Section-6
更新履歴 21/9/25 文章のレイアウト変更・表現の修正
(味方を誤射すること……とか?)
それはあのステルス砲撃機が、間違って味方を撃つことのないよう、自身の行動に何らかの制約を設けているのではないか……という推測である。
私はその制約こそが、あれへの対策を講じる際の鍵になるかも、と考えたのだ。
だってあいつは、あれだけの火力の砲撃を、かなりの長距離から放ってくるのだ。
ならば恐れるべきは当然、途中で味方を巻き込んでしまうことだろう。
食らえば一発アウトなのは、敵の方も同じなのだから。
それを防ぐための策があるのでは、と疑うのはごく自然な発想である。
しかも奴は、自らの姿を完璧に隠蔽している。
味方から認識されづらくなる分、誤射の危険性も高まっている、というわけだ。
ますますもって、何らかの工夫を施している見込みは大きい。
となるとおそらく、その工夫を見抜くことができれば、大まかにだが相手の位置を特定できる。
安全に回避を行うどころか、こちらから攻撃を仕掛けることさえ、決して不可能ではなくなるわけだ。
きっとそれが成功した時点で、戦局は大きくこちら側へ傾くに違いない。
その自らの閃きに、大きな力を得た私は――
(よし!)
早速それに従って行動を開始、機体背部の大型レーダーを稼働させた。
全出力をそちらに集中し、一時的な機能の拡張を行ったのだ。
より広範囲に渡って、できる限り詳細な戦場の情報を得るために。
もちろんこんな事をすれば、ただでさえ低い機体性能がさらに低下し、ほとんど無防備な状態になってしまうのだが。
しかし今のところ、付近に敵の姿は無いわけだし、ここは情報収集を優先すべきだろう。
そんなリスクを負いつつ、無事に得られた敵軍の布陣に関するデータを、次いで私は詳しく観察する。
隅から隅まで、余すところなくじっくりと。
そうしてどこかに綻びや不自然な部分が無いか、血眼になって探し続けたのだ。
結果として見事、その地道な作業の果てに、ひとつの重要な発見をした。
(これは……何? 変な陣形……)
攻め寄せる敵の配置に、ひどく奇妙な点があることに気づいたのだ。
具体的には整然と並んだ敵軍の陣形に、それを貫く形で、幾本もの隙間が存在していたのである。
まるで地図上に書かれた、長く巨大な河川のように。
しかもその隙間は、次第に間隔を広げつつ、綺麗な直線へと近づいている。
あたかも後ろから来るであろう何かへ、道を空けているかのように。
その様は自然と私の脳裏に、考えてみれば当然、という閃きをもたらした。
(ひょっとして、射線から退避してる?)
それは例のステルス機体が放つ、強烈な砲撃に巻き込まれぬよう、前衛の各機体が移動しているのではないか……という推測だ。
先の推理とも辻褄の合う解釈だし、的を射ている可能性は十分にあるだろう。
ならばと早速、自身の仮説の検証を行うため、さらに細かく敵の配置の分析を行う。
これから陣形がどう動くかを予測し、そこに生じている隙間を逆に辿ることで、例の奴が潜むポイントを特定しようとしたのだ。
(ええと……ここかな?)
結果ひとつの座標を割り出すと、即座に味方の最後尾にいる、柳井君へ声をかけた。
もしこの推測が正しければ、いつ攻撃が始まるかわからない、という事実に急き立てられながら。
「柳井君!」
そしてそれを聞き、なぜかほんの少しだけ、動揺した反応をする彼に対し――
『……あ? いや、な、何だい? 志藤ちゃん?』
例のポイントのデータを送りつつ、単刀直入に指示を出す。
「これから指定するポイントを、すぐに狙撃してください!」
柳井君はその要求に、こちらの説明不足ゆえか、戸惑い混じりの返事をしてきたのだが。
『……へ? な、なんだよ……突然』
私はそれに構うことなく、強引に自らの主張を押し通した。
今は早急な対処こそが、生死を分けると確信していたから。
「説明してる時間が無いんです!
すぐにお願いします!」
私のその切迫した態度に、何か感じるところがあったのだろう。
柳井君は仕方なしという雰囲気ながらも、手に持っていた彼の機体の主武装、長大なスナイパーライフルを構える。
そして慣れた様子で狙いをつけた後、やがて照準が定まったところかピタリと静止、即座にそのトリガーを引いた。
直後、ライフルの先端から黄金に輝く光の束が放出され、例の隙間を通って突き進んでいく。
結果そのまま、どの敵にも当たることのないまま、宇宙の彼方へと消え去る……
……かと、思われた次の瞬間――
『うわっ!』
撃った本人の驚いたような叫びと共に、まっすぐ進んでいた光の束が、何もないはずの虚空で何物かと激突した。
同時にそこで、猛烈な爆発をも引き起こしながら。
そしてその奇妙な現象をきっかけとして、隠れ潜んでいた敵が姿を現す。
まるでそこに浮かんでいた透明なディスプレイへ、徐々に映像が浮かび上がってきたかのように。
(何、あれ……!)
それは細長く角張った砲身の周りに、幾重にもリング状の構造体がくっついて浮いている、かなり巨大な敵機だった。
そのフォルムを別の何かで例えるならば、大きめの指輪を何本も嵌めた中世の塔、というところか。
敢えて名前を付けるのなら、『オベリスク』とでも呼ぶべきだろう。
あれこそがきっと、例のステルス砲撃機に違いない。
好きに行動させていれば、私達を窮地に追い込んでいたはずの、最大の難敵である。
しかしそれも、つい先ほどまでの話。
今となってはもう――
『や……やったのか?』
そんな柳井君の呆然とした呟きが示す通り、激しく爆風を噴き上げながら、瞬く間に崩壊していくのみである。
どうやらスナイパーライフルの一撃で、心臓部を撃ち貫かれたらしい。
あれではもちろん、こちらへの攻撃など望むべくもない。
その無惨な敵機の姿は、自身の推測は正しかったのだ、という確信を私にもたらしてくれる。
であればここは、迷わずこの作戦を継続すべきだろう。
ゆえに続けて、私は敵の配置をもう一度細かく分析した。
そうしてさらにひとつ、奴が隠れていそうなポイントを割り出すと、再び柳井君へ指示を出す。
「柳井君! 次はこちらのポイントを狙撃してください!」
柳井君もまた、そんな私につられてか、軽快にそれへと反応――
『はいよっ!』
すかさず狙撃を行い、またも隠れ潜んでいる『オベリスク』を撃墜した。
驚くほどあっさりと、さしたる苦労もなくだ。
今までの苦戦具合が嘘のような、何とも順調な戦いぶりである。
そうして円滑に事を運べた原因は、奴の装甲及び回避性能が貧弱で、撃墜するだけなら極めて容易だったから。
耐久力に関しては、『バグ』以下とさえ言ってもいいだろう。
どうやらあの『オベリスク』、火力と隠密性を高めるため、装甲と機動性を限界まで犠牲にしているらしい。
つまりは位置さえ掴めば雑魚同然の敵、というわけだ。
ならば今こそ好機だ、と私達はそのまま攻勢を続けた。
漆黒の闇に潜む『オベリスク』どもを、同様のパターンを繰り返し、片っ端から仕留めていったのだ。
掃討と呼ぶに相応しいくらいの、まさしく圧倒的な勢いで。
そんな風に難敵の性質を見切り、確固たる戦術的優位を構築できたおかげで、私の中に自然とひとつの思いが芽生えてくる。
(勝てる……!)
今日はこのまま問題なく勝利し、みんなで無事に帰還できる――そういう確信が、ここへ来てはっきりと持てたのだ。
なぜなら現状、遠からず『オベリスク』が片付きそうなことに加えて、他の敵はいつもと変わらぬ連中ばかりだから。
すでに恐れるほどの相手ではなくなっている、というわけだ。
それで行けそうだ、という強い自信が湧いてきたのである。
またその、前向きな気持ちが導いてきたのか――
(これなら、本当に生き延びられるのかも……!)
倉田先生の言う、地球脱出の準備が整う日まで、みんなで生き抜けるかもしれない。
そしてまだ見ぬ星へとたどり着き、未来を掴み取れるのかもしれない。
そんな希望にさえ、現実味を感じられるようになってきた。
もちろん少々、気の早い話ではあるのだが。
それでも根拠の無い自信、というわけではない。
実際今日はこうして、己が力で難敵を退けられたのだから。
例え不確かであろうとも、望みは決して絶たれてなどいないのだ。
その自ら勝ち取った成果と、胸の内で生まれ始めた勝算に、この上ない充実感を獲得した私は――
(よしっ!)
それを拠り所として、さらに柳井君へ攻撃の指示を出していく。
「次は、ここへ!」
だがそれに、彼が応じて――
『おうよっ!』
再度スナイパーライフルのトリガーを引いた、まさにその瞬間――
『……な、何だ!』
突如、柳井君が放った光線に向けて、横から別の光線が迫ってきた。
まるで要人に近づいた不審者を、ボディガードが阻む時のように。
そして即座にそのふたつは接触し、勢いのまま激しくぶつかり散乱すると、双方とも完全に消滅してしまう。
どうやら何者かが、柳井君の狙撃を妨害してきたらしい。
それを見た私は、すぐさま反応、意識を再び戦場全体に移す。
そして首を傾げつつ、素早く敵の布陣を確認していった。
(いったい、誰が? 新しい敵が来たの?)
結果としてふたつばかり、今までに無かったものを見つける。
(タイプ……アンノウン?)
『Type-Unknown』
未確認の敵機を意味する、そんな表示が目に入ってきたのである。
なんとこのタイミングで、全くの新手が二機も登場した、というわけだ。
その唐突な出現に動揺しつつも、私は急ぎレーダーの機能を総動員し、新手の情報収集を開始した。
警戒すべき敵の能力を、一刻も早く暴くために。
だがその直後、強い衝撃を受け、思わず体を硬直させてしまう。
(あ……あれは……!)
なぜならそこにいたのが、不自然に頭部だけが取り外された、人型のロボットだったから。
昔何かの本で読んだ、首無し騎士デュラハンさながらの、実に奇怪な姿である。
ただしもちろん、そのおぞましさに怯えたわけではない。
驚いたのは、そいつの形状や色彩に、確かな見覚えがあったせいだ。
具体的に言うと、黒と紫が混じった地味な色合いや、細く尖ったシャープな手足――それら全てが、瓜二つと言えるくらいそっくりだったのだ。
飽きが来るくらいに見慣れた、ごく身近な『あるもの』と。
そう、それは間違いなく、こうして今も私達が動かしている機体、宙間戦闘用半生体人型機動兵器『スプリガン』なのだ。
つまりは完全な同型機が、なぜかこちらの攻撃を邪魔してきたのである。
しかもその機体タイプは、なんと――
(どうしてあの二機がこんなところに?)
私達が知らぬ間に撃墜され、いなくなってしまったはずの二機、A-1アサルトとB-1アーチャーだった……




