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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-02 『Discoverer』
21/173

Section-6

更新履歴 21/9/15 文章のレイアウト変更・表現の修正


「二人とも、無事か!」



 その俺の呼びかけに、戦いながら器用に答えてきたのは――


『木原? もう大丈夫なの?』


 珍しく動揺した様子で、意外そうな声を上げる美山涼だった。

 きっと突然話しかけられたことと、相手が俺だったこと、その両方に驚いたのだろう。


 ちなみにこいつが、俺の出現にそこまで過剰な反応を見せたのは、おそらく近頃の俺の行動を不安視しているから。

 急に『大丈夫?』とか聞いてきたのも、こいつまた何かやらかすかも、と思われたせいに違いない。


 ならばと俺は、そう疑いを掛ける彼女に対し、精一杯の虚勢を張って応じる。

 目前の戦闘へ集中してもらうため、自分は心配ない、というアピールしたのだ。


「おうよ、大丈夫だとも!

 何だか苦戦してるらしいから、加勢に来てやったぞ! 感謝しろよ!」


 すると美山は、無感情に相槌を打ってから――


『……ふうん』


 俺の言葉に納得したのか、あるいはこちらの気持ちを汲んでくれたのか。

 いつも通りの調子で、お馴染みの憎まれ口を叩いてきた。


『ま、邪魔だけはしないでよ!』


 俺も負けじと、それに強い口調でやり返す。


「お前こそな!」


 ただまあ当然、向こうからの返事は無く、彼女はそのまま戦いに戻っていったわけだが。

 いくら戦闘中とは言え、相も変わらず冷たい奴である。


 ちなみにそんな美山の使用機体は、D-1トルーパー。

 馬に乗った騎士、あるいは神話のケンタウロスを彷彿とさせる四本足のフォルムと、手に持つ巨大な槍が特徴的な突撃機だ。


 このタイプの強みは、高い加速と最高速、それに重装甲を兼ね備えているところ。

 逆に弱味は、小回りがあまり利かず、正面以外の防御が薄いところ。

 言わば猪突猛進仕様の機体であり、いかにもこいつらしいチョイスと呼べるだろう。


 ……なんて若干失礼な感想を抱きつつ、俺もその美山に続いて、戦況の方へと意識を移した。


(さて、敵さんの編成は……と)


 そこで確認したのは、二機の『ゴーレム』と、その護衛を務める『バグ』と『ビッグアイ』の群れである。

 それが現在、美山達が戦っている相手のようだ。

 要はお決まりの連中であり、特に戦術なんかは考えるまでもない。


 ゆえに迷わず、先行した美山の後に続いて、自分も敵軍の中へと突入していく。


 すると二機の『ゴーレム』の内の一機、より俺と近い位置にいた奴が、その動きに反応した。

 両翼を大きく展開して、例の光弾を大量に放ってきたのだ。

 どうやら新たな援軍である、俺の方に狙いを定めたらしい。

 無論そういう状況は、俺の方としても望むところなので、即座に迎撃のため武器を構える。


 とは言えこのまま距離を取りつつ戦っても、有効なダメージを与えられないことは判明済みだ。

 また無闇やたらに突っ込んでいっても、いつかのように大きな損害を被ってしまう。

 リスクを可能な限り避けなければならない今、いったいこいつとは、どう戦うべきなのだろうか……


 ……という風に俺が、自身の戦闘スタイルについて、考えを巡らしていると――


(ん? これは……)


 機体の前方に突如、小さな球状の物体が三つほど出現し、薄いエメラルドグリーンの光を発し始めた。

 しかもその何かは、常に俺の少し前を進みつつ、徐々に光が展開する範囲を拡大していく。

 あたかもその優しい輝きで、俺を守ろうとしているみたいに。


 実際その光は、最終的に進行方向全てをカバーする大きさにまで到達した。

 そして俺の機体に迫る、『ゴーレム』が放った光弾を、残らず受け止め掻き消していく。

 いわゆるバリア、というやつだ。


 その動きを見て、俺はすぐさま事情を察した。


(望月さんか!)


 これは彼女による支援だ、とはっきり理解したのである。

 ゆえにその予測を裏付けるため、俺はすぐ首だけを巡らして、周囲へ視線を走らせる。


 結果少し後方に、先ほどの球状の物体をいくつか従える、やや小型の機体が見えた。

 神に仕える修道女のようなそのフォルムからして、望月さんの搭乗する機体、E-2サテライトリンカーで間違いない。


 となると自然、今も俺の前で防御壁を展開してくれている、球状の物体――それが彼女の機体、ほぼ唯一にして最大の武装、多目的サテライトビットなのだとわかる。


 これはその内部に、小型のプラズマ砲と防御フィールドの展開装置を、同時に搭載した兵器だ。

 攻撃と防御を両立可能な上、こうして味方の支援にも利用可能な、たいへん利便性の高い装備である。


 つまり『ゴーレム』に突撃した俺を守るため、望月さんが派遣してくれた、心強い援軍というわけだ。

 これなら正面から攻めても、そうそう大きな被害を被ることはあるまい。

 その彼女の的確な支援に対し、俺は手で合図を送って感謝の意を示した後、すぐ敵に意識を戻し突進を続けた。


 敵はそんな俺を見て、現在行っている攻撃が有効ではないと悟ったらしい。

 即座に光弾の射出を停止し、代わりに頭部の主砲を起動する。

 さすがにあれの直撃を受ければ、この防御壁でも危ういだろう。


 だが、その光景を見てもなお――


(遅いよっ!)


 俺は迷うことなく、まっすぐに前進を続けた。

 主砲の発射より先に、相手の元へ到達できる自信があったからだ。


 その目論見通り、俺は未だ攻撃を準備中の『ゴーレム』と、ひと息に距離を詰める。

 さらにそこで、武装をプラズマソードに持ち替えると、敵へ向けまっすぐに構えた。


 すると直後、ビットが防御壁を解除し、広く周囲に散開する。

 おかげで自身を守るものが無くなる代わりに、敵を直接攻撃可能な状態になった。

 それを確認した俺は、素早くその隙間を抜けて、淡い光を発し始めた敵の主砲へと肉薄し――


「取ったぞ!」


 仕留めたという確信と共に、鋭くプラズマソードを突き出す。


 結果その一撃は、的確に『ゴーレム』の砲口部へと命中し、そこから瞬時に輝きを失わせた。

 だいぶ深くまでめり込んでいるし、これでもう主砲の使用は不可能だろう。


 ただし無論、その程度では手を緩めずに、俺はすかさず次の行動に移行する。

 軽く後退して敵から離脱した後、先ほど攻撃した場所にライフルを連射、余さずその内部へと注ぎ込んだのだ。


 敵はそんな連続攻撃を、ほぼ抵抗もできぬまま、絶え間なく急所に被弾した。

 それにより機体を大きくぐらつかせると、次いで激しい連鎖爆発を起こし、すぐに宇宙の塵へと変わっていく。

 これにて見事、一丁上がりである。


 その様を眺めながら、俺は――


「楽勝、楽勝!」


 己の戦果に満足しつつ、誰にともなく喜びの声を上げた。

 ついそうしてしまうほどの、スムーズかつ文句なしの勝利だったから。


 しかしその後すぐ、調子に乗った自分を戒める。


(……いや、違う違う)


 今はそれどころではないのだ、という現状を思い出したから。

 そこで慌てて、もう一方の『ゴーレム』と戦う、美山の方へと視線を移した。

 そちらの戦況を確かめ、場合によっては助力を申し出るために。


 もっともその、俺のらしくもない気づかいは、次いで全くの余計なお世話に終わる。


(必要なし、か)


 なぜならそうして彼女の方を振り向いた直後、美山が対峙中の『ゴーレム』へと突撃し、あっさりそれを撃墜したから。

 あいつは降り注ぐ敵の攻撃を、望月さんの支援を頼みに弾き返しながら、その頭部へ大型のプラズマランスを叩き込んだのである。


 相手の『ゴーレム』は、その鋭い一撃で装甲を貫かれ、猛烈な勢いで爆裂四散していった。

 そして瞬く間に、ただの瓦礫の群れへと変貌する。

 それは見とれてしまうほどに鮮やかな、称賛するしかない手際の良さだった。


 とは言えこの卓越した連携も、彼女らにとっては至極当然のこと。

 実はこれこそ、あの二人が日常的に行っている、普段通りの戦闘スタイルなのだ。


 具体的にはまず、望月さんがビットを使って、相方の機体前面に防御壁を展開する。

 次いで美山がそれを頼りに突進、敵を接近戦で一撃の元に葬り去る、というものだ。

 先ほど俺がやったのと、ほぼ同様の戦術である。


 ただひとつ違うのは、美山が攻撃する際に生じる隙を、望月さんがフォロー可能という点である。

 ビットはその性質上、死角をカバーしたり、近寄る敵に牽制射撃を行うのが得意だから。

 

 つまり望月さんの機体は、火力と速度はあっても繊細な機動性に欠ける美山の機体を、的確にサポート可能というわけだ。

 機体の攻撃力において大きく劣る、俺の支援を行うよりも、ずっと効率的であろう。


 しかし当然のことながら、それも万能の戦術ではない。


 理由は望月さんの機体特性が、接近されると非常に弱いタイプな上、美山の機体もその護衛には不向きだから。

 攻めは良くても守りは弱いコンビ、というわけである。

 今回苦戦気味らしいのも、きっとそこら辺の対応に難儀してのことに違いない。


 そんな風に改めて現状を認識したところで、俺はようやく気づいた。


(……そこで俺の出番、ってわけか)


 確かにそういう二人の援軍として、立ち回りの幅が広い俺の機体は、多くの場合において最適に近い解答だ。

 さすがは志藤の指示、相変わらず的確である。


 そう今さらながらに感心しつつ、俺は残敵の掃討をサクサクとやり終え、それから少し気を緩めて大きなため息をつく。

 犠牲無く今の戦いが終えられたことに、深く安堵していたから。


 するとちょうど、そのタイミングで――


『木原』


 美山がいつもと全く変わらぬ、ひどく可愛いげの無い口調で、短く声をかけてきた。

 もっとも内容の方だけは、珍しくこちらを心配している風にだが。


『本当に大丈夫みたいだね』


 俺もそれに、いつも通りの調子で言い返す。


「ああ、おかげさまでな。

 後は俺に任せて、ゆっくり休んでたっていいんだぜ?」


 ただしほんの少しだけ、本音も交えながら。

 リスクがあまりに重い以上、何にせよそれを減らすに越したことは無いのだ。


 しかし彼女からの返答は、そんな俺の想いなどどこ吹く風の、北極海の水温のように冷たいものだった。


『木原なんかにのどかを任せられるわけないでしょ。

 馬鹿は休み休み言いなよ、疲れるから』


 無論そう応じられれば、俺としては素直に引き下がるしかない。


「はいはい……」


 事情を説明しきれないのは、倉田先生とのやり取りの中で十分に理解していたから。

 どうやら俺の気づかいは、何があろうと、永遠にこいつへ届くことは無いらしい。

 まあ頼れる戦力なのは間違いないので、もう少し頑張ってもらうとしようか……


 ……という風に俺が、美山への対応に見切りをつけた瞬間、その会話が終わるのを待ち構えていたかのように――


「木原君……」


 望月さんが小さな呼びかけを発し、恐る恐ると言った雰囲気で、俺達の話に割って入ってきた。

 何となくだが、内心の不安がにじみ出たような口調である。


 それを聞いて俺は、不意にある事を思い出す。


(そっか……さっきやらかした後、一度も喋ってないんだっけ……)


 朝方にしでかした大きすぎる失敗――訳の分からない冗談を言った件――が、望月さんの声を直接聞いたことにより、はっきりと脳裏へ蘇ってきたのだ。

 おそらくは彼女、ずっとその時のことを気にかけていて、俺とどう接するべきか迷っているのだろう。


 となれば無論、戦闘に集中できるよう、そいつを取り除いてやらねばならない……のだが。


(えーと……)


 俺の方にも未だ、その失敗に対しての動揺が残っているせいか、すぐには良い方法を見つけられない。

 なので仕方なく、まずは先ほどの支援への感謝を述べてから――


「ああ、その……さっきはありがとう。おかげですごく助かったよ。

 ええと、あと、それから……」


 自身の定めた覚悟の全てを、詳しい理由も告げぬまま、熱く彼女に伝えてしまった。

 何か言わねばという強迫観念と、彼女を守り抜きたいという使命感、その両方に激しく急き立てられていたから。 


「今日は俺が、望月さんのことを守るから。

 何があっても、どんな奴が来ても、絶対危険な目には遭わせない。

 約束する!」


 だがしかし、たいへん残念なことにと言うか、当然のようにと言うか。

 それを聞いても、彼女からの返事は無い。

 一言たりとも発せず、完全に押し黙ったままなのである。


 これはどうやら、ちょっとばかり発言が唐突過ぎたらしい。

 まあ脈絡も何も無い話だったし、当たり前と言えばそうなのだが。

 要するに俺は、またしても盛大にドジを踏んでしまったのである。


 その学習能力皆無な自身の振る舞いが、俺に深い反省と後悔をもたらす。


(何やってんだ……)


 これじゃ美山に、『デリカシーが無い』なんて言われるのも当然だ。

 相変わらず阿呆で無神経、と己を罵らずにはいられない。


 だが、そうして落ち込む俺の耳に――


『……お取り込み中のところ、たいへん申し訳ないのですが』


 突如指揮官である志藤から、緊張感を漂わせた口調で、危急を知らせる通信が入った。


『三人とも気を引き締めてください。厄介な大物が迫っていますので』


 それに応じ、慌てて気持ちを切り替えつつ、俺は周囲の索敵を行ったのだが。

 結果すぐさま、先の彼女の言葉通り、一筋縄ではいかない奴の姿が飛び込んでくる。


(あれは……!)


 そこで見えたのは、アンコウを思わせる丸みを帯びたデザインの、超大型の敵機である。

 ちなみにそのサイズは、『ゴーレム』を何機も搭載できそうなほどに大きい。

 あれは俺達が『アングラー』と呼称している、奴らの母艦に相当する存在だ。


 そいつがなぜ厄介なのかと言うと、それは単純に性能面で、他の連中とは一線を画しているから。

 先ほど戦った『ゴーレム』でさえ、比べ物にならないと言えるほどに。


 まず特長としては、その豊富な武装だ。

 機体側面に並ぶ大量のミサイルポッド、口吻部に設置された拡散式のプラズマキャノン、全身を覆う無数の迎撃用ガトリングなどが、あいつには搭載されている。

 極めて充実した火力の持ち主、と表現して差し支えはないだろう。


 また装甲も非常に堅牢で、貫徹し得る武装は極めて少ない。

 今の三人で戦うのなら、基本は美山のD-1トルーパーが装備する、大型のプラズマランスに頼るより他は無いはずだ。

 要するにまあ、単独では対処不可能な強敵、ということである。


 しかも、問題はそれだけではない。

 そいつの周囲に展開する護衛機の一団の中にも、かなり危険度の高い奴らが多数見て取れた。

 いつもの『バグ』や『ビッグアイ』の他に、『ハウンド』と呼ばれる、超小型の攻撃機が交じっているのだ。


 そいつの形状は、犬と言うより野生の狼に近い。

 また性能面はちょっと特殊で、機動性は高いが装甲は薄く、武装の方も申し訳程度……というタイプだ。

 スペック的には『バグ』より低級で、本来なら恐るるに足りぬ相手である。


 とは言えこいつは、生き物ならば顎に当たる部分の内部に、大量の爆薬がセットされている。

 目的はもちろん、突進し目標に食らいついてから、それを起爆し相手にダメージを与えること。

 言わば自爆専門の敵であり、その威力も極めて高いので、とにかく対処が困難という印象しかない。


 今はそんな奴らが、徒党を組みこちらへ向かっている最中、というわけだ。

 おそらく現時点における、敵の中核戦力と見て間違いはない。

 志藤の言う通り、たいへんに厄介な状況と呼べるだろう。


 しかしもちろん、尻尾を巻いて逃げるという選択肢は無い。


(やるしか、ないな……!)


 皆を説得し、撤退させるのが不可能な以上、戦って勝利を掴み取るしかないから。

 きっちり気を引き締め直し、全力で二人を守るとしよう。


 そう再び気合いを入れ、決意を新たにした俺へ、次いで志藤からの手慣れた指示が届く。


『美山さんはアングラーへの攻撃を担当。

 望月さんは自分を守りつつ、美山さんの支援を行ってください。

 木原君は、その望月さんの護衛をお願いします』


 美山を『アングラー』に集中させるから、俺は他の小さい敵を倒せ、という意味だろう。

 機体の性質を考えれば、極めて妥当な判断である。

 まあ自分があくまで脇役扱いなのは、少なからず残念なことだったが。


 とは言え今は、皆で生き延びることが何よりも大事な状況である。

 ゆえに俺は、そのつまらぬ感情を打ち捨てて、力強く彼女の言葉に答えた。



「ああ、任されたっ!」








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