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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-13 『Last mission』
151/173

Section-6

更新履歴 21/10/30 文章のレイアウト変更・表現の修正


 そう敵の目論見を察知した瞬間、俺はすかさず柳井に警告を放った。


 『アングラー』に衝突されて母艦が撃沈、という現状における最悪の事態を防ぐために。



「柳井、気をつけろ!

 そいつ体当たりをするつもりだぞ!」


 それに柳井からの返事は無かったが、しかし間を置かず、母艦が大きく進路を変更する。

 急激に加速しつつ、迫る『アングラー』から離れるような動きを見せたのだ。

 どうやら答える余裕がなかっただけで、警告はきちんと届いていたらしい。


 ただ残念ながら、柳井のその努力も空しく――


(駄目だ……ぶつかる!)


 互いの距離は、みるみるうちに詰まっていった。

 母艦はその巨大さゆえに、短時間での方向転換が難しく、『アングラー』との接触コースから十分に離れられなかったのだ。

 車体の大きいトラックが、軽自動車ほど小回りが利かず、不測の事態へ対応しづらいのと同じに。


 当然こうなってくると、激突を避けるのはほぼ不可能である。

 もっと早くに警告できていれば、と改めて悔やまずにはいられない。


 そんな風に俺が、独り地団駄を踏む、その眼前で――


(……っ!)


 ついに両者の距離が、完全にゼロとなった。

 こちらの母艦と敵の『アングラー』が、最高速度に近い状態で衝突したのだ。

 例えるならば、交差点へ侵入した瞬間、横から来た車にぶつけられた……というところだろうか。


 結果として辺りに、金属の塊が擦れ合う際の不快な音が、凄まじいまでの大きさで鳴り響く。

 塞いでおかなければ耳が潰れそうだ、と感じるほどの騒々しさである。

 もし豪華客船がすれ違い様にぶつかったら、中の乗客はこんな気分なのかもしれない。


 またその轟音と前後して、ぶつかり合った二つの艦に、衝突の影響が出始めた。

 接触している部分の装甲が、生じる圧力に耐えきれずに砕け、細かい欠片となり散っていったのだ。

 このまま今の状態が続けば、遠からず母艦が真っ二つにへし折れるのでは、と本気で心配してしまうような光景である。


 しかしそれでも、現状俺にできることは無い。

 あんな巨大な物体のぶつかり合いを、自身の機体で止めることなんてできないから。

 もし巻き込まれれば、一瞬で潰されるだけだろう。

 ここで指を咥えて、母艦が傷ついていく様を見届けるしかないのだ。


 だが無論、本当に傍観しているだけ、というわけにもいかないので――


(くそっ……耐えてくれよ!)


 いったん母艦から視線を外して、再び前方へ向き直り、そこにいた敵に対し攻撃を仕掛ける。

 内心で必死に、艦の無事を祈りながら。

 要は今まで通り、味方の突破口を開くための行動に戻った、ということである。


 それは今できることが無いのなら、せめて危機を脱した後に役立つ事をしておこう、と考えたからだ。

 実際ただここで呆けているよりも、そちらの方がよほど有意義であろう。

 その思いを胸に、俺はしばし立ちはだかる敵を斬り捨て続けた。


 そんな俺の気持ちが通じた……わけではないのだろうが。

 しばらくして母艦の方から、達成感に満ちた柳井の咆哮が聞こえてくる。


『よっしゃあ! やってやったぞこの野郎!』


 それに反応して振り返ると、やや覚束ない様子ながらも、足を止めず前に進む母艦の姿が見えた。

 どうやら見事、『アングラー』の体当たりに耐えきったらしい。

 おそらく早めに方向転換したのが功を奏して、致命傷には至らなかったのだろう。


 もちろん致命的ではなくとも、それなりに重い損傷は負っている。

 艦の右下から衝突されたので、そこの側面から底部にかけての装甲が、見るも無惨に砕けているのだ。

 もしあの部分を集中的に攻撃されれば、今度こそ深刻なダメージを受け、航行に支障が出てしまうはずである。


 ただそれでも、母艦が健在なのは揺るぎない事実だ。

 生きるか死ぬか紙一重の状況だったわけだし、この程度の被害で突破できたのは、十分過ぎるほどの戦果と言えるだろう。

 とにかく無事で何より、と胸を撫で下ろさずにはいられない。


 すると俺がそう安堵したところで、同じくそれを確認したらしい志藤から、次の指示が届いた。


『望月さん! 艦が損傷した部分に回って、そこを重点的に防衛してください!

 橘君と栗原さんは今まで通りに攻撃を!

 このまま一気に敵陣を抜けます!』


 どうやらここで、積極的な攻勢に出るべきと判断したらしい。

 確かに『アングラー』の機動性を考えれば、再度方向転換を行い、こちらの母艦に激突させるのはまず不可能だ。

 このまま強引に突っ切るのが最善策、と言って良い状況だろう。


 ゆえにすかさずその指示へ、部隊の皆と共に力強く応じる。


『『了解!』』


 そして攻撃を再開、艦の進行方向に立ちはだかる敵機を、力任せに蹴散らし切り裂いていった。

 損傷した母艦を守るためにも、できるだけ早く敵を突破しなければ、との強い焦りを抱えながら。


 ただ幸いにも、今度はそれが、予想を上回るスムーズさで進んだ。

 『アングラー』の特攻が失敗に終わったことで、向こうも少し引き気味になっているのかもしれない。

 ならその隙はしっかり突かねば、と俺はさらに勢いを増し攻撃を続けていく。


 結果として、それから間もなく――


(……抜けたか!)


 敵陣を突破し、その先の宇宙空間へ進出することに成功した。

 これでとりあえず、この場でさらなる戦闘を行う必要は無い。

 後方の敵に追撃されない限り、前を目指すだけで良いはずだ。


 しかも幸運なことに、その後方からの追っ手も、今のところは見て取れない。

 こちらに対しての砲撃は続いているのだが、直接距離を詰めては来ず、元いた場所に留まったままなのである。

 きっと俺達に構い過ぎて、これ以上陣形が崩れるのを嫌ったのだろう。


 つまり連中にとって俺達は、あくまでイレギュラーな存在であり、積極的に狙うべき敵ではないということだ。

 襲われれば迎撃はするが、無理して追いかけるのも不毛な相手、みたいな感じだろうか。

 きっともう少し引き離せば、戦闘自体を中止するに違いない。


 実際その予想通り、ある程度の距離をとったところで、敵軍は完全に沈黙した。

 どうやら逃げる俺達への対応は、前線の味方に任せることにしたらしい。

 ちなみにそれは、わずかにだが態勢を整える余裕ができた、ということでもある。


 その機を逃すまいとするように、次いで志藤は、素早く俺達に指示を出してきた。


『全員、いったん進軍速度を緩めて、被害状況の報告を!

 戦闘の継続が難しい人はいませんか!』


 今後発生する戦闘に備え、各自の機体の状態を確かめておきたい、ということだろう。

 機能低下を起こした者がいるのに、そこへ対処しないまま戦えば、敗北の危険性が高くなるから。

 確かにそれは、敵の脅威が無い、今の内にやっておくべき作業だろう。


 なので即座に、俺はその呼びかけに応じて、自身の無事を強調する。


「大丈夫だ! 行ける!」


 もちろん機体は少なからず損傷しているし、シールドも破壊されはしたのだが。

 しかし戦闘に支障が出るほど、その能力が低下してはいなかったから、そう報告したのである。

 いくら敵が追撃してこないとは言え、ゆっくり補給や修理をしている暇は無いはずだし、今はこれで十分なのだ。


 またその直後、栗原と望月からも似たような言葉が返ってきた。

 二人とも少なからず消耗しているはずだが、やはり立ち止まるのは悪手と判断したらしい。


『こっちも大丈夫!』

『私の方も問題ありません!』


 ただし柳井だけは、少し回答に時間がかかる。

 先ほど『アングラー』にぶつけられた際の影響を、細かくチェックしているのだろう。

 母艦の方は結構な深手だったはずだし、ひょっとしたら何か対処が必要なのかもしれない。


 しかしその心配とは裏腹に、次いで柳井からも、いつも通りの無駄に元気な返事が聞こえてきた。


『……オッケー、大丈夫! このまま行けるよ~ん!』


 その回答が、本当に問題無いからなのか、それとも単なる強がりなのかはわからない。

 ただこいつが自らの責任において、ここで立ち止まるよりも進んだ方が良い、と判断したのは事実だ。

 ならばここは、しっかりその覚悟を汲み取るべきだろう。


 そういう気持ちは同じだったのか、柳井の答えを聞いた志藤は、ひと呼吸置いてからそれに応じる。

 覚悟を決めた様子で、立ち止まらずに進む、という趣旨の号令を発したのだ。


『……了解しました! では全員、このまま前進します!』


 そしてそれと同時に、皆が加速を再開、一斉に前へと進んでいった。

 何ひとつ迷うことなく、ただひたすらまっすぐに。

 その先にあるはずの、自分達に唯一残された希望の地を目指して。


 すると、それから程なくして――


(見えてきた……!)


 前方に小さく、敵の前衛であろう、次なる部隊の姿が見えてくる。

 今度は先ほどよりもさらに数が多めで、戦闘能力の高いタイプの割合も増えている、という印象の集団だ。

 直接戦闘を担当する連中なので当然だが、このまま接触すれば、おそらく今まで以上の激戦になることだろう。


 ゆえに俺は、来たる戦いに備え、気を引き締めて戦闘態勢に入った……のだが。

 そこでふと、敵の布陣が従来と異なっていることに気がついた。


(これは……まずい!)


 それは俺達の正面に当たる位置に、『ゴーレム』の大群が集結していることだ。

 しかも綺麗に円形に並んだ状態で、まっすぐこちらを向いて。

 その目的はおそらく、いや間違いなく、主砲の一斉射撃である。


 そう俺が状況を把握した瞬間、同じくそれを理解したらしい志藤から、即座に指示が飛んでくる。


『栗原さん! バリアの出力を全開にして、できるだけ広げてください!

 みんなはすぐ、その後ろに隠れて!』


 これから来るであろう敵の攻撃を、あいつの機体に搭載された、ガーディアンのバリアで防ごうとしているわけだ。

 確かに連中の火力を考えれば、現状対抗策はそれくらいしかないだろう。


 しかしその指示に応じて、俺達が危機回避のために動こうとした瞬間――


(くそっ! 早いな!)



 居並ぶ『ゴーレム』達が、こちらに向けて、一斉にその主砲を撃ち放った――








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