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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-05 『Deadman』
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Section-1

更新履歴 21/9/29 文章のレイアウト変更・表現の修正


「捉えたっ!」



 そう確信を持って咆哮しながら、俺は手に持った武器――全長が機体と同程度もある、超大型のプラズマブレード――を振りかぶる。

 そしてそれを、目前の『サンフラワー』に向け、力強く一閃した。


 その一撃により、敵は機体を真っ二つに分割され、溶融した切断面を露出する。

 さらに間を置かず、そこから大きな爆発を起こし、細かな硬質の塵芥と化していった。

 ほとんど苦もなく一機撃墜、というわけだ。


 ただし俺は、決してその余韻に浸ることなく――


(次っ!)


 瞬時に自分の周りを見渡し、まだ見ぬ敵の姿を探す。

 一匹仕留めたくらいでは飽き足らず、次の獲物を追い求める狼のように。


 結果として俺の目が捉えたのは、小さな星々がきらめく宇宙空間と、そこにひしめき合う無数の機械の群れだった。

 人類に滅びをもたらさんとする、心を持たぬ地獄の使者どもの姿が、あちらこちらに見えたわけだ。


 あれは前回の激闘の後、撤退中に遭遇した、小規模な敵の偵察部隊だ。

 要は逃げている途中で、偶然別の敵に見つかってしまったのである。


 ゆえに今は、押し寄せるそいつらを相手に、こうして激しい戦いを繰り広げている。

 『あの男』に命じられるまま、ゲームだと思っていたこの世界の中で、本当に自らの命を懸けて。


 そんな自身のおかしな境遇には、やはり内心、毒を吐かずにはいられない。

 それがあまりにも馬鹿馬鹿しく、またひどく腹立たしいものだったから。


(まったく……面白くもない冗談だ!)


 とは言え無論、それを理由に隙を作ってしまうのも間抜けである。

 なので俺は、強引にその感情を抑制してから、手近な敵へすかさず突撃をかけた。

 ただしたった独り、ほぼ何の支援も無い状態で。


 なぜ俺が、わざわざそんな危うい攻め方を選んだのかと言うと、それは出撃しているメンバーが少ないから。

 今はだいたい、いつもの半分程度なのである。

 極端な人手不足ゆえに、連携相手の確保が困難となり、望まぬ単独戦闘を強いられている……というわけだ。


 その主要な原因は、前回の戦いで受けた、心理面の衝撃である。

 それによる動揺から、積極的に戦えぬ者が多く出て、迎撃への参加人数が大きく減少したのだ。

 支援なんて端から期待しようがない状況、と言っていいだろう。


 ただまあ、それも無理からぬことだ。

 だってここのところずっと、非現実的な事態に直面し、それに翻弄されて苦しむ……という状態が続いているのだから。

 現実と仮想の境目が、簡単にはわからなくなってしまうほどに。


 であればやはり、その中で平静を保つなんて、そうそう簡単にできることではない。

 むしろ普通に戦えている方が異常、とさえ言えるだろう。

 とにかくここは、現有戦力で乗り切るしかないのだ。


 もっとも幸いにして、味方の戦力が乏しいわりに、戦況はさほど悪くない。

 なぜなら――


(だが敵は少数……やれるはずだ!)


 遭遇した敵の規模が、大したものではなかったから。

 小規模な偵察部隊、という『あの男』の言葉通りに。 


 加えて編成もごく一般的で、厄介な敵の姿は見当たらない。

 とりあえずは独りでも問題なく戦えそう、という印象なのである。


 となればここは、さっさと敵を片付けて帰還、というのが適切な選択だろう。

 そう現状を総括し、行動指針を定めた俺は、それに従い迷わず前進を続ける。


 するとその直後、そんな俺の眼前に――


(来たな……)


 一機の『ゴーレム』と、それを取り囲む『バグ』の集団が現れた。

 見た限りでは、母艦に向かって侵攻している最中のようだ。


 となると当然、ここから先に進ませるわけにはいかない。

 母艦が狙われれば、『あいつ』を含めたクラスメイト全員が、命の危機に直面するのだから。

 ゆえにすぐさまそちらへ進路を合わせ、一直線に接近していく。


 もちろん護衛の『バグ』連中は、その俺の動きに反応し、こちらへ殺到してきたが――


(邪魔だ!)


 俺はそれに構わず前進し、包囲してきた敵と至近距離で激突、機体性能を頼みに無理やりその中を突破していった。


 まず真っ先に突撃してきた赤い奴に、正面から拳の殴打を浴びせて粉砕する。

 次いで拡散砲を撃ってくる緑の奴は、低火力だからと無視して素通りした。

 さらに火力のある黄色い奴の砲火を、直撃だけは避けるように回避する。

 逃げ回るしか能のない青い奴なんかはもう、最初から視界にも入れなかった。

 そんな風に群がる『バグ』を捌きながら、ひたすら本命の『ゴーレム』を目指して進んだのである。


 そうやって敵の只中を突破し、ダメージを受けながらも接近を果たした俺に、『ゴーレム』もまた素早く反応する。


(……来たか!)


 背中の翼を大きく広げて、無数の光弾を撃ち放ってきたのだ。

 こっちが回避困難になるくらい、分厚く弾幕を展開して、その進撃を阻もうとしたのだろう。


 だがそれすらも意に介さず、俺は敵の攻撃を当たるに任せたまま、ひと息に相手との距離を詰めた。

 そして再び、手にした大型ブレードを構えると――


(落ちろっ!)


 眼前に迫った『ゴーレム』の胴体を、突進の余勢を駆って、力強く横に薙ぎ払う。


 結果その一撃は、確かな手応えと共に、『ゴーレムの』体を上下に二分割した。

 さらに直後、敵は断面から爆発を起こして、連鎖的に崩壊していく。

 後に残ったものは、全く原形を留めぬ、無駄に大きな金属片の群れだけである。


 その様子を見て、自分達には勝ち目が無いと悟ったのだろう。

 護衛の『バグ』連中が、散り散りになって逃走を始めた。

 つまりはただの一撃で、敵集団の撃退に成功したわけだ。


 ちなみにこれこそ、俺の駆る機体、A-2グラディエーター最大の強みである。


 軽い攻撃ならば容易に弾く装甲と、素早く敵へと接近しうる十分な機動力、そして巨大な敵をも一刀両断できる強力な武装――それらのおかげで、こうしてどんな敵も簡単に葬り去ってしまうのだ。


 もちろんその代わりに、射撃系の武装が頭部の小型機関砲くらい、という欠点が存在する。

 加えてこんな装甲に頼った戦い方、そう長く続けられるものではない、という問題もあるわけだが。


 それでも牽制だの位置取りだのと、まどろっこしいのが苦手な俺には、むしろ好都合でしかない。

 戦闘スタイルがシンプルなため、攻撃だけに集中できて、非常に楽なのである。

 そちらの方が結果も出しやすいし、とにかくこのまま、ひたすら敵を叩き切っていくとしよう。


 そう自身の役目を確認した後、俺は再び戦場に意識を戻し、残敵の掃討に取りかかった。

 まず周囲を観察して、次の目標を見つけると同時に突進を行い、瞬く間にそいつを斬り伏せる――そんな作業を、幾度も繰り返していったのだ。

 自機の被害を一切頓着せず、あたかも勇猛にコロッセオで戦う、古代ローマの剣闘士にでもなったかのように。


 するとそうしてしばし戦いを継続し、落とした大物の数が十に達しようとした頃、唐突に緊張感の無い通信が入った。


『やあみんな、ご苦労さま。

 敵は撤退を始めたから、もう戦わなくて大丈夫だよ』


 俺達に戦闘を指示した諸悪の根源にして、我らがクラスの『元』担任――憎き倉田公平が発した、終戦の合図である。


 その言葉通り、敵軍はすでに、引き潮のように撤退を開始している。

 何とか無事、勝利を掴むことができたわけだ。

 戦力が限られていたことを思えば、上々の成果と言えるだろう。


 ただし今回、こうして犠牲なく戦闘を終えられたのは、敵の数の少なさによるところが大きい。

 次また同じことがあったら、どうなるかはわからないということだ。


 そう今後について危惧し、不安を募らせる俺に、倉田は事務的に次の指示を出してきた。

 こちらの心配などどこ吹く風、といった雰囲気である。


『では全員、母艦に戻ってください。

 無事の帰還をお待ちしていますよ』


 そのどこか皮肉げな、『指揮官』からの呼びかけに――


(無事の帰還……ね。フン、どの口で言ってやがる)


 俺は一切返事をすることなく、無言で後退を開始し、帰るべき母艦を目指す。

 同じ戦場で奮闘していた、わずかな味方達と共に。


 その最中に俺が考えていたのは、これから自分はどうするのか、という一点だけ。

 いったいここで何をすれば、この苦境から脱することが可能なのか。

 ただそれのみに、意識を集中していたのだ。


 目的は、言うまでもなく――


(……こんな所で、死なせるわけにはいかないからな)


 絶対に、『あいつ』を生き残らせたいから。

 こんな暗く寂しい場所で、くだらぬ理由により死なせてしまう、なんて結末を許すわけにはいかなかったから。

 そのためになら、いかなる労苦をも厭わぬ覚悟だったのである。


 ただし一方、今日も自分は無事だった、という事実に対しては――


(ま……俺は、どうでもいいんだがな)



 特別、何の感慨も抱いてはいなかった……








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