表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-04 『Sacrifice』
36/173

Section-1

更新履歴 21/9/22 文章のレイアウト変更・表現の修正


「私達が今いるこの学校は、仮想空間内に存在するものであり、実際はゲームの中こそが現実の世界。

 そこで私達は、知らぬ間に軍隊へと入れられて、操られるまま戦わされていた。

 そしてすでに、二人もの犠牲者を出している。

 それらは全て、事実だと認識してよいのですね?」



 倉田先生はその、耳を疑うような突拍子もない問いかけに、たいへんあっさりと応じた。

 先ほどよりはいくらか、ふざけ具合を抑えた口調で。


「うん、問題無いよ。

 確かに我々人類は、AIに反乱を起こされ、彼らとの戦争状態にある。

 もちろん今この瞬間も、決して絶えることなくだ。

 君らはその一員、というわけだね」


 やはり、私の推測に間違いはなかったらしい。

 つまり私達は、ここでゲームという建て前の元、ずっと本当の戦争をさせられていたのだ。

 人類の滅亡を防ぐため、心を持たぬ機械の軍団と。


 もちろんそんな話、未だに実感が皆無な上、認めたくも信じたくもないのだが。

 しかし今は、目を逸らしてなどいられぬ状況だ。

 命に関わる危機が、ほんのすぐそこまで迫っているのだから。


 なので私は、手始めに最優先で明らかにすべき事柄について、きちんと先生に確認をとっておく。


「と言うことは、私達の本当の体も向こうにあるわけですよね?

 こうしている今も、それぞれの搭乗機に格納された状態なのですか?」


 現実の世界において、自分達の肉体は今どうなっているのか。

 何よりもまず、それをはっきりさせておこうと思ったのだ。

 その点についての情報は、現状無いに等しかったから。


 その質問に倉田先生は、ほぼ迷いなく答えてきた。


「うん、その認識で大丈夫。

 現在君達の体は、各自の機体に収められ、そこで静かに眠っている。

 次の戦いに備えて、しっかり休養をとっているわけだね。


 ああそれと、あの機体にはきちんと生命維持装置がついているから、体調面の心配は要らない。

 僕が適切に管理しているし、そこは信頼してくれていいよ」


 要はコックピットの中で、みんな仲良く眠りこけているわけだ。

 ある意味ゲームの設定通りの状態、とも言えるだろうか。


 まあ直接自分の目で見たわけではない以上、絶対に確かとも言えぬのだが。

 しかし今までの話と辻褄も合うし、ここは事実と考えて構わないだろう。

 とりあえずはひと安心、というところだ。


 とは言えそれは、肉体をあの冷たい宇宙へ置き去りにしている、とも表現できてしまう。

 そんな状態で私達は、この『平和な学校生活』というゲームをしているのだ。

 改めて確認してみると、寒気を覚えずにはいられない状況である。


 そう背筋を冷やしつつも、私はそれを表に出すことなく、さらなる質問を発した。

 一応は必要事項を確かめられたので、次いで先の先生の発言に出た、気になる単語について聞いてみたのだ。


「では先ほど口にされていた、『調整』というのは何のことでしょう。

 私達の意識の操作や、記憶の消失に関わる、何らかの行為の名称ですか?」


 すると倉田先生は、軽く口ごもりつつ、少し気が進まぬ様子でその問いに応じた。


「うん……その通り。正確には、『順化調整』と言うんだけど。

 僕らにとって都合の悪い事実を、君らに忘れさせたり見過ごさせたりするための、意識の制御技術を示す言葉だよ。

 脳を直接いじくり回して、そういう風に仕向けるということだね……」


 しかし無論、私にとって重要だったのは、先生の腑に落ちぬ振る舞いなどではない。

 その話によって芽生えてきた、大きな大きな不安の方だ。


 ゆえに慌てて、その恐ろしい懸念についての確認を行う。


「だとしたら今、私達が持っている記憶も、その『順化調整』によって植え付けられたものなんですか?

 全部が全部、偽りだと言うのですか?」


 ここに来てからだけでなく、ここに来る前の様々な記憶――それらも全て紛い物なのではないか、と心配になってきたから。

 もちろん胸の内は、そんなのは絶対に嫌だ、という叫びでいっぱいである。


 ただまあ不幸中の幸いと言うべきか、その憂いは取り越し苦労に終わった。

 質問を聞いた倉田先生が、急に口調を明るくして、はっきりとそれを否定してくれたおかげで。


「いやいや、さすがにそこまでの効果は無いよ。

 意識の制御と言っても、暗示や催眠程度がせいぜいだからね。

 封印だけならともかく、新しい記憶の植え付けなんてのは、夢のまた夢さ。

 こうして少しのきっかけで解けてしまうのが、その何よりの証拠だよ」


 それを聞いて、私は全身の力が抜けてしまうほど安堵する。

 自分が何より大切にしている、あの夕暮れの教室での思い出が、嘘ではなかったと証明されたから。

 本当に本当に良かった、と胸を撫で下ろさずにはいられない。


 ゆえにそのホッとした気分に流されて、私はついつい、あまり重要でない質問をしてしまった。


「そう言えば倉田先生は、どういう立場の方なのですか?

 私達の監視が役目なら、やはり軍人……」


 しかしその途中で私は、今さら『先生』はおかしいだろう、という当然の事実に突き当たる。

 彼が教師でないのは明白なのだから、そんな呼び方をする必要は無いのだ。


 どうやら私、しばらく問答を繰り返している内に、本当の授業でも受けている気分になっていたらしい。

 油断大敵な状況だと言うのに、まったく不甲斐ない話である。

 まあそう反省したところで、他に呼び名が見つからないのも事実なのだが……


 ただそんな風に思い悩む私をよそに、次いで倉田先生は、やはり明るくその質問に答えてきた。


「いや、僕も軍属ではないよ。

 君達と同じ、無力で平凡なただの一般人さ。

 まあもちろん、今はそんなの関係無い状況だから、こうして人類のため奉仕してるんだけどね。

 それだけ、大切な戦いということなんだよ……」


 もっともその最後の方には、己の在り方を嘲笑うような、妙に暗く重い雰囲気が混じってくる。

 やっぱりどこか、態度が安定しない人である。


 ただしそれは、現状で強く気にかけるべき問題とも言えない。

 ゆえに私は、そのまま自分にとって重要な事柄に集中し、続けて質問を行った。


「ならどうして、私達のような高校生を兵士に?

 そんな大切な戦いに、わざわざ未成年を駆り出す理由が、いったいどこにあるというのです?」


 倉田先生はその追及を受けて、ちょっと答えづらそうにしながらも、思いのほか素直に事情を説明してくる。


「それはまあ……戦況が悪くて、正規の軍人がほとんど死んでしまったから、というのが主だね。

 人手不足の解消が目的、というわけさ。

 要は大人が足りないから子どもを使う、っていう単純な話だよ。

 人間はいつの時代も、そういう風にしてきただろう?」


 ただその言動には、なぜだか皮肉げな感情が込められていた。

 何だかそういった行いそのものに、強い反感を持っているような雰囲気だ。

 まさしく自分が、その張本人であるにも関わらず。


 そんな先生の態度に、また少しばかり引っ掛かりを覚えつつも、私は問いかけを続けていく。

 その奇妙さにペースを乱され、肝心なことを見落とさぬよう、しっかりと己を律しながら。


「つまりはそれだけ戦況が悪い、ということですか?

 未成年や一般人へ、戦いを強要しなくてはならないほどに?」


 するとそれを聞いたところで、倉田先生の口調が、突然陰鬱なものに変化し――


「悪いよ……とても悪い。

 とにかく数の差が圧倒的だからね、ずっとずっと人間は負けっぱなしだ。

 まあ僕らの方は生き物で、相手は機械なわけだし、当たり前と言えば当たり前の話なんだけど」


 そのままそれに見合う、たいへんに残酷な現実を告げてきた。


「まあそんな事情で、現状戦局はすでに、勝利などあり得ないという段階まで来ている。

 まさしく人類は滅亡寸前、みたいな感じかな」


 そんな驚愕の事実を、何の準備もなく突きつけられた私は、当然のように激しく動揺する。

 結果として慌てふためきつつ、泡を食ってその真意を確かめるしかなくなった。


「そ……それだともう、いくら戦ったって無意味じゃないですか!

 勝つ可能性が無いのなら、当然そうなりますよね?

 つまり私達は、このまま死ぬしかないということなんですか?

 生きる道なんて、どこも無いと言うんですか!」


 知らぬ間にいなくなった、もはや顔すら覚えていない、二人のクラスメイトのように。

 そうどうしようもなく、体を震わせるほどに怯えながら。


 しかし倉田先生は、なぜかその質問には答えず、急に大きく話題を変えてくる。


「他星系移住用実験都市『アヴァロン』……というフレーズに聞き覚えは?

 今こうして、我々が守っている場所のことだけど」


 それに対して私は、またはぐらかされたと不満を感じつつも、とりあえず回答だけはしておいた。


「それは……一応あります、が」


 なぜならその仰々しい言葉に、はっきりと聞き覚えがあったから。

 確か『ムーン・セイヴァーズ』の設定に登場する、月の都市の名前だったはずだ。

 詳しく言えば、月面に建造された、地球以外の星に移住するための……


(……え?)


 ……と、その都市についての記憶をたどったところで、私はとある極めて重要な事実に気がつく。

 ゆえにすぐさま、それをもう一度心の中で繰り返した。


(他星系……『移住用』?)


 そんな反応から、こちらの思考を読み取ったのだろう。

 倉田先生はそこで、我が意を得たりと言った口調で、解説を再開し――


「気づいたかな?

 そう、今その『アヴァロン』において、地球を捨てて別の星への移住しよう! という計画が進行中なんだ。

 総人口が激減した今なら、それも十分に可能だからね。

 人類まるごとお引っ越しプラン、とでも言えばいいのかな?」


 即座に先の疑問への答えを、余すところなく提示してくる。


「ちなみに引っ越し先の方も、すでに目星がついている。

 ちょっと遠いけど、地球と良く似た環境の惑星らしいよ。

 今は人類全体で、その準備を整えている真っ最中なんだ。


 当然、それが完了する時まで生き抜けば、君達もその旅に同行できる。

 みんな一緒に、安全な別の惑星へ移住できるということだね」


 そしてその解答に心底驚き、ほぼ夢見心地で、呆然とそれを繰り返すしかなかった私へ――


「別の惑星に……移住?」


 さらに力強く、自らの考えを宣言した後――


「そう! 別の惑星への移住だ。

 人類の天敵たる、恐ろしい機械の軍団が蔓延るこの宙域を捨て、まだ見ぬ安全な新天地へ。

 それこそ君達にとっての、ただひとつ残された生存の道なんだ」


 まるで絶大な権力を誇る巨大国家の王のように、不遜に不敵に臆面もなく、私達全員の未来を規定した。


「さあ、これでわかっただろう?

 あの宇宙で戦うことこそ、自分達が生き延びるための最善の選択肢なんだ、ってことが。

 もうそれ以外、希望は何ひとつ残されていないんだ。

 だからこれからも、君達は今の生活を続けるべきなんだよ」


 その強制力に抗える者など、当然のことながらこの場にはいない。

 みんな知らされた現実の、あまりの重さと荒唐無稽さに、ひたすら圧倒されるばかりだったから。

 私だって今は、頭の中を整理するだけで手一杯、という状況である。


 そんな私達の様子を、満足げに見渡した後、倉田先生はそのまま次の指示を出そうとする。

 もはや事は済んだ、とでも言わんばかりのぞんざいさで。


「よし、じゃあ早速……」


 しかしその瞬間、何もかも力で統べようとした暴君に対し、自らの誇りに従って勇ましく反乱を起こすかのように――


「……ふざける、なよ」



 一人の男子生徒が、静かに口を開いた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ