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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-04 『Sacrifice』
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Section-9

更新履歴 21/9/25 文章のレイアウト変更・表現の修正


 夜空に閃く雷のように、闇のみが満ちる宇宙を引き裂いた、暴力的な輝きを放つ極太の光線。



 その正体はもちろん、『オベリスク』が放った、超長距離からの砲撃だ。

 矛先がこちらへ向いたのは、私の撤退が遅れたせいで、ここが部隊の最後尾になってしまったからだろう。

 要は再び、前回の戦いの時ような、死と隣り合わせの恐ろしい状況が訪れてしまったのである。


 しかし一方、その砲撃が来たおかげで、アサルトとの間には距離が生まれている。

 これならあいつの隙を突き、この場から離脱することも不可能ではないはずだ。


 そんな私の考えを代弁するかのように、次いでヨウスケ君が、すかさず美山さんへ撤退を提案した。


『今のうちに逃げよう!

 美山さんはアキラちゃんをお願いします!』


 美山さんはその提案に対し、一瞬だけ戸惑ったような反応を見せるも、しかしすぐ自分を取り戻して承諾する。


『アキラちゃ……え? あれ?

 ……い、いや、ええと……了解!』


 そして瞬時に反転し、動けぬ私の方へ接近してくると、そのまま脇に抱え込んだ。

 それからスラスターを全開で稼働させ、私が思わず叫び出しそうになるほどの勢いで、一気に加速を始めた。


 確かにこれほどの推進力があれば、私の機体を抱えていても、十分な速度が維持できるだろう。

 無事に逃げ切れる見込みが、ここに至ってようやく出てきたというわけだ。


 とは言え無論、迷惑をかけていることに変わりはない。

 なので慌てて、私は彼女に謝罪を行う。


『ご、ごめんなさい、美山さ……』


 だが美山さんは、その弱気な言葉を、やはり涼やかに一息で振り払った。


『うん、どういたしまして!

 でもそういうのは後でいいから! 今は逃げることに集中っ!』


 そんな頼もしさ満点の彼女の言動に、私はすっかり吞まれて、つい子どものように素直な返事をしてしまう。


『は、はい!』


 するとそのちょっと滑稽なやり取りを聞いて、ようやく安心できた、とでも言うかのように――


『……頃合いだな』


 橘君がそう冷静な呟きを残して、アーチャーから離脱、自身も撤退を開始した。

 『オベリスク』が動き始めた以上、もはや戦っている余裕など無い、ということだろう。

 もちろんヨウスケ君も、間を置かずそんな私達の後に続く。


 そしてその後は、追いすがる敵軍を牽制しつつ、全員で母艦へ向け後退していった。

 撃ち込まれる無数の砲撃を、ひたすらに掻い潜りながら。

 他の敵の追撃がある、という点だけを見れば、前回よりも苦しい状況と言えるだろう。


 ただやはり、予め数を減らしておいたおかげか、砲撃は以前と比べて相当に緩い。

 その密度が目に見えて薄く、回避がそう難しくないのだ。


 また例の二機も、数的優位を無くしたせいか、先ほどまでと違って滅多に接近はしてこない。

 遠巻きにぽつぽつと、消極的な射撃を行うのみなのだ。

 ちょっと不謹慎だが、少しゆとりさえ感じてしまうような状況である。


 結果として私達は、そのまま危なげなく――


『よし、見えたぞ! あと少しだ!』



 先行している斉川君の上げた、どこか嬉しそうなその声が示す通り、無事母艦の付近にまで到達できた。

 要は安全地帯が目と鼻の先、という位置にまで帰ってこられたのだ。

 少し前の絶体絶命っぷりを思えば、よくぞここまで持ち直した、と感心するしかない。


 しかしそう安心したのも束の間、再び事態は急変する。

 なぜなら次いで橘君が、鋭い警告を発すると同時に――


『くそっ……! 連中、また仕掛けてきたぞ!』


 ずっとおとなしくしていた例の二機が、一気に加速し、こちらとの距離を詰めてきたから。

 ここへ来て突如、再び積極的になったというわけだ。

 そのせいで互いの距離は、あれよという間に縮まっていった。


 しかも現状、こちらの部隊には、近づくその二機に対応できる者がいない。

 雨あられと降り注ぐ、『オベリスク』の砲撃を回避するのに、誰もが手一杯だからである。

 向こうにしてみれば、安全に接近し放題という状態なわけだ。


 こうなると当然、奴らの次の一手は――


(まずい……このままだと、母艦が攻撃される!)


 私達が帰艦するその隙を突いて、母艦に直接攻撃を仕掛けることだろう。

 相手が反撃できないタイミングで、最大のダメージを与えるために。

 

 無論その目論見が実現し、母艦が落とされるようなことになれば、私達は帰る場所を失う。

 後はただ、この広い宇宙に取り残され、全滅を待つばかりになるのだ。

 要はこれ以上の接近を許す前に、何とかあの二機を、撃墜するなり遠ざけるなりしなくてはならないのだが……


 しかしそのための策は、いくら考えようともさっぱり出てこない。


(駄目……何も思いつかない……!)



 だって互いの速度差の関係上、振り切るのはほぼ不可能だし、かと言って足を止めて迎撃を行うのも、降り注ぐ砲撃の中では困難だから。

 逃げることも戦うことも厳しい今の状況では、希望など見出しようもない、ということである。

 きっと何をしたところで、自分の首を絞めるだけに終わってしまうだろう。


 つまり私達は、このまま為す術なく蹂躙されるしかない、というわけだ。

 私はその苦しい現実に、自分達が追い詰められていることを痛感させられ、瞬く間に絶望で全身を絡め取られていった。


 だがそうやって、私が心の均衡を崩しそうになった瞬間、ふと静かな呼びかけが聞こえてくる。


『アキラちゃん』


 ヨウスケ君が、私の名を呼ぶ声だ。

 その穏やかな声音に触れ、私はほんの少しだけ、落ち着きを取り戻すことができたのだが。

 しかし次いで、そんな彼の口から、かなり厳しい問いかけが放たれた。


『何か、いい作戦はある?』


 無論そんな事を聞かれても、私としては絶句して黙り込むしかない。

 提示できる作戦が、今はひとつたりとも無かったから。

 本来はそれを考えることこそ、私にできる唯一の仕事だというのに。

 本当に、本当に不甲斐ないものだ……


 ただ彼は、その私の消沈した態度に接して――


『……そっか』


 軽く残念がるような、小さい呟きで応じた後、ひどく不思議なことを言い出す。

 なぜだか口調を、不自然なほど明るいものへと変えながら。


『じゃあひとつ、謝らなきゃいけないね』


 そしていったい何を謝る気なのか、と訝る私に向けて、彼は語り始めた。

 いつも通りに優しい声で、宣言通りの謝罪と、加えてなぜか励ますような言葉を。


『あの約束、守れなくてごめん。

 あんなに偉そうなこと言っておいて、本当に勝手だよね。

 でもアキラちゃんなら、きっと大丈夫だから。自信を持って』


 ひとつひとつ丁寧に、決して焦らず、聞き取りやすい速さでゆっくりと。

 そうやって自分の気持ちを、余さず私に伝えてきたのだ。


 まるで――


『それと、僕のことは気にしないで。

 アキラちゃんはいつも、アキラちゃん自身がやるべきだ、と思ったことだけ考えていて欲しい。

 たぶんそれが、一番みんなのためになると思うから。

 僕はそういうアキラちゃんを、いつまでも応援しているよ』


 これから死にゆく人が、大切な相手へ遺言を残す時のように。


 そんな彼の縁起でもない振る舞いに、私は激しく動揺、即座にその真意を問いかける。


「え? ……ヨウスケ君? いったい、何を……」


 しかし私がそれを言い終わるよりも早く、ヨウスケ君は行動を開始した。

 突如機体を方向転換させ、今までとは真逆の方向へ進み出したのだ。

 要は追いすがる例の二機に向け、独り突撃していったわけである。


 その様を私は、ただただ混乱しながら、呆然と眺めていたのだが。


(え……? え?)


 そんなこちらを置き去りに、彼は迷わずまっすぐ、後方から迫るアサルトへ突進していく。

 そして多数の反撃を食らいつつも、ひと息に相手へ肉薄し、タックルするようにその体を抱え込む。


 当然アサルトは、それに激しく抵抗した。

 プラズマソードを逆手に持ち替えて、大きく振り上げると、そのままヨウスケ君の機体の背中に突き立てたのだ。

 結果その一撃は、あっさりと装甲を貫通、そこで激しく火花と電流のようなものを散らす。


 眼前で展開されるその光景を見て、ようやく私は、彼の行動の意図を理解した。


(そうか、私達を逃がすために……!)


 きっとヨウスケ君は、ああして特攻をかけることで、敵の注意を自らに引きつけようとしているのだろう。

 そうやって母艦から少しでも遠ざけ、味方が帰艦するための時間を稼ぐつもりなのだ。


 ただしもちろん、その無謀な行動を認めるわけにはいかない。


(駄目……駄目っ!)


 だってこの状況であんな行動をとれば、彼自身は決して生き残れない、ということが明白だったから。

 撤退中に味方から離れて敵へ向かうなんて、ほぼ自殺行為に等しいわけだし、それを否定するのは当然だろう。


 ゆえに私は、すぐさまヨウスケ君を制止するため、声を限りに叫びを上げる。

 彼の代わりに、自分だけが生き延びる未来なんて考えたくもない、と心底怯えながら。


「ヨウスケ君! やめて、戻って! お願いっ!」


 しかしヨウスケ君が、その呼びかけに耳を貸すことはなかった。

 背中に敵の武器が刺さったまま、アサルトをさらに強く締め上げ、次いでアーチャーの方にも突撃をかけたのだ。

 どうやら彼、二機まとめて拘束するつもりらしい。


 するとその直後、なぜか一瞬だけアーチャーの動きが止まる。

 まるで自分の攻撃により、アサルトが傷つくのを嫌がったかのように。

 ひょっとしたら、元となった人間の思考が、その行動パターンに反映されたのかもしれない。


 そんな敵機の隙を突いて、ヨウスケ君はここぞとばかりに前進していった。

 そしてちぎれかけの片腕を大きく広げると、十分に接近すると同時に、その腕で無理やり相手の胴体を掴んだ。

 おかげでどうにか、少なくとも見た目だけなら、彼は厄介な二機の一斉捕獲に成功する。


 しかし、それは結局――


(でも、これじゃ時間稼ぎにもならない……!)


 ほとんど無意味、と言っていい行いである。

 なぜなら拘束したと言っても、基本は相手に組み付いているだけで、動きをしっかり妨害できているわけではないから。


 それを証明するように、次いですぐさま、彼に抱えられている二機が武器を構えた。

 アサルトはプラズマソードを、アーチャーの方は腕の小型ガトリングを、ヨウスケ君の頭部に突きつけたのだ。


 こうなればもう、回避は絶対に不可能である。

 おそらく彼は、あのまま至近距離から攻撃を受け、機体を無惨に破壊されてしまうのだろう。


 しかもその後、例の二機は、必ずこちらにも攻撃を仕掛けてくるはすだ。

 まだ互いの距離は、さして開いていないのだから、それがごく自然な展開である。


 だと言うのに私達は、未だ母艦へ到達できないでいる。

 つまりヨウスケ君の行動は全て無駄であり、彼が命を捨ててまで稼いだ時間は、間もなく水泡に帰してしまうのだ。


 私はその事実に、強く心を打ちのめされつつも――


(まだ……まだ!)


 決して諦めたりはせず、間近に迫った悲劇を拒むため、美山さんにヨウスケ君の救出を訴えかけた。


「美山さん! 戻って! ヨウスケ君の所に行かなきゃ!

 このままじゃ、彼が死んでしまう!」


 しかし残念ながら、彼女からは何の返事も無い。

 完全に沈黙したまま、さらに強く私を抱き締めるのみなのだ。

 まるでヨウスケ君の意志を無駄にしてはいけない、と逆に私へ訴えかけるかのように。


 だが、それでもなお――


(そんなの……嫌!)


 私は挫けることなく、自分だけでも彼の元へ向かうため、美山さんの腕を振りほどこうとする。

 壊れかけの機体を、軋むのも構わず強引に動かして。


 ただその瞬間、ふと小さな呟きが耳に届いた。

 もはや絶命寸前と言えるほど弱々しいのに、それでいて強い達成感に満ち溢れてもいる、ヨウスケ君の勝利宣言じみた声が聞こえてきたのだ。


『……残念。少しだけ……遅かったね……!』


 またそれと前後して、視界の隅で、見慣れた光が輝きを放つ。

 いずれかの『オベリスク』が、こちらへ攻撃してきたのだろう。

 となれば当然、そのターゲットになるのは、現在最後尾にいるヨウスケ君と……


(あ……っ!)


 ……と、そう現状を認識したところで、私はひとつの恐ろしい事実に気づいた。


(これって……まさか!)


 それは先ほど見た、アサルトの奇妙な挙動についての、とある推測だ。

 あの時あいつは、確か自分の近くへの砲撃に対し、なぜか回避運動を取っていた。

 『オベリスク』は基本、味方を誤射しないよう配慮しているはずなのに。


 その情報から事態を推察するに、おそらく敵は、もう誤射を恐れていないのだろう。

 味方を巻き込んででも、こちらの撃破を優先すると決めたのだ。

 位置を捕捉されれば確実に撃墜、という大きなリスクが、そういう行動を選ばせたに違いない。


 そうした推測を全てふまえた上で、一連のヨウスケ君の行動を考え直していくと……


(そんな……!)


 彼の行動についての、叫びだしたくなるほどにおぞましい、ひとつの結論が導き出された。

 ゆえにすぐさま、私は再び口を開き、彼をどうにか思い止まらせようとする。


「ヨウス……」


 しかしそんな私の、最後の抵抗を遮るかのように――


(ああっ!)


 直後に視界のあちこちで、『オベリスク』からのものと思われる、無数の光が発生した。

 それらはヨウスケ君と、彼が抱え込んだ二機に向けて、幾重にも折り重なりながら続々と降り注いでいく。

 どこか舞台上の役者に向けられる、大量のスポットライトのごとくに。


 そう、実はこれこそが彼の狙いなのだ。

 味方を巻き込むことを厭わぬ、という相手の思考を逆用して、厄介な敵をまとめて葬り去ろうとしたのである。

 その代償に、自らの命を差し出して。


 そんなヨウスケ君の後ろ姿を、成す術なく見せつけられながら――


(嫌……嫌っ!)


 私は相反する二つの感情――眼前の光景を否定したいという気持ちと、ああもうどうしようもないんだという諦め――をまとめて抱え込んだまま、半ば錯乱状態で、声を限りに彼の名を呼ぶ。


「ヨウスケ君ーー!」


 だがもちろんその叫びは、ますます勢いを強めていく、暴力的な光の束に阻まれるだけだった。

 誰にも届かぬまま、無惨にかき消えてしまったのだ。


 結果としてヨウスケ君は、抱え込んだ二機と共に、全身にその光を浴びる。

 そしてそれに蹂躙され、まるでわずかに降り積もった春の雪が、暖かな朝日を浴びた時のように――


(あ……ああああ!)



 白い輝きの中で、瞬く間に溶けていった……








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