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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-05 『Deadman』
58/173

Section-8

更新履歴 21/10/2 文章のレイアウト変更・表現の修正


 ハイエナの群れに襲われるライオン、とでも例えればいいのだろうか。


 眼前の光景には、どこかそんな印象があった。



 なぜなら共に戦っていた三人が、いずれも完全に包囲され、その状態で激しい攻撃を浴びせられていたから。

 ほぼ為す術ないままで、いいように翻弄されている、といった雰囲気だ。

 さっきまで狩る側の猛獣だったのに、これではどう見ても狩られる側の獲物である。


 そんな風に突如、味方が窮地に追い込まれた原因――それはおそらく、互いの距離が開きすぎてしまったせいだ。


 要は各自が勝手に行動した結果、その位置が広く分散し、そこを敵に突かれてしまったわけだ。

 連携を考えず戦った報いとして、各個撃破されそうになっている、というところだろうか。

 迂闊と言うか軽はずみと言うか、機械相手に不甲斐ない戦いぶりである。


 もっとも、かく言う俺だって、単独で突出していたのは事実なので――


(……こっちにも来たか!)


 当然周辺には、続々と敵機が集結し始めていた。

 それこそ群れからはぐれた獲物を、抜け目ない狩人達が狙う時のように。


 このままだと俺も、連中に取り囲まれ、味方と分断されることになるはずだ。

 ただでさえ数が少ないというのに、それでは間違いなくなぶり殺しである。

 とにかくいったん、皆と合流するより他はない。


 そう目的を定めた俺は、再び味方の状況を確認する。

 そして最も近い距離にいるのが、斉川だということを把握してから、すかさずそちらへと向かった。


 ちなみに現在斉川は、複数の『ゴーレム』とその護衛機に囲まれ、間断なく攻撃を受けている最中である。

 正面以外の防御は薄い機体なので、かなり苦戦を強いられている様子だ。

 一刻も早く駆けつけ、救援に入らねば危険だろう。


 ゆえに早速、俺は斉川を囲む『ゴーレム』の内、自分に近い一機へ突進する。

 そいつに狙いを定め、後方から奇襲をかけるようとしたのだ。


 一応敵も、そんな俺に気づき、迎撃を行おうとしたものの――


「遅いっ!」


 俺はその妨害のため、大型ブレードを構えつつ、一気に敵へ肉薄した。

 さらに十分接近したところで、反撃が来るよりも早く、それを勢い良く横薙ぎに一閃する。


 結果その『ゴーレム』は、俺の一撃で綺麗に胴体を両断され、直後に大爆発を起こして崩壊した。

 砕けた自身の残骸を、周囲に乱雑にばら撒きながら。

 同時に護衛の小物も散開したし、とりあえずは一段落というところだ。


 その様子を向こうからも見て取ったのか、すかさず斉川が通信を入れてくる。


『橘か!』


 俺はそれに応じつつ、彼の状態を確かめた。


「まだやれるか?」


 すると斉川は、一応肯定の言葉を返してきたのだが――


『まあ……何とかな』


 しかしこちらから見た限りでは、かなりの被弾が確認できる。

 やはり側面や後方からの攻撃に、十分な対応ができなかったらしい。

 鈍重な機体で単独行動していれば、まあ無理もない話なのだが。


 そうしてはっきり、連携せずに戦うことの欠点を見せつけられると――


(……志藤がいればな)


 戦闘に指揮は必要なんだ、と改めて痛感せざるを得なかった。

 皆が実力を発揮するためには、誰かが戦場を俯瞰し、うまく連携を取るよう促さねばならぬのだ。


 そこでいったん、現時点で最もその見込みがありそうな相手――斉川にそれを提案してみる。


「斉川。このまま無闇に戦ってても、各個撃破されるだけだ。

 お前、部隊の指揮はできないのか?」


 しかし彼からの返答は、至極もっともなものでしかなかった。


『無茶言うな。自分が戦いながら他の連中の面倒まで見れるか。

 俺の機体は、そういうの専門じゃないんだよ』


 確かに、自分も戦いながら味方を指揮する、というのはかなり難しい。

 全く異なる作業を、ほぼ同時に行わねばならぬからだ。

 将棋を指しながら野球の試合に出場する、とでも例えればわかりやすいか。


 それを志藤は、搭乗機であるコマンダーの機能を活用し、巧みに実行していた。

 そういうオプション装備が無い自分の機体では不可能、と斉川は言いたいのだろう。

 結局、彼女がいなければどうにもならない、ということらしい。


 となればここで、いつまでも無いものねだりをしていてもしょうがない。

 事態を打開するため、今はとにかく行動あるのみ、というわけだ。


 ゆえにとりあえず、俺は斉川に雑な指示を出してから――


『いったん残りの二人と合流するぞ!』


 レーダーに目をやり、その二人の位置を確認しようとする。

 不利な戦況に対し、胸の内でますます焦りが募っていくのを感じながら。


 しかもそうして、徐々に追い込まれていく俺達の前へ、次いでたいへん厄介な敵が立ちはだかった。


(……! くそっ、こんな時に!)


 一機の『アングラー』と、それを護衛する小型機の群れだ。

 その規模は相当なものであり、また敵の種類も多種多様なため、ほぼオールスターと言えそうな編成である。

 どう考えても、二人だけで戦うような相手ではない。


 さらに間の悪いことに、奴は俺達の位置から見て、美山や春日井がいるのと同じ方向に陣取っている。

 連中を突破しなければ、合流は不可能だと言っていい。

 例え迂回しても、他の敵に囲まれるだろうし、ここは割り切って攻めるしかないようだ。


 そう状況を把握した俺は、即座に覚悟を決め――


(やるしかない……!)


 斉川に自身の支援を要請した後、間を置かず敵軍へ突っ込んでいった。


「斉川! 俺が奴に突っ込む! 援護してくれ!」


 目標はもちろん、奴らの中核戦力たる『アングラー』だ。

 あいつさえ片付ければ敵は撤退する、と踏んで最優先に狙ったのである。


 すると『アングラー』が、そんな俺の動きに反応して、すぐさま迎撃態勢に入る。

 大量のミサイルを、嵐のように撃ち放ってきたのだ。

 無論このまま進めば、ただの飛んで火に入る夏の虫でしかない。


 それを危惧したのか、すかさず斉川が反撃に移り――


『このっ!』


 搭載火器を総動員して、迫り来るミサイルの嵐を迎撃し始めた。

 俺に当たらぬよう、巧みにその射線をずらしながら。


 一応そのおかげで、かなり数は減少したものの、やはり全ては落としきれていない。

 そこでやむなく、俺も前進を止め、機関砲でミサイルの迎撃を行う。


 そうして何とか、ミサイルの方には対処できたものの――


(……鬱陶しいな!)


 そいつにかまけていたせいで、他の護衛機群に取り囲まれてしまった。

 こちらがミサイルの処理に追われている隙に、こっそり前進してきていたのだ。

 当然こいつらを倒さねば、『アングラー』へ到達することはできない。


 ただ俺の機体では、その特性上、こういった連中への迅速な対処は難しい。

 ここで悠長に戦い、足止めを食らっていたら、きっと瞬く間に追い込まれてしまうことだろう。


 ならばと俺は、躊躇うことなく即断し――


(やるしかない……仕掛ける!)


 周りを囲む敵に構わず、まっすぐ『アングラー』へ突進する。

 行く手に立ち塞がった相手のみ、最低限の動きで排除しながら。

 リスク覚悟で、強引に突破を図ったわけだ。


 するとそんな俺を、敵もすかさず迎撃してきた。

 『ビッグアイ』が赤い光線を、『サンフラワー』が小型のミサイルを、『バグ』達もそれぞれの武装を発射し、こちらへ雨あられと浴びせかけてきたのだ。

 それはかなり濃密な弾幕であり、到底避けきれるものではない。


 だが俺は、それを当たるに任せて放置し、そのまま一直線に進んでいく。

 あえて攻撃を避けず、『アングラー』への接近を試みたのである。

 致命傷になるもの以外は全て無視する、と事前に決めていたから。


 おかげで何とか、多数の損傷を受けながらも包囲を突破し、無事に目標へ肉薄することができた。

 そこで満を持して、手に持つ大型ブレードを振りかぶると――


「くらえっ!」


 瞬時にそれを一閃、『アングラー』の側面、横っ腹に当たる部分へ叩きつけた。

 大木を切り倒さんとする木こりが、渾身の力を込めて斧を振り下ろす時のように。


 結果その攻撃は、敵の胴体に直撃し、大きく装甲を抉り取る。

 同時に付近のミサイルポッドを、片っ端から叩き潰しながら。

 これで少しは、迎撃用の火力が低下するはずだ。


 しかしもちろん、致命傷には遠く及ばない。

 まだまだ追撃が必要、というわけである。


 ただその目論見に従い、俺が再度武器を振り上げたところで、予想外の事態が発生した。


(……まずい!)


 突如として頭上から、高速で一機の『ハウンド』が突っ込んできたのだ。

 このままこいつの接触を許せば、その自爆攻撃の餌食となり、機体が深刻なダメージを受けてしまう。


 無論この距離であれば、『アングラー』にもダメージは発生するはずだが。

 しかし敵の行動には、それを恐れる素振りが一切見受けられない。

 背に腹はかえられぬ、ということらしい。


 そこでやむなく、俺は『アングラー』から離脱すると、『ハウンド』を機関砲で狙い撃つ。

 これ以上の接近を許さぬよう、全速力で後退しながら。


 その甲斐あって、無事に『ハウンド』の方は撃墜できたし、また一定の距離を取れていたおかけで、爆発の被害も最小限に抑えられたのだが。

 しかしそれにより、『アングラー』からは少し離れてしまったので――


(くそっ! またかよ!)


 周囲の護衛機群と『アングラー』に、再び集中砲火を受けることになった。

 先ほどと全く同じ、猛烈な同時攻撃である。

 多少『アングラー』の火力を削ったとは言え、こんなの長く耐えられるものではない。


 ゆえにそれを迎撃しながら、俺は思わず内心で愚痴をこぼす。


(これじゃ、埒が明かないぞ!)


 同じ事を繰り返している、という自身の現状に、強い危機感を覚えたからだ。

 このままではおそらく、近い内に数の力で押し切られることだろう。

 そうなる前に、何とか突破口を見出さなければならない。


 そこでもう一度、俺は強引に『アングラー』へ突撃をかけようとしたのだが。

 それを察知したのか、何機かの『ハウンド』が、道を塞ぐように目前をうろつき始めた。


 こうなると当然、闇雲には突っ込めない。

 こうも厳重に警戒されては、奴の自爆を受けずに突破する、ということがほぼ不可能だから。

 俺の機体では、遠距離からの狙撃も無理だし、全く打つ手なしという雰囲気である。


 ただそうしてあらゆる手立てを封じられ、すっかり進退窮まっていた俺の前に、次いで突如――


(……!)


 横から白い影が割り込んできて、目にも留まらぬ勢いで『アングラー』に衝突、その巨体を大きく揺らがせる。

 おかけで一時的だが、俺への攻撃がかなり緩くなった。


 まさしく天の助け、とでも言わんばかりの華麗さで現れた、そいつの正体は――


(美山か!)


 美山涼の搭乗機、D-1トルーパーである。

 彼女は敵が俺に集中し、自分への警戒が薄くなった隙を狙って、横から突撃をかけたのだ。

 実際『アングラー』の横っ腹には、深々とプラズマランスが突き立っているし、その目論見は成功したと言えるだろう。


 しかもその攻撃には、さらに春日井も加勢する。

 ダンスを踊るように敵機の周囲を飛び回り、次々と武装を潰しながら、奴の堅固な装甲を打ち砕いていったのだ。


 どうやらあの二人、俺達に先んじて、すでに合流を果たしていたらしい。

 それで苦戦するこちらを見かねて、救援に来てくれたのだろう。

 その猛威に晒された『アングラー』は、もはやサンドバッグも同然、という悲惨な状態である。


 そんな様子を見て、すかさず護衛機群の多くが、『アングラー』を守るためそちらへ移動した。

 結果として敵が二手に分かれ、進路が大きく開いたので――


(好機!)


 俺はその機を逃さず再び突撃、薄くなった包囲を無理やりに破って、『アングラー』の正面へと回り込む。

 そしてそこで、気合いを込めた叫びを上げると――


「落ちろっ!」


 今度は敵の脳天に当たる部分へ、大型ブレードを力強く突き立てた。

 その心臓部まで届けとばかりに、刀身の根元まで深々と。


 すると直後、『アングラー』の口吻部から、勢い良く爆風が噴出する。

 またそれを皮切りに、機体各所で内部爆発が起こり、徐々にその巨躯が崩壊を始めた。

 これならおそらく、もう戦闘継続は不可能だろう。


 その惨状を見て、自陣営の不利を悟ったらしく、周囲の護衛機は瞬時に散開していく。

 散り散りになりつつ、こちらから距離を取り始めたのだ。

 倒せたわけではないが、とりあえず一時的に撃退できたらしい。


 そうして生まれた余裕を活かし、俺がひと息ついていると、不意に美山から通信が入った。


『大丈夫? 二人とも』


 心配そうなその呼びかけに対し、俺は素直に礼を述べる。

 本当に助けられた、という実感があったから。


「ああ。助かった」


 もっともその一方で、春日井と斉川は、呑気にいつものやり取りをしていた。


『あっ、斉川君も無事だったんだー。

 さすがにしぶといねー。機体の方はボロボロだけど』


『……ああ、ほぼ無傷のお前とは違ってな。

 まあそれも、一方的に敵をいたぶってたからだろうけど。

 いやホント、良く性格が出てるよ』


『そうだねー、戦い方には性格が出るよねー。

 斉川君はほら、橘君に攻撃が当たらないよう、必死で援護したもんねー。

 それも人柄だよねー』


『……うるせえ……ほっとけ……』


 まあこれはこれで、お互いのことを気づかっているのだろう……たぶん。

 今は斉川の言葉に従い、しばし放っておくとしよう。


 そう気持ちを切り替えてから、現状に意識を移したところで――


(これなら何とかなる、か……)


 俺は今後の展開に対し、少なからず前向きな感想を抱く。

 首尾良く味方と合流できた上、その際の戦いぶりが見事なものだったから。

 これが続けられれば、必ず巻き返せる、という確かな手応えがあったのだ。


 もちろん、まだまだ敵は残っているし、味方の被害もかなり大きいのだが。

 しかし他に道があるわけでもなし、とにかく今は、勝利を掴むため踏ん張るのみである。


 だがそうして、俺が戦いの行く末に希望を見出した直後――


『……くそっ! あいつは!』


 相変わらず春日井にイジられていた斉川が、突如その会話を中断し、先の淡い期待を打ち砕く厄介な知らせを告げた。



『来たぞ! またあのコピー野郎だ!』








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