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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-02 『Discoverer』
26/173

Epilogue

更新履歴 21/9/15 文章のレイアウト変更・表現の修正


 やっぱり、自分はゲームが得意じゃない。


 望月和歌は、改めてその事実を痛感していた。


 ゲームの世界を離れ、帰還を果たしたいつものレクリエーションルームで、独り深いため息を漏らしながら。



 なぜそう思ったのかと言えば、それは今回の戦いで大ピンチに陥り、そこを見かねたクラスメイトに助けられていたから。

 しかも撤退の準備に手間取り、私の動き出しが遅れたことが原因で。

 自分の鈍臭さゆえに、周りに一方的に迷惑をかけてしまった、というわけだ。


 また当然その際は、救援に来てくれた相手を、自分と同じ危険に晒している。

 一歩間違えば、クラスメイトを巻き込んでいたかもしれないのである。

 これでは単なる足手まといみたいなものだし、それを反省し、自信を失うのは自然な反応だろう。


 とは言えまあ、そうして足を引っ張ってしまうのも、ある意味では当然の話だ。

 だって私は、手先が不器用で頭の回転が遅く、そのうえ荒っぽいことが根本的に不向きな気質だから。


 つまりは己に似合わず、向いてもいないことを、あえて自分からやっているわけだ。

 そんな状態であれば無論、良い結果が出る見込みは薄い。

 みんなに迷惑をかけまいとするなら、本来はゲームそのものをやめてしまうべきであるに違いない。


 しかしそれでも、自分の性格を考えれば、実際にそういう決断を下すことはないだろう。

 誰もが楽しんでいるものに、一人だけ関われずにいる、という状態が怖いから。

 私は孤立をこそ、何よりも恐れる人間なのだ。


 その優柔不断極まる、自身の心の動きを再認識して――


(相変わらず、駄目だなあ……)


 私は再び、深く長いため息をついた。

 現状を変えたいと願っているくせに、そのために具体的な行動を起こせない自分が、情けなくてしょうがなかったのだ。

 胸の内にはもう、無力感以外は何も見つからない。


 ただそんな風に、私が落ち込んでいるところへ、ふと隣から親友の美山涼が声をかけてくる。


「のどか……? 大丈夫? どこか体調悪いの?」


 その気遣わしげな口調から察するに、たぶん私が沈んでいるのを見て、何かあったのかと心配してくれたのだろう。

 良く冷たい人間だと勘違いされるが、彼女は本来、そういう優しい性格をした人なのである。

 無論そんな涼に、余計な気を使わせるわけにはいかない。


 そこで私は、急ぎ無理に元気な声を作ってから、彼女の呼びかけに応じた。


「あ……うん、大丈夫。ちょっと疲れただけだから、気にしないで」


 その返答に、涼は一瞬だけ、不審がるような素振りを見せていたが。

 しかしすぐ、陰っていた表情を晴れやかなものに戻すと、安心した様子で帰宅を提案してくる。


「……うん、そっか。じゃ、一緒に帰ろ」


 私はその言葉に頷いた後、すぐ腰かけていたシートから立ち上がり、彼女と共にレクリエーションルームの入り口へと向かった。


 もうやるべき事は、何もかも果たしたはずだ。

 だからこうして、心置きなく家路につくことができる。

 そういう不思議な解放感を、全身でひしひしと感じながら。


 だがそうして歩みを進めていく途中、もはや憂いなど無いはずの私の胸に――


(あれ……?)


 突如として前触れもなく、強い違和感のようなものが生まれた。

 なぜか目に見えている風景に、『何かが足りない』という印象を受けたのだ。

 それは既視感のようでいて少し違う、とても奇妙な認識のズレである。


 しかもそれは、中々消えてくれず、しつこく私の中に留まり続ける。

 時間の経過と共に、どんどんその存在感を強めながら。

 どうやらこの感覚、無視するのは難しいようだ。


 ゆえに私は、その奇妙な感覚に戸惑いつつも、すぐそれの正体を探ろうとした。

 部屋に置かれている物、ひとつひとつに注目し、そこに異常が無いことを確認していったのだ。

 まるでこの部屋自体が、難解な間違い探しの問題であるかのように。


(んー……特におかしいところは無い、かな。

 あと確かめるところは……)


 そしてその締めくくりに、部屋の中央部分へ配置された、ゲーム用のシートを点検する。

 それが『いくつあるか』を、これも一応はと、丁寧に数え上げてみたのである。


(八……九……十。うん、全員分ある)


 それは確かに十個、クラスメイトの人数分、きちんと綺麗に並べられていた。

 他の部分を含め、ゲームを始める前と全く変わってはいない。

 どうやらこの違和感は、単なる思い過ごしだったらしい……


 ……と、いったんは結論を出したのだが。


(でも……やっぱり気になるな)


 結局のところ、何かが違う、という感覚自体が消えることは無かった。

 どこか『お前には忘れていることがあるぞ、それを全力で思い出せ』と、誰かが心の奥から訴えかけてきているような気分だ。


 となるとそれには、どう対応するのが正解なのだろうか。

 いったい何をすれば、この感覚から解放されるのだろうか。

 私はそんな悩みに全身を囚われた、そのまましばし、呆然と立ち尽くしてしまう。


 ただしその最中にふと、先の心の声がきっかけとなったかのように、自分が不可解な状態にあることに気がつく。


(あれ? そう言えば……)


 それは今回のゲームの中でピンチに陥った際、そこをクラスメイトの誰に救い出してもらったか、一切覚えていないことだ。

 つい先ほど起きた、極めて印象的な出来事だと言うのにである。

 いくら記憶力に自信が無いとは言っても、これはさすがに、ちょっと考えにくい事態だろう。


 しかもその相手について考えようとすると、まるでそれを拒絶するかのように、突然軽い頭痛が襲ってくる。

 何やら不思議を通り越して、少し恐怖さえ感じてしまう現象だ。

 やはり今の私の身には、何か普通でない事が起こっているらしい。


 しかし私は、自分が異常な状態にある、とはっきり認識していながら――


(……まあ、きっと気のせいよね)


 その違和感にこだわらず、考えること自体を放棄した。

 これ以上深く突っ込んで考えるのが、ひどく恐ろしい行為のような気がしたから。

 相も変わらず、どこまでも弱気で臆病、というわけだ。


 そんな風に己を卑下しつつ、私は必死で胸にわだかまる未練を振り払う。

 そしてすぐ、すでに部屋の入り口まで到達していた友人の後を追い、再び家路につくため歩み始めた。

 どこか這い寄る未知の恐怖から、目を背け逃げ出すかのように。


 するとちょうどそれと同じタイミングで、先を歩く涼がこちらを振り返る。

 私がついてきていない事に気づき、様子を確かめようとしたらしい。


 しかしその瞬間、そんな彼女の表情が、はっきりと硬直した。

 予想外のものを目にして驚いている、とでも言いたげな雰囲気である。

 そしてその驚きに満ちた顔のまま、涼はやたらと訝しげな口調で、私に呼びかけてくる。


「のどか……?」


 そのただならぬ態度に動揺した私は、慌てて彼女の元へ歩み寄りながら、何があったのかを問いかけた。


「ど、どうしたの? スズ? 何かあった?」


 そんな私を見て、涼はますます困惑した表情になり、そのまましばし黙り込む。

 しかしやがて意を決した風に口を開くと、珍しく自信無さげな様子で、ひどく不思議な質問を放ってきた。


「……なんで、泣いてるの?」


 私は一瞬その意味がわからず、つい間の抜けた返事をしてしまう。


「え……?」


 自分が泣いている、なんて夢にも思っていなかったから。

 そのせいで彼女の問いかけに、頭が全くついていかなかったのだ。

 まあ、あまりにも急な話だったし、それが当然の反応だろう。


 だが、そんな自らの認識とは裏腹に――


(あれ?)


 そこでふと、私は頬の辺りに、何か冷たい物の感触を覚えた。

 まるで通り雨の最初の一滴が、ちょうどその部分へ落ちてきたかのように。


 それに誘われて、冷たい感触のあった部分へ手を伸ばすと、指先が小さな水滴らしきものに触れる。

 もちろんここは室内だから、そいつの出所なんてひとつしか考えられない。


 ゆえに私は、慌てふためきつつ、自分の目元を両手で覆った。


(え……? 嘘……?)


 今しがた起きた、信じ難い出来事の真偽を確かめるために。

 まさかそんなはずは、という大きな戸惑いで、心の中をいっぱいにしながら。


 しかしそうして差し向けた手は、続々と現れる新たな水滴によって、瞬く間に濡れていく。

 まるで滝壺の中にいるようだ、と例えるのが相応しいくらいの勢いで。

 もはや何が起こっているのかなど、考えるまでもないだろう。


 その突きつけられた真実を、私は内心で呆然と呟いた。


(そうか……私、泣いてるんだ……)


 自分が友人の指摘した通り、本当に泣いていたのだ、と。

 自覚がさっぱり無いまま、いつの間にか涙を流していたのだ、と。

 そこでようやく、はっきりと現実を直視できたのである。


 するとその瞬間、震え出すほどの深い悲しみが、突如として全身を覆い尽くす。


(あ……ああ……ああああ!)


 まるで知らぬ間に、とても大切なものを失いでもしたかのように。

 そして思い出したその悲しみに、心を激しく痛めつけられたかのように。


 そのせいで私の心は、ミキサーでかき混ぜられた食材さながらに、これでもかと言うほど細かく切り刻まれていった。

 ただでさえ不安定だったところに、これ以上ない強烈な追い討ちを受けたのだ。


 結果として二本の足から、自然と力が抜けてしまったので、私は床へ崩れるように座り込む。

 次いでそのまま、抑えきれなかった感情に翻弄され――


「う……」


 幼い子どものように、大声で泣きじゃくり始めた。


「うわあああん!」


 周りの目など、一切はばかることなく。

 加減なども全く無しで、力の限り。

 ただひたすらに大量の涙を流し、声を上げ続けたのである。


 そんな私を見て、すぐ側にいた涼が、不安でいっぱいという口調でこちらを気づかってくる。


「の……のどか? のどか!

 どうしたの! 大丈夫?」


 まあこうも出し抜けに、友人が激しく泣き出したのだから、驚くのは当たり前だ。

 きっと詳しい事情がわからず、戸惑い困り果てているのだろう。

 となれば彼女に心配をかけぬため、ここはすぐにでも泣き止まねばならない。


 しかし今の私に、そんな余裕は塵ほども残っていなかった。


「うう……ああ……うわあああん!」


 溢れ出る感情の奔流が、私に泣く以外の行為を許さなかったのだ。

 唯一それこそが、自分にできる償いなのだ、とでも主張するかのように。


 涼はそんな私を、しばし困惑顔でじっと見つめた後――


「のどか……」


 不意に表情を引き締め、少しだけ躊躇してから、こちらへ両手を伸ばす。

 それから私の名を呼びつつ、静かに体を抱き締めてくれた。

 さらに続けて、母親がぐずる幼子をあやす時のように、頭を撫でながら優しく語りかけてきた。


「大丈夫……大丈夫だからね……大丈夫だよ……」


 私はそんな彼女の胸に、自分の頭を寄せて、その温かさに全身をすっぽりと包まれる。

 そしてなぜこんなにも悲しいのか、自分でも全くわからぬ状態で、絶えず激しい嗚咽を漏らしながら――


「う……う……あ……あああ……」



 ずっとずっと、止めどなく涙を流し続けた……

















インターミッション


第147特殊騎兵小隊戦闘記録



 本日発生した、第九次防衛戦闘について報告。


 第四防衛ラインに侵攻してきた、中規模の敵性集団と交戦。

 一時はこれを撃退するも、敵増援の出現により撤退。

 その際、さらに隊員一名を損失。


 以下に、各員の戦果と評価を記述。




 ID     147265A

 登録名    *******

 機体タイプ  A-1アサルト

 総撃墜数   ***

 撃墜スコア  *****

 貢献度評価  *


 ※MIAによりデータ抹消


 ID     147266A

 登録名    *******

 機体タイプ  B-1アーチャー

 総撃墜数   ***

 撃墜スコア  *****

 貢献度評価  *


 ※MIAによりデータ抹消


 ID     147267A

 登録名    スズ・ミヤマ

 機体タイプ  D-1トルーパー

 総撃墜数   225

 撃墜スコア  6934pt

 貢献度評価  B+


 ID     147268A

 登録名    ノドカ・モチヅキ

 機体タイプ  E-2サテライトリンカー

 総撃墜数   131

 撃墜スコア  5107pt

 貢献度評価  D


 ID     147332B

 登録名    アキラ・シドウ

 機体タイプ  E-1コマンダー

 総撃墜数   42

 撃墜スコア  2015pt

 貢献度評価  A+


 ID     147333B

 登録名    ヨウスケ・クボ

 機体タイプ  B-3ブラスター

 総撃墜数   233

 撃墜スコア  5982pt

 貢献度評価  B


 ID     147464B

 登録名    マサユキ・サイカワ

 機体タイプ  C-2タンク

 総撃墜数   340

 撃墜スコア  6429pt

 貢献度評価  C+


 ID     147465B

 登録名    マナ・カスガイ

 機体タイプ  A-3アサシン

 総撃墜数   392

 撃墜スコア  7268pt

 貢献度評価  A


 ID     147818C

 登録名    マキ・クリハラ

 機体タイプ  D-2ストライカー

 総撃墜数   294

 撃墜スコア  5648pt

 貢献度評価  C+


 ID     147819C

 登録名    ミキヤ・タチバナ

 機体タイプ  A-2グラディエーター

 総撃墜数   153

 撃墜スコア  7261pt

 貢献度評価  A


 ID     147930C

 登録名    ミツル・ヤナイ

 機体タイプ  B-2スナイパー

 総撃墜数   219

 撃墜スコア  5591pt

 貢献度評価  C


 ID     147931C

 登録名    ユキコ・アサクラ

 機体タイプ  C-1ガーディアン

 総撃墜数   207

 撃墜スコア  4865pt

 貢献度評価  D+



 増援の出現は、同時刻に発生した、第三防空艦隊の潰走に伴うものです。

 それへの対応として、本部隊も速やかに当該空域から後退。

 以降は作戦計画通り、第五防衛ラインの守備に当たります。








 以上をもちまして、本作の序章に当たる『結城悟・木原開人編』の完結です。

 次回からは、ゲームそのものの謎に迫る、『久保擁介・志藤明編』を開始いたします。

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