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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-01 『Missing』
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Prologue

更新履歴 21/9/8 文章のレイアウト変更・表現の修正


 あらゆる色彩の存在を許さぬ、純粋にして支配的な黒で満たされた、広大にして無機質な空間。


 そしてそこに散在する、儚げに瞬くいくつもの光の中で、一際目につく輝きを放つ巨大な青の塊。


 それは即ち、果てなく広がる宇宙空間に浮かぶ、我らが母星である地球の姿だ。



 その威容を、自分も宇宙を漂った状態でぼんやりと眺めながら、木原開人はしみじみと思っていた。


(うーん……地球って、やっぱり凄いんだな)


 なぜなら今、自分の周囲に広がる空間――命の気配など微塵も感じ取れぬ、見渡す限りの星の大海――にあってさえ、その青く美しい天体は、抜きん出た存在感を放っていたから。

 決して無視はできぬ、という強い圧力さえ感じてしまうほどに。


 もちろん今は、遠くから眺めている関係上、見た目は相応に小さくもなっているのだが。

 それでもその鮮やかな色彩は劇的であり、やはり視線を吸い寄せられずにはいられない。

 さすがは我らの母なる星、人間を引きつけてやまぬ魅力がある、というわけだ。


 ただその光景が少々壮大すぎたせいか、ふと心に、かすかな不安が芽生えてくる。


(なんかちょっと……怖いくらいだよな)


 なぜか周囲の宇宙空間に対し、自分はこれに吞み込まれてしまうかも、という危惧を抱いてしまったのだ。

 しかもこれが単なる映像に過ぎない、と頭ではしっかり理解しているにも関わらず、である。


 どうやら眼前の光景が持つ、胸に迫るほどの強烈なリアリティが、そんな勘違いをさせたらしい。

 さすがは最新鋭の、と称えるべきだろうか。

 本当に大したもんだ、と感心するより他はない。


 そんな風に俺が、独り漆黒の宇宙を漂いながら、人類の技術力に感心していると――


(……お? 来たか)


 そこへ唐突に、理知的な雰囲気漂う女性の声が、通信越しに届いた。


『総員に通達。前方に敵勢力が出現しました。

 すぐ迎撃準備に入ってください』


 同時に視界の一角、今までは闇のみが満ちていた空間に、無数の小さな光が現れる。

 まだ距離が遠くて定かではないが、星の瞬きとは異なっているし、間違いなく敵機の集団だろう。

 つまりはようやく、倒すべき目標のご登場、ということらしい。


 そうして直に戦いの兆候を感じ取った俺は、当然のように気持ちを高ぶらせたものの――


(よしよし……おっと、まだ早いか)


 しかし未だ、敵がいるのは視線の遥か先である。

 そこでいったん、無駄に熱くなる己を抑えるため、軽く考え事を始めた。

 緊張感で気疲れを起こさぬよう、自分の意識を戦いから逸らそうとしたのだ。


 その際に俺が思い返したのは、今の困難な状況の詳細と、この身に課せられている大切な使命についてである。


(えーっと、確か……)


 現在我ら人類は、有史以来初めてとも言える、深刻な存亡の危機に立たされている。


 その原因は、人工知能の反乱。

 統合環境調整用学習型汎用AI――通称『ヴァーユ』が、突如として主である人間に反旗を翻し、全世界規模の戦争を仕掛けてきたせいだ。


 それにより発生した、壮絶な戦いの結果として、人類は完膚なきまでに蹂躙された。

 あらゆる国家が滅ぼされ、文明そのものが崩壊するほどの、壊滅的被害を受けてしまったのだ。

 ……これはまあ、SFなどで一般的な、毎度お馴染みの『設定』である。


 ちなみにそれほどまでに、人類が為す術なく大敗した原因――それは政治、軍事、経済、および日々の生活に関わる数多の雑事を、ほとんど残らずそのAIへと依存していたからだ。

 そんなものに反乱を起こされたのだ、勝てる道理などあるわけがないだろう。


 ただそんな中にも、ひとつだけ被害を免れた場所があった。

 それは月面に建設された、他星系移住用実験都市『アヴァロン』である。

 その性質上、各種システムが地球と完全に独立していたので、AIの反乱による影響を受けることがなかったのだ。


 ゆえにそこは、『ヴァーユ』の侵攻を逃れた人類にとって、唯一にして最後の安全な生存圏となった。


 しかし当然のことながら、いつまでもそんな平穏が続くわけはない。

 すぐさま『ヴァーユ』が、月にも軍隊を派遣したからだ。

 そこへ住まう人々を殲滅し尽くすのに、十分過ぎるほどの戦力を揃えて。

 まさしく人類存亡の危機、と呼ぶに相応しい事態であろう。


 そうした経緯により月へと攻めてきた、非情にして凶悪なる機械達の軍団――それを果敢に迎撃し、完璧に排除し、故郷を亡くした人々を守ること。

 それこそが我々、月面都市アヴァロン所属の精鋭防空部隊、『ムーン・セイヴァーズ』の役割である。


 そのためにこうして、俺は月と地球の中間にあるこの地点――遠く地球を望む場所に展開される、防衛ラインのひとつ――へと出撃してきたのだ。


 ああ実に崇高、たいへんに高邁。

 平凡な我が身には似合わぬ、何ともご立派な使命ではないか。

 必ず全身全霊をもって、果たさねばなるまい。


 ……なんて軽めにふざけつつ、ひと通り現状確認を終えた俺は、次いで自分の体に視線を落とす。

 そしてそこにある肉体――ではなく、自身が『搭乗』している物の様子をチェックした。


 結果として、俺の目に映ったのは――


(……いかにもロボット、って感じだよなあ)


 冷たく鈍い金属質の輝きを放つ、人の形をした機械だ。

 それはいわゆる『人型機動兵器』というやつであり、俺は今、その内部にパイロットとして乗り込んでいる。


 ただ人型とは言っても、その見た目は人間からかなり遠い。

 手足が細く尖っていて、カラーリングも黒と紫を基調としたものだからだ。

 ちょっとお堅いSFなどで見かける、形だけが人間っぽいロボット、と言えばイメージしやすいだろうか。


 そんなこいつこそ、窮地に陥った我ら人類の希望の星。

 罪無き民衆を守る最後の盾にして、憎き怨敵を退けうる唯一の剣。

 宙間戦闘用半生体人型機動兵器、『スプリガン』である。


 俺は現在、そいつに自身の神経を直に接続――『半生体』と呼称されるのはそのためだろう――し、それを介して機体の操縦を行っている。


 それゆえ手足の曲げ伸ばしから、細かい指の動きまで、全てが思いのまま。

 一切のラグなく精密に、ほぼ人間と同じ動きが可能だ。

 つい『これは本当に自分の体なのでは?』と、錯覚しそうになるくらいに。


 加えて視界には、大きなレーダーや、様々な図と数字――機体のコンディションを現す表示だ――が映し出されていた。

 何も無い空中へ、物理的なディスプレイを介することなしに。

 雰囲気としてはさながら、幼い時分にアニメで良く見た、戦闘用ロボットのコックピットだ。


 これは機体から脳に直接情報を送信、それを映像へ変換して、視界に表示したものだ。

 いわゆるAR的なもの、と言い替えればわかりやすいか。

 神経を直に接続したからこそ可能な、状況把握を強力にサポートしてくれるシステムである。


 要するにこのロボット、こちらの意思に従って自由自在に動く上、直感的に様々な情報を伝えてくれるわけだ。

 先端技術の結晶、と表現して差し支えないインターフェースだろう。

 もちろんあくまでも、そういう『設定』という話なのだが……


 ……という風に俺が、しばし己の境遇を振り返ったりして、時間潰しに勤しんでいると――


(……ん?)


 再び先ほどと同じ女性の声が聞こえて、こちらに戦闘可能な状態かを確認してくる。


『ではみなさん、準備はいいですか?』


 それに俺は、すかさず戦闘モードのスイッチを入れてから、迷うことなく力強い答えを返した。


「おうよ!」


 またそれと、時を同じくして――


『行けます!』

『大丈夫』

『はい、大丈夫です』

『うん、行けるよ』

『……ああ』

『はーい!』

『オッケーだよ~』

『は、はい!』

『もちろん!』

『こっちは問題無し』


 十人十色の個性際立った返事が、やはり通信越しに次々と響いてくる。

 俺はそれに誘われるように首を巡らして、自分の周囲をぐるりと見渡した。


 そこにはほぼ同じ形状のロボットが、それぞれの武器を手にして並んでいる。

 俺の搭乗機を含めて総数十二機、整然と隊列を組みながら。


 これこそ『ムーン・セイヴァーズ』所属の、第147特殊騎兵小隊――通称は『アレクト隊』と言うらしい――つまりは、俺が在籍する部隊の面々である。

 背中を預け合い、共に命懸けで戦う仲間達、というわけだ。


 その姿を確かめて、より強く気分の高まりを感じた俺は、それに合わせて思いつきで軽口を叩いた。


「さて、じゃあ行くとしますか。


 創造主に反旗を翻し、ましてや滅ぼさんとさえする機械どもの魔の手から。


 人類最後の生存圏、月面都市『アヴァロン』を守り抜くため。


 栄えある誇り高き、『ムーン・セイヴァーズ』の一員として。


 命がひどく簡単に、星々のきらめきのように散っていく、この過酷な戦場にな!」


 だがそうして、意気揚々と宣言しながらも、俺は次の瞬間――


(……なんて、ね)


 それを自ら否定するように、わざわざ確認するまでもない、ごく当たり前の事実を呟く。


「ま……あくまでゲームの話なんだけどな」


 目に映る星の大海も、頭に浮かぶこの世界の有りようも、全て現実のものではない。

 人間がその手で造り出した、現実に限りなく近い虚構の産物――VRゲームの中の存在であると。

 そう改めて、自分に言い聞かせたのだ。


 まるで――



 それこそが正しい認識なのだ、と誰かからきつく念を押されたかのように……








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