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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-01 『Missing』
3/173

Section-1

更新履歴 21/9/8 文章のレイアウト変更・表現の修正


『では、状況を開始します。各自散開して、任意に戦闘を行ってください。

 以降は作戦計画通りに。何か変更があれば、その都度こちらから伝達します』



 淀みなく告げられたその指示に対して、俺は力強く答えを返すと――


「了解!」


 直後すぐさま、機体背部にある推進用のスラスターを起動する。

 そして正面から迫ってくる敵集団へ、一直線に突進を開始した。

 勇敢に部隊の先陣を切り、たった一人で。


 そんな俺を、すかさず迎撃してきたのは――


(最初は……雑魚か!)


 クワガタのような形状をした、ちょこまかと動き回る小さな物体――見た目の虫っぽさから、『バグ』というコードネームを与えられた敵機だ。


 そいつの敵軍における役割は、いわゆる数合わせの先兵であり、量はともかく性能は一番低い。

 要は将棋なら『歩』、チェスなら『ポーン』に相当する、やられ役の雑魚エネミーなのだ。

 当然こんな奴らに、時間などかけてはいられない。


 そこで俺は、すかさず戦闘態勢に移行して、右腕に持つショットガンを構える。

 さらにそれを眼前の敵機に突きつけ、迷わずそのトリガーを引き絞った。


「落ちろっ!」


 すると次の瞬間、わずかな手応えと共に、耳を切り裂くような衝撃音が発生する。

 さらにその直後、銃身の先端からは、無数の青白い光弾が撃ち出された。

 前方へ放射状に、相手の逃げ道を塞ぐようにして。


 そうして放たれた光弾の群れは、狙い違わず目標に命中し、その小さな体躯をあっさりと爆裂四散させる。

 素早く華麗に一機撃墜、と言ったところだろう。


 ただしそうそう、手放しで喜んでもいられない。

 こいつには本物の虫と同様、基本的に群れで動く習性があるからだ。

 まことに残念ながら、これで一段落とはいかぬのである。


 その予測通り、次いで俺の周りには、多数の『バグ』どもが集まってきた。

 やられ役のくせして、バリエーションだけは妙に豊富な連中が、大挙して一斉に襲いかかってきたのだ。


 例えば頭部に小型の格闘武器を搭載し、まっすぐ特攻を仕掛けてくる赤いタイプ。

 あるいは拡散式のガトリング砲で、低火力ながら回避困難な攻撃を行う緑のタイプ。

 加えて比較的高火力な、中型のプラズマ砲を装備した黄色いタイプもいる。

 さらには高い機動性を活かして飛び回り、こちらを撹乱しようとする青いタイプも混じっていた。

 数もかなり多いし、端から見れば窮地のようにも思えるだろう。


 とは言え結局のところ、いずれも数だけを武器とする雑魚なので、基本性能の方は極めて低い。

 どれだけ群がってこようとも、大して怖い相手ではない、というわけだ。


 ゆえに俺は、躊躇うことなくその群れに突撃し、ショットガンを手当たり次第に乱射する。

 そして迫り来る大量の『バグ』どもを、さしたる苦労もなしに撃ち落としていった。

 何やら相手を圧倒している感じがして、手応えとしてはかなり爽快である。


 しかし戦いそのものが、そうして順調に運んでいるにも関わらず――


(くそっ……相変わらず、効率が悪いな!)


 俺はその最中、戦闘を継続しつつも、同時に内心で愚痴をこぼす。

 爽やかな気分とは裏腹の、『戦いがうまくいってない』という感覚に、ひどく苛立っていたから。


 その原因は、これほど敵を落としているのに、大して戦果ポイントを稼げていないこと。

 実はあの『バグ』という機体、容易に仕留められる代償として、撃墜時の獲得ポイントが低く設定されているのだ。

 ポイント稼ぎを狙うのなら、もっと積極的に大物を狩らねばならぬ、というわけである。


 なので俺は、そのまま『バグ』連中の掃討を継続しつつ、稼げる大物を探そうと考えていたのだが――


(……ん?)


 どうやらそのせいで、周りへの注意が散漫になっていたらしい。

 結果『バグ』の殲滅を終えた瞬間、通信越しに鋭い警告を受けることになった。


『カイト! 狙われてるよ!』


 俺はその声に驚きつつも、すぐさま冷静に次の行動に移る。

 警告の詳細を確かめるため、レーダーで自身の周辺を索敵したのだ。

 本当に敵に『狙われている』のなら、可能な限り迅速に、相手の位置を確かめる必要があったから。


 すると今の自分から少し離れた場所、先ほど戦っていた『バグ』集団の後方で――


(……新手か!)


 やや小型の敵が一機、いかにも狙いを定めてますと言った風情で、じっとこちらを注視していた。


 そいつのコードネームは、『ビッグアイ』――中距離の支援砲撃を主な役割とする、眼球を機械化したような形状の敵機だ。

 ちなみにその性能は、火力機動力共に、別段飛び抜けたところの無い平凡な水準である。


 ただしそれでも、『バグ』よりはずっと火力があるので、このまま砲火の直撃を受ければ被害は避けられない。

 要は不注意から、ちょっとしたピンチに陥ってしまったわけだ。


 俺はそんな自分を、油断が過ぎると叱咤してから――


(くっ……迂闊だぞ!)


 タイミング的に回避は困難と判断、すぐさま左腕に装着された、折り畳み式の小型シールドを展開する。

 次いでそれを構えて、例の敵へとまっすぐに正対させた。

 すぐにでも放たれるであろう、その攻撃から身を守るために。


 結果として次の瞬間、敵機が自らの砲口――人間で言うところの瞳に当たる部位――から、主武装である赤い光線を射出する。

 それは高速でこちらに飛来し、間を置かずシールドへと着弾、そこで激しい火花を散らした。


(ぐっ……!)


 直後その影響により、俺は突き飛ばされたように後方へ押し下げられる。

 真正面から敵の攻撃を食らったせいで、衝撃を受け止めきれなかったのだ。


 とは言え一方、幸いにも――


(……よし、防いだ!)


 攻撃は全てシールドで防げたため、本体への被害はほぼ皆無だし、シールドにも大きな損傷は見られない。

 つまりは間一髪、防御に成功したわけである。


 しかもそうして、敵の不意打ちを防いだのとほぼ同時に――


(……あっ!)


 横合いから『ビッグアイ』へ、突如白い光線が伸びてきて、次弾を放とうとするそいつに命中した。

 その一撃は『ビッグアイ』の中心を撃ち貫き、瞬時に爆散させて、簡単に宇宙のゴミへと変貌させる。

 実に見事な援護射撃、と言うしかない。


 そんな敵機の最期を見届けて、脅威の排除を確信した俺は、いったん臨戦態勢を解いた。

 そして自らの失態に、軽いばつの悪さを感じつつ――


(ちょっと、失敗したな)


 今の支援、及び先の警告の主へと通信を開いて、お礼の言葉を述べる。


「悪い、助かったよサトル」


 それに対して、ちょっと呆れ気味の注意を返してきたのは、長い付き合いの友人である結城悟だ。


『攻撃に気を取られすぎてるからだよ。

 ホントにカイトは、いつもそうなんだから。

 まったく危なっかしい……』


 ちなみにこいつは、俺が普段から一緒に遊んでいる相手で、このゲームにおいても常にコンビを組む存在である。

 言うなれば、頼れる相棒というところか。


 もっともこの男、いつもは気のいいやつなのに、俺が無茶をするとすぐに口うるさくなる。

 その優しい性格ゆえか、かなりの心配性だからだ。

 このままだとおそらくは、しばし懇々と説教が続くことだろう。


 もちろんこのゲームの、あまりにも重いデスペナルティ――一度撃墜されただけで、全てのデータが消失する――という措置を考えれば、神経質になるのは当然なのだが。


 しかし無論、説教なんて面倒臭いだけだ。

 なので俺は、機を見て悟の話に割って入ると、だいぶ強引にそれを打ち切った。


「まあまあ……そう言うなよ。結局は無事切り抜けられたんだから、それで十分じゃないか。

 さあて、次だ次!」


 そして返事も待たず、レーダーへ視線を戻すと、計画通り大物のエネミーを探す。

 再び奇襲を受けないよう、周囲へしっかり注意を払いながら。


 するとほどなくして、運良く――


(いたいた!)


 自分から見て左前方やや上の、現在地からそう遠くない場所に、単独で行動するおいしい獲物を見つけることができた。

 そいつの名前は『ゴーレム』――他と比べて一際巨大で重装甲、そして高ポイントの敵である。


 その外見は、自らの腕を翼に変えた人間に似ている。

 あるいは、哀れにも両の腕をもぎ取られた天使、とも言えるか。

 そういうどこか神秘的な印象のある、純白の大型機である。

 雰囲気的には、以前何かの機会で見た、『サモトラケのニケ』という有名な彫像にそっくりだった。


 とは言えその芸術品じみた見た目とは裏腹に、体には恐ろしい武器を内蔵している。

 本来なら顔が存在すべき部分に、大口径のプラズマキャノンが搭載されているのだ。

 直撃を受ければ無事では済まない、たいへん高威力の武装である。


 またその美しい翼からも、敵の接近を防ぐため、無数の光の散弾を放ってくる。

 それは威力こそほどほどなものの、回避がたいへん難しいので、闇雲に突っ込めば被害は避けられない。

 あいつはそういう、攻防ともにほぼ隙の無い難敵なのだ。


 しかしその分、撃墜時のポイントも極めて高い。

 チマチマ『バグ』を落とすのとは、比べ物にならない点数が稼げるはずだ。

 リスクがあるとしても、やはりここで逃す手は無いだろう。


 その判断に従って、俺は攻撃の開始を決定し、直後それを一方的に宣言した。


「ようし、敵機発見! これより迎撃に移る!」


 次いでそんな俺を、慌てて制止しようとした悟に構うことなく――


『待って、まだ話は……』


 再度スラスターを起動、見つけた敵へ突撃を敢行する。

 相棒の説教を避けられたことに、ホッと胸を撫で下ろしながら。


 またその最中、使用する武器を交換しておいた。

 今まで使っていたショットガンから、貫通力のあるライフルに持ち替えたのだ。

 装甲の厚い相手に対しては、こちらがより有効だからである。


 そして早速、それを構えつつ前進し、例の『ゴーレム』に狙いを付ける。


 するとその挙動を察知したのか、視線の先の『ゴーレム』が、不意に行動を開始した。

 こちらへ向き直りつつ、大きく背中の翼を広げて、そこから周囲に光の弾をばらまき出したのだ。

 その攻撃で、俺の接近を阻もうとするかのように。


 当然それは、避けきれるような密度ではなく、また無視できるほど低威力でもなかったので――


(チッ……そう簡単にはいかないか!)


 俺はやむを得ず、『ゴーレム』への接近を中止し、戦い方を防御寄りに切り替える。

 光弾の雨を盾で防ぎながら、その合間にライフルを連射し、幾度も奴へ撃ち込んでいったのだ。


 しかしその奮闘も空しく、俺は思うような成果を上げられず、再び愚痴をこぼすしかなくなった。


(こいつ……相変わらず固いな!)


 その元凶は、敵の装甲が非常に厚く堅牢なこと。

 自機の火力ではそれを貫けず、有効なダメージを与えられないのだ。

 おそらくこのままだと、先にこちらの盾が破壊されてしまうだろう。


 実はこれこそが、俺の選択した機体、A-1アサルトの欠点である。


 格闘も射撃もできて、機動性も装甲も十分だが、その一方で飛び抜けた火力の武器が無い。

 あるのは二本のプラズマソードと、同じくプラズマ光で攻撃するライフルとショットガン、それから牽制用の頭部機関砲だけなのだ。


 ゆえにあの『ゴーレム』ほど装甲が厚い敵を相手にすると、こうして火力不足で苦しむ羽目になる。

 名前が格好いい、という理由でこれを選択したのだが、やはり失敗だったのかもしれない。


 ただそうして、強敵への対応に苦慮する俺へ、再び悟が支援を申し出てくる。

 先ほどのやり取りを忘れたかのような、一切屈託のない口調で。


『カイト! 援護するよ!』


 俺はそんな友人に、『ちょっと人が好すぎるよな』という印象を抱きつつも――


「ああ、頼む!」


 内容自体は渡りに舟だったので、迷うことなくその提案を受諾した。

 それから展開していた左腕のシールドを収納し、そいつと入れ代わりに格闘戦用のプラズマソードを装備する。

 ダメージを受けるリスクも厭わず、奴へと接近戦を仕掛けるために。


 なぜ俺が、突然そんな風に戦闘スタイルを変えたかと言うと、それは悟の能力を頼みに力押しで攻めると決めたから。

 あいつの支援さえあれば、そうした無茶も十分に可能なのである。


 ちなみに俺がそうまで当てにする、あいつの機体のタイプは、B-1アーチャー。

 様々な間合いや戦局に対応できる、オールラウンダー型の射撃機だ。

 俺のA-1アサルトと似た性能、と言っていいだろう。


 もっともあれは基本、距離を取っての運用が推奨されている機体である。

 射撃系の武装が強く、また装甲が比較的薄い設計だから。

 正面から突撃なんて戦法は、本来ならあまり褒められたものではない。


 しかし悟は機体の運動性能と、自らの反応速度を頼りに、躊躇うことなく前線に出ていく。

 ひとつ残らず敵の攻撃を回避することで、装甲の薄さをきっちりカバーしてしまうのだ。

 気遣い屋な性格に似合わぬ、堂々たる戦いぶりと言えよう。


 だからこそ俺の方は、こいつに背中を預けて、ハイリスクな選択が可能となるのだ。

 やはり頼りになる相棒、と言うより他はあるまい。


 その信頼感を胸に、俺は悟へ指示を出すと――


「よし、行くぞ! 二手に分かれて攻める!」


 即座に行動を開始して、いったん散開、それぞれ別方向から先ほどの『ゴーレム』へ突撃をかける。

 ただしほんのわずかに、俺の方が先行した状態で。


 そうして連携を取って動く俺達二人を見て、『ゴーレム』の方も反応、機体を旋回させて迎撃体勢をとった。


(仕掛けてくるか!)


 具体的には、光弾による攻撃を継続しつつも、主砲をまっすぐ俺の方へと向けたのだ。

 これからお前を撃ち落とすぞ、と宣言するかのように。

 無論あれの直撃を受ければ、この機体もただでは済まないだろう。


 だが実はあの武装、起動から発射までの間に、わずかながらタイムラグが存在する。

 いわゆる『溜め』の時間が、ほんの一瞬だが必要とされるのだ。

 強力な反面、生まれる隙も大きい、というところか。


 要はそこを見極められれば、十分に回避は可能なのである。

 それゆえ恐れることなく、俺は速度を緩めず直進を続けた。


 すると次の瞬間、こちらを狙う『ゴーレム』の砲口の奥に、ごくかすかな薄い黄色の光が生じる。

 あれは間違いなく、奴が攻撃を行う前兆である。

 おそらく一秒と経たぬ内に、こちらへ強烈な砲撃が放たれるはずだ。


 なので当然、俺はそれを視認すると同時に――


「甘いぞっ!」


 機体のスラスターを急激に方向転換し、極めて強引な横への回避運動を行った。

 ボクサーが華麗なサイドステップを決めて、対戦相手の渾身のパンチを避ける時のように。


 その直後、とてつもない轟音と共に、今まで俺がいた位置を極太の光線が通過していく。

 敵機がぶっ放した、食らえば即撃墜というレベルの砲撃である。

 やはりあの『ゴーレム』、火力に関しては驚異的な水準と言うしかない。


 ただ目論見通り、こうして寸前で避けることができた。

 いくら威力が高かろうと、命中しなければ無意味というわけだ。

 この調子なら、油断せぬ限り直撃はなさそうである。

 そんな風に自信を深めつつ、俺はさらに奴へと接近していく。


 しかしそのまま、敵にあと一歩という距離へ近づいたところで――


(そろそろ、きついか……)


 視界のほぼ全面が、『ゴーレム』の放つ小さな光弾で埋め尽くされてしまった。

 しかも周りからは、そいつが機体に命中する際の不快な金属音が、立て続けに聞こえてくる。

 どこか分厚い鉄板に向けて、無数のナイフを投げつけているかのような響きだ。


 また同時に全身へ、肌が削り取られていくような感覚も走った。

 どちらの現象も、自機が光弾の嵐で損傷を受けていることの証明である。

 このままでは機体にダメージが蓄積し、遠からず戦闘不能になることだろう。


 とは言えそれは、少し見方を変えれば、奴の注意を引きつけられているということでもある。

 ゆえに俺は、あえてダメージを気にすることなく、そのまま一直線に前進を続けた。


 そんな俺の、無茶な行動へ応えたかのように、次いで突如後方から――


(……来たっ!)


 白く輝く一条の光線が出現し、瞬時に俺を追い抜いて、まっすぐ眼前の『ゴーレム』に向け突き進んでいく。

 悟がB-1アーチャーの主武装、大型のプラズマライフルを発射したのだ。


 そしてそいつは、目標の左の翼、その付け根辺りに直撃した。

 おかげで例の光弾による広域攻撃が、左側のみだが完全に停止する。

 おそらく動力系が一部破壊され、翼部分へのエネルギー供給が絶たれたからだろう。


 つまりは的確な射撃で、相手の攻め手をいとも簡単に奪ってしまったわけだ。

 必ずしも狙撃用ではない武器で、この精度を実現するとは、相変わらず見事な腕前である。


 そう自らの相棒を、内心で称賛しつつ――


(よし! 行けるっ!)


 俺は光弾が止まったおかげで生まれた死角――敵の左側へと回り込み、そこから安全に接近していった。

 これで格闘武器の間合いまでは、もうほんのひと息というところだ。


 ただそこで、目の前の『ゴーレム』の動きが変化する。

 わずかに旋回し、もう一度主砲を起動するような素振りを見せたのだ。

 おそらく至近距離から、俺に向け発射するつもりなのだろう。

 もちろんこうも近づいていると、さすがに回避するのは難しい。


 だがそのピンチにも、俺は一切臆することなく――


「させるかよっ!」


 背部のスラスターを全開にして、残った距離を一気に詰め切ると、瞬時に左手のプラズマソードを突き出した。

 再び輝き始めた敵の砲口に向け、突進の余勢を駆ってまっすぐに。


 結果その一撃は、狙い通り砲口の奥深くにまで到達し、みるみるその輝きを失わせていく。

 これでおそらく、砲塔の内部が破壊され、主砲は発射不能になったはずである。


 しかしそれでも、俺は決して手を緩めず、即座に次の攻撃へ移った。


「まだまだっ!」


 さらに同じ箇所へ、右手のライフルを直接ねじ込むと、完全なゼロ距離状態でそのトリガーを引き絞ったのだ。

 人間で例えるのなら、口に銃を突っ込んで発砲した、というところだろう。


 そして突き入れた銃身の先端から、白い光が放たれるのを確認した後、すぐさまその場から離脱する。

 攻撃の巻き添えを食わないよう、『ゴーレム』と一定の距離を取ったのである。


 すると次の瞬間、地響きのような音と共に、砲口部から勢い良く爆風が噴き出してきた。

 おそらく今の攻撃が、主砲のジェネレーターか何かを破壊し、内部で大爆発を引き起こしたに違いない。


 その猛烈な衝撃には、さすがの『ゴーレム』も耐えきれなかったらしい。

 次いで奴は、周囲へ轟音を響かせつつ、爆発で機体を粉々に砕かれていく。

 まるで命を吹き込まれた石像が、断末魔の叫びを上げながら崩壊しているかのように。


 やがて、その爆発がおさまる頃には――


(……やったか?)


 周囲の空間には、物言わぬ無数の金属塊が、不規則に漂うばかりになった。

 もはやこの付近に、動くものは一切存在しない。

 これでようやく敵を撃墜、見事に戦果ポイント獲得というわけだ。


 そんな相手の末路を、俺と同様見届けたのか、悟が嬉しそうに通信を入れてくる。


『やったね! カイト!』


 俺はその彼の反応に対し、勝利の喜びを分かち合うのもそこそこに、間を置かず戦闘の再開を宣言すると――


「おうよ! 次もこの調子で行くぞ!」


 相手の返事も待たぬまま、さっさとレーダーで次のターゲットを探し出し、見つけた敵機へ突撃をかけた。

 せっかく作ったいい流れが、ここで切れてしまうことのないよう、攻勢を続けたのである。


 悟はそんな俺の行動に、やはり軽く抗議をしてきたのだが――


『だから慎重にって……ああもう!』


 それ以上文句を重ねることもなく、後に続いて前進を開始する。

 なんだかんだと小言が多くても、結局は付き合いのいいやつ、というわけだ。


 相棒のその厚意に内心で感謝しつつ、俺はまだまだ余力を残している敵集団に突進し、再び激しい戦いに身を投じた。

 少しでも多く、戦果ポイントを稼いでおくために。


 そうしてしばし、俺は悟と二人で戦闘を継続していく。

 巧みに連携を取りつつ、戦場を暴れ回って、群がる敵をひたすらに撃破し続けたのである。


 するとそれがずいぶんと長引いて、少なからず疲労を感じるまでに到達、もう十分かなという実感が芽生えてきたところで――


(……お?)

 

 たいへん都合のいいことに、作戦の終了を告げる指示が届く。


『敵軍の後退を確認しました。追撃の必要はありません。

 各機、母艦に帰投してください』


 その言葉通り、戦況を現すレーダーには、散り散りに後退する敵軍の姿が映っていた。

 これだとこちらからの追撃は難しいし、数もだいぶ減っているから、確かに放置して構わないだろう。

 要はこれにて任務完了、というわけだ。


 それを油断なくきちんと見届けた後、俺は艦への帰投を開始する。


(じゃあ……戻るかな)


 指示通り機体を反転させ、後方に控える母艦へ進路を向けたのだ。

 今回はわりと調子良かったな、などと軽い自画自賛をしながら。


 加えてその途上、視界に表示されている情報を操作し、先の戦いの結果を確認しておくことにした。


(さてさて、どんな感じかな?)


 そこで閲覧したのは、戦果ポイントのチーム内ランキングだ。

 これは今しがた行われた戦闘において、部隊の各員が獲得したポイントを、一覧にして高い順に並べた表である。

 ゲームの通知表みたいなもの、と言えばわかりやすいか。


 それゆえこのランキングで良い結果が出れば、当然のごとく大きな達成感を得られる。

 俺としてはこれを確認することが、ゲームをプレイする上での重要な楽しみなのだ。

 今回はかなり積極的に戦えたし、結構良い成績が出ているに違いない。


 するとその実感の通り、期待に大きく胸を膨らませながら、ランキングを確認した俺の目に――


(おっ……二位に入ってるじゃん)


 十二人中二位、という非常に良い数字が飛び込んでくる。

 いつもは四、五位辺りが定位置なので、相当うまくやれたと言えるだろう。

 手応えに違わぬ評価で、嬉しい限りである。


 ただそうして、独り心から満足しつつ、ランキングをひと通り確認し終わった瞬間――


(あれ……?)


 俺はそのポイントランキングに、看過しがたい異常が発生していることに気づいた。


(サトルが、九位?)


 頼れる相棒殿が、ずいぶんと低位に甘んじていたのだ。

 常日頃はトップ争いをする腕前で、俺もほとんど勝ったことがないというのに。

 どうやらあいつ、今回はすこぶる調子が悪かったらしい。


 となれば当然、その原因は気になるところだ。

 あいつがここまで成績を落とすなんて、よほどの事があったに違いないのだから。

 何かプレイに支障をきたすくらいの、深刻なトラブルでも発生したのだろうか……


 そんな風に俺は、友の身に起きた異変を憂慮し、帰還中もあれこれ考えを巡らしていたのだが――


(……お? もう着いたのか)


 そうこうしている内にも、ずいぶんと時間は経過していたらしく、ふと前方に目標である母艦の姿が見えてきた。


 そいつは自機と似た地味な色合いの、巨大な宇宙用輸送艦だ。

 その姿がどこか、海に浮かぶクジラを彷彿とさせるのは、全体的に丸みを帯びたフォルムをしているせいだろう。

 軍用の艦船のわりに、何とも親しみを感じるデザインである。


 戦場には似合わぬその我らが母艦へ、悟は俺より一足先に接近すると、すぐさま格納庫へ飛び込んでいった。

 これでは当然ながら、先のランキングの件について、あいつに質問している暇は無い。

 ここは余計なことを考えず、さっさと戻って休んだ方がいいだろう。


 そこで俺は、自分も彼に続いて母艦へ近づき、開いているハッチから格納庫内に進入する。

 そしてバランスを取りつつ、その床へと着艦、帰投作業を完了した。


 すると直後、全機の収納を終えたからか、艦のハッチがゆっくりと閉鎖を開始する。

 さらにそれと前後して、作戦の完了を示す合成音声が聞こえてきた。

 ゲームを終了する際、いつも流れるガイドアナウンスだ。


『作戦終了

 機体をスリープモードに移行します』


 その言葉通り、間を置かず機体の動作は完全に停止する。

 またそれに伴って、視界が徐々に暗くなり、同時に意識も曖昧になっていった。

 これにてゲームは終わり、ということである。


 ゆえにそのまま、俺は流れに任せて――


(はい、今回はここまで……っと)



 ゲームからログアウトし、現実へと帰還した。








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