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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-05 『Deadman』
51/173

Section-3

更新履歴 21/9/29 文章のレイアウト変更・表現の修正


「おや……二人揃ってどうしたのかな?

 先生に何か質問かい?」



 教室と同様に古く寂れた、この学校の狭い職員室。

 そこに挨拶もなく足を踏み入れた俺達へ、倉田は自身の席から、そう気安く声をかけてきた。

 常日頃緩んでばかりのその顔に、今は底の知れない不敵な笑みを浮かべながら。


 おまけに奴の佇まいは、以前と大きく様変わりしている。

 背筋がまっすぐに伸び、声も明朗で良く通っていたのだ。

 きっと今までは、生徒達を騙すため、自身の本性を隠していたのだろう。


 そんな教師とは名ばかりの相手を、俺達がわざわざ訪ねてきた理由――それはもちろん、こいつから有益な情報を引き出すためだ。

 何とか言いくるめて、事態打開のヒントを掴んでやろう、みたいな計画である。


 もっとも倉田の言葉通り、ここへ来たのは俺と斉川の二人のみだ。

 春日井が別に調べたいことがある、とかで同行せず、美山も望月が心配だ、とかで教室に戻ってしまったから。


 おまけに口下手な俺が、敵との交渉で役立つとも思えぬので、実質こちらの戦力は斉川一人である。

 まあ数が多くてどうなるものでもなし、とにかく今はこいつに期待するとしよう。

 そう現状を振り返ってから、俺は斉川と二人、呼びかけてきた倉田の方へ向かう。


 そして他には誰もいない部屋を横切り、奴の席の側まで歩み寄ると、そこで斉川が倉田の質問に答えた。


「ええ……ちょっと教えて欲しいことがあるんですけどね。

 いいですか、先生」


 まあ最後の『先生』のところを、思い切り嫌みったらしく強調しながらだが。

 またずいぶんと、喧嘩腰な態度である。


 確かこいつは、先ほどここに来る前、『すぐ敵対するつもりはない、今は従っておくのが上策だからな』……なんて言っていたのにである。

 やはり直に接すると、少なからず冷静さを失ってしまうらしい。


 ただそんな斉川の挑発にも、倉田は決して動揺しない。

 真っ向から堂々と、余裕たっぷりに言葉を返してくる。


「もちろん。生徒の疑問に答えるのは教師の義務だからね。

 何でも教えよう。何かな?」


 斉川はその反撃に煽られて、みるみる不機嫌な表情になっていったものの、すぐ何事も無かったかのように質問を始めた。

 きっと今はそんな場合ではない、と気付いたからだろう。


「具体的に今、戦況はどうなってるんですかね。

 いやまあ、負けてるってのは把握済みなんですが。

 例の作戦……地球外への脱出計画でしたか?

 それの進捗具合、ってやつが知りたいんですよ」


 そして警戒ゆえか、答えをはぐらかそうとする倉田に対し――


「ふむ……そんな事を聞いて、どうするのかな?

 今の君達には、あまり必要の無い情報だと思うけど」


 ゴシップ誌の記者のように、理屈をこねて切り込んでいく。


「いやいや先生、俺達にだってそれを知る権利くらいはあるでしょう?

 なんせほら、そのために命懸けで戦ってるんですから。

 モチベーションってやつにも関わってきますし、教えてくれたっていいと思いますよ」


 その彼の粘りには、倉田も少々考える素振りを見せていたのだが。

 結局は変わらず、今まで通りに秘密主義を貫くだけだった。


「……計画通り、とだけ言っておくよ。

 詳しくは作戦上の機密だからね。

 そう簡単に教えられるものではないかな」


 それでも斉川は、少しでも情報を得ようと、諦め悪く食い下がる。


「その作戦とやらはどのくらい続くんです?

 俺らは具体的に、いつまで戦えばいいんですかね?」


 しかしそれさえも、あっさりはぐらかされてしまったせいか――


「それは私にも知らされていないんだ。最重要機密だからね。

 期待に応えられなくて申し訳ない」


 最終的に、皮肉をぶつけるしかなくなった。


「……ぐだぐだ言ってないで命令通り動け、ってことですかい。

 何だか俺達、本物のロボットみたいですねえ」


 もっともその一撃にすら、倉田は無言で微笑むばかりである。

 否定なのか肯定なのか、どちらとも取れぬ薄気味悪い表情だ。

 これには斉川も、さぞかし苛ついていることだろう。


 そんな二人の噛み合わぬやり取りは、その後もしばらく続いていく。


「じゃあ、次の戦いはいつ頃になるんです?

 相手はどのくらいの規模?」


「それは相手次第だね。

 私達はほら、攻められる側の立場だから。

 事前に予測するのは不可能だよ」


「なら援軍とか、補充人員とかはないんですか?

 この部隊には、何人か犠牲者が出たんですよね?

 それは補わないとまずいでしょう?」


 ただそこに犠牲者の話が出た瞬間、ほんのわずかにではあるが、倉田の態度にブレが生じた。

 突如、口調がひどく事務的なものに変わったのだ。


「……そういう予定は無いよ。

 司令部は、現有戦力で十分だと判断している」


 その短い受け答えに、俺は強い疑問を抱く。

 『現有戦力で十分』という解答が、ずいぶんと不可解に思えたから。


 だって現状、想定される犠牲者は三名――『選ばれていない機体』が三機あることから、そう推測することが可能――にも及んでいるのだ。

 記憶が消失しているせいで、確証こそ無いものの、それが事実である見込みは極めて大きい。


 そして生き残りは総勢九名だから、犠牲者は全体の四分の一相当である。

 戦力が二十五パーセントダウンした、と言い換えてもいい。

 それだけの被害が出ているのに、補充する気が無いなんて、いったいどういうつもりなのだろう……


 ただその疑問点に、斉川の方は引っかかりを覚えなかったのか。

 次いで彼は、さっさと話題を転換し――


「……なら今度は、その後のことだ」


 続けて、この戦いを生き抜いた後のこと――つまりは俺達の行く末についての話を始める。


「もしこのまま勝ち続けて、無事に最後まで生き残れたら、の話ですけど。

 その時はみんなで、例の月面都市とやらへ向かうんですよね?

 宇宙船でこの地球を脱して、別の安全な星へ移住するために。


 でも俺達はまだ、具体的な話は何も聞かされてない。

 そこに自分達の席はあるのか、それすらわからないんですよ。

 実際に行ってみたら、定員オーバーで乗れませんでした、なんてことはありませんよね?」


 すると倉田は、即座に口調を戻して、迷わず斉川の問いを肯定した。


「ああ、もちろん。ちゃんと君達にも同行してもらうよ。

 移民の際に使う宇宙船の収容人数には、まだまだ十分余裕があるからね。

 そこは安心してくれていい」


 もっともその主張に、どこまで信頼を置けるのかはわからない。

 正直に言えば、見え透いたごまかしという印象なのである。

 ここまで散々騙されてきた上、手酷い扱いを受けてもいるのだ、素直に信じられぬのは当然のことだろう。


 そういう感想を抱いたのは、斉川の方も同じだったらしい。

 彼はすかさずそれに反応し、倉田の回答に対して、少し突っ込んだ質問を放つ。

 何かボロを出すかも、と期待してのことかもしれない。


「ちなみに移住先はどこなんです?

 他の惑星って言ったって、色々あるでしょう?

 ほら、宇宙は広いんですから」


 ただやはり、それもすんなり煙に巻かれてしまったので――


「それも機密だね。ま、知らされたところで何かできるわけではないけど。

 なんせほら、遠い遠い宇宙の果ての話だから」


 斉川は厳しい表情のまま、じっと黙り込んでしまった。

 揺さぶるネタを出し尽くしたので、次なる一手を考えています、というところか。


 しかしそんな彼の隙を突き、倉田は手早く話を切り上げようとする。


「もういいかな? 私もこう見えて忙しくてね」


 それに斉川は、嫌味たっぷりに切り返したのだが――


「へえ……授業の準備でもしてるんですかい?」


 たいへん残念なことに、すぐ強烈なカウンターを食らう羽目になった。


「いやいや、君らの尻拭いだよ。

 壊した機体の修理とか、弾薬やエネルギーの補給とかね。

 そういうのも必要だろう? これはゲームじゃないんだからさ。

 だから無駄な時間を取るのは、お互いのためにならないと思うんだ」


 その挑発めいた言動を受けて、斉川の表情が強い怒りを帯びる。

 今にも殴りかかりそう、と表現するに相応しい雰囲気だった。

 実際前科もあることだし、ここはいったん止めておくとしよう。


 ゆえに慌てて、俺は少し強めの口調で、その二人の会話に介入し――


「わかりました。じゃあ、俺達はこれで失礼します。

 おい、行くぞ」


 斉川の暴走を戒めた後、迷わず踵を返して、足早に職員室の入り口へと向かう。

 この辺でやめておけ、という意志を、自らの行動で伝えるかのように。


 あいつはそんな俺の対応に、かなり不満そうな様子ではあったが。

 別段反論などはせず、意外と素直にその後へ続いた。

 ゆえにそのまま、俺は無言で職員室を退出し、足を止めずに移動を開始する。


 その目的地は当然、クラスメイト達が待ついつもの教室だ。

 話し合いの結果を総括しつつ、色々仕切り直すためには、おそらくそれが最善だからである。


 ただそう決めて、しばし廊下を進んだところで――


「くそったれめ……ぬけぬけとふざけたことを言いやがって。

 何が尻拭いだあの野郎……!」


 急に斉川が、怒りを存分に塗り込めた声音で、倉田を激しく罵倒し始めた。

 このまま放っておくと、いずれその辺の壁を蹴り飛ばしてぶち抜くのでは、と危惧してしまうような荒れっぷりだ。


 俺はそんな彼に、一応釘を刺しておく。

 唯一の交渉役であるこいつが、こうも冷静さを失っていてはまずい、と思ったから。


「こらえろよ。

 今は従っておくのが上策、って言ったのはお前だろう?」


 そういう自覚は、本人にもあったのだろう。

 斉川は憤懣やるかたない、という口調ながらも、渋々俺の忠告を受け入れた。


「わかってるよ……」


 そのやたら感情的な反応に対し、俺は少なからず不審な印象を抱く。


(なんか、ずいぶんこだわるよな……)


 こいつは倉田に対して、不自然なくらい強い反感があるよな、と。

 彼の振る舞いを見ていて、そういう疑惑のようなものが芽生えてきたのだ。


 もちろん現在の状況と、倉田がそこで果たしている役割、及び奴の挑発的な振る舞いを鑑みればだ。

 まったくもって当然の反応、とも言えるわけだが。


 それでも斉川が倉田に向ける、様々な感情の激しさには、どこかしら違和感が拭えなかった。

 ひょっとしてこいつ、あの男のことが個人的に嫌いだったりするのだろうか。


 そう色々と考えを巡らしつつ、歩き慣れた廊下を進んでいった俺は、やがて何事もなく教室に到着する。

 さらにそのまま、そこのドアを開き、中へと足を踏み入れた。


 すると、ほとんど間を置かずに――


「あっ、ミッキー!」

「橘君! 斉川君!」


 そんな俺達を見つけたらしい、栗原と朝倉が、声を上げつつ駆け寄ってくる。

 いかにも帰参を待ちわびていました、という様子だ。


 実際その印象通りに、次いで朝倉が、勢い込んで斉川に事情を聞き始める。


「どうだったの? 倉田先生は何か言ってた?」


 斉川はそれに、すっかり落ち着きを取り戻した口調で答えていった。


「収穫は……まあ、可も無し不可も無しだな。

 すごく有益だった、ってわけじゃない。

 ただとりあえず、最低限の情報は集まったよ」


 そのやり取りを聞きつつ、俺は何気なく教室を見渡して、クラスメイト達の様子を確かめていたのだが。

 そこでふと、ひとつ異変が起きていることに気づいたので、すかさずそれについて栗原に問いかける。


「……志藤は?」


 そう、現在この教室の中には、志藤明の姿がどこにも見当たらないのだ。

 いるのは今しがた集まった四人と、何事か話し込む美山と望月、それからこちらへ視線を向けもせぬ柳井だけである。

 調べ物中らしい春日井はともかく、いったい彼女、こんな状況でどこへ行ったというのだろう。


 栗原はその俺の問いに、やはり不安げな様子で答えた。


「なんか、気分が良くないんだって……今は保健室にいるよ」


 それを聞いて俺は、だいたいの事情を察する。


(……無理もない、か)


 だってもし例の仮説が正しいのなら、あいつはつい最近、親しい友人を失ったことになる。

 その精神的な負担から、重い体調不良に陥ったとしても、何ら不思議は無いだろう。

 ここは彼女に頼らず、残った人間だけで何とかするべき、というわけである。


 そんな俺の考えを見透かした……わけではないのだろうが。

 そこで斉川が、少し声を張って話を再開、これからについての提案を行った。


「さて、少し人数は足りないが……ここらで作戦会議といくか」


 朝倉はそんな彼へ、意図がさっぱり掴めない、という表情で質問をする。


「会議って……何の?」


 それに斉川は、軽く反応してから――


「何って……」


 突如、底意地の悪そうな笑みを浮かべ、それに相応しい物騒な単語を口にした。



「クーデターのに決まってるだろ?」








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