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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-04 『Sacrifice』
44/173

Section-8

更新履歴 21/9/25 文章のレイアウト変更・表現の修正


『やぁぁめろぉぉぉっ!』



 激しく感情を高ぶらせたそんな声が、通信から響いてきたその直後、私の視界は一瞬の内に閉ざされる。

 目前まで迫っていたアサルトとの間へ、勢い良く誰かが割って入ってきたからだ。

 危機に陥った私を、身を挺してかばうかのように。


(あっ……!)


 そしてその何者かは、次いで繰り出されたアサルトの一撃を、なんと手を突き出して受け止めた。

 盾も何も持ってはいない、自らの手で直接防いだわけだ。


 その無謀な行動の主は、言うまでもなく――


「ヨウスケ君!」


 私の大切な想い人、久保擁介君である。

 彼るはその身を防波堤として、襲い来る敵の攻撃を止めてくれたのだ。

 しかも自らを傷つけ、危険に晒すことも厭わずにである。


 もちろんその代償として、プラズマソードの直撃を受けた彼の腕は、みるみる切断されていく。

 縦方向にまっすぐ、裂けるチーズさながらに軽々と。

 これでは遠からず、腕が根元まで真っ二つにされてしまうことだろう。


 しかしそれが、肘の辺りに到達する寸前――


『このおっ!』


 彼は斬られていく自らの腕を、思い切り横向きにスイングし、食い込む刀身を力任せに振り払った。

 どうにか腕ごと切断、という事態は免れたわけだ。

 

 それから間を置かず、未だ硬直したままの私へ、珍しく荒い口調で指示を出してくる。


『早く下がって、アキラちゃん!

 こいつは僕が相手をしておくから!』


 私はそれに、辛うじて応答した後――


「う……うん!」


 慌てて縮こまっていた体を開きつつ、残存するスラスターを稼働させて後方に反転、即座に退却を開始した。

 ヨウスケ君の言葉に従い、半分になった自らの機体を酷使しながら、一心に母艦を目指して。


 ただし無論、これで問題は全て解決、というわけではない。

 味方に敵を任せて、自分は逃げるだけ、なんてやり方は不可能なのだ。


 なぜなら――


(でも、これじゃヨウスケ君が危ない……!)


 橘君はともかく、ヨウスケ君の方は、対峙する敵との相性が非常に悪いから。

 中・長距離戦用の支援機で、格闘も強い突撃機と接近戦をしているのだ、苦戦しない方がおかしいのである。

 このままだとおそらく、遠からず深刻な事態に見舞われることだろう。


 つまり私は、ヨウスケ君をその危機から救うため、ここで何か策を講じねばならぬのだが――


(……駄目、何も思いつかない!)


 しかしどう頭を働かせても、いいアイデアが浮かんでくることは無かった。

 まあ当然だろう、元々抵抗が不可能だと思ったからこそ、迷わず撤退しようとしていたのだから。

 必要に迫られたからって、そうそう都合良く妙案をひねり出せるものではない。


 ただ仮にそうだとしても、このまま見ているだけというわけにもいかないので、私はすかさずレーダーに意識を移す。

 自分が何もできぬのなら、せめて援軍くらいは送らねばと考え、動けそうな味方を探し回ったのである。

 お願いだから誰か助けて、とすがるような気持ちを抱きながら。


 しかしその切望も空しく、いくらクラスメイト達の様子を確かめても、ヨウスケ君の支援ができそうな人は見当たらなかった。

 相変わらず戦況が悪く、今はみんな自分の事だけで手一杯という状態なのだ。


 となると残る希望は、彼がアサルトから致命傷を食らう前に、私が安全圏への退避を完了すること……なのだが。

 それもどうやら、叶わぬ願いらしい。


 私がそんな風に、先行きを悲観した理由は――


(遅い……!)


 受けた損傷のせいで、自機の速度がほとんど上がらないから。

 これでは母艦へたどり着くまでに、気の遠くなるような時間がかかってしまう。

 彼が無事な内に撤退を完了するのは、まず間違いなく不可能、と言っていいだろう。


 つまりは打つべき手もなく、逃げ延びることすらままならぬ状態、というわけである。

 今となってはもう、私にできることなんて、何ひとつとして残されていない。


 しかもそうして、万策尽きて追い込まれた私が、再びヨウスケ君の方を振り向くと――


(あ……ああ……)


 アサルトから絶え間の無い猛攻を受け、瞬く間に全身を切り刻まれていく、彼の痛々しい姿が目に飛び込んでくる。


 その際にまず斬り落とされたのは、機体の主兵装であるプラズマランチャーだ。

 ヨウスケ君はそれを、アサルトを迎撃するため使おうとしていたのだが――


『くっ……くそっ!』


 一発撃ち込む間もなく、あっさりと破壊されてしまった。

 その大きさが災いして、素早く動き回る相手に対応できず、うまく狙いがつけられなかったのだ。

 まあ本来は中・長距離用の武装だし、無理もない結果と言えるだろう。


 またそれで格闘戦は不利と悟ったのか、彼は即座に相手と距離をとり、そこから肩のガトリング砲を連射する。

 きっと取り回しの良い武装で、敵の接近を阻もうとしたに違いない。


 しかし元々小型目標の迎撃用であり、威力が十分とは言えないその武装では、相手の装甲を貫通することはできなかった。

 結局ほとんど有効打を与えられぬまま、再びアサルトに接近を許すことになったのである。


 そしてそのガトリング砲も、それに次いで構えた背部のレールカノンも、ことごとく敵の攻撃によって無力化されていく。

 ほぼ丸腰に近い状態、と言えるまでに追い詰められてしまったわけだ。


 となればもう、この先の展開なんて予測するまでもない。

 ああして全ての武器を失った以上、後はただ成す術もなく、敵からなぶり殺しにされるのみだろう。

 無論本来ならば、逃げるより他に取るべき道など存在しないはずである。


 だがそれでも、ヨウスケ君は退こうという素振りを全く見せなかった。

 頑強にその場へ踏みとどまり、自らの体で敵の攻撃を受け止め続けたのだ。

 津波から人命を守るための、堤防か何かにでもなったかのように。


 彼がそこまでして、勝ち目の無い戦いを継続する理由は、もちろん――


(私が、いるから……!)


 瀕死の私を、無事に逃がすためだろう。

 それを目的として、ああも必死に耐え抜いているのだ。

 自分がどれほど傷つこうと、一切構うことなしに。


 そんなヨウスケ君の行動は、私の脳裏に、ひとつの記憶を呼び覚ます。

 ゲームを開始する直前に告げられた、あの熱く燃え立つような誓いの言葉が、はっきりと蘇ってきたのだ。


『大丈夫、アキラちゃんのことは、必ず僕が守るから』


 その瞬間私は、声を限りに、全身全霊を込め絶叫していた。

 大切な人に生き延びて欲しい、というただひとつの願いのみを胸に抱いて。


「ヨウスケ君! 逃げて!

 私のことはいいから、早く逃げてっ! お願い!」


 だって、恐ろしかったから。

 彼がいなくなってしまうことが、怖くてしょうがなかったから。

 とにかく何を置いても、それだけは防ぎたかったのだ。

 例え自分が、この底知れぬ闇で満ちる宇宙へ、独り置き去りにされることになったとしても。


 しかし、そんな私の切なる訴えが、確かに届いたはずなのに――


(なんで、答えてくれないの……!)


 ヨウスケ君はこちらに答えを返すことなく、そのまま無謀にも、目前の敵との戦闘を継続する。

 私の願いを、自らの行動でもって拒絶したかのように。

 どうやら逃げるつもりなんて、これっぽっちも無いらしい。


 そうしてますます傷ついていく彼を見ながら、私は大きな無力感と、拭えぬ罪悪感に苛まれた。

 自分のせいで大切な人が痛めつけられる、という事実が、何よりも辛かったのだ。

 いっそ踵を返して助けに行こうか、と本気で思いさえする。


 ただし結局、私がその考えを実行に移すことはなかった。

 なぜなら次の瞬間、満身創痍のまま戦い続けるヨウスケ君へ――


『……下がって、久保君!』


 誰かがそう、良く通る声で指示するのを聞いたから。

 そしてその声の主は、目にも留まらぬ速さで私の眼前を横切り、アサルトに向け突進していく。


 それは誰あろう、美山さんの搭乗するA-3トルーパーである。

 おそらくヨウスケ君の窮状を察し、自発的に駆けつけてくれたのだろう。

 要はここに来て、待望の援軍が到来したわけだ。


 そして彼女はそのまま、指示に従って道を開けたヨウスケ君の側を通過し、瞬く間にアサルトへと肉薄した。

 さらにそこで、体当たりでもするかのように、勢い良く携えていたプラズマランスを叩き込む。


 その直撃を受けたアサルトは、とっさにそれをシールドで受け止めたものの、すぐに後方へ吹き飛ばされた。

 激しい衝撃で、機体を大きく折り曲げながら。

 きっとトルーパーの攻撃が重く、完全には衝撃を殺し切れなかったのだろう。

 見るからに大ダメージ、という雰囲気である。


 もちろんガードされた以上、致命傷には至らなかったのだろうが。

 それでもヨウスケ君にとっては、まさしく地獄に仏だ。

 撃墜される間際というところで、その攻撃を止めてくれたのだから。

 自分だって大変なはずなのに、こうして援軍に来てくれた美山さんには、本当に感謝しかない。


 そうした感想を、同じくヨウスケ君の方も抱いたのだろう。

 次いで彼は、息も絶え絶えという様子で、彼女にお礼を述べる。


『……み、美山さん。ありがとう……』


 美山さんはそんな彼に対し、まさに名前通りという雰囲気の、内容的にも口調的にも涼やかな答えを返してきた。


『お礼の方は、後でのどかに。

 あの子が頑張ってくれたおかげで、こっちに来れたから。

 もう犠牲は出したくない、って言ってね』


 そしてさっさと会話を打ち切り、迷うことなく敵の方へ向き直る。

 まだ戦い終わってない、油断しては駄目だ、と言いたいのだろう。


 その証明のように、彼女の視線の先では、機体の制御を取り戻したアサルトが復帰していた。

 攻撃で破損したシールドを投棄しつつ、隙なくこちらの様子をうかがっていたのだ。

 新たに現れた敵への対応を考えている、といったところか。


 ゆえにわずかな間だけ、付近には静寂なひと時が訪れていたのだが。

 しかし次いでその空気は、突然辺りに響き渡った、橘君の鋭い声で切り裂かれる。


『また砲撃が来るぞ! 避けろっ!』


 再び『オベリスク』が攻撃を始めた、だから気をつけろ、という警告である。

 どうやらあの二機に時間を稼がれている内に、敵の準備が完了してしまったらしい。


 ゆえに当然、それを聞いたヨウスケ君と美山さんが、即座に回避運動を取り始める。

 いつどこから攻撃されるかわからない、という認識がもたらしたのだろう、非常に素早い反応である。


 もちろんそれ自体は、何の不思議もない。

 敵の攻撃を回避するために、必要不可欠な行為だから。

 ただしなぜか、それとほぼ同時に――


(……え?)


 アサルトまでもが、急に彼らと似たような挙動を見せた。

 まるで何かを避けようとするみたいに、誰もいない方向へ飛び退いたのだ。


 しかし無論、こちらからは一切攻撃していない。

 つまりあちらには本来、回避運動を行う理由など皆無、ということなのである。

 だと言うのにアサルトは、いったい何を目的に、あんな行動をとったのだろう……


 もっとも私がその疑問に解答を出すよりも早く、全員がそうして、今までいた場所を離れた直後――


(くっ……始まった!)



 丁度その部分を、巨大な光の束が撃ち貫いた――








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