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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-13 『Last mission』
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Section-2

更新履歴 21/10/30 文章のレイアウト変更・表現の修正


 格納庫から帰還してすぐ、俺は教室へと舞い戻り、そこへ入りつつ中に声をかけた。



「戻ったぞ」


 するとそれに反応して、志藤が即座にこちらを振り向き、労いの言葉をかけてくる。

 同時にいつも通りの冷静さで、俺に次の行動を指示しながら。


「はい、お疲れ様です。

 では立て続けで申し訳ないのですが、次の作戦について説明しますので、席の方にお願いします」


 敵を目の前にした今、悠長に構えている暇は無い、というわけだ。

 もちろんこちらとしても、気持ちは全く同じである。

 なのですかさず、俺は彼女に頷き返してから、自分の席に向かうため教室内へ目をやった。


 そこで視界に入ってきたのは、教壇の所に立つ志藤と、自分の席に座る栗原や望月、加えて一足先に戻っていた柳井の姿である。

 つまりは現在生き残っているクラスメイト、その全員が勢揃いした、というわけだ。


 ただしその、本来であれば心強さを感じるはずの光景に対し、俺はつい思ってしまう。


(……なんか、広いな)


 ずいぶん教室が広い気がするな、と。

 こんなに無駄なスペースが多い場所だったかな、と。

 そう何とはなしに、寂しさのようなものを感じてしまったのだ。


 どうやら俺の中にはまだ、クラスが十二人だった頃の感覚が残っているらしい。

 だからこそ五人しかいないこの教室に対し、そんな印象を持ってしまったのだろう。

 クラスメイト全員が生きていれば、もっとずっと賑やかだったはずなのに……と思うと、改めて胸が痛んだ。


 ただそんな風にして、俺が独りで感傷に浸っているところへ、志藤が怪訝そうに問いかけてきた。

 無言で立ちぼうけになっていたので、何事かと疑問に思ったのだろう。


「橘君……? どうしかしましたか?」


 それで我に返った俺は、慌ててその呼びかけに応じる。

 昔を懐かしむにはまだ早い、今はこれからのことを考えるべきだろう、と自分を戒めながら。


「いや、何でもない。大丈夫だ」


 それからすぐさま歩き出し、教室の中を横切って移動、自分の席に腰を下ろした。

 途中で何やら、ニヤつく柳井の顔が目に入った気もするが、きっと思い過ごしだろう。

 もし気のせいではなかったら、後で軽くシメておけばいいだけの話だし、どちらにせよ構う必要はない。


 そうして俺が、内心の憂いを片付けつつ着席した辺りで、それを見届けた志藤が話を開始――


「ではまず、改めて今の状況を説明しておきます」


 本格的な話のための準備、といった雰囲気で、現状の確認を行う。


「前回の戦闘から撤退した後、私達は即座に、月へ向けて航行を開始しました。

 そこで待つ倉田先生の仲間と合流するために、誰に命じられたのでもなく、自分自身の意志で。


 またその際は、母艦の機能を最大限に利用し、可能な限り敵を避けつつ移動しました。

 そのおかげで、こうして新しい戦闘を行うことなく、月の近くまでたどり着くことができています。

 ここまでは非常に順調に来れた、と言えるでしょう。


 しかし――」


 ただしその途中で、ぐっと口調の緊張感を強め、今の俺達の苦しい立場について語り始めた。


「残念ながら、実際に月へ到達することはできませんでした。

 みんなも知っている通り、大量の敵に進路を塞がれてしまったからです。

 どうやら現在、敵は本格的な侵攻の準備として、月の付近に集結している最中のようです」


 結果として一気に、場の空気が重くなる。

 皆の表情からは、せっかくここまで来たのに……という落胆がありありとうかがえた。

 まあ長いフルマラソンを走ってきて、ゴール寸前に高い壁が出現したような状況なわけだし、そう感じるのも当然だろう。


 おまけにそこへ、さらに志藤の話が追い討ちをかけてくる。


「また今のところ、その敵との戦いを避ける方法もありません。

 このまま前進し、戦って突破するしかない状況なのです。


 なぜならあの集団が月へ攻め込み、それで本部が陥落すれば、何もかも手遅れになってしまうから。

 迂回可能なルートを探すなどして、時間を浪費している暇はおそらく無い、ということです」


 そのせいでますます、雰囲気が重くなったのを感じたのだろう。

 志藤は一瞬だけ口を閉じ、話の継続をためらうような素振りを見せたのだが。

 しかし結局、これも避けては通れぬ道と覚悟したらしく、そのまま申し訳なさそうな様子で説明を続けていった。


「そして現状、その敵への有力な対抗手段もありません。

 可能な限り戦力を整えて、後は全力で戦う、という程度の作戦しか無いのです。


 一応あちらは、戦力の集結を優先していますから、接触しても戦闘は最低限になるはずですが……

 それでも圧倒的多数を誇る相手に、正面から突撃をしなくてはならない、という状況に変わりはありません。

 強攻策が唯一の選択肢というのは、作戦担当として本当に不甲斐ないばかりです」


 もっともそれを理由に彼女を責めるような者は、このクラスに誰一人としていない。

 こいつが何も思いつかないのなら、自分達にできることなど無い、とみんな理解しているからだろう。

 例え作戦がどんなものであろうとも、今さら積み重ねられた信頼は揺るがぬのだ。


 なので素直に、俺はその気持ちを彼女に告げる。


「……お前がそう言うのなら、そうするしかないんだろうさ。

 みんなわかってるし、別に気に病むことはないぞ」


 ただ志藤がその言葉に返してきたのは、どこか辛そうな微笑みと、小さなお礼の言葉のみだった。


「……ありがとうございます」


 より重圧を感じてしまったか、あるいは自らの不甲斐なさを恥じたのだろう。

 責任感が強い彼女に、慰めは逆効果だったのかもしれない。

 俺が言うことでもないが、相変わらず損な性分をしたやつである。


 そんなこちらの心配をよそに、志藤はすぐ表情を引き締めて話を続け――


「ただしひとつだけ、幸運な要素がありました。

 それは敵が私達に反応せず、なぜかその場へ留まり続けていることです。

 すでに向こうは、確実にこちらを捕捉しているにも関わらず。


 おそらく侵攻の準備を優先し、陣形を崩さないようにしているのでしょう。

 距離をとっている限り、襲われる確率は極めて低いと思われます」


 俺達を勇気づけるように、これまで取り組んできた対策について語っていく。


「実際そうやって生まれた時間を活かし、一定の戦力を整えることができました。

 倉田先生の残してくれた資材を使い、機体の補給と修理、さらには強化まで行えたのです。

 あくまで素人仕事なので、効果のほどはわかりませんが、やらないよりは確実に良いと信じています」


 ちなみに機体の強化と言うのは、先ほど俺と柳井が行っていた作業である。

 要は何だかんだで、きっちり最善は尽くしているのだ。

 本当に頼りになるやつ、と言うより他はない。


 そう俺が内心で頷いた直後、志藤が一連の説明の終わりを告げた。


「以上で、私達が置かれている状況と、これから取るべき行動についての説明を終わります。

 何か質問はありますか?」


 それに対して問いを返す者は、やはりこの場に一人もいない。

 ただその一方で、辺りに漂う緊張感が急激に高まっていく。

 いよいよ決戦の時だ、という事実を、誰もが肌で感じているのだろう。


 志藤もまた、それを汲み取ったかのように、次いで迷わず出撃を告げ――


「では……出撃します」


 その最後、高らかに宣言した。

 俺達がこれから果たすべき、唯一にして絶対の目的を。


「必ず生きてたどり着きましょう、私達の新天地へ!」


 それに対し、全員で力強く返事をすると同時に――


「「了解!」」



 俺達は席を立ち、一斉に動き始めた――








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