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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-05 『Deadman』
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Section-5

更新履歴 21/9/29 文章のレイアウト変更・表現の修正


「……マジで言ってんのかよ、お前ら」



 そう声をかけてきたのは、教室と廊下の境目に立って、こちらへ厳しい眼差しを向ける人物――先ほど見張りを買って出て、会議には参加していなかった柳井満である。


 その彼が、突然教室の外から舞い戻り、終わりかけの議論に苦言を呈してきたのだ。

 俺としては無論、驚きから言葉を失うしかない。


 そこへさらに、柳井は辛辣な批判を浴びせてくる。


「何がクーデターだよ……無謀すぎる。

 普通に失敗して普通に殺されるだけだろ、そんなの。

 本当にやる気なのか……?」


 するとそれに反応して、いち早く状況に適応したらしい斉川が、短く答えを返した。


「ああ、本気だ」


 そしてひどく苛立った様子で、その返答に応じる柳井へ――


「だから……殺されるだけだろ?

 何でそんなに自信たっぷりなんだよ」


 何を今さら、とでも言いたげな表情で、冷たい言葉を投げかける。


「お前だって話は聞いてたはずだ。

 戦力はこっちが上だし、母艦の外なら機体の遠隔操作もできない。

 十分に勝ち目はあるんだよ。

 いったい何が不満なんだ?」


 ただ柳井も、そんな斉川に冷たく対応し――


「……ただの推測だ。確実な話じゃない」


 次いで意外にも、たいへん鋭い指摘を放ってきた。


「それに向こうだって、クーデターに対策をしてるかもしれない。

 誰かが反乱を起こした瞬間、ボタンひとつでその反逆者を殺せる、みたいなシステムを作っておくとか。

 普通に考えれば、そういうものがあったっておかしくはないだろ? 

 お前はそいつに、どう対処する気なんだ?」


 結果として斉川が、痛いところを突かれた、という表情で黙り込む。

 柳井の意見に、決して否定できないものがある、と感じたからだろう。


 実際よくよく考えてみれば、それは至極当然の発想である。

 だって倉田は、俺達の意志をねじ曲げて、無理やりに従わせているのだ。

 反乱の発生を危惧し、何らかの対策を用意している見込みは極めて大きい。


 となるとこのまま行動を起こしても、その対策によってあっさり鎮圧、ということになるかもしれない。

 迂闊に反乱などできぬ、というわけだ。

 そう俺と同様の懸念を抱いたのか、皆も総じて不安そうな表情である。


 そんな風に周りの空気が、自分にとって悪い方へ流れるのを感じ取ったのだろう。

 次いで斉川が、それに抗うように、強気で柳井を責め始めた。


「……じゃあどうするんだよ。このままあいつに従うのか?

 その命令を聞いて、終わりの見えない戦争を続けるのか?」


 それを柳井は、ひどく苦い顔になりながら、何とも自信なさげな口調でかわそうとする。


「……仕方ないだろ。それしか生き延びる手段が無いんだから」


 そこへ斉川は、ここぞとばかりに強い非難を浴びせかけた。


「それこそ不確実な話だ!

 あいつの言う通りにしてたら生き延びられる、なんて保証はどこにも無いだろうが!

 お前はそんな甘い見通しで行動してんのか!」


 すると柳井もまた、感情を高ぶらせて反論――


「そんなのお互い様だろうがよ!

 お前だって甘い考えしてたじゃないか!

 自分だけ根拠あるみたいな顔するなっ!」


 結果二人のやり取りは、『売り言葉に買い言葉』と呼ぶに相応しい、激しい言い争いに変貌する。


「お前の話よりはマシだ!

 お前はあんな奴の、あんな適当な話を信じてんのかよ!」


「それなりに筋は通ってる!

 事実だって含まれてるはずだ!」


「ああそうさ! 筋の通った嘘なんだよ!

 俺達を体よく戦わせるためのな!

 要は使い捨ての手駒ってことだ! わかるだろうがそのくらい!」


「だとしても希望はゼロじゃない!

 反乱起こしてすぐ殺されるよりはずっとマシだ!

 利用されていようといまいと、このまま戦い続けた方がいい!」


 ただその最後の一言に、強い引っ掛かりを覚えたようで――


「このまま、戦い続ける……?」


 斉川はさらに激高し、もはや手加減はせぬとばかりに、柳井の弱点を的確に指摘した。


「お前は! お前は戦ってないだろうが!

 安全な場所にいただけだろうが!

 自分も参加してました、みたいに言ってんなよ!」


 そしてそのまま、徹底的にそこを抉っていく。


「だいたいお前、ちゃんとこれからのこと考えて、そういうこと言ってんのか?

 本当は怖いから、俺の計画を否定してるだけじゃないのか?


 そうだよな、クーデターを起こすとなったら、また命懸けで戦わなくちゃならないからな!

 怯えて何もできないチキン野郎には大問題だ!

 だからお前は俺を非難してる!

 自分の安全を守るために行動してるだけなんだ! 違うか!」


 その斉川の言動は、かなり挑発的な上に暴力的であり、本来ならあまり好感の持てぬものだったが――


(……まあ、わからなくはない)


 正直、賛同できる部分も多かった。

 怖じ気づいて逃げたくせに、何を偉そうなこと言ってんだ、という不満は確かにあるのだ。

 みみっちい話だとは思うが、まあ人間として自然な感覚であろう。


 実際本人にも、自分は逃げた側なのだという自覚があったのか。

 柳井は斉川の言葉に、完全に気圧された様子で黙り込んでいた。

 表情も非常に暗く、ほとんど生気というものが感じられない。


 そんな彼の、いつになく弱々しい姿には、さすがに少し罪悪感を覚えてしまう。

 別にこいつとて、悪気があったわけではないのだし、これ以上責めるのは酷だろう。

 ここらで軽く、フォローを入れておくとしようか。


 そこで俺は、すかさず二人の話に割り込み、興奮状態の斉川を諫める。


「おい、斉川。気持ちはわかるが、ちょっと言い過ぎだぞ。

 もうその辺にしておけ」


 すると彼は、存外あっさりと矛を収めた。


「……フン」


 軽く鼻を鳴らすだけで、すぐ柳井への糾弾を取り止めたのだ。

 どうやら彼としても、思わず腹を立ててしまっただけで、別段強く責めるつもりはなかったらしい。

 命懸けの戦いを強要はできない、としっかり認識しているからだろう。


 斉川のその反応に安堵した俺は、すぐ落ち込む柳井に対し、フォローと詫びを兼ねて声をかけようとしたのだが。


 しかしその直前で、幽霊のような顔色のまま、柳井が唐突に発言を開始――


「……それは、お前も同じだろ?」


 必死の形相で、今までのお返しとばかりに、斉川へ痛烈な反撃を叩き込んだ。


「お前だって、自分の都合で行動してるだけだろうがよ!

 お前本当は、倉田への対抗心で動いてるだけなんだろ!」


 すると斉川が、虚を突かれた風に目を見開く。

 思いも寄らぬ指摘を受け、大きく動揺している、と言った雰囲気である。


 それを見た柳井は、一気に生気を取り戻して、批判の勢いを加速させ――


「やっぱりそうか……おかしいと思ってたんだよ。

 さてはお前――」


 そのまま突如、思いもかけない疑惑を口にした。


「元々、倉田と知り合いだったな! ここに来る前から!

 違うか!」


 そしてその発言により、驚き戸惑う皆を置き去りに――


「ずっと気になってたんだ……お前の倉田に対する態度が、普通じゃないって。

 やたら反発したり、ことある毎に突っかかったり、はっきりと怒り狂って暴れたりな。

 らしくないな、って感じてたんだよ」


 一方的に、自らの主張をまくし立てると――


「ただそれも、元から知り合い、ってことになれば話は別だ。

 ひょっとしてお前、倉田に何か恨みでもあるんじゃないのか?

 そのせいであんなにも、感情的になってたんじゃないのか?

 そして、だからこそ――」


 その最後に、致命的な推測と、激しい糾弾を叩きつける。


「だからこそあいつに対して、クーデターを起こそうと思ったんじゃないのか?

 そういう自分勝手な理由で、みんなを巻き込もうとしてたんじゃないのか?


 ……違うか? 違うなら、そうと言ってみろ!

 俺は倉田と知り合いなんかじゃないって、はっきり言ってみろ!

 言ってみろよっ!」


 それに対して、非難された側の斉川は――


「…………」


 柳井を見つめたまま、顔を固く強張らせ、反論ひとつせずに沈黙するのみだった。


 彼のそんな態度は、柳井の指摘が真実だということを、この上なくはっきりと示している。

 どうやらこいつ、本当に倉田と知り合いだったらしい。


 まあ一応俺の方も、以前斉川に対し、似たような疑惑を抱いたことはあるのだが。

 しかしそれが事実とわかれば、やはり心からの驚きを禁じ得ない。

 詳しい事情は不明だが、重大な暴露であることだけは確かだろう。

 

 そうして判明した事情と、それに対する斉川の振る舞いが、よほど腹に据えかねたのだろう。

 柳井はそこで、さらに批判の調子をエスカレートさせ――


「ふざけるな……ふざけるなよお前!」


 もはや我慢しきれぬ、と言った風に、力の限り斉川のことを糾弾した。


「そんなくだらない動機で、クーデターなんか起こそうとするな!

 そんなつまらない理由で、俺達の運命を決めようとするな!

 そんな希望の無い道に、俺達を引きずり込もうとするな!

 俺はそんなの、絶対に、何があっても認めないからなっ!」


 直後、辺りには完全な静寂が訪れる。

 誰ひとり発言をせず、またわずかに身じろぎすることさえない――そんな凍りついた空気が、場を支配し始めたのである。


 ただまあ、それも当然のことだろう。

 柳井は言いたいことを言い切り、逆に斉川はそれに抗議できぬ状態なのだから。

 議論なんて、どうしたって続けようがない。


 加えて周りの皆も、その壮絶な争いを見せつけられた上、掴みかけの希望まで剥ぎ取られたのだ。

 それでは混乱と動揺から、揃って言葉を失ったとしても無理はない。

 さてこの状況、いったいどうしたものだろうか……


 などと俺は、事態の打開策を見出せず、独り難儀していたのだが――


(……!)


 そこで不意に、決して、決して起きてはならないことが起こった。

 その重苦しい空気を切り裂いて、ひどく聞き覚えのある楽しそうな声が、教室中に響き渡ったのだ。



「いやあ、盛り上がってるね」








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