Section-11
更新履歴 21/11/3 文章のレイアウト変更・表現の修正
爆発が起きた箇所から激しく噴煙を上げつつ、母艦はその巨体を大きく揺らがせていた。
あの様子だと最悪、装甲が完全に破壊されて、内部にまで被害が及んでいるかもしれない。
今後の航行に支障が出かねない、かなり深刻なダメージを負った、と言えるだろう。
そんな艦の惨状を前に、俺は何が起きたのかを即座に察する。
(あの姿が見えない『ハウンド』か……!)
以前戦った、ステルス機能搭載型の『ハウンド』――仮に『ステルスハウンド』と呼称する――が出現し、母艦に自爆攻撃を仕掛けてきたのだ。
しかも状況から考えて、かなりの数が同時に。
だってそうでもなければ、こうも綺麗に不意を突かれた上、あそこまでの被害が出たりはしないはずだから。
その火力と隠密性を考慮すれば、ほぼあいつで間違いはあるまい。
おそらく俺達が、他の敵の相手をしている内に、密かに接近してきていたのだろう。
そもそも良く考えてみれば、敵が不自然に退いたのは、これが狙いだったのかもしれない。
こちらの油断を誘い、あれが近づける隙を作り出した、というわけだ。
その存在を完全に失念していた、愚かな自分を責めるばかりである。
とは言え無論、今の俺達には、後悔する暇すら与えられてはいない。
実際志藤からは、ほぼ間を置かず次の指示が届いた。
『まだ第二波が来ます! すぐ迎撃を!』
するとそれに応じて、射撃系の武装を失った俺以外の味方が、全員で攻撃を開始する。
それぞれの武器を起動し、艦の周囲にばらまいて、可能な限りの弾幕を張ったのである。
要は以前あいつに襲われた時と、全く同じ方法で迎撃を行った、ということだ。
だがそうやって、かつてのやり方を踏襲したにも関わらず――
(駄目か……!)
その結果は、前回と違ってあまり芳しくはない。
いくら全員で攻撃を繰り出しても、起こる爆発は数えるほどで、明らかに物足りぬ量なのだ。
このペースでは到底、連中の突撃を防ぎきることなど不可能だろう。
そうして作戦が思うようにいかない理由は、おそらく部隊の人数が減り、満足な迎撃が不可能になったから。
元より欠員だらけな上に、俺が参加していないので、絶対的に火力が不足しているのだ。
このままだと末路は目に見えているし、すぐにでも何らかの対処が必要である。
ただその問題には、次いで柳井が、ひとつの解決策を提示してくれた。
『橘! 今から例のブースターをいくつか射出する!
こいつを母艦の前に出してみてくれ!
それで囮になるかもしれないから!』
どうやらいつかの長距離移動用ブースター――柳井が脱走に使おうとしたあれ――を、あえて敵の目の前に出すつもりらしい。
そうやって注意を引きつければ、母艦を守れるかも、と考えたようだ。
そのアイデアがうまくいくかはわからないが、まあどうせ俺は手持ち無沙汰なわけだし、ここはとにかくやってみるべきだろう。
そう判断した俺が、迷わず柳井に了承の返事をすると――
「わかった! 頼む!」
すぐさま母艦の格納庫のハッチが開き、見覚えのあるミサイルのような物体が、いくつか宇宙空間に放たれる。
宣言通り、例の長距離移動用ブースターを射出してきたのだ。
貴重な物ではあるが、今のところ余剰は十分なはずだし、ここは惜しまず使わせてもらうとしよう。
ゆえに早速その内のひとつに近付くと、軽く操作して推進装置を起動した後、適当に前方の敵へ向け突っ込ませた。
結果少し進んだところで、ブースターが激しい爆発を起こし、粉微塵に砕け散る。
そこで『ステルスハウンド』に接触したか、もしくは向こうから攻撃を仕掛けてきたのだろう。
それなりに囮の役割は果たせた、ということだ。
ならばとその勢い乗って、俺は付近のブースターを次々と起動し、同じように突撃させていった。
そいつらが敵陣に突っ込んで、激しい爆発を巻き起こす様を、手応えと共に眺めながら。
するとそれをしばし続け、囮に使ったブースターの数が、ちょうど五機に達したところで――
(……動いた!)
周囲の敵が行動を開始し、またこちらに対し接近してきた。
おそらく『ステルスハウンド』が全機撃墜され、自分達が出張るしかなくなったからだろう。
要はほんのわずかながら、態勢を立て直す余裕が生まれた、ということである。
その戦況の変化を感じ取ってか、次いで志藤が柳井に、母艦の状態についての報告を求める。
『柳井君! 母艦の被害は! 航行は可能ですか!』
ただ残念なことに、柳井から返ってきたのは、ひどく不都合な知らせだった。
『推進装置が少しやられてる!
航行自体に支障は無いけど、最高速度は出ないから、このままじゃ追いつかれるぞ!』
どうやら推進装置が被害を受け、一部に不具合が出ているらしい。
普通に航行はできるが、全力では動けぬ状態、ということである。
無論それだと、奴らから逃げ切ることは難しい。
そこで俺は、まさしくここが自分の出番だ、と判断し――
(ここだな……よし!)
すかさず二人の会話に割り込んで、力強く自身の考えを叫んだ。
「俺がしんがりをやって、敵の足止めをする!
だからお前達は先に行け!」
自分が足止めをしている内に、味方に逃げてもらおう、と考えたのである。
身勝手な行動で迷惑をかけた分は、どこかで取り戻しておくべきだ、と考えていたから。
それが無謀な選択であることを、重々承知の上で。
もちろんその危うい提案には、すかさず志藤が反論をしてきたが――
『しかしそれでは、完全に孤立することになってしまいます!
あまりに橘君が危険……』
俺はそれを遮って、強引に自分の意見を通そうとする。
「栗原はもう弾切れ寸前だろうし、お前や望月は直接戦闘が得意じゃないはずだ!
でも俺なら独りでも何とかなる!
簡単にやられたりはしないから、今は構わず行け!」
すると志藤が、相変わらず反対はしながらも、一瞬だけ迷うような素振りを見せたので――
『し……しかしここで足を止めたら、敵からの離脱は不可能になります!
やっぱり無謀です! 許可はできません!』
ここぞとばかりに、最後の一押しを行った。
「なら、あのブースターをひとつ置いていってくれ!
そいつを使って必ず追いつく! それならいいだろう!」
結果として志藤が、何かを考えているかのように黙り込む。
少なからず俺の提案が有効だと認め、その実現性について考慮中だからだろう。
後は彼女が決断するまで、こちらはじっと待つだけである。
その予測通り、わずかな間を置いた後、志藤は俺の提案を受け入れた。
『……わかりました! 橘君にはしんがりをお願いします!
それと柳井君はブースターの射出を、望月さんは橘君の援護を行ってください!』
そう指示を受けた望月と柳井は、迷うことなくそれに応じる。
いかにもこの二人らしいな、と思えるような表現で。
『はい! 残っているビットは、全てそちらに回します!
援護は任せてください!』
『了解! ほらよ橘、ご注文の品だ!
代金は後でいいけど、ちゃんと払えよな!』
それと同時に母艦から、三機ほどのブースターが射出された。
複数寄越してきたのは、途中で撃墜されるリスクを考慮してのことだろう。
あいつなりに精一杯の手助けしてくれた、というところか。
ただその一方で、望月が俺の元へ送ってくれたビットは――
(少ないな……)
残機全てと言いながら、わずかに二機のみ。
どうやら激戦をくぐり抜けていく中で、ほとんどが撃墜されてしまったらしい。
正直に言えば、援護としては心許ない数である。
もっともそうして、ビットの数が減ってしまった原因の多くは、俺の勝手な行動だ。
今は自分の身を省みず、ありったけの戦力を提供してくれた望月に、最大限の感謝をすべきだろう。
ゆえにすぐさま、二人にしっかり礼を言っておく。
「ああ! すまん、世話になる!」
またちょうどその辺りで、志藤が俺に最後の指示を出してきた。
『橘君! もう敵陣の突破は間近ですから、時間は少しだけ稼げれば十分です!
決して無理はせず、危険を感じたらすぐ撤退してください!』
俺はその気遣いのような言葉に、迷わず力強く答えを返す。
無駄な心配をさせないように、あえて堂々と振る舞ったのだ。
……そんな約束、本当は守る気などないというのに。
「了解! 任せろ!」
そしてそのやり取りの直後、俺は独り前進を停止して、撤退を続ける母艦から離れた。
同じ場所に残された護衛用のビットと、使う予定の無い、逃走用のブースターだけを伴って。
やるべき事はもう、追いすがる敵の足止めを行うことだけだ。
ゆえに去り行く皆の見送りもそこそこに、俺は武器を構え直して、すぐ後方を振り返る。
こちらを滅ぼさんと押し寄せる、死神にも等しい大量の敵軍と、正面から対峙したわけだ。
たった一人、まるで小さな兎が、巨大な猛獣の群れへ立ち向かうかのように。
だがそんな危機的状況に置かれながらも、俺の精神はひどく落ち着き払っていた。
(そう、これでいい……これでいいんだ)
なぜなら、どちらにせよ自分は死ぬ運命にある、と理解していたから。
どうせ未来が無いのなら、ここで終わるのも同じ、と割り切っていたのだ。
まあここまで生き残れたこと自体、奇跡みたいなものなわけだし、むしろ感謝すらすべきなのだろう。
そんな奇妙に晴れやかな気持ちのまま、俺は眼前に迫った、大量の敵軍を迎え撃つ。
内心で撤退したクラスメイト達――特に『あいつ』の無事を、切に願いながら。
(お前らは、ちゃんと生きろよ……)
……なんて風に、完全に自身の生存を諦めていたことが、逆に良くなかったのだろう。
そのせいで俺は、迂闊にも気づくことができなかった。
志藤や柳井と交わした、作戦についての一連のやり取りの中で、『あいつ』だけが何も喋っていないことに。
俺が無謀な提案をした時、なぜだかそこへ、一切口を挟まなかったのである。
考えてみれば、先ほどもそうだった。
俺が浅はかな単独行動を取った際、『あいつ』は全く引き止めてこなかったのだ。
以前に似たような無茶をした際は、後々釘を刺してくるくらい、ずいぶん心配していたというのに。
ただそれでいて、危機に陥れば助けに来た。
俺が無謀な行動に出たら必ずそうする、とあらかじめ決めていたかのように。
例えそれが、自分まで命を失いかねない、おそろしく危険な状況であっても。
俺がその事実に気づいたのは、ついに追撃してくる敵と、正面衝突した直後――
(……は?)
目の前にストライカーの巨体が現れた、まさにその瞬間のことだった……




