Section-2
更新履歴 21/9/8 文章のレイアウト変更・表現の修正
『以上で、本日のミッションは終了です。お疲れ様でした』
そんな風にゲームの終了を告げる、例の合成音声じみた女性の声を聞きながら、俺は暗闇の中で自分の頭に手を伸ばした。
そして手探りでその闇の元凶――己の視界を塞いでいる、ゲーム用のヘッドセットを取り外す。
結果として直後、俺の目に入ってきたのは、無論見渡す限りの星の海などではなく――
(……ちゃんと、戻ってきてるな)
まずは円を描いて放射状に並ぶ、十二個もの真新しいシートの群れ。
それからその中央に堂々とそびえ立つ、ゲームの筐体である巨大な箱型の機械だ。
これは俺が今しがたプレイしていたゲーム、『ムーン・セイヴァーズ』のために作られた、フルダイブ用の設備である。
それらは全て、その無機質な佇まいから、どことなく未来的な雰囲気を醸し出していた。
きっと傷ひとつない新品で、またカラーリングにもデザインにも、涼しげで洗練された印象があるからだろう。
ゲームのクオリティに見合った、最新鋭の使用機器というわけだ。
またそこには、今まで共にゲームをしていた、顔馴染みのクラスメイト達――ゲームの中で、同じ部隊に所属していた面々――の姿もある。
彼らは皆、自分用のシートに腰かけた状態で、それぞれがゲームの余韻に浸っていた。
ちなみにその表情は、総じて明るく、勝利を得たという充実感に満ちている。
言うなれば部活動での試合に勝ち、誰もがそれを喜んでいる最中、というところだろうか。
まあ単なる部活にしては、設備とか何とか、ずいぶん豪華だなという気もするのだが。
そうして戦いを終えた十二人もの人間が、小綺麗な設備に囲まれ、一堂に会している様子――それはどこか、本当の特殊部隊の待機所のようである。
ここは帰還してきた兵士達の憩いの場、なんて表現をしたっていいのかもしれない。
もっともそんな場の雰囲気とは裏腹に、なんとその周り、機材が設置されている部屋自体は――
(にしても……相変わらず、汚い部屋だ)
たいへんみすぼらしい、と評するに相応しい有り様だった。
設備のフレッシュさとはあまりに落差の大きい、目も当てられぬ眺めが広がっていたのである。
具体的に言うと、まず機材を取り囲む壁や床が、総じて古臭い上に薄汚れている。
加えて全体的な部屋の造りも、とにかく粗末かつ安っぽいので、どうしても貧相な印象が否めない。
磨き上げられたような輝きを放っている設備類と比べれば、時代がふたつみっつ違う、と表現したって大袈裟ではないだろう。
そうも見た目にかけ離れた印象のある両者が、なぜこうして、仲良く同居しているのかと言えば――
(ま、学校だから仕方ないんだけどな)
それはここが、俺の通う歴史ある――と言うか歴史だけは長い――学校の一角に設置された、生徒用のレクリエーションルームだから。
校舎が何十年も前に建てられたものなので、部屋にもこうして、やたらと年季が入っているのだ。
そんな場所へ、こうして無理やり最新鋭の設備を運び込んだのである。
統一感の薄い状況が作り出されるのは当たり前、というところだろう。
すっかり見慣れている光景とは言え、やはり違和感は拭えなかった。
(やれやれ……)
……という風に俺は、部屋のちぐはぐな雰囲気に呆れたりしながら、座りっぱなしのせいで固くなった体をほぐしていたのだが。
そこで不意に、視界へ気になるものが飛び込んでくる。
(ん……サトル?)
自分の隣のシートに浅く腰かけた、我が相棒、結城悟の姿である。
彼もまたゲームの世界から帰還し、俺と同様に小休止しているのだ。
ただしその様子は、日頃と大きく異なっていた。
(……やっぱり、元気なさそうだな)
なんとその整った目鼻立ちの顔を、らしくもなく曇らせつつ、手に持つ自身のヘッドセットをじっと見つめていたのだ。
いつもの爽やかな好青年っぷりが台無しの、ひどく沈んだ雰囲気というわけである。
先ほどのランキングの件を考え合わせれば、彼に何かあったのは明白だろう。
そんな友の姿を見て、俺はすかさず決断を下し――
(よし!)
素早く自分のシートから立ち上がって、悟にまっすぐ歩み寄ると、不振の理由を問いかけてみる。
会話が変に深刻にならぬよう、あえて脳天気なほどの明るい口調を作って。
「よっ、サトル。どうしたんだ今回は。
ずいぶん調子が悪かったじゃないか」
すると悟は、その呼びかけに応じて、軽く驚いた様子で返事をしてきたのだが――
「え? ああ……うん」
それは俺の陽気さと裏腹の、ひどく感情が薄いものだった。
「……そうだね。あんまり、良くなかったね」
いかにも心ここにあらず、と言った反応を返してきたのである。
加えて内容だけでなく、声の方にもさっぱり力が無い。
それだけ抱えている悩み事が深刻、ということなのだろうか。
いやもしくは、先の戦闘における俺の行動を、実はひどく怒っていた……ということも考えられる。
いつもは温厚なこいつだって、度を越して好き放題されれば、腹を立てて当然なのだから。
今日はだいぶ振り回したし、そうであっても何ら不思議はない。
するとそんな風に、柄にもない想像を巡らしたせいか――
(……まずかったかな?)
俺は悟に対して、少しばかり引け目のようなものを感じてしまった。
そこで慌てて、そのフォローをするため、彼に根拠のない励ましを送っておく。
「お、おう……でもまあ、次だよ次! 次はもっと行けるさ!」
悟はそれを聞いて、一瞬だけ沈黙した後、気を取り直した様子で同意してくれた。
「そうだね……うん。また次、頑張るよ」
その口調は先ほどと違って、いつもの穏やかな彼のものだ。
当然そこからは、苛立っているような雰囲気など一切感じ取れない。
どうやら気分を害していたのかも、という俺の心配は、まったくの取り越し苦労だったらしい。
ゆえになんだ勘違いか、と拍子抜けしつつ、俺はまたも軽い調子で話を振る。
心配事が解消されたことへの安堵感で、ちょっとばかり上機嫌になりながら。
「そうそう、その意気だ! じゃあそうだな、帰りながらその辺のことを話すか。
とりあえず、次の戦いの時はさ……」
そしてそれに応じ、シートから立ち上がった悟と共に、揃って移動を開始する。
すでに動き始めていたクラスメイト達に続いて、レクリエーションルームの外へと向かったのだ。
そしていつものように、あれこれと他愛ない会話を繰り返しながら――
(今日も終わったか……)
学校を後にして、二人で帰宅の途についた。
インターミッション
第147特殊騎兵小隊戦闘記録
本日発生した、第六次防衛戦闘についての報告。
第四防衛ラインを警戒中、小規模の敵性集団と会敵。
これに応戦し、全て撃退。
当部隊には被害なし。
以下に、各員の戦果と評価を記述。
ID 147265A
登録名 カイト・キハラ
機体タイプ A-1アサルト
総撃墜数 273
戦果ポイント 4568pt
貢献度評価 B+
ID 147266A
登録名 サトル・ユウキ
機体タイプ B-1アーチャー
総撃墜数 242
戦果ポイント 5524pt
貢献度評価 A
ID 147267A
登録名 スズ・ミヤマ
機体タイプ D-1トルーパー
総撃墜数 145
戦果ポイント 4546pt
貢献度評価 B
ID 147268A
登録名 ノドカ・モチヅキ
機体タイプ E-2サテライトリンカー
総撃墜数 91
戦果ポイント 3121pt
貢献度評価 D
ID 147332B
登録名 アキラ・シドウ
機体タイプ E-1コマンダー
総撃墜数 32
戦果ポイント 1519pt
貢献度評価 A+
ID 147333B
登録名 ヨウスケ・クボ
機体タイプ B-3ブラスター
総撃墜数 157
戦果ポイント 4015pt
貢献度評価 B
ID 147464B
登録名 マサユキ・サイカワ
機体タイプ C-2タンク
総撃墜数 227
戦果ポイント 4439pt
貢献度評価 C+
ID 147465B
登録名 マナ・カスガイ
機体タイプ A-3アサシン
総撃墜数 264
戦果ポイント 5462pt
貢献度評価 A
ID 147818C
登録名 マキ・クリハラ
機体タイプ D-2ストライカー
総撃墜数 192
戦果ポイント 4265pt
貢献度評価 C+
ID 147819C
登録名 ミキヤ・タチバナ
機体タイプ A-2グラディエーター
総撃墜数 108
戦果ポイント 5448pt
貢献度評価 A
ID 147930C
登録名 ミツル・ヤナイ
機体タイプ B-2スナイパー
総撃墜数 143
戦果ポイント 4192pt
貢献度評価 C
ID 147931C
登録名 ユキコ・アサクラ
機体タイプ C-1ガーディアン
総撃墜数 136
戦果ポイント 3617pt
貢献度評価 D+
また、部隊の継戦能力に問題なし。
よって作戦案通り、引き続き第四防衛ラインの警戒に当たります。




