラー』の側面、横っ腹に当たる部分へ叩きつけた。
大木を切り倒さんとする木こりが、渾身の力を込めて斧を振り下ろす時のように。
結果その攻撃は、敵の胴体に直撃し、大きく装甲を抉り取る。
同時に付近のミサイルポッドを、片っ端から叩き潰しながら。
これで少しは、迎撃用の火力が低下するはずだ。
しかしもちろん、致命傷には遠く及ばない。
まだまだ追撃が必要、というわけである。
ただその目論見に従い、俺が再度武器を振り上げたところで、予想外の事態が発生した。
(……まずい!)
突如として頭上から、高速で一機の『ハウンド』が突っ込んできたのだ。
このままこいつの接触を許せば、その自爆攻撃の餌食となり、機体が深刻なダメージを受けてしまう。
無論この距離であれば、『アングラー』にもダメージは発生するはずだが。
しかし敵の行動には、それを恐れる素振りが一切見受けられない。
背に腹はかえられぬ、ということらしい。
そこでやむなく、俺は『アングラー』から離脱すると、『ハウンド』を機関砲で狙い撃つ。
これ以上の接近を許さぬよう、全速力で後退しながら。
その甲斐あって、無事に『ハウンド』の方は撃墜できたし、また一定の距離を取れていたおかけで、爆発の被害も最小限に抑えられたのだが。
しかしそれにより、『アングラー』からは少し離れてしまったので――
(くそっ! またかよ!)
周囲の護衛機群と『アングラー』に、再び集中砲火を受けることになった。
先ほどと全く同じ、猛烈な同時攻撃である。
多少『アングラー』の火力を削ったとは言え、こんなの長く耐えられるものではない。
ゆえにそれを迎撃しながら、俺は思わず内心で愚痴をこぼす。
(これじゃ、埒が明かないぞ!)
同じ事を繰り返している、という自身の現状に、強い危機感を覚えたからだ。
このままではおそらく、近い内に数の力で押し切られることだろう。
そうなる前に、何とか突破口を見出さなければならない。
そこでもう一度、俺は強引に『アングラー』へ突撃をかけようとしたのだが。
それを察知したのか、何機かの『ハウンド』が、道を塞ぐように目前をうろつき始めた。
こうなると当然、闇雲には突っ込めない。
こうも厳重に警戒されては、奴の自爆を受けずに突破する、ということがほぼ不可能だから。
俺の機体では、遠距離からの狙撃も無理だし、全く打つ手なしという雰囲気である。
ただそうしてあらゆる手立てを封じられ、すっかり進退窮まっていた俺の前に、次いで突如――
(……!)
横から白い影が割り込んできて、目にも留まらぬ勢いで『アングラー』に衝突、その巨体を大きく揺らがせる。
おかけで一時的だが、俺への攻撃がかなり緩くなった。
まさしく天の助け、とでも言わんばかりの華麗さで現れた、そいつの正体は――
(美山か!)
美山涼の搭乗機、D-1トルーパーである。
彼女は敵が俺に集中し、自分への警戒が薄くなった隙を狙って、横から突撃をかけたのだ。
実際『アングラー』の横っ腹には、深々とプラズマランスが突き立っているし、その目論見は成功したと言えるだろう。
しかもその攻撃には、さらに春日井も加勢する。
ダンスを踊るように敵機の周囲を飛び回り、次々と武装を潰しながら、奴の堅固な装甲を打ち砕いていったのだ。
どうやらあの二人、俺達に先んじて、すでに合流を果たしていたらしい。
それで苦戦するこちらを見かねて、救援に来てくれたのだろう。
その猛威に晒された『アングラー』は、もはやサンドバッグも同然、という悲惨な状態である。
そんな様子を見て、すかさず護衛機群の多くが、『アングラー』を守るためそちらへ移動した。
結果として敵が二手に分かれ、進路が大きく開いたので――
(好機!)
俺はその機を逃さず再び突撃、薄くなった包囲を無理やりに破って、『アングラー』の正面へと回り込む。
そしてそこで、気合いを込めた叫びを上げると――
「落ちろっ!」
今度は敵の脳天に当たる部分へ、大型ブレードを力強く突き立てた。
その心臓部まで届けとばかりに、刀身の根元まで深々と。
すると直後、『アングラー』の口吻部から、勢い良く爆風が噴出する。
またそれを皮切りに、機体各所で内部爆発が起こり、徐々にその巨躯が崩壊を始めた。
これならおそらく、もう戦闘継続は不可能だろう。
その惨状を見て、自陣営の不利を悟ったらしく、周囲の護衛機は瞬時に散開していく。
散り散りになりつつ、こちらから距離を取り始めたのだ。
倒せたわけではないが、とりあえず一時的に撃退できたらしい。
そうして生まれた余裕を活かし、俺がひと息ついていると、不意に美山から通信が入った。
『大丈夫? 二人とも』
心配そうなその呼びかけに対し、俺は素直に礼を述べる。
本当に助けられた、という実感があったから。
「ああ。助かった」
もっともその一方で、春日井と斉川は、呑気にいつものやり取りをしていた。
『あっ、斉川君も無事だったんだー。
さすがにしぶといねー。機体の方はボロボロだけど』
『……ああ、ほぼ無傷のお前とは違ってな。
まあそれも、一方的に敵をいたぶってたからだろうけど。
いやホント、良く性格が出てるよ』
『そうだねー、戦い方には性格が出るよねー。
斉川君はほら、橘君に攻撃が当たらないよう、必死で援護したもんねー。
それも人柄だよねー』
『……うるせえ……ほっとけ……』
まあこれはこれで、お互いのことを気づかっているのだろう……たぶん。
今は斉川の言葉に従い、しばし放っておくとしよう。
そう気持ちを切り替えてから、現状に意識を移したところで――
(これなら何とかなる、か……)
俺は今後の展開に対し、少なからず前向きな感想を抱く。
首尾良く味方と合流できた上、その際の戦いぶりが見事なものだったから。
これが続けられれば、必ず巻き返せる、という確かな手応えがあったのだ。
もちろん、まだまだ敵は残っているし、味方の被害もかなり大きいのだが。
しかし他に道があるわけでもなし、とにかく今は、勝利を掴むため踏ん張るのみである。
だがそうして、俺が戦いの行く末に希望を見出した直後――
『……くそっ! あいつは!』
相変わらず春日井にイジられていた斉川が、突如その会話を中断し、先の淡い期待を打ち砕く厄介な知らせを告げた。
『来たぞ! またあのコピー野郎だ!』




