表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-13 『Last mission』
156/173

Section-11

更新履歴 21/11/3 文章のレイアウト変更・表現の修正


 爆発が起きた箇所から激しく噴煙を上げつつ、母艦はその巨体を大きく揺らがせていた。


 あの様子だと最悪、装甲が完全に破壊されて、内部にまで被害が及んでいるかもしれない。


 今後の航行に支障が出かねない、かなり深刻なダメージを負った、と言えるだろう。



 そんな艦の惨状を前に、俺は何が起きたのかを即座に察する。


(あの姿が見えない『ハウンド』か……!)


 以前戦った、ステルス機能搭載型の『ハウンド』――仮に『ステルスハウンド』と呼称する――が出現し、母艦に自爆攻撃を仕掛けてきたのだ。

 しかも状況から考えて、かなりの数が同時に。


 だってそうでもなければ、こうも綺麗に不意を突かれた上、あそこまでの被害が出たりはしないはずだから。

 その火力と隠密性を考慮すれば、ほぼあいつで間違いはあるまい。

 おそらく俺達が、他の敵の相手をしている内に、密かに接近してきていたのだろう。


 そもそも良く考えてみれば、敵が不自然に退いたのは、これが狙いだったのかもしれない。

 こちらの油断を誘い、あれが近づける隙を作り出した、というわけだ。

 その存在を完全に失念していた、愚かな自分を責めるばかりである。


 とは言え無論、今の俺達には、後悔する暇すら与えられてはいない。

 実際志藤からは、ほぼ間を置かず次の指示が届いた。


『まだ第二波が来ます! すぐ迎撃を!』


 するとそれに応じて、射撃系の武装を失った俺以外の味方が、全員で攻撃を開始する。

 それぞれの武器を起動し、艦の周囲にばらまいて、可能な限りの弾幕を張ったのである。

 要は以前あいつに襲われた時と、全く同じ方法で迎撃を行った、ということだ。


 だがそうやって、かつてのやり方を踏襲したにも関わらず――


(駄目か……!)


 その結果は、前回と違ってあまり芳しくはない。

 いくら全員で攻撃を繰り出しても、起こる爆発は数えるほどで、明らかに物足りぬ量なのだ。

 このペースでは到底、連中の突撃を防ぎきることなど不可能だろう。


 そうして作戦が思うようにいかない理由は、おそらく部隊の人数が減り、満足な迎撃が不可能になったから。

 元より欠員だらけな上に、俺が参加していないので、絶対的に火力が不足しているのだ。

 このままだと末路は目に見えているし、すぐにでも何らかの対処が必要である。


 ただその問題には、次いで柳井が、ひとつの解決策を提示してくれた。


『橘! 今から例のブースターをいくつか射出する!

 こいつを母艦の前に出してみてくれ! 

 それで囮になるかもしれないから!』


 どうやらいつかの長距離移動用ブースター――柳井が脱走に使おうとしたあれ――を、あえて敵の目の前に出すつもりらしい。

 そうやって注意を引きつければ、母艦を守れるかも、と考えたようだ。

 そのアイデアがうまくいくかはわからないが、まあどうせ俺は手持ち無沙汰なわけだし、ここはとにかくやってみるべきだろう。


 そう判断した俺が、迷わず柳井に了承の返事をすると――


「わかった! 頼む!」


 すぐさま母艦の格納庫のハッチが開き、見覚えのあるミサイルのような物体が、いくつか宇宙空間に放たれる。

 宣言通り、例の長距離移動用ブースターを射出してきたのだ。

 貴重な物ではあるが、今のところ余剰は十分なはずだし、ここは惜しまず使わせてもらうとしよう。


 ゆえに早速その内のひとつに近付くと、軽く操作して推進装置を起動した後、適当に前方の敵へ向け突っ込ませた。


 結果少し進んだところで、ブースターが激しい爆発を起こし、粉微塵に砕け散る。

 そこで『ステルスハウンド』に接触したか、もしくは向こうから攻撃を仕掛けてきたのだろう。

 それなりに囮の役割は果たせた、ということだ。


 ならばとその勢い乗って、俺は付近のブースターを次々と起動し、同じように突撃させていった。

 そいつらが敵陣に突っ込んで、激しい爆発を巻き起こす様を、手応えと共に眺めながら。


 するとそれをしばし続け、囮に使ったブースターの数が、ちょうど五機に達したところで――


(……動いた!)


 周囲の敵が行動を開始し、またこちらに対し接近してきた。

 おそらく『ステルスハウンド』が全機撃墜され、自分達が出張るしかなくなったからだろう。

 要はほんのわずかながら、態勢を立て直す余裕が生まれた、ということである。


 その戦況の変化を感じ取ってか、次いで志藤が柳井に、母艦の状態についての報告を求める。


『柳井君! 母艦の被害は! 航行は可能ですか!』


 ただ残念なことに、柳井から返ってきたのは、ひどく不都合な知らせだった。


『推進装置が少しやられてる!

 航行自体に支障は無いけど、最高速度は出ないから、このままじゃ追いつかれるぞ!』


 どうやら推進装置が被害を受け、一部に不具合が出ているらしい。

 普通に航行はできるが、全力では動けぬ状態、ということである。

 無論それだと、奴らから逃げ切ることは難しい。


 そこで俺は、まさしくここが自分の出番だ、と判断し――


(ここだな……よし!)


 すかさず二人の会話に割り込んで、力強く自身の考えを叫んだ。


「俺がしんがりをやって、敵の足止めをする!

 だからお前達は先に行け!」


 自分が足止めをしている内に、味方に逃げてもらおう、と考えたのである。

 身勝手な行動で迷惑をかけた分は、どこかで取り戻しておくべきだ、と考えていたから。

 それが無謀な選択であることを、重々承知の上で。


 もちろんその危うい提案には、すかさず志藤が反論をしてきたが――


『しかしそれでは、完全に孤立することになってしまいます!

 あまりに橘君が危険……』


 俺はそれを遮って、強引に自分の意見を通そうとする。


「栗原はもう弾切れ寸前だろうし、お前や望月は直接戦闘が得意じゃないはずだ!

 でも俺なら独りでも何とかなる!

 簡単にやられたりはしないから、今は構わず行け!」


 すると志藤が、相変わらず反対はしながらも、一瞬だけ迷うような素振りを見せたので――


『し……しかしここで足を止めたら、敵からの離脱は不可能になります!

 やっぱり無謀です! 許可はできません!』


 ここぞとばかりに、最後の一押しを行った。


「なら、あのブースターをひとつ置いていってくれ!

 そいつを使って必ず追いつく! それならいいだろう!」


 結果として志藤が、何かを考えているかのように黙り込む。

 少なからず俺の提案が有効だと認め、その実現性について考慮中だからだろう。

 後は彼女が決断するまで、こちらはじっと待つだけである。


 その予測通り、わずかな間を置いた後、志藤は俺の提案を受け入れた。


『……わかりました! 橘君にはしんがりをお願いします!

 それと柳井君はブースターの射出を、望月さんは橘君の援護を行ってください!』


 そう指示を受けた望月と柳井は、迷うことなくそれに応じる。

 いかにもこの二人らしいな、と思えるような表現で。


『はい! 残っているビットは、全てそちらに回します!

 援護は任せてください!』

『了解! ほらよ橘、ご注文の品だ!

 代金は後でいいけど、ちゃんと払えよな!』


 それと同時に母艦から、三機ほどのブースターが射出された。

 複数寄越してきたのは、途中で撃墜されるリスクを考慮してのことだろう。

 あいつなりに精一杯の手助けしてくれた、というところか。


 ただその一方で、望月が俺の元へ送ってくれたビットは――


(少ないな……)


 残機全てと言いながら、わずかに二機のみ。

 どうやら激戦をくぐり抜けていく中で、ほとんどが撃墜されてしまったらしい。

 正直に言えば、援護としては心許ない数である。


 もっともそうして、ビットの数が減ってしまった原因の多くは、俺の勝手な行動だ。

 今は自分の身を省みず、ありったけの戦力を提供してくれた望月に、最大限の感謝をすべきだろう。


 ゆえにすぐさま、二人にしっかり礼を言っておく。


「ああ! すまん、世話になる!」


 またちょうどその辺りで、志藤が俺に最後の指示を出してきた。


『橘君! もう敵陣の突破は間近ですから、時間は少しだけ稼げれば十分です!

 決して無理はせず、危険を感じたらすぐ撤退してください!』


 俺はその気遣いのような言葉に、迷わず力強く答えを返す。

 無駄な心配をさせないように、あえて堂々と振る舞ったのだ。

 ……そんな約束、本当は守る気などないというのに。


「了解! 任せろ!」


 そしてそのやり取りの直後、俺は独り前進を停止して、撤退を続ける母艦から離れた。

 同じ場所に残された護衛用のビットと、使う予定の無い、逃走用のブースターだけを伴って。

 やるべき事はもう、追いすがる敵の足止めを行うことだけだ。


 ゆえに去り行く皆の見送りもそこそこに、俺は武器を構え直して、すぐ後方を振り返る。

 こちらを滅ぼさんと押し寄せる、死神にも等しい大量の敵軍と、正面から対峙したわけだ。

 たった一人、まるで小さな兎が、巨大な猛獣の群れへ立ち向かうかのように。


 だがそんな危機的状況に置かれながらも、俺の精神はひどく落ち着き払っていた。


(そう、これでいい……これでいいんだ)


 なぜなら、どちらにせよ自分は死ぬ運命にある、と理解していたから。

 どうせ未来が無いのなら、ここで終わるのも同じ、と割り切っていたのだ。

 まあここまで生き残れたこと自体、奇跡みたいなものなわけだし、むしろ感謝すらすべきなのだろう。


 そんな奇妙に晴れやかな気持ちのまま、俺は眼前に迫った、大量の敵軍を迎え撃つ。

 内心で撤退したクラスメイト達――特に『あいつ』の無事を、切に願いながら。


(お前らは、ちゃんと生きろよ……)


 ……なんて風に、完全に自身の生存を諦めていたことが、逆に良くなかったのだろう。


 そのせいで俺は、迂闊にも気づくことができなかった。

 志藤や柳井と交わした、作戦についての一連のやり取りの中で、『あいつ』だけが何も喋っていないことに。

 俺が無謀な提案をした時、なぜだかそこへ、一切口を挟まなかったのである。


 考えてみれば、先ほどもそうだった。

 俺が浅はかな単独行動を取った際、『あいつ』は全く引き止めてこなかったのだ。

 以前に似たような無茶をした際は、後々釘を刺してくるくらい、ずいぶん心配していたというのに。


 ただそれでいて、危機に陥れば助けに来た。

 俺が無謀な行動に出たら必ずそうする、とあらかじめ決めていたかのように。

 例えそれが、自分まで命を失いかねない、おそろしく危険な状況であっても。


 俺がその事実に気づいたのは、ついに追撃してくる敵と、正面衝突した直後――


(……は?)



 目の前にストライカーの巨体が現れた、まさにその瞬間のことだった……








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ