Section-2
更新履歴 21/9/18 文章のレイアウト変更・表現の修正
卒業式についての話し合いを終えた後、僕はすぐさま、『ムーン・セイヴァーズ』のプレイを開始した。
クラスメイト全員と共に、いつものレクリエーションルームへと移動して。
そこから仮想空間内に再現された、本物と見紛うほどのリアルな宇宙に向かい、本物さながらの戦争を始めたのだ。
しかしその後いくらも経たない内に、僕は戦局に対して、ややネガティブな感想を抱くことになっていた。
(なんか……あんまり、状況が良くないな)
なぜなら味方の戦いぶりに、いつもよりもずっと苦戦している、という印象があったから。
皆が揃って、いつも通りに戦闘し、いつも通りの敵と戦っているはずなのに。
これは何やら、ちょっとばかり不可解な事態と言えるだろう。
ゆえに僕は、改めて戦場全体を俯瞰し、戦闘中のクラスメイト達を観察していく。
その些細な異変が、本格的なトラブルへと変貌する前に、詳しい原因を見定めておこうと考えたのである。
(えっと……みんなはどんな感じかな?)
そこで最初に見えたのは、栗原さんのD-2ストライカーと、橘君のA-2グラディエーターだった。
二人は味方の先陣を切り、肩を並べて敵陣に突撃している。
要は最も危険な、部隊の切り込み役を担っているわけだ。
その役割を具体的に説明すると、まずは栗原さんの機体が、高い加速力と重装甲を頼りに敵へ突撃する。
次いで接敵と同時に、拡散式の連装プラズマキャノンと、大量のマイクロミサイルランチャーを撃ち放つ。
自機の火力を総動員して、広範囲の敵に強烈な先制攻撃を加えるために。
そうして大打撃を受けた敵に対しては、さらに橘君が追撃をかけて、思う存分大暴れする。
その高い格闘性能を活かし、遠距離からでは落としきれぬ固い敵を、どんどん斬り捨てていくのである。
結果相手の戦力は、開始早々大幅に削減……というのが、この部隊のいつものパターンだった。
ちなみにその後、敵が態勢を立て直してからは、突撃隊の二人はいったん後退する。
そしてそれと入れ代わりに、朝倉さんのC-1ガーディアンと、斉川君のC-2タンクが前へと出ていく。
正面に壁を形成しつつ、厚い装甲と潤沢な火力を駆使して、真っ向から敵と撃ち合うことを目的として。
そんな二人をサポートするのは、春日井さんのA-3アサシンと、柳井君のB-2スナイパーだ。
春日井さんは、懐に入られると弱い斉川君を、その高い近接戦闘力で護衛する。
また動きが鈍く、遠距離から一方的に撃たれがちな朝倉さんは、柳井君が狙撃によって支援を行う。
それぞれの特性を活かし、相方の弱点を補うのである。
そしてそんな仲間達を、アキラちゃんのE-1コマンダーが後方から指揮し、その護衛および苦戦する味方の救援は、僕のB-3ブラスターが担当する。
各員の強みと弱みを考慮した、たいへん合理的な配置と言えるだろう。
実際今回の戦いも、皆がこの役割分担通り動き、きちんと戦果を上げている。
僕としてはやはり、この編成を考えたアキラちゃんに、相変わらず凄いなあと感心するしかない。
しかし頭ではそう考えているのに、僕はなぜか、確認したその現状に対し――
(……何か、足りない気がするな)
出所不明の、強い違和感を覚えた。
自らの言葉通り、何かが不足している、と思わずにいられなかったのだ。
その原因を探して、僕はもう一度、自軍の戦力を詳細に検分してみたのだが。
結果として、少しばかり贅沢な欲求にたどり着いてしまう。
(遊撃部隊が欲しい、かな)
安定した機動力があって、縦横無尽に戦場を駆け巡れる上、汎用性も高く様々な状況に対応可能――そういう便利なチームがいたらいいのに、と強く感じたのである。
それならもっと、戦いが楽になるはずだから。
いやむしろ、なぜそういう役割の人達がいないのだろう。
アキラちゃんであれば、僕なんかよりもずっと早くその問題に気づき、対策を講じていてもおかしくはないのに。
何かそうできない理由がある、ということなのかもしれないが……
そう降って湧いた疑問に囚われ、僕の注意が、少しばかり散漫になっていたところへ――
『久保君』
不意にアキラちゃんから、よそよそしい口調での通信が入った。
下の名前で呼ばないのは、普通の通信だと、皆に聞かれる可能性があるからだろう。
察するにその内容も、個人的な話ではなく、ゲームに関する事柄に違いない。
であればこのまま、独りぼんやりと考えに浸っているわけにもいかない。
なので僕は、泡を食って我に返りつつ、急いでその言葉に応じる。
「う、うん。何? 志藤さん」
案の定、そこで僕へ告げられたのは、とびきり事務的な作戦指示だった。
『美山さんが苦戦しているみたいなので、彼女の援護をお願いします』
それに促され、美山さんの様子を確認すると――
(……確かに、苦戦中だ)
彼女の搭乗するD-1トルーパーが、多数の小型機に囲まれ苦戦中、という光景が目に入ってくる。
きっと機体の特性上、ああ言った細かい敵への対処が難しいのだろう。
それでも普段は、そこを望月さんのE-2サテライトリンカーがカバーし、大物を仕留めて高い戦果を上げるのだが。
今は彼女が不在なせいで、あまりその辺りがスムーズにいってないらしい。
そう、実は今回の戦い、望月さんが参加していないのだ。
精神状態がとても悪いから、落ち着くまで休ませたい、という美山さんの意向によって。
まあ教室での振る舞いを見る限りでは、それも納得の話なのだが。
となると先ほど、全体的に戦闘がうまくいっていない、と感じたのもそのせいだろう。
単独戦闘を強いられた彼女の担当エリアが弱く、作戦遂行上の穴となっているわけだ。
支援が必要というのは、確かに妥当な判断である。
そんな風に状況を把握した僕は、すかさずそのアキラちゃんの指示に、肯定の言葉と出発の挨拶を返してから――
「うん、了解。じゃあ、行ってきます」
すかさず機体のスラスターを起動、美山さんの元へと向かった。
やっと自分の出番だな、なんてらしくもなく気分を高揚させながら。
そしてほどなく、彼女の近くへ到達すると、連携を取るためまず一声かけておく。
「美山さん! 援護に入るよ!」
美山さんはその申し出に、ほぼ迷いなく応じた。
『久保君? ……わかった、お願い!』
それを聞き届けた直後、僕は彼女の援護を行うため、素早く自機の主兵装を準備する。
全長が機体と同じくらいある、長大な手持ち式のプラズマ砲を構えたのだ。
一応名称は、『マルチプルプラズマランチャー』と呼ばれている。
こいつはそのサイズに見合った高い火力を有する上、射出形式を収束と拡散で切り替え可能――一点を集中して撃つか、放射状に広い範囲を撃つか選べる――という利便性を併せ持つ武装だ。
まあそのせいで多少、射程と速射性能が犠牲になってはいるが、基本は頼りになる僕の相棒である。
ゆえにそいつを敵に向け、しっかりと狙いを付けてから、即座に引き金を引いた。
もちろん美山さんを巻き込まぬよう、モードを収束型に設定して。
(行けぇっ!)
すると砲身の先端から白い光が放出され、敵に向けて一直線に進んでいく。
結果その光は、彼女にまとわりついていた『バグ』の内一機に直撃し、そいつを瞬時に爆裂させ吹き飛ばした。
挨拶代わりの一発が、首尾良く決まったというわけだ。
(よしっ! やったぞ!)
ただその成果に満足し、悦に入る僕の前で――
(……! こっちにも来た!)
敵集団が半分に別れ、その内の一方がこちらへ迫ってくる。
『バグ』とそれに混じった、少数の『ハウンド』の一群だ。
接近戦が苦手な僕としては、できる限り距離を取りたい相手である。
とは言え別に、想定外の不都合な事態、というわけでもない。
なぜならこれで、美山さんを狙う敵が減少し、彼女の方は動きやすくなるはずだから。
むしろ期待通りの結果、とさえ言えるのだ。
なので慌てず騒がず、プラズマランチャーを拡散モードに切り替えると、それを押し寄せる敵に容赦なく浴びせかけた。
相手はその攻撃を正面から受け、こちらに近づけぬまま、次々と撃ち落とされていく。
もちろん中には、その弾幕をくぐり抜け、一気に肉薄してくる奴もいたのだが――
(やらせないよっ!)
僕はそんな連中に対し、今度は肩に積んだプラズマガトリング砲を発射、距離が近い奴から順に仕留めていった。
やはり接近を許さず、ほぼ一方的に。
これは射程も威力も控えめだが、速射性能に優れた武装であり、こういう連中の対処には最適なのだ。
おかげで戦いは、かなりこちらの有利に進んでいく。
しかしそうやって、万事が順調に行くかと思われた、まさにその時――
(……! 新手か!)
集団の後方に何機か、『バグ』と異なるタイプの増援が出現した。
あれは僕らが『サンフラワー』と呼称している、名前そのままにヒマワリを模した、特殊な形状の中型エネミーである。
その武装は主に、花弁状の部位に搭載された連装ミサイルランチャーと、中央部に鎮座する大型のプラズマキャノンだ。
また敵に接近されると、植物の蔦のような鞭状の武装での格闘も行う。
射程に隙の無い、優秀な攻撃機と言えるだろう。
……なんて言うと厄介そうに聞こえるが、しかし僕はその連中のことを、それほど大きな脅威とは感じていなかった。
(あのくらいの数なら、なんとかなるな)
なぜなら火力装甲共に平凡な上、機体サイズも比較的小型なので、他の強敵に比べると対応が容易だから。
バランスは良いが、深刻な脅威にはなり得ないのである。
油断さえしなければいい相手、と言ってしまって構わないだろう。
ゆえに僕は、未だ十分な距離があるそいつらに向けて――
(なら、これで!)
射程と精度に強みのある、背部の連装レールカノンを使用し、相手の間合いの外から正確な砲撃をお見舞いする。
敵が動く前に、こちらから先制攻撃を仕掛けたのである。
すると狙い通り、僕の攻撃は目標へ命中、その装甲をあっさりと貫徹した。
結果としてそいつは、大きな爆発を起こして四散し、瞬く間に宇宙の藻屑へと変わっていく。
やはり性能的には平凡、この対処法で問題は無いようだ。
そう自身の戦術の正しさを確信しつつ、僕は攻め寄せる『サンフラワー』達を攻撃、一機一機着実に撃ち落としていった。
もちろん付近の敵も、変わらずガトリング砲で迎撃しながら。
そのせいで多少忙しくはなったが、しかし対処不可能というほどではない。
このままであれば、きっと勝利はすぐそこのはずである。
そんな思惑の通り、僕がそのまま迎撃を続けていると、敵の数が目に見えて減少していき――
(よし……これで全部かな)
そう大した時間をかけることもなく、見事攻撃してきた敵の掃討を完了する。
一応それなりに被弾はしたが、深刻なものはほぼ無い。
かなりうまく戦えた、と言えるだろう。
その戦果に深く安堵しつつも、僕は間を置かず視線を巡らし、付近で戦闘しているはずの美山さんへ注意を向けた。
まだ彼女が苦戦中なら、すぐさま助けに行かねばならないからだ。
(美山さんの方は大丈夫かな?)
もっともその心配は、次いで呆気なく取り越し苦労に終わる。
(……大丈夫、みたいだな)
向けた視線の先で、美山さんが一機の『ゴーレム』に対して突撃を行い、プラズマランスで撃ち貫く様が見えたから。
全く心配無用、みたいな雰囲気である。
しかもそれを見た他の小型機達が、不意に動きを変え、先を争うように撤退を始める。
きっと今の奴が撃墜されたことにより、主力の大型機が全滅したから、そうするしかなくなったのだろう。
要はこれにて、彼女の救援は無事完了、というわけだ。
それを確かめてから、僕はすかさず美山さんに通信を入れ、賛辞も含めつつねぎらいの言葉をかけた。
「お疲れ、美山さん。さすがだね」
美山さんはそれに、ホッと一息、といった口調で応じる。
『うん……ありがとう、久保君。
おかげで助かったよ』
どうやら加勢に来た甲斐は、それなりにあったということらしい。
役に立てたようで、こちらとしても何よりである。
僕はそう胸を撫で下ろししつつ、彼女のお礼に、『どういたしまして』と返した後――
(さてと、コンディションチェックだ)
間を置かず、機体の点検作業を開始した。
今なら軽く一息つけそうだったので、先々のことを考え、戦闘の影響を確かめておこうとしたのだ。
もっともその作業は、思いのほかあっさりと終わる。
戦闘後に抱いた印象の通り、機体の損傷がいずれも軽微なものだったから。
まあ時間的に短い戦いだったし、ある意味それで当然なのだが。
ただそんな風に、自分の機体へ意識を集中したせいか――
(『スプリガン』……だったよな。
この……危険なロボットの名前)
僕はふと、自分が搭乗している物に対して、ほんの少しだけ嫌悪感を覚えた。
実は今さらながらに、よくよく考えたらずいぶん非人道的な兵器だよな、と認識したのである。
だってこの機体の搭乗者、なんとあらゆる感覚器官を機械に繋がれた状態で、内部に格納されているらしいのだ。
そして自分の意志での乗降は許されぬまま、激しい戦いを強いられている。
前に読んだ、ゲームのプレイガイドに付随する設定資料集で見たから、それで間違いはない。
要は良く言っても檻に入れられた囚人、悪く言えば機体のパーツ同然、みたいな立場であるわけだ。
ほぼ人間扱いされてない身分、とさえ言えるだろう。
一応そうでなければ、人間が生身で宇宙戦闘を行うのに十分な能力が確保できない、とか。
敵による機体へのハッキングを防ぐため、直に搭乗者と接続する必要があった、とかそんな理由があったようだ。
それ自体はまあ、理屈としてわからなくもない。
とは言え本来、何をどう考えても許されざる行為であろう。
本当に自分やアキラちゃんが、そういう扱いをされていたらと想像すると、肝が冷えるばかりだ。
これも人間追い詰められれば何でもやる、という現実の証明なのだろうか。
……なんて物思いに、僕はしばし耽っていたわけだが。
(……余計なことだったな)
そこですぐ、あくまでこれはゲームの設定でしかない、ということを思い出したので――
(よし、次いこう)
素早く頭を切り替えて、続く戦闘の方へと意識を戻し、それからアキラちゃんへ通信を入れようとした。
次に自分が何をすべきか、彼女に指示を仰ぐために。
だがその寸前、まるでそんな僕の先回りをしたかのように、アキラちゃんが指示を発する。
どこか追い詰められたような、妙に堅苦しい口調で。
しかもその内容は、僕達全員にとって、少なからず驚くべきものであった。
『各員に伝達。
現時刻をもって、当部隊は戦闘行動を終了します。
速やかに母艦へ撤退してください』
それを聞いて僕は、内心で思わず驚きの声を上げてしまう。
(ええっ……もう撤退?)
その『ここで撤退する』という彼女の判断が、かなり意外なものだったから。
ゆえにすぐさまレーダーに目を向け、近場だけでなく、周囲の戦況まで詳細にチェックしていく。
なぜなら――
(まさか……そんなに状況が悪いのか?)
僕の知らぬ間に、敵の大きな攻勢か何かがあったのではないか。
それにより戦況が悪化したせいで、彼女がこんなにも早い撤退を決断したのではないか。
そういう不吉な予測が生じたので、それが事実なのか、自分の目で確かめようとしたのだ。
しかしその僕の危惧は、結局のところ、単なる取り越し苦労に終わった。
(……大丈夫そう、だな)
味方はかなりの優勢で、むしろ勝利直前に近い状態だったから。
レーダーを見る限り、敵はすでに撤退を開始しているし、そう捉えて間違いはない。
要はここで退く理由など、何ひとつ無いというわけである。
もちろん今回の任務である、『指定したエリアの敵を掃討する』という目的は達成済みだから、撤退自体に問題は無い。
命令違反により、ペナルティを受けることはないはずだ。
それでもまだ、味方の継戦能力にはかなりの余裕がある。
ならばこのまま別の戦場に移動し、もう少しポイントを稼ぐのもありではないか。
僕としては、ついそんな欲を出してしまうのである。
自分にしてはやたらと積極的だな、と少々違和感を覚えるくらいに。
ちなみにそういう気持ちは、クラスメイト達も同じだったようだ。
次いで戦場のあちらこちらから、アキラちゃんの消極的な指示に対し、抗議にも似る声が続けざまに上がってきた。
『えー、私達まだまだ行けるよー』
『志藤ちゃん? ちょっと弱気じゃない?』
『志藤? まだ十分行けるんじゃないのか?』
その内容は、総じて彼女の判断への不満か、あるいは疑問を呈するものである。
まだ戦える、というのは皆の一致した意見らしい。
となるといくら、一度は撤退の判断を下したにしてもだ。
これほど誰もが、その決定に異を唱えている以上、基本はそれを受け入れるしかないだろう。
アキラちゃんの性格を考えれば、そういう流れになると見てほぼ間違いはない。
……と、僕は単純に予想していたのだが。
しかし意外にも、続く彼女の言葉によって、それは完全に覆されてしまう。
『いえ……敵の増援がある可能性も否定はできませんので、余裕を持って撤退しておきたいのです。
申し訳ないですが、よろしくお願いします』
アキラちゃんが即座にそう言って、皆の不満を制したのだ。
真面目で穏やかな口調ながらも、裏側に断固たる決意をにじませて。
例え反対されても、自分の考えを押し通すつもりのようだ。
いつも冷静なアキラちゃんにしては、珍しく頑なな態度である。
僕はそれを、強く訝しみつつも――
(ちょっと変だけど……でも)
普段世話になっている身で、アキラちゃんにそこまで言われれば、まあ反論のしようもないか。
そう潔く踏ん切りをつけ、彼女に承諾の返事をする。
「了解。久保擁介、B-3ブラスター、帰投します」
するとその言葉を皮切りに、他のクラスメイト達からも、諦め漂う力無い声が上がった。
『りょうか~い……』
『はいよ~……』
『……了解』
どうやら皆も、これ以上の抵抗はしないつもりらしい。
やはりなんやかんやで、アキラちゃんの判断力は信頼されているのだ。
もっとも皆が、そうして作戦の終了通告を受け入れた理由は、ひょっとしたら彼女への信頼だけではなかったのかもしれない。
なぜなら、僕自身――
(『増援』、か……)
アキラちゃんが発した、その何気ない一言に、妙に心を乱されてしまったから。
きっとその不安が後押しして、ああも素直に、彼女の判断を支持することができたのだろう。
無論、そういう印象を受けた原因は、我ながらさっぱり掴めてはいないのだが……
(……でも、まあ)
ただそういう様々な憂いを残しながらも、僕はそれら全てを、勝利の余韻でごまかした。
(勝ったから、いいよね)
そして張り詰めていた気を緩め、のんびりと母艦への帰投を開始する。
当然周囲への警戒も、完全に解いてだ。
レーダーに反応が無い以上、もう付近に敵はいないと判断していたから。
しかしそんな風に、すっかり危機感を失った僕の耳へ――
(……?)
次いでふと、ひどく意外な呼びかけが届いた。
『みんな、待って!
まだ危険だから、絶対に油断をしないで!』
そうたっぷりの焦りを含んだ口調で、僕らに警告を放った人物。
それはなんと、精神的な問題により、今回のゲームには参加していないはずの――
(え……? 望月さん?)
望月和歌さん、その人であった……




