表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-04 『Sacrifice』
41/173

Section-5

更新履歴 21/9/25 文章のレイアウト変更・表現の修正


(う……くっ、うううっ!)



 全身に生じる、胃を百八十度捻られているかのような、気持ちの悪い浮遊感。

 なぜだか理由もなく、周囲の暗闇に吸い込まれそうだ、という怯えをもたらす不安感。

 そして何の支えも無いのに、どこへも落ちていかないことに対する、猛烈な違和感……


 跳躍と同時に襲ってきた、そんな幾つもの不快な感覚――私はそれに神経を責め苛まれながらも、ひたすら前を目指していく。

 自分の遥か先を進む、大切な人の背中を追いかけて。


 するとしばらく、その忍耐を続けたところで――


(……あれ? 少し……大丈夫になってきた?)


 押し寄せる数々の不快感が、時間の経過と共にゆっくり減少し、間もなく完全に消失した。

 要はあれだけ乱れていた感情が、ほぼいつも通り、という状態に戻ったのである。


 それは例えるならば、『バンジージャンプが最初はすごく怖かったのに、何度も繰り返す内に慣れて平気になった』みたいな感覚だろうか。

 どうやら思ったよりもずっと早く、体がこの異常な環境に馴染んでくれたらしい。


 言うなればまあ、案ずるより産むが易し、というところか。

 あるいは、喉元過ぎれば熱さ忘れる、と表現すべきかもしれない。

 いずれにせよ、やはり人間、慣れれば何とかなるもののようだ。


 そう自身の適応能力に自信を持てたおかげか、自然と心に、余裕のようなものが生まれてくる。

 これなら集中を乱されることなく、普段通りの戦いができそうである。


 そこで早速、今までの出遅れを取り戻すため――


(よし! まずは自分の仕事をしないと!)


 私は頭を切り替えて、戦闘の準備に取りかかった。

 自身の搭乗機である、E-1コマンダーの専用装備、広域探査用の大型レーダーを起動したのだ。


 これは機体背部に装備されている、本体と同じくらい巨大な、太いリング状のフォルムをした高性能探知機である。

 見た目としては、背中に背負った大きな指輪、というところだろうか。


 ちなみにこの装備が、スペースと出力を大幅に食っているので、他の武装はほとんど搭載できない。

 また重量も並外れているため、装甲や機動性にかなりの影響を与えてもいる。

 コマンダーの各種機体性能が、他のタイプと比べて著しく低いのは、主にこれのせいなのだ。


 ただその代わり、レーダーとしてはたいへんに優秀である。

 具体的に言うと、探知できる範囲が極めて広く、戦場全体を網羅可能なまでに達しているのだ。

 もし破壊されれば、そもそも指揮が成り立たなくなるくらい重要な装備、と言っていいだろう。


 その認識を証明するように、次いでレーダーの起動直後、私の頭の中には――


(見えた……!)


 周囲の状況が、立体的な映像として直接脳内に流れ込んできた。

 おかげで敵の数や種類、配置や細かな動きに至るまで、ほぼリアルタイムで把握可能だ。

 戦場のミニチュアを眺めているよう、と表現すればわかりやすいか。


 そうやって瞬時に敵の規模を確認した結果、私は迫り来るそいつらに対して、ちょっと拍子抜けしたような印象を抱く。


(……そんなに多くはない、か)


 数がそこそこな上に、種類の方も見慣れた連中ばかりだったから。

 要は日頃とあまり変わりがない、至極平凡な敵の集団だったわけだ。

 これならいつも通りの方法で、十分に対応できるだろう。


 ただし無論、油断はできない。

 なぜなら――


(……また、あいつがいるかもしれない)


 ステルス性能を有しつつ、長距離砲撃まで可能な例の強敵が、こちらを狙っていてもおかしくないから。

 目の前に広がる、この茫漠たる宇宙のどこかに隠れ潜んで。

 気を緩めることなど、許されようはずもないのだ。


 もちろん今のところ、戦場のどこにも奴の気配は無いのだが。

 しかしいつ現れるかわからぬ以上、できれば前回のような窮地へ陥る前に、何らかの策を講じておきたい。

 あれへの対処こそが、犠牲を防ぐための鍵となるはずなのだから。


 もっとも残念ながら、具体的な対抗策の方は、未だ何ひとつ思いついてはいない。

 良いアイデアの代わりに、焦りやら不安やらが、無限に湧き出してくるのみなのだ。

 今さらな話だが、世界の違和感の方にかまけて、難敵の対処法を考えておかなかったことが悔やまれる。


 しかも、私がそんな後悔をしている内に――


(……! 始まった……!)


 不意に前方で、いくつかの小さな光が瞬いた。

 距離と方向からしておそらく、先行していたメンバーが敵と接触し、そこに戦端が開かれたのだろう。


 当然それを見た私の胸には、拭いがたい大きな不安が芽生えてくる。


(ヨウスケ君……!)


 もしそこでの戦いで、彼が撃墜されるようなことがあれば、そのまま二度と会えなくなってしまう。

 そういう現実に、息が詰まるほどの恐怖を覚えたからだ。

 本心で言えば、すぐにでもそちらへ赴き、直接無事を確かめておきたかった。


 しかしそれでも、私は胸の内で暴れ回るその気持ちを、力任せに抑え込む。


(いや、駄目だ……!)


 なぜなら戦闘能力の低い私の機体では、側にいたって足手まといになるだけだから。

 むしろ彼の邪魔にならぬよう、できる限り離れていた方がいい、というわけだ。


 それに私の仕事は、あくまでも部隊の指揮である。

 総合的に見れば、そちらの方が彼の助けとなるはずだし、今は己の役割に専念するとしよう。


 そう心を定めた私は、すぐに意識を方向転換し――


(迷うな……自分の仕事に集中……!)


 躊躇いと迷いを振り払って、今度は自分の後方に位置する、味方の機体へと注意を向ける。

 クラスメイト達の現状を確認し、計算できる戦力がどの程度なのか、しっかり把握しておくために。

 もちろん皆がまだ、怯えたまま母艦から飛び立てていないのなら、これからの戦いはかなり苦しくなってしまうわけだが……


 ただし私のその懸念は、あっさりと杞憂に終わった。


(みんな……決断できたんだ)


 残りのクラスメイト達全員が、母艦を離れて、それぞれに前を目指して進む姿が見えたからだ。

 幸い、一人として欠けている者はいない。


 一応飛び立つタイミングに差があったらしく、陣形が崩れ、縦に細長く延びてしまってはいたのだが。

 しかしとりあえずは皆、きちんと戦闘態勢を整えている。

 戦意はしっかり取り戻せた、ということだろう。


 ゆえにそれを把握した瞬間、私はすかさず声を張って、皆に指示を出した。


「みなさん! 敵の数と編成は、いつもとほぼ変わりありません!

 落ち着いて戦えば、必ず勝てるはずです!

 ですから焦らず、これまで通りの対応をお願いします!」


 するとそれに応じて、すでに戦いを始めていた斉川君から、少々焦った口調で質問が届く。


『志藤! 例の隠れたまま砲撃してくる奴は?

 あいつにはどう対応するんだ?』


 どうやら彼の方も、あいつを最も警戒すべき相手、と認識しているらしい。

 だからこそこうして、最優先で対策を聞いてきたのだろう。


 とは言えもちろん、無策な今の私が、すぐその質問に答えることはできない。

 しかしだからと言って、何の指示も出さぬまま、というのもまずいので――


(ここは私が、何とかするしかない……!)


 私は即座に、この問題を自分の力で解決する覚悟を決め、はっきりとその意志を宣言した。

 今も戦闘中の斉川君に、意見を求めるのが不可能な以上、それ以外に選択肢は無いのである。


「こちらで探して、対策を考えます!

 今は目の前の敵に集中を!」


 斉川君は迷わずそれに応じた後、その言葉通り、すぐさま戦闘に戻っていく。


『わかった! 任せる!』


 どうやら彼も、すっかりいつものペースを取り戻してくれたようだ。

 敵を前にしたことで、色々と踏ん切りがついたのかもしれない。


 またちょうど、その会話が終わった辺りで、後発のクラスメイト達も敵と接触した。

 ようやく相手集団と五分で戦える状態になった、というわけである。

 これで先行したメンバーの負担も、少しは減るはずだ。


 ただし、そうして合流は果たせたものの――


(やっぱり、動きが悪い……)


 戦況の方は、どうにも芳しくない。

 原因は当然、今まで通りに戦えているメンバーが少ないから。

 全体の半分ほどが、完全に怯え縮こまった戦い方をしているのだ。

 一連の事態に対する動揺が、未だに抜けきっていないのだろう。


 これだと無論、敵の数が多くないとは言え、戦いの見通しはかなり悪い。

 可及的速やかに、何らかの対処を施さねばならないわけである。


 そこで私は、瞬時に対応策をひねり出し、それを急ぎ全員に伝達する。


「総員に通達! いったん陣形を変更します!

 まず正面は、久保君と斉川君で迎撃!

 橘君と美山さんは、その側面から敵を攻撃してください! 

 それから春日井さんは、正面の二人の護衛を!

 栗原さん、朝倉さん、柳井君の三人は、後方から前衛の援護をお願いします!」


 すると即座に、応答が返ってきたのだが――


『『了解!』』

『『り……了解!』』


 その半分は迷いのないもので、残りの半分は戸惑いに満ちたものだった。

 やはり先の見立て通り、十全に戦えているメンバーは多くないらしい。


 とは言え指示の方は、遅延なく皆に浸透していく。

 それにより陣形が整ったおかげで、戦況の方はとりあえず安定してきた。

 一応の格好はついた、というところだろうか。


 もちろんこの布陣には、各員の強みが少し潰れてしまう、という欠点もあるのだが。

 しかし仮にそうだとしても、犠牲を出すわけにいかぬ以上、現状では安全性を重視するしかない。

 頼るようで申し訳ないが、ここは戦えている面々の奮闘に期待するとしよう。


 そう指揮に一段落つけた私は、いったん戦場から意識を逸らし、集中して思索に耽り始める。

 次の課題である、あのステルス機への対処法を、どうにか知恵を絞ってひねり出すために。


(何か……何か手は……!)


 そこで最初に取りかかったのは、現在までに得られた奴の情報を、ひとつひとつ思い返していくこと。

 自分の記憶をたどって、その行動を詳細に確認していったのだ。


(ええと……あいつは確か……)


 まず現状で、あの機体について判明していることは、大きく分けて二点。


 ひとつは、あれが非常に高いステルス性能を有しており、位置を特定するのがたいへん困難だということ。

 そしてもうひとつは、極めて正確無比な一撃必殺の砲撃を、探知の難しい長距離から仕掛けてくることである。


 つまりは、いつどこから攻撃してくるかさっぱりわからない上、それを一発でも食らったらアウト……というわけだ。

 改めて確認してみると、ますますその恐ろしさが身に染みてくる。


 ただ弱点として、動き回る敵には対処しづらい、という事がわかっていた。

 また最後尾の敵を自動的に狙う、なんて性質もあるようだ。

 高性能だが付け入る隙は多い相手、とも言えるだろう。


 しかしそうして奴に関する情報を、漏れのないよう丁寧に掘り起こしていっても――


(うーん……駄目、思いつかない)


 やはり対策に繋がるような、致命的な急所は見えてこない。

 結局は前回の戦いを、ただ復習するだけになってしまったのである。

 それゆえ胸の内の焦りも、どんどん強まっていくのみだ。


 ゆえに私は、いったん思い切って、考え方そのものを大きく転換してみる。


(もしあれを自分が指揮するとしたら、配慮することはいったい何?)


 自分が実際に、あのステルス砲撃機の指揮官になったと想定し、その状態で運用面の欠点を探ってみようと考えたのだ。

 相手の立場に立ってみれば、何か別の発見があるかもしれない、と思いついたから。


 そしてその新たな方針に従い、再び集中力を高めて考えを巡らし――


(ポイントは、ステルス性能と高い火力。

 それを実戦で運用した際、引き起こされる問題は……)


 他のクラスメイト達が、激しい死闘を繰り広げるその後方で、飽きるほどそれを続けた挙げ句に――


(……もしかしたら)


 ようやくそこで、起死回生の突破口となり得る、ひとつの重要な発想にたどり着いた。



(味方を誤射すること……とか?)








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ