Section-5
更新履歴 21/10/30 文章のレイアウト変更・表現の修正
目前に立ちはだかるその難敵を見て、俺は思わず、機体を停止させ考え込んでしまう。
(どうする……?)
なぜなら敵の数がかなり多く、突破が容易ではなさそうに見えたから。
このまま考えなしに突っ込むことで、部隊に大きな被害が出る……という事態を危惧し、つい前進を躊躇してしまったのである。
もちろん周りが敵だらけの今、ここで立ち止まるのは危険だし、また迂回するのも難しいので、前進を続けるのは確定なのだが。
しかしその際、あの『アングラー』にどう対応するのか、という点だけは考えておかねばならない。
具体的に言うと、『アングラー』を撃破してから先に進むのか、それとも奴を無視して強引に通り抜けるのか、という問題である。
そこは母艦の安全確保に関する、最も重要なポイントとなるはずなので、しっかり定めてから行動に移りたいのだ。
とは言えそれも、そう簡単な話ではない。
なぜならその二つの選択肢には、双方に見過ごせぬ大きなリスクがあるから。
まず撃墜してから進む場合は、とにかく時間をとられてしまう、という問題にぶつかる。
あの分厚い『アングラー』の装甲を、短時間で撃ち抜くのが極めて困難なせいだ。
連中とまともに戦えば、スムーズに敵陣を通り抜けるのは不可能、ということである。
そうなると当然、足止めを食らっている間中、周りの敵から袋叩きにされてしまう。
強行突破を試みているこの状況で、それは賢い選択とは言い難い。
できる限り選びたくない戦術、と表現するのが適切だろう。
一方無視して進む場合は、『アングラー』自身の火力がリスクとなる。
あいつが健在の状態で、こちらの母艦が前に出れば、至近距離からその砲撃に晒されてしまうのだ。
もし何度も直撃を受ければ、堅牢な艦の装甲とて撃ち抜かれるはずだし、やはりこの戦術も危険と言うしかない。
要はどんな選択をしようとも、相応のリスクが存在するわけだ。
果たして俺達が生き残るためには、どういう道を選ぶべきなのだろうか。
ただそうして迷う俺とは裏腹に、志藤は瞬時に判断を下したらしく、次いで皆に力強く号令をかけた。
『このまま正面の敵を突破します!
絶対に速度を緩めないよう、前進を続けてください!
それから橘君は、先行してアングラーに接近し、その武装を破壊してください!
他のみんなは、今まで通りの戦い方でお願いします!』
どうやら『アングラー』を撃墜するわけでも、無視して進むわけでもなく、先にその武装を潰すつもりのようだ。
確かにそれなら、普通に戦うより短時間で相手を無力化し、安全を確保できる。
攻撃役が突出する必要はあるものの、この状況で選択可能な戦術の中では、間違いなく最も有力なものだろう。
その冷静な思考力に対し、俺はさすが志藤と感心しつつ、即座に承諾の返事をした。
『了解!』
そしてスラスターを全開にして前進、正面の敵集団に向かって突撃を敢行する。
栗原よりも前に出て、単独で切り込んでいったのだ。
『アングラー』の無力化という、志藤からの指示を完遂するために。
ただその結果として、当然のように――
(くっ……なんて圧力だ……!)
俺は敵から集中的に狙われ、今までを遥かに超える、凄まじいまでの砲火に晒された。
それを受け止めているシールドが、早くも悲鳴を上げ始めるほどの勢いでだ。
この調子だと、そう長くは耐えられぬはずだし、できるだけ急いで決着をつけなければならない。
ゆえにその猛威に耐えつつ、俺は可能な限りの速度を維持して、必死に前へ進んでいた……のだが。
そこで突如、そうはさせぬとでも言わんばかりに、敵が大きな動きを見せる。
(チッ……大物が仕掛けてきたか!)
急に正面の『アングラー』が旋回、こちらに主砲――同時に多数の光線を撃ち放つ、拡散式のプラズマキャノン――を向けてきたのだ。
おそらく俺の接近を警戒し、最大火力で仕留めようとしているのだろう。
その威力を考えれば無論、直撃だけは何とか避けなければならない。
なのですぐさま、俺は回避運動に移ろうとしたのだが――
(……いや! まずいか!)
その瞬間、自分の真後ろに母艦がいる、という事実に気がついた。
どうやら知らぬ間に位置が重なり、敵の射線に入ってしまっていたらしい。
この位置関係だと当然、俺が『アングラー』の攻撃を回避すれば、それは自動的に母艦へと向かうことになる。
いやもちろん、仮に俺が避けたとしても、艦に命中するとは限らないわけだが。
しかし多少でもその危険がある以上、無視して動くのも難しい。
母艦が大きな被害を被れば、どちらにせよ俺達は破滅なのだから。
そこでやむを得ず、俺は腹をくくって――
(くそっ……ここで止めるしかない!)
進行方向を一切変えぬまま、シールドを構えて『アングラー』に向けた。
こいつで真正面からその主砲を受け止め、母艦を守ろうと考えたのだ。
それに耐えられなければ死あるのみ、というリスクを覚悟の上で。
するとその直後、『アングラー』の砲口部が強く輝き、そこから無数の光線が放出される。
それはまっすぐ俺の方へ向かってきて、すぐさま構えているシールドに直撃した。
当然次の瞬間、機体には強烈な衝撃が走り抜ける。
(ぐっ……!)
それは例えるならば、『大型トラックに轢かれたよう』と言うか、あるいは『巨大な津波に巻き込まれたよう』と言うか。
そんな一瞬意識を失いかけるほどの、とにかく凄まじいものであった。
もしこのまま同じ攻撃を受け続ければ、遠からずシールドを破壊され、あえなく撃墜されることになるだろう。
ただしだからと言って、ここで逃げ出したりしたら、完全な本末転倒である。
なので俺はそのまま、頑として動かず、同じ場所に留まり続ける。
今はこうするしかない、と自分に言い聞かせながら、必死で『アングラー』の攻撃に耐えたのだ。
結果として何とか、その光が消え去るまで粘り、生き延びることはできたのだが――
(ここまでか……仕方ない)
その代償として、シールドは完全に使えなくなってしまった。
今の砲撃のせいで、原形を留めぬほどに溶融し、防御機構としての役割を果たせなくなったのである。
これではただの重りのようなものだし、もう使用自体を諦めた方がいいだろう。
ゆえに仕方なく、損傷したシールドを機体から切り離して、そのまま宇宙空間に投棄する。
これで防御力は一気に低下したので、敵の集中攻撃に耐えるのは難しくなった。
一刻も早く、所定の作戦目標を達成せねば危険、ということである。
もっともその犠牲の甲斐あって、母艦にはほぼ被害が無かったし、敵に隙を作ることもできた。
『アングラー』がもう一度主砲を放つまでには、ある程度のインターバルが必要だからだ。
この機を逃さず、さっさとあいつを無力化しておくべきだろう。
そう判断した俺は、付近にいる敵の攻撃を回避しながら、さらに『アングラー』に肉薄する。
そして奴がもう一度、主砲の発射体勢に入った瞬間――
(甘い!)
ショットガンを構えて、『アングラー』の砲口に向け、至近距離から連射した。
まるで釣り上げた魚の口に、無理やり異物を詰め込むかのように。
そしてすぐさま後退、急ぎその場から離脱する。
すると間を置かず、狙った砲口の辺りで、大きな爆発が発生した。
それは『アングラー』の口吻部周辺を破壊し尽くす、かなり激しいものだ。
さすがに本体にまで影響はなかったが、しかし少なくともこれで、奴は主砲を撃つことができなくなったはずである。
俺はそれを確認してから、今度は『アングラー』の機体側面へと移動し、そこに大型ブレードで攻撃を行う。
その付近に設置されている、大量のミサイルポッドを破壊するために。
敵が弱体化した隙を突き、徹底的に火力を削いでおこう、と考えたわけだ。
結果ほどなくして、その大半を破壊し、目論見通り『アングラー』の無力化に成功した。
これであいつの武装は、迎撃用のガトリング砲くらいになったので、中遠距離の火力は激減したはずである。
母艦の安全は十分に確保できた、と言っていいだろう。
その戦果に満足した俺は、次いで最後の仕上げとばかりに、周りの敵の掃討に取りかかる。
母艦の進行方向に展開する敵を、一機一機丁寧に斬り捨てていったのである。
中核となる『アングラー』を失ったせいか、抵抗はだいぶ弱まっていたので、その作業は思ったよりずっとスムーズに進んでくれた。
そんな戦況を見て取ったのか、突如母艦が加速し、少し強引に前へと出て来る。
きっと味方側が優勢と判断し、無茶を承知で敵陣の突破を図ったのだろう。
その決断を下したのが、志藤なのか柳井なのかはわからないが、中々に大胆な選択である。
もちろんその途中、敵から激しい集中攻撃を受けたので、無傷というわけにはいかなかったが。
それでも深刻な損傷は、一見した限りほぼ確認できない。
先の『アングラー』の火力を奪ったおかげで、致命傷になり得る攻撃がなくなったからだろう。
その光景は自然と、これなら行ける、との確信を俺にもたらしてくれた。
ただ俺が、そう安堵したのも束の間――
(……なんだ? どういうつもりだ?)
俺に武装を潰されて以降、ずっと静止していた『アングラー』が、急に大きな動きを見せる。
すでに何もできない状態のはずなのに、なぜだか移動を開始したのだ。
戦況の不利を悟って、ここから逃げ出すつもりなのだろうか。
しかしそう怪訝に思いつつ、『アングラー』の動きを観察した瞬間、俺は否応なく気づかされた。
(いや、このコース……まさか!)
相手の船首が、こちらの母艦の行く先へ向けられていることに。
その進路とタイミングを考えると、遠からず両者は交錯するはずだ。
つまりはあえて、互いが接触するようなコース取りをしてきた、ということである。
その行動が意味することは、考えるまでもなくひとつしかない。
なんと武装を潰された『アングラー』が、自らの巨体を武器として――
(くそっ、体当たりするつもりか!)
母艦に特攻を仕掛けてきたのだ――




