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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-02 『Discoverer』
22/173

Section-7

更新履歴 21/9/15 文章のレイアウト変更・表現の修正


「ああ、任されたっ!」



 ただそうして、俺が熱意で溢れる勇敢な返答をした直後、それに美山が横槍を入れてきた。

 いかにも不満たらたらという風に、きっちり大きな釘を刺してきたのだ。


『今は他に方法が無いから、あんたにのどかを任せるけど……

 本当に、ちゃんとやりなよ!』


 その声音や口調は、相変わらずおそろしくきつい。

 やはりこいつの中には、俺への信頼感なんてこれっぽっち無いらしい。


 俺はそんな天敵の言動に辟易しつつも、特に言い返したりはせず、代わりに戦いへ集中するよう促す。

 ぐずぐず喋っている場合じゃないだろ、とアピールするために。


「わかってるって! いいから敵の方見ろよ!」


 美山はそれを受けて、反論を考えるように軽く一呼吸置いたが。

 しかしすぐさま、何も言わず敵へ向け前進を始めた。

 実際俺に構っている暇なんか無い、と気づいたのだろう。


 俺はその美山の後ろ姿を、大きな疲労感と共に見送った後、間髪入れず自らの役割に意識を集中させる。


(さて……俺の仕事は、と)


 それは無論、美山の支援担当の望月さんを、攻め寄せる敵の攻撃から守り切ること。

 他人の援護をしている最中は、自分の防御が疎かになりやすいから、そこを俺が補うのだ。

 彼女の機体は直接戦闘に不向きなタイプだし、決して欠かせない仕事だろう。


 言い換えるなら今の俺は、その身を盾として彼女を守る、勇敢なナイト様というわけだ。

 そういう言い方をすると、脇役感がだいぶ薄れて、自然とやる気も湧いてきた。


 その旺盛な意欲に任せて、俺は内心で、攻め寄せる敵に向け咆哮する。


(よっしゃ! いくらでも来いだ!)


 しかし次いで、そう熱くなるこちらへ、冷水を浴びせかけるように――


(……! そっちが先か!)


 その巨体を揺らしつつ、ゆっくり進んでいた『アングラー』が、唐突に行動を開始した。

 挨拶代わりとばかりに、機体側面の発射口を開き、そこから無数のミサイルを撃ち出してきたのだ。


 ちなみにその半分は美山へ、残り半分は俺達の方へ向かっている。

 すでに防御支援を受けている美山はともかく、こちらは少しばかり対処が必要だ。

 守るべき人の安全のため、しっかり数を減らしておくとしよう。


 そこで俺は、望月さんをかばうように、迷わずそのミサイル群の前へ立ちはだかると――


「やらせるかよっ!」


 即座にショットガンを構えて連射し、自身の正面に弾幕を張って、飛来するミサイルを叩き落としていった。

 そしてそれで仕留めきれなかった撃ち漏らしも、頭部の機関砲――小さなプラズマ弾を射出する牽制用の火器――をフル稼働させ、残らず始末していく。

 おかげで何とか、ほぼ全てのミサイルを防ぐことができた。


 しかしその戦果に俺が安堵した直後、眼前で予想外の事態が発生する。


(しまった……そういうことか!)


 ミサイルが破壊される際に起きた、いくつもの爆風の影から、数機の『ハウンド』が立て続けに飛び出してきたのだ。

 当然その距離は、先ほどと比べてかなり近い。

 要は間合いを保って戦いたい敵に、不本意ながら接近を許してしまった、ということである。


 となるとおそらく、先ほどのミサイル群自体が、こいつらを突撃させるための目眩ましだった……ということなのだろう。

 敵ながら天晴れな策、と表現するより他はない。


 そう場違いな感想を抱きつつも、俺はすぐさま気持ちを切り替えて、迫る『ハウンド』達への対応を開始した。

 再びショットガンを連射し、その突進を阻もうと試みたのだ。

 危険なこいつらを、後ろにいる望月さんへと到達させないように。


 おかげで一応、何機かは落とせたものの――


(くっ! 仕留めきれないか!)


 その際に撃墜し損ねた、三機の『ハウンド』に、格闘戦の間合いまで迫られてしまった。

 このままであれば間を置かず、敵は自爆攻撃を仕掛けてくるはずだ。

 食いつかれれば大ダメージ確定である以上、何とか接触の前に片付けたい。


 そこで俺は、こちらへ迫る敵の内、最初に近づいてきた一機へ意識を集中し――


(落ちろっ!)


 ランダムに飛び交うその軌道を読み切り、狙い澄ましてショットガンを撃ち込む。

 さすがにこの距離であれば、そうそう外すことはないだろう、という確信を持ちながら。


 だが咄嗟に放った、その反撃の一矢は、結局期待通りの成果を上げることはなかった。


(……避けられた!?)


 華麗なバレエダンサーのごとく、くるりと機体を翻した敵に、命中する直前で綺麗に回避されてしまったからだ。

 どうやら動きを見極めていたのは、こちらではなく向こうだったらしい。


 しかもそいつは、次いで即座に方向転換し、頭上からまっすぐこちらに突進してくる。

 一気に接近して食らいつき、そのまま自爆をするつもりだろう。

 当然のことだが、そんな好き勝手を許すわけにはいかない。


 ゆえにすかさず、顔だけをそちらへ向け――


(させるかよっ!)


 再び頭部の機関砲を起動、突っ込んでくる『ハウンド』に浴びせかけた。

 本来ミサイルなどの迎撃に用いる、威力が低めの武装で攻撃を仕掛けたわけだ。

 理由はもちろん、装甲の薄いこいつ相手なら、十分な有効打になり得ると考えたからである。


 するとその目算通り、機関砲の直撃を受けた『ハウンド』が、装甲を易々と貫かれて爆散する。

 やはり防御面においては、相当貧弱な機体のようだ。

 これなら何とか、敵の攻勢をしのぎ切れるかもしれない。


 だがそんな風に、一瞬だけ緊張の糸を緩めた俺の目に、直後――


(くっ……次は同時にか!)


 先ほど仕留めきれなかった二機の『ハウンド』が、それぞれ別の方向から、同時にこちらへ迫ってくる様子が映った。

 どうやら仲間がやられたことで、急ぎ本腰を入れることにしたらしい。

 無論、的確に対処をしなければ、このままあえなく撃墜だ。


 なので慌てて、俺は接近してくる『ハウンド』の両方へ、同時に迎撃を行う。

 一方に機関砲、もう一方にショットガンを浴びせかけたのだ。

 とにかく接近されるのだけは防がねば、という強迫観念に駆られていたから。


 だがそうして焦って動いたのが、結果的には良くなかったらしい。

 なぜなら迫る二機の内、ショットガンで狙った一機は落とせたものの――


(チッ……駄目か!)


 もう一方を撃ち漏らし、懐深くにまで入り込まれてしまったから。

 そのせいで互いの距離は、もはや目と鼻の先と言えるくらいにまで詰まっていた。


 もちろんこんな状態では、効果的な迎撃なんてほぼ不可能である。

 つまりはこのまま、成す術なくこいつの自爆を受けるしかないわけだ……


 ……という、どう考えても絶体絶命、という窮地に追い込まれながらも――


(……いやっ! まだだ!)


 俺は決して諦めることなく、必死に心を奮い立たせる。

 だって自分がこの場で撃墜されれば、望月さんもまた、同じ結末を迎えてしまうから。

 彼女の命運を背負っている以上、この程度の苦境で膝を屈するなんて、絶対に許されないのである。


 ゆえに肉薄する『ハウンド』に対し、魂を込めて咆哮しつつ――


「うおおおおっ!」


 とっさにショットガンを前に出し、開いているそいつの口に突き刺した。

 まるで襲いかかってくる飢えた野犬に、別の餌を差し出すかのように。


 するとその瞬間、ショットガンの先端に食らいついた『ハウンド』が、刹那の間だけ静止する。

 そしてわずかな後、目も眩むほどの白い閃光を放ちつつ、凄まじい轟音と共に爆発した。

 おそらく口に入ってきた物を、俺の機体と誤認したに違いない。


 おかげで何とか、爆発の直撃だけは避けられたのだが――


(ぐっ……!)


 しかし当然、その余波からは逃れられない。

 なので結局、俺はそいつをまともに食らって、勢い良く後方へ吹き飛ばされてしまう。


(うわあああっ!)


 そしてたっぷり十秒ほど、機体をありとあらゆる向きで回転させながら、宇宙空間を流され続けた。

 まるで大きな濁流に呑み込まれた、小さく軽い木の葉のように。

 もし生身であれば、完全に平衡感覚を失い、激しく嘔吐していたことだろう。


 とは言え幸いにも、そこまで深刻な影響を受けることはなかった。

 いくらか爆風の勢いが弱まったところで、無事に機体のコントロールを取り戻すことができたのだ。

 もちろん体調の方にも、特段の変化は無い。


 それを確認してから、俺はすぐさま機体の状態を示すデータの方へ注目する。

 各部の詳細なコンディションチェックを行い、爆発のダメージについて検分するために。

 また以前のように、損傷で動けなくなったのではないか、と独り恐れおののきながら。


 もっともその被害は、予想より幾分か軽いものであり、戦闘継続に支障をきたすほどではなかった。

 とりあえずはひと安心、というわけである。


 しかし俺が、そうやって独り胸を撫で下ろしているところへ、望月さんの憂いを帯びた声が届く。


『木原君! 大丈夫? 木原君!』


 爆風で吹っ飛ばされる俺を見て、無事かどうか心配になったのだろう。

 どうやら彼女に、かなりみっともないところを見せた上、不安まで抱かせてしまったらしい。

 絶対守るとか何とか、あれほど偉そうな事を言っておいて、実に情けないものだ。


 その込み上げてきた恥ずかしさをごまかすため、俺は慌てて彼女に、自分は問題無いということをアピールした。


「だ、大丈夫! 俺は全然、大丈夫だから!

 だから望月さんは、美山の支援に集中してくれ!」


 そしてその言葉を証明するため、失ったショットガンの代わりにライフルを装備、即座に彼女の護衛へと戻る。

 未だ脅威が健在である以上、どちらにせよのんびりとしてはいられないから。


 そんな俺に対し、望月さんは――


『え、でも……う、うん。わかった』


 一瞬だけ何か言いたげな風を見せながらも、結局はすぐ、再び美山の支援へ集中し始めた。

 敵から注意を逸らすのは危険、と判断したからだろう。

 そんな様子を横目に見つつ、俺もまた戦闘を再開する。


 もちろん今度は、きちんと敵から十分な距離を取ってだ。

 先ほどのような失態を犯さぬよう、焦らず丁寧に、一機一機落としていったのである。

 おかげでどうにか、ある程度の対処はできていたのだが……


 それでも間を置かず、俺はたいへん厄介な問題に直面することになった。


(くっ……押されてるな……!)


 近接戦に強いショットガンを失ったせいで、敵の殲滅効率が低下し、徐々に押し込まれるようになってきたのだ。

 特別不意を突かれたとか、そういうわけではないにも関わらずである。

 このままではそう遠くない内に、望月さんへ被害が及ぶことだろう。


 その状況のまずさに焦った俺は、敵の迎撃を継続しつつ、隙を見て美山の方へと視線を向ける。

 彼女が母艦を落としてくれれば、護衛の連中も撤退を始め、戦況が楽になるはずだと思ったから。


 しかしその甘ったるい期待は、次いですぐさま打ち砕かれることになった。


(……向こうも苦戦中、か!)


 軽く一目見ただけで、あちらも状況が良くない、ということが容易に知れたから。

 美山は交戦中の『アングラー』に対し、満足な攻撃ができず、防戦一方な状態に追い込まれていたのである。


 その原因は無論、『アングラー』の充実した火力である。

 美山が機体の速度を活かし、敵の周囲を旋回しながら隙をうかがっても、豊富な武装で対応されてしまうのだ。

 あれでは基本、相手の攻撃を避けたり防いだりするので精一杯だろう。


 おまけにそんな彼女の周囲では、何機もの『ハウンド』が、群れなす狼のごとく飛び交っている。

 あれでは中々、『アングラー』への攻撃に集中するのは難しいだろう。

 要するに今は、撃破にどの程度時間がかかるか、全く予測できない状況というわけだ。


 もちろんそうして、ずるずると戦いが長引けば、戦況は悪化の一途をたどることだろう。

 まず護衛役である俺、次いでその護衛対象である望月さん、最後は彼女の支援を失った美山……という順番でやられていくはずだ。

 そういう事態を避けるためにも、ここは何か、現状を打破し得る有効な手立てを講じねばならない。


 ゆえに俺は、素早く無い知恵を懸命に絞って、もうこれしかないという苦肉の策をひねり出す。

 そして早速通信を開き、その大胆な内容を望月さんに伝えた。


「望月さん! このままじゃ敵に押し切られて、みんなやられてしまう!

 ここはビットを全部使って、美山の奴を支援してやってくれ!」


 望月さんが所持するビットを、全て美山の支援に回すことができれば、攻撃役の彼女が自由に動ける。

 それなら何とか、あの『アングラー』を落とすことも可能ではないか、と考えたのだ。

 現状では、ほぼ唯一と言っていい打開策だろう。


 もっともそれを聞いた望月さんは、そこで至極当然な、ひとつの問題を口にする。


『え? でも……それじゃ、私の……』


 そう、彼女の自己防衛手段が、ほぼ皆無になってしまう点だ。

 ビット以外に一切武装を持ち合わせていない、というその機体特性ゆえに。

 基本的には、かなり危険で無謀な提案である。


 それでも俺は、迷うことなく自身の意見を押し通した。

 そうしなければ皆が危ない、という確信を持っていたから。


「大丈夫! 君のことは、俺が絶対、絶対に守ってみせるから!

 怖いのはわかるけど……でも頼む、俺を信じて任せてくれ!」


 まあ先ほど、あれだけみっともない姿を見せておいて、いったいどの口で言うのだ……と、我ながら思わないでもなかったが。

 きっと彼女の方も、そう感じたことだろう。


 とは言え今は、面目や体裁になんて構ってはいられぬ状況だ。

 なので俺は、そのままじっと恥を耐え忍びつつ、望月さんからの返答を待つ。


 すると彼女は、思った以上に早く、俺の無茶な提案を受け入れてくれた。

 しかも非常に明るい声音で、驚くほどあっさりと。


『うん、わかった!』


 そして即座に、全てのビットを『アングラー』と戦う美山の元へ向かわせる。

 自分を守るために使っていたものを含め、ひとつ残らずだ。


 その結果として、美山の周りに計十二機のビットが集中した。

 ちなみにそいつらの半分は、前方へ展開して二重の防御壁を構成し、残りの半分も、周囲に飛び交う敵やミサイルへ牽制射撃を始める。


 これなら美山も、心置きなく正面から突撃できるだろう。

 とりあえずは任せておいても大丈夫、ということである。


 そんな現状に、強い手応えを感じつつ――


(さて……後は、こっちの仕事だな!)


 俺はしっかりと気合いを入れ直し、自分達へ迫ってくる敵に視線を戻した。

 連中は今、戦闘能力が低下した望月さんに狙いを定め、先を争うように押し寄せている最中だ。

 もちろん何があろうとも、そんな目論見を成就させるわけにはいかない。


 その決意を胸に、俺は声を限りに咆哮しながら――


「うおおおお!」


 全速力で真っ正面から、攻め寄せる敵集団の先頭に立つ、『ハウンド』の群れに突撃していく。

 要は自爆を狙う敵相手に、あえて自分から接近戦を仕掛けたのだ。


 当然のことながら、別に自暴自棄になったわけではない。

 ダメージを恐れて消極的になるより、むしろ先手を打って接近した方が安全ではないか、と考えたからこそである。

 そこに多大なリスクがある、ということは重々承知の上で。


 ゆえにその、いささかギャンブルじみた試みを成功させるため、俺は神経を研ぎ澄ましつつ敵へ突き進んでいった。

 そして一気に手近な『ハウンド』へ肉薄すると、手のプラズマソードを水平に構え、気合いの一声と共にまっすぐ突き出す。


「失せろっ!」


 すると敵は、その直撃であっさり頭部を貫かれ、串に刺された焼き鳥のような状態になった。

 おそらくだが、自爆機へ自ら近づいてくる敵が想定外で、まともな反応ができなかったのだろう。

 ハイリスクな選択が功を奏した、というところか。


 であれば無論、その好機を活かさぬわけにはいかない。

 なのでそれを確認すると同時に、俺は突き刺した敵ごと、思い切りプラズマソードを振り回す。


「おらあああ!」


 その瞬間、敵はぶん投げられた釣り針のごとく、剣先からすっぽ抜けてあらぬ方向へ吹き飛んだ。

 そしてそこで、自爆装置を起動し盛大に爆発、ほぼ跡形もなく消滅した。


 一応その時の衝撃で、こちらの機体もそれなりのダメージを被りはしたのだが。

 しかし十分な距離があったせいか、行動を制限されるほどの影響は無い。

 おかげでこれなら行けるぞ、という確信が急激に強まってくる。


 その熱い気持ちに、背中を押されるまま――


(よしっ!)


 俺は繰り返し突撃を敢行し、攻め寄せる大量の『バグ』と『ハウンド』の群れを、手当たり次第に葬り去っていった。

 その都度機体へ刻まれていく損傷に、一切構うことなくだ。


 そんな戦闘を飽きが来るほどに継続し、いい加減機体に蓄積したダメージが無視できなくなってきた、その頃合いで――


『仕留めた!』


 唐突に耳へ、やたらと晴れやかな美山涼の声が飛び込んでくる。

 何やら手応え十分、と言った雰囲気の口調である。

 俺はそれに誘われて、期待に胸を膨らませつつ、美山の方へ視線を向けた。


 そこにあったのは、勝ち誇ったように武器を掲げる美山の機体と、口吻部に風穴が空いた無惨な『アングラー』の姿だ。

 おそらくはあいつ、自身の主武装であるプラズマランスを叩き込み、敵の主砲を破壊し使用不能に追い込んだのだろう。


 しかもそれだけでは飽き足らず、あいつはさらなる攻勢に出ていく。

 直後に続けて、機体に搭載された射撃系の武装を全て起動し、ぶち抜いた部分へ怒濤の勢いで撃ち込んでいったのだ。


 当然、いかな重装甲の敵と言えど、その猛烈な連続攻撃に耐えられるはずはない。


 それゆえ『アングラー』は、ほんの一瞬だけ沈黙した後、機体の各所から爆風を噴き出し始めた。

 そして長い時間をかけて、その巨体を数多の瓦礫へと変貌させ、星の海の藻屑となり果てていく。

 要は見事、敵母艦の撃破に成功したわけだ。


 またそれと前後して、周囲にいる他の敵も後退を始めた。

 つい先ほどまで、猛然と攻勢をかけてきていた敵集団が、我先にと雪崩を打って逃げ始めたのだ。

 おそらくこれ以上の戦闘は危険、と奴らなりに判断したからだろう。


 その様を見届けた後、俺は内心で大きなため息を漏らす。

 無事敵の猛攻を乗り切れたことに、深く深く安堵していたから。


(ふう……)


 まあもちろん、ヒヤリとするところはいくつもあったし、受けたダメージだって洒落にならないほど大きいのだが。

 それでも犠牲者が出なかった、というその一点だけ見ても、十分満足のいく結果である。


 それに今の勝利のおかげで、敵の中核戦力を退けることができた。

 この分ならきっと、今回の作戦は何事もなく乗りきれるだろう。


 そうなれば後はもう、落ち着いた状態のみんなに悟のメッセージを伝達し、それを焦らず徐々に理解してもらうだけ。

 もはや何ひとつ心配することなど無い、というわけだ。


 ゆえに俺は、そのまま心の中で――


(やったぞ……悟! 俺はやったぞ!)


 そう亡き友に戦果を報告しつつ、次いですっかりいつもの調子を取り戻すと、独り恥ずかしい自画自賛を行う。


(しかも結構、最後の方はカッコ良かったよな?)


 自分一人の力で、見事望月さんを守り抜いたことに対し、今までの緊張感を忘れるくらい満足していたからだ。

 気分としてはまさしく、魔王から姫を救った勇者のようである。


 なので俺はすぐ、一緒に戦った二人へ、上機嫌で声をかけようとした。

 その労をねぎらうためと、共に勝利の喜びを分かち合うために。


(……ん?)


 しかしその寸前で、突如志藤の、やたらと強張った呟きが聞こえる。


『なに、これ……』


 そこからはなぜか、たっぷりの驚愕と動揺が汲み取れた。

 いったい彼女は、すでに敵が後退を始めたこの状況の中、何に対してそこまで衝撃を受けているのだろうか。


 そんな志藤の態度に不安を覚えた俺は、その原因を究明しようと周囲に注意を戻す。

 結果そこで、俺の視界へ飛び込んできたのは――


「なんだよ、これ……」



 戦況を示すレーダーが、自分達に向け押し寄せてくる、無数の敵機を映し出す様だった……








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