Section-9
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『ミッキー!』
その呼びかけの主は、もちろん栗原真希だ。
現に声の聞こえてきた方へ視線をやると、こちらに真っ直ぐ向かうストライカーの姿が見えた。
どうやら苦戦中の俺を見かねて、砲撃で支援をしてくれたらしい。
おかげで敵もいったん退いたし、何とか命拾いをした、というところだろうか。
ただし無論、後方で戦っていたはずのこいつが、なぜこんな所にいるのか……という疑問はある。
なのですぐさま、俺はそれについて聞こうとしたのだが――
「お前、何をやって……」
その途中で、否応なく気づいてしまう。
栗原が自分を助けに来たのだ、という事実に。
こいつの性格から考えて、俺が単独行動で窮地に陥れば、必ずそうするはずだから。
おそらく心配のあまり、ついつい持ち場を離れ、前に出てきてしまったのだろう。
つまりは自身の勝手な行動に、栗原を巻き込んでしまったわけだ。
改めて『何やってんだ馬鹿』と、己を罵倒せずにはいられない。
ただし無論、今の俺に――
(いや……落ち着け。今はそれどころじゃないだろ)
そんな事で悩んでいる暇は、一秒だって許されてはいない。
なぜなら栗原がここにいるということは、母艦の守りがさらに手薄になっている、ということでもあるから。
これ以上の危機を招かぬためにも、速やかにアサルトとアーチャーをどうにかして、志藤達と合流しなければならないのだ。
だがそうしてようやく、俺が冷静さを取り戻したその矢先に、再び事態が厄介な方に動いた。
先ほど栗原の攻撃を受け、いったんは退いた例の二機が、すぐまた距離を詰めてきたのだ。
俺達を見逃すつもりは、これっぽっちもないらしい。
となると当然、今から後退して、味方の元へ向かっている余裕は無いだろう。
互いの速度が同等である以上、追撃を振り切れず、途中で背中から撃たれてしまうはずだから。
生き延びるためには、ここで連中を撃退しなければならない、ということである。
そう状況を把握した俺は、すかさず決断を下し、栗原に指示を出す。
「敵が来てるから、お前はアーチャーの方に仕掛けてくれ!
俺はアサルトをやる!」
栗原にアーチャーを任せ、自分はアサルトを迎え撃つ、と決めたのである。
なぜならストライカーの機動力であれば、同じく高機動なアーチャーとの距離を詰められるから。
俺の機体だとそれが困難なので、今はあいつに相手を頼むしかないのだ。
もちろんこれほど損傷した俺の機体で、アサルトの相手などできるのか、という問題もあるのだが。
しかしすでに逃げ道は無いわけだし、例え不利でもとにかく戦うしかないだろう。
そんな覚悟を決める俺の前で、栗原は先ほどの指示に対し、いつものように元気よく返事をしてから――
『うん、わかった!』
即座に加速を開始し、アーチャーに向け突っ込んでいった。
そして迎撃してきた敵と、激しく砲火を交えつつ、瞬く間に距離を詰めていく。
このまま格闘戦に持ち込めば、追加武装のプラズマランスが役立つはずだから、それなりには戦えるだろう。
ただその様子を見たアサルトが、俺を無視して方向転換し、アーチャーの方へ駆け付けようとした。
おそらく近接戦闘が苦手な相方のため、その援護に回るつもりなのだろう。
もしこのまま見過ごせば、栗原が二対一で戦う状況を作ってしまう、というわけだ。
ゆえにそれを許すまいと、俺は即座にアサルトへ攻撃を仕掛ける。
「お前の相手はこっちだ!」
ショットガンで牽制射撃をしつつ、その進路を塞ぐように移動したのだ。
両者の間に割り込んで、敵の注意をこちらへ引きつけるために。
するとその目論見通り、アサルトが瞬時にこちらを振り向き、同じくショットガンで反撃してきた。
きっと手負いの俺なら、短時間でも片付くと踏んで、先に仕留めておくことにしたに違いない。
無論、それは望むところの反応だったので――
(上等だ……!)
俺はそのまま、繰り出される攻撃に耐えつつ、速度を緩めずアサルトへ突進していく。
ダメージは承知の上で、一気に接近を試みたのだ。
苦手な中距離戦に持ち込まれてしまえば、まず勝ち目は無いはずだ、と判断していたから。
その甲斐あって何とか、ほぼ目と鼻の先、というくらいにまで肉薄できたのだが。
しかしそれを見たアサルトは、すかさずブレードを掲げ、こちらの肩口に目がけ振り下ろしてきた。
こちらに格闘武器が無い、という弱点を突き、ここで勝負をつけにきたのだろう。
ただしその対応は、事前に予想済みだったので、俺は素早く構えたショットガンを――
(頼む、耐えてくれ!)
相手が狙った部位――肩の上に載せ、敵のブレードを受け止める。
その銃身を緩衝材にして、致命傷だけは避けようと考えたのだ。
どうせ撃ち合いでは負けるわけだし、なら失っても構うまい、と割り切った上で。
もちろん盾ほどの耐久力は無いので、攻撃を完全には止められず、あっさり切断されてしまったのだが。
しかし幸い、ブレードの刀身は本体まで届かず、抱えている右腕に食い込んだ辺りで止まった。
どうやらそれを振り下ろしたのが、先ほど俺の攻撃により損傷した腕だったせいで、十分な力が出なかったらしい。
ならばとその隙を突いて、俺はショットガンごと敵のブレードを弾き飛ばす。
さらにそれで相手の体勢が崩れたところへ、無理やりに組み付くと、互いの腕を絡めるようにして押さえつけた。
関節技の体勢に移行した、ということである。
そしてそのまま、ブレードを持っているアサルトの腕を、強引に締め上げていく。
相手から離れないように気をつけつつ、全身の力を一点に集中して。
すると当然のように、敵はそれを嫌がり、反撃のためショットガンを向けてきたのだが。
俺はその突きつけられた銃口を、体をひねって巧みに回避し、しつこく関節技をかけ続けた。
あたかも宇宙空間で、総合格闘技の試合でもしているかのように。
結果として、それから間もなく――
(……よし! やったぞ!)
金属が砕ける際の不快な音と共に、アサルトの腕が不自然な方向に折れ曲がる。
同時に掴んでいたブレードも、奴の手から離れ、辺りをふらふらと漂い始めた。
これで向こうもまた、格闘戦用の武器を失ったことになるわけだ。
そこですかさず、俺はそのブレードに手を伸ばし、同じく掴もうとしていたアサルトよりも早く確保する。
敵は片腕な上、ショットガンを格納する手間もあったので、こちらが悠々先手を取れたのだ。
これで近接戦では大幅有利、まさに千載一遇の好機の到来、と言っていいだろう。
ゆえにその機を逃さず、俺は掴んだブレードを逆手に構えて、アサルトの頭部に突き立てた。
一撃必殺を狙って、力の限り容赦なく。
これで俺の勝ちだ、と内心で激しく咆哮を上げながら。
ただその一撃により、敵が脱力したように動きを止めた、次の瞬間――
(あ……?)
なぜだか突然、脳裏に誰かの顔がよぎる。
無邪気な少年の雰囲気を残す、同い年くらいの男子の笑顔が浮かんできたのだ。
まるで白昼夢か、あるいは何かのフラッシュバックのように。
その不可思議な現象のせいで、俺は妙に動揺し、思わず状況も忘れ硬直してしまった。
すると次いで、そこを狙ったかのように――
(……! こっちに仕掛けてきたか!)
突如として、アーチャーが襲いかかってくる。
なんとすでに交戦していた栗原を無視し、向きを変えてこちらへ攻撃してきたのだ。
しかも今までと違って、どこか狂ったかのように荒く激しく。
無論、今の満身創痍に近い俺では、それに対抗するのはかなり難しい。
なのでたまらず、いったん後ろへ退こうとした……のだが。
『えーいっ!』
それよりも早く、栗原のストライカーが、後ろからアーチャーに攻撃した。
ひと息に接近した後、ガーディアンの副腕で掴んだプラズマランスを振るい、ほぼ無防備なその背中を刺し貫いたのだ。
そうもあっさり仕留められたのは、きっと俺に集中していたせいで、背後の警戒が疎かになっていたからだろう。
もちろんこれは、やや不可解な挙動である。
だってあいつは、自分を狙う敵に背を向けてまで、こちらを攻撃してきたのだから。
いくら俺が追い詰められていたとは言え、普通なら考えにくい選択だろう。
連中の思考パターンは、元のパイロット達をトレースしているらしいという話だが、もしかしたらその影響なのかもしれない。
……などと俺が考えている内に、プラズマランスに貫かれたアーチャーが爆発、あえなく宇宙の藻屑へと変貌する。
またアサルトの方も、先ほど俺が一撃叩き込んで以降、さっぱり動く気配は無い。
これにて無事に、当面の脅威は排除されたわけだ。
しかしそう安堵する俺の耳に、次いでふと、栗原の上げる不思議そうな呟きが聞こえてきた。
『あれ……これって……?』
その理由には軽い心当たりがあったので、俺はすぐさま詳細について問いかける。
「どうした?」
それに栗原は、らしくもなく歯切れの悪い答えを返してきた。
『うん……なんか……優しそうな男の子の顔が見えたような気がして……
気のせいかな……?』
やはり栗原も、先ほどの俺と同じように、突然何者かの顔が見えたらしい。
言動からして知らない相手のようだが、本当にいったいどこの誰なのだろうか。
もっともその疑問には、思いのほかあっさりと結論が出る。
(まさか……いなくなった連中なのか?)
例の顔の主は、ひょっとして犠牲になったクラスメイト達なのではないか、と思いついたからだ。
根拠は先ほど撃墜した二機が、いずれも彼らが搭乗していたのと同じタイプだった、という事実である。
つまり同型の機体を撃墜することによって、消されたはずの記憶が強く刺激され、一部だが復活したのかも……と考えたわけだ。
無論確証のある話ではないが、それなりに筋の通った推測だし、まあ当たらずとも遠からずというところだろう。
ただそれならそれで、と俺はその思いつきに押されるように、再度仕留めた二機の方へと目をやった。
そこには当然、力を失ったアサルトと、物言わぬ残骸に成り果てたアーチャーが漂っている。
その無惨な姿を見ていると、例え本物ではないとわかっていても、やはり複雑な気分になるのは避けられない。
ただそんな感傷に浸る俺を、次いですぐさま、栗原の警告が現実に引き戻した――
『ミッキー! 今度は母艦が攻撃されてるよ!』




