Section-8
更新履歴 21/11/3 文章のレイアウト変更・表現の修正
A-1アサルト、B-1アーチャー、B-3ブラスター、D-1トルーパー。
それが俺達の前に現れたコピー野郎――志藤は確か『ドッペルゲンガー』と名付けていた――のタイプの内訳だ。
そいつらは現在、互いに連携を取りながら、高速でこちらとの距離を詰めてきている。
接触して戦闘になるのは、もはや時間の問題と言えるだろう。
その突きつけられた現実を前に、俺は凄まじいまでの焦りを覚えた。
(くそっ、こんな時に……!)
なぜならあのコピー野郎は、個々の戦闘能力が非常に高いから。
容易に仕留められぬどころか、こちらが撃破されてしまう危険すらあるのだ。
要はただでさえ苦しい今の状況に、さらなる困難が降りかかってきた、ということなのである。
するとそこで、同じく局面の厳しさを認識したらしい志藤から、撤退の指示が飛んでくる。
『橘君! いったん下がってください!
その敵には全員で対処します!』
確かに現状、相手は四機でこちらも四機だから、合流すれば数的不利だけは解消できる。
戦い自体が避けられぬ以上、一度退いて態勢を整える、というのは極めて妥当な判断だろう。
しかし一方、全員で戦うとなれば、その間ずっと母艦が無防備になってしまう。
コピー野郎どもの相手はできても、他の敵の攻撃は防げなくなるのである。
艦が損傷している現状で、それはあまり望ましくない選択肢と言えよう。
そう今後の展開を憂慮した俺は、それを打開するため、とある覚悟を決めた。
(俺がやるしかない……!)
自分が先手を打って奴らに仕掛け、一機でもいいから撃墜しておこう、と考えたのである。
そうしてあらかじめ数を減らしておけば、連中の相手だけに集中せずに済んで、後の戦いが必ず楽になるから。
一撃必殺の武装を持つ俺の機体なら、それも十分に可能なはずだし、挑む価値はあるはずだ。
もちろん強敵である奴らに対して、単独で突撃するのは極めて危険なのだが。
それでも今は、贅沢を言っていられる状況ではないし、とにかくやってみせるのみである。
ゆえに俺は、望月に再度、自分の支援を要請してから――
『……すまん! いったん一人で突っ込む!
すぐに戻るから、それまで支援してくれ!』
それへの返事が来るよりも早く、すかさずスラスターをフル稼働させ、眼前のコピー野郎どもに突撃した。
先の指示を無視して、たった一人で。
当然志藤は、そんな俺の行動に驚き、こちらを制止しようとしたが――
『え……? 橘君? 待っ……』
俺はそれを躊躇なく振り切って、さらに加速しつつ前へ進んでいく。
自分がやらねば皆が危ない、という使命感のような熱い気持ちに、激しく突き動かされながら。
そのせいで自分が、完全に冷静さを失ってしまっている、という事実には全く気づかぬままで。
そんな俺の姿を見て、敵は即座に迎撃態勢に入ったのだが。
たださすがに、一人で突っ込んでくるとは予測していなかったのか、若干ながらその動きが鈍い。
付け入る隙は少なからずある、ということだ。
なので迷わず、俺は一気に手近にいたアサルトへ接近、そのまま格闘武器の間合いに捉えた。
あちらの態勢が整うよりも早く、こちらは攻撃態勢に入れたわけだ。
四対一で戦う以上、余計な時間をかけるのは自殺行為だし、このまま早期決着を図るとしよう。
それゆえ間を置かず、持った大型ブレードを振りかぶり、アサルトに対し一閃したのだが――
(落ちろ!)
しかし残念ながら、事はそう思惑通りには進まなかった。
(くっ……仕留め損なったか!)
なぜならアサルトが、素早く俺の攻撃に反応し、シールドを構えて受け止めたから。
必殺を目論んで放った一撃が、あっさり防がれてしまったわけである。
もちろん受けたシールドは破壊できたし、それを構えていた腕にも、余勢を駆って深手を負わることができたのだが。
ただ結局のところ、致命傷には至っていない。
最初の仕掛けに失敗し、かなり不利な状況に追い込まれた、と言っていいだろう。
案の定その直後、俺は周りの敵から袋叩きにされてしまう。
(ぐっ……くそっ!)
四機それぞれに激しく攻撃され、為す術なく被弾し続ける羽目になったのだ。
具体的にはアサルトのショットガン、アーチャーの大型プラズマライフル、ブラスター及びトルーパーのプラズマキャノンを、四方から絶え間なくに撃ち込まれた。
砲火で構成される滝の中に押し込まれた、とでも例えるのが適切かもしれない。
一応望月のビットが、ある程度は止めてくれていたものの、それも長くは続かなかった。
伴っていた四機全てが、やがてその猛攻に耐えきれなくなり、バリアを貫かれ爆砕してしまったのである。
以降はただただ、押し寄せる砲火に蹂躙されるばかりであった。
その結果として、機体が大幅に損傷しただけでなく――
(しまった……!)
大型ブレードをアーチャーの狙撃に射抜かれ、その刀身部分を完全に破壊されてしまう。
後に残ったのは柄の部分のみであり、当然これだと戦闘の役には立たない。
使用の継続を諦め、このまま投棄するしかないだろう。
しかも先ほど望月のビットが落とされてしまったせいで、すでに防御面も丸裸である。
要は敵を一撃で仕留められる武器を失った上、身を守る手段も無くす、という大失態を演じたわけだ。
自分から仕掛けておいてこの有り様とは、情けないにも程がある、と己を卑下するばかりだった。
もっとも、今の俺にはそんな暇すら無い。
次いでアサルトが突然加速し、格闘武器を構えつつ、目前にまで接近してきたからだ。
おそらくこちらが主武装を失ったのを見て、一気に仕留めようと目論んだに違いない。
ゆえに慌てて、俺は武器を予備の小型ブレードに持ち替え、突進してきたアサルトを迎え撃つ。
そして直後に振り下ろされた、敵の斬撃を受け止め、そのまま何度か激しく切り結んだ。
とりあえず戦闘自体は可能、ということである。
しかし次いで、そんな俺の甘い認識を嘲笑うかのように――
(なっ……無視する気か!)
ブラスターとトルーパーが進路を変え、軽く迂回して母艦の方へと向かい始めた。
どうやら弱体化した俺の相手は、アサルトとアーチャーだけで十分、と判断したらしい。
もちろんこれは、極めて由々しき事態である。
だって栗原の機体は小回りの利きづらさ、望月と志藤の機体は装甲の薄さが原因で、三機とも一対一での戦いは苦手なタイプだから。
このまま俺が不在の状態で連中と戦えば、間違いなく苦戦を強いられるはずなのだ。
要は俺の勝手な行動が原因で、部隊の危機を招いてしまったわけである。
戦況を有利にするつもりが、かえって味方を窮地に追い込む結果になった、と言えるだろう。
単独で突撃なんて無謀な試みをしていなければ、少なくともこういう結果にはならなかったのに、と悔やまずにはいられない。
しかもそんな風に、自らの失態なんかに気を取られていたせいで――
(ぐっ……またか!)
再びアーチャーの狙撃を食らい、今度は小型ブレードまでも破壊されてしまった。
これで残されている武装は、本来装備されていないショットガンのみ。
もう苦手な射撃武器の撃ち合いをするしかない、という状況なのである。
そうしてすっかり追い詰められた俺を、眼前の二機は、さらに連携を取りつつ攻め立ててくる。
アーチャーの援護を受けながら、アサルトがより強引に押し込んできたのだ。
無論格闘武器を失った状態で、まともな近接戦闘を続けるのは難しい。
ゆえにたまらず、俺は全力で後退したのだが、しかしそれで逃げ切れるわけもない。
結局ひたすらに被弾を重ね、そのまま機体にダメージを蓄積させていくのみとなってしまった。
このままでは遠からず、こいつらに撃墜されることになるだろう。
ただその危機的状況に対し、これはもう捨て身の特攻くらいしかないか、と俺が考え始めたところで――
(……え?)
急に横合いから猛烈な砲火が出現、距離を詰めてきていたアサルトとアーチャーに降り注ぐ。
二機はその直撃を避けるため、押し退けられるようにして俺から距離を取った。
つまりはどこからともなく、支援砲撃が届いたわけだ。
その突然の事態への驚きから、俺は一瞬だけ思考停止に陥っていたのだが。
次いでそこへ、必死に俺の名を呼ぶ、誰よりも聞き慣れた声が届く――
『ミッキー!』




