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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-02 『Discoverer』
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Section-1

更新履歴 21/9/11 文章のレイアウト変更・表現の修正


 例によって例のごとく、皆で始めたお馴染みのゲーム――『ムーン・セイヴァーズ』


 そこに再現されたリアルな宇宙空間で、俺はたった独り、押し寄せる敵と激しい戦闘を繰り広げていた。


 自身の戦いぶりに苛立ち、心の中で舌打ちをしながら。



(チッ……また食らったか!)


 それは敵に不意を突かれ、その砲火の直撃を受けたから。

 俺は付近に展開していた『ビッグアイ』の攻撃を避けきれず、背中に思い切り被弾してしまったのだ。

 比較的鈍重な相手だと言うのに、何とも不甲斐ないものである。


 ただもちろん、そのせいで動きを止め、さらなる追撃を食らうわけにもいかない。

 なので間を置かず、気持ちを切り替えると――


(……そこか!)


 素早く機体を旋回し、自分を攻撃してきた『ビッグアイ』に正対すると、右手のライフルを迷わずそいつに撃ち放つ。


 結果その一射は、狙い違わず目標を貫き、瞬時に爆散させた。

 二発目を放とうとしていた敵機を、即座に物言わぬ金属片の群れへと変えたのだ。

 これでもう、不意打ちを受けることはないだろう。


 そうして無事、目前の脅威を排除した俺は、続けて周囲に敵がいないことを確認する。

 それから軽く休憩をとりつつ、現在の状況の異質さに首を傾げた。


(なんで……こんなに攻撃を食らうんだ?)


 俺がそんな風に、自身の現状に対して違和感を覚えた原因――それはまだ、ゲーム開始からさほど時間が経っていないにも関わらず、機体が大きなダメージを受けていたことだ。

 それに対して、何かがおかしいぞ、という印象を抱いたのである。


 なんせいつもなら、ほぼ問題なく回避できる連中の攻撃を、今回はなぜだか次々と食らっているのだ。

 ペースという意味で言えば、優に普段の倍以上はある。

 この上ない絶不調、と表現して差し支えはない。


 しかも不思議なことに、そうなってしまう理由が全くわからない。

 自分の体調は普段通りだし、敵軍の数や構成だって、いつもとさして変わらぬものだったから。


 要するに、不調の原因となり得るイレギュラーな要素が、そもそも皆無というわけだ。

 いったいどうして、今回はこんなにも被弾が多いのだろう。


 そうした不可解な己の状態に、俺が訳もわからず戸惑っていると、そこへさらに別の敵の一団が迫ってきた。


(……っ! 増援か!)


 中程度の規模をした、『バグ』と『ビッグアイ』の混成部隊だ。

 そいつらは大きく散開し、様々な方位からこちらへの接近を図っている。

 このまま物思いに耽っていれば、あっという間に取り囲まれてしまう、という事態は容易に想像がついた。


 当然あんな連中でも、コンディションが悪い今の自分には、十分な脅威なので――


(慎重に行くか……)


 俺は眼前に迫る、通常ならなんてことないその集団を、注意深く観察する。

 そして丁寧に相手の動きを見極めつつ、十分な距離を取って攻撃し始めた。

 撃墜数を追い求めず、被弾が少なくなる戦い方に徹したわけだ。


 するとそれに応じて、敵方も反撃をしてくる。

 さらに大きく広がりながら、こちらを包み込むように移動し、そのまま一斉に攻撃を仕掛けてきたのである。

 これだけ集中砲火されると、場合によっては撃墜されてもおかしくないだろう。


 ゆえに俺は、可能な限り回避を優先しつつ、慎重に敵の数を減らしていった……のだが――


(……ぐっ! またか!)


 結局はまた、背後から攻撃を受けることになってしまった。

 接近する敵の一部に、完全な死角となる位置まで回り込まれ、そこからの砲撃に全く反応できなかったせいだ。

 呆れるほどに迂闊、と言うより他は無い。


 ちなみにそうして、俺が間抜けなミスを犯したそもそもの原因は、回り込んでいた連中に注意を払っていなかったから。

 その動き自体は、きちんと目で捉えていたにも関わらず。


 つまり敵機を捕捉していながら、なぜか警戒せずとも大丈夫な相手と認識し、あっさり無視してしまったのである。

 まるでその連中を、自分の代わりに誰かが倒してくれる、とでも考えたかのように。


 ただ無論そんなのは、おそろしく意味不明な思い込みだ。

 俺は基本ソロプレイで、誰かと組むケースは稀な上、今は近くに他の味方も不在だから。

 援護なんてものは、最初から期待しようもないのである。


 だと言うのに、ひどく自然にそうしてしまった。

 俺は当たり前のように、支援があることを前提として動いていたのだ。

 理由も根拠も、何ひとつ持ち合わせぬままに。

 どうしてこんな事が起きるのか、と自分に対して疑問を持たずにはいられない。


 俺はその不可解極まる己の行動に、絶えず首をひねりながら、それでもどうにか戦闘を継続していたのだが――


(……! 通信が……)


 そこへ不意に、指揮官役の志藤明から、無慈悲な現実が告げられる。


『各員に伝達。敵が撤退を始めましたので、現時刻をもって戦闘行動を終了し、速やかに母艦へ帰投してください』


 その言葉が示す通り、視界の中央へ浮かぶレーダーには、半壊状態の敵軍の姿が映し出されていた。

 そいつらは皆、脱兎のごとく逃走し、この戦場からの離脱を図っている最中だ。

 どうやら今回の戦闘は、無事味方側の勝利に終わったらしい。


 もっともこれでは当然、今から連中に追撃をかけたところで、新たに敵を撃墜するのは難しい。

 このまま戦場に留まっていても、ほぼ無意味というわけだ。


 要は『いつも以上の被害を受けたのに、戦果の方はさっぱり』という状態で、撤退を指示されてしまったのである。

 これぞまさしく骨折り損、重苦しい徒労感だけが報酬の、散々な結末と言えよう。


 それを思い知らされた俺は、完全に自暴自棄な心持ちになり――


(もう、いいや……)


 今回に限って、なんでこんなに不調だったんだ、とか。

 これじゃ悔しくて終われないし、もっとポイントを伸ばしたい、とか。

 そうした悩みや不満を、残らずその場に打ち捨てて、もうゲームを終わりにしようと決意する。


 だってこうして全てが終わってしまった以上、今さらどう頑張ったところで、何か得るものがあるとは思えないから。

 それならさっさと帰って休んだ方が、よほど建設的というものだろう。


 その判断に従って、俺は傷ついた機体を旋回させ、母艦への帰投を開始した。

 重たい気持ちと溢れ出る疲労感により、すっかり緊張の糸が切れた状態で。


 しかしそうして、俺が気を緩めきった、まさにその瞬間――


(……えっ? 何だ、この感覚……?)


 突如全身に、指先まで震わすほどの寒気が走り抜ける。

 まるで背骨を直接、氷の塊で撫でられたかのような感覚だ。

 周囲の状況は、今までと何ひとつ変わらぬままなのにも関わらず、である。

 ひょっとしたら本能のようなものが、何か危険を感知したのかもしれない。


 ゆえに俺は、激しく動揺しながらも、慌てて辺りの様子をうかがった。


(な、なんだ!? 何が起こってるんだ!?)


 突然起きた、その謎の異変の原因を探るために。

 自らを狙う狩人の気配を感じた、小さく臆病な野兎のごとき過敏さで。


 結果として、そこで目に留まったのは――


(あっ……)


 戦場の背景に佇む、巨大な地球の姿だ。

 そいつは宇宙空間という無限に広がる深い闇の中で、青く美しい輝きを静かに発し続けている。

 すっかり見慣れた、いつもの通りの光景である。


 ただなぜか、俺はそれを見ると同時に、全身をくまなく硬直させた。


(あ……う……)


 指の一本に至るまで動かせなくなり、ひたすら眼前の、青い地球を凝視し続ける羽目になったのだ。

 決してそこから目を離すな、と誰かからきつく命令されたかのように。


 そうなった理由は、当然のように不明であり、またそれを解消する方法もわからない。

 自分の体と同じように操作できるはずの機体を、自分で一切コントロールできなくなってしまったのである。

 後はもう彫像のように、その場で動かず呆然とし続けるのみだ。


 しかしもちろん、そうしてピタリと停止しつつ、どれほどじっと視線を注いだところで――


(……えーと)


 眼前の地球に、何か異変が生じることはない。

 極めて精緻なその姿を、これでもかと俺に向けて披露するのみだ。

 まあ、あれは基本ゲームの背景なので、それがごく当たり前のことなのだが。


 その事実をはっきり認識したことにより、俺はようやく我に返る。


(何やってんだ、俺……)


 自分が無意味なことをしている、という事実に、今さらながら気づいたから。

 あんな背景なんぞに目を凝らして、いったい何をどうしようというのか。

 端から見れば、さぞかし間抜けな姿だったことだろう。


 またそうして冷静さを取り戻せたおかげか、ずっと感じていた猛烈な寒気も、きれいさっぱり消え失せてしまった。

 すでにその残滓は、ひと欠片すらも残っていない。

 体の硬直の方だって、すっかり元通りである。


 そうした心身の異変にますます混乱しつつも、俺は母艦への撤退を再開する。


(……もう、帰るか)


 おかしな事が起きているからこそ、今は帰還を最優先しよう、と思ったから。

 どんなに自身が不調であろうと、所詮はゲームの中の話なんだし、基本こだわるようなことではないはずだ。

 さっさと学校に戻って、ゆっくり休憩をとるのが最善に違いない。


 ただしそう自分に言い聞かせる一方で、俺はなぜだか、先ほどより前進の速度を上げていた。

 ほとんど無意識の内に、帰路を急ぐような行動を取っていたのである。

 まるで一刻も早く、この場を立ち去りたがっているかのように。


 そう、俺は心のどこかで――


(早く、ここを離れないと……)



 この『ゲーム』に対し、決して拭えぬ恐怖を感じていたのだ……








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