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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-13 『Last mission』
146/173

Section-1

更新履歴 21/10/30 文章のレイアウト変更・表現の修正


『お~い、これこっちでいいんだっけか?』



 雑然とした格納庫に、確認を求める柳井満の呼びかけが響く。

 俺はそれに応じて、自分の機体をそちらに向けながら返事をした。


「ああ、大丈夫だ。頼む」


 すると直後、耳障りな機械音が轟き、眼前に巨大なロボットアームが現れる。

 手にプラズマランスを抱えたそれは、ゆっくりと俺の前を通過し、側に待機させてあるストライカーに接近していった。

 そしてプラモデルに手を加える人間さながらの動きで、その背部にプラズマランスを装着する。


 これは現在稼働可能な機体――俺、栗原、志藤、望月の搭乗機――に、志藤の指示で武装の追加を行っているところだ。

 母艦のロボットアームを操作する柳井と、自分の機体でそれを補助する俺の、二人がかりの共同作業である。


 なぜ今になって、俺達がそんな事をしているのかと言うと、それは少しでも戦力を強化するため。

 残った機体に直接戦闘向きでないタイプが多いので、その弱点を武装追加で補おうというわけである。

 ただでさえ低い生存率を上げるため、できることは全てやっておく、というところだろうか。


 まあその試みに使っているパーツが、いなくなったクラスメイト達の物である、という点は引っかかるところだが。

 彼らの死を利用しているようで、正直あまりいい気はしないのである。

 これも生き残るためだ、と割り切ってはいるが、やはり罪悪感は拭い難かった。


 ゆえに心の中で、もう名前すら忘れてしまった彼らに対し、謝罪をしつつ呼びかける。

 お前らの想いも持っていく、だから今は許してくれ、という気持ちをしっかりと込めて。


(すまん……これは使わせてもらうぞ)


 するとその直後、不意に柳井が話しかけてきて、自分のしている作業に疑問を呈した。


『しかしこれ、本当に大丈夫なのかねえ。

 機体のタイプが違うパーツを、無理やりくっつけちゃってさ。

 不具合とか起きないの?』


 どうやら妙な感傷に浸っているのは、俺の方だけだったらしい。

 いやそれとも、あいつも似たような心持ちでいて、それをごまかそうとしたのか。

 まあどちらにせよ、話しかけられたからには黙っているわけにもいかない。


 なのでその質問に対し、俺はとりあえず、志藤から聞いた事を伝えたのだが――


「志藤の話では、この機体の規格は全て統一されているらしい。

 だから別のタイプでも、ある程度の融通は利くんだそうだ……が」


 ただし結局、不確実な話をしてもしょうがないと気づき、さっさと説明を諦める。


「……ま、俺らが考えてもしょうがないことだ。

 あいつが大丈夫、って言うんなら大丈夫だろうさ」


 柳井の方も、別にこだわっている話ではなかったからなのか、あっさりとそれに応じた。


『だな。さ~て、仕事仕事!』


 そして素早く作業に戻り、例の巨大なロボットアームを動かして、新たなパーツの方へ向ける。

 俺もそれを手伝うため、すぐそちらへと機体を移動させた。


 そこでまず俺達は、先ほどの続きとして、栗原のストライカーへの装備追加に取りかかる。

 取り付けたのは、ガーディアンが使用していた、バリア展開能力のある副腕だ。

 それを耐久力向上のため、肩部に二本移植した。


 これは今後の戦闘において、栗原の機体が集中攻撃される事態を想定してのこと。

 タンクやガーディアンの喪失により、前衛タイプが減ったので、そこを補うための強化である。

 先行して最前線に立つあいつに、壁役も任せようというわけだ。


 さっきトルーパーの大型プラズマランスを搭載したのも、同様の理由からだ。

 敵に接近されるケースへの対応として、格闘戦能力を向上させたのである。

 素早い敵に当てるのは難しくとも、鈍重な『クロコダイル』くらいは仕留められるはず、と考えての調整だろう。


 その次に取りかかったのは、望月のサテライトリンカーだ。

 彼女の機体には、アーチャーのプラズマライフル及び、アサルトの小型シールドを付け加えた。

 射撃戦の火力と耐久力を高め、中距離戦闘へ適応させるために。


 こちらも人数不足により、望月が前線に立たねばならなくなったことへの対処である。

 同時にビットの操作も行わせる以上、彼女の負担はかなりのものなるはずだが、現状それだけに集中させる余裕は無い。

 大変だとは思うが、ここはその頑張りに期待するしかあるまい。


 それから三番目に装備を換装したのは、志藤のコマンダーである。

 彼女の機体には、ブラスターのプラズマキャノン及び、タンクの腕部ミサイルポッドを装備し、支援能力を高めている。

 こちらも望月と同じく、低めの火力を補い、前線の戦力としてカウントできるようにするためだ。


 遠距離武装を中心に強化したのは、指揮も担当する彼女の負担を、できるだけ減らそうと考えたからである。

 敵から離れて戦えるのなら、それに越したことはない、というわけだ。

 まあ完全に接近を防ぐのは難しいだろうが、そこは俺と栗原が奮闘して、敵の注意を引きつけていくしかあるまい。


 そして最後の一機は、俺のグラディエーターだ。

 まず腕部にタンクの大型シールドを装着し、突撃の際の被害を減らせるようにした。

 格闘戦の邪魔になるので、戦況によっては投棄するつもりだが、それまでは役立ってくれるだろう。


 加えてアサルトのショットガンも装備し、小型機に対応可能なようにもしている。

 今までのように、苦手な敵は他人任せ、という戦い方ができないからだ。

 正直射撃は不得意な方だが、贅沢を言っていられる状況ではないし、何とかやってみせるとしよう。


 また全機、装備追加による重量増と、それに伴う機動性の低下を補うため、各種スラスターの増設も行った。

 回避性能が落ち、被弾が増えてしまっては元も子もないからだ。

 そのせいで稼働時間は短くなったものの、まあ今は戦力の強化が最優先、というところか。


 以上が志藤の指示により、各機に施した強化処置である。

 大げさな言い方をすれば、『最終決戦仕様』とでも呼ぶべきだろうか。

 一応これで、個々の戦闘能力は、ある程度高めることができたはずだ。


 ただそうして滞りなく、自らの仕事をやり遂げたにも関わらず、直後に俺の心へ浮かんだのは――


(……たった、これだけか)


 息苦しさを覚えるほどの、強い不安だった。

 自分達に残されている機体がたったの四機、という現実を突きつけられ、心許ないと感じてしまったから。

 まあ実際、戦力不足は明らかなわけだし、安心なんてそうそうできるはずもない。


 もちろん俺達とて、その苦境を放置していたわけではない。

 戦力を増やし、状況を好転させるための作戦は考えついていたのだ。

 それは先の戦闘の後、例の隠し倉庫内にて発見された、機能停止状態のトルーパーの改修である。


 実はそいつを修理して柳井を乗せ、頭数の不足を補う、というアイデアがあったのだ。

 かなり損傷はしていたが、致命的なものはなく、調整次第で戦闘可能な状態だったから。

 もしその目論見が成功していれば、戦力はそれなりに向上していただろう。


 でも結局、俺達はその道を選ばなかった。

 ゆえに今もってトルーパーは、倉庫の片隅にひっそりと安置されている。

 さもそれが、失った仲間の墓標であるかのように。


 そいつに手を付けなかった理由は、ひとつに技術面での問題があった。

 俺達の知識では、そもそも機体の乗り換えという試み自体が、極めて非現実的だったのである。


 実際に障害として立ちはだかったのは、コックピットブロックの取り扱いだ。

 搭乗者を変えるにせよ、ブロック自体を摘出して入れ替えるにせよ、そのやり方が全くわからなかったのである。

 用意されていたマニュアルは、機体の修理や、装備の換装関係のものだけだったから。


 となれば当然、無理にそれを行えば、深刻な事故に繋がりかねない。

 柳井ですらその可能性を指摘していたし、見込みなくリスキーな選択をするわけにはいかなかったのだ。


 またもうひとつの理由は、例のトルーパーの改修に対し、望月が難色を示したから。

 『それはあまり気が進みません』と、いつも温厚な彼女にしては珍しい、かなり直接的な表現で。

 まるでその機体に、誰も触れて欲しくないと望んでいるかのように。


 もちろんその気持ちは、俺にだってわからなくはない。

 だってあの中には未だ、戦いで命を落としたのであろう、名も知らぬ仲間がいるはずなのだ。

 改修なんてそれこそ、墓を暴いて荒らすようなものだし、嫌悪感を覚えて当然である。


 そういう気持ちを汲んだのか、例のアイデアの発案者である志藤も、特別強制したりはしなかった。

 どちらにせよ母艦の制御要員は必要だし、無理強いするほどのものでもなし、と判断したに違いない。

 結果として戦力強化策は頓挫したわけだが、きっと誰もその選択を悔いてはいないだろう。


 そう現状に対し、改めて思いを馳せたことで――


(……だよな。不安になってる場合じゃない)


 皆の気持ちを感じ、かえって腹が据わった俺は、間を置かず志藤に通信を入れる。

 学校の方で、今後の作戦を考えている彼女に、作業の終了を知らせたのだ。

 変に悩んだってしょうがない、今は自分にできることをするだけだ、と己に言い聞かせながら。


「終わったぞ、志藤」


 すると間を置かず、あちらから返事が来た。


『はい、了解です。お疲れ様でした。

 では早速、二人とも学校の方に戻ってください。

 これからの作戦について説明しますので』


 これにて戦いの準備は完了、計画は次のステップへ移行する、というわけだ。

 俺は柳井と共に、迷いのないその指示に応じる。


『『了解』』


 そして声を掛け合いながら、学校に戻ろうとしたのだが――


『じゃ、戻りますか!』


「ああ」


 その直前にふと思い立って、視界に外の映像を表示させた。

 母艦とデータをリンクさせ、艦の前方に広がる光景を映し出したのだ。

 それからその映像を、少しばかり緊張しながら、改めてじっと注視する。


 そこに見えたのは、まるで俺達の行く手を塞ぐようにして――


(なんて数だ……)



 固まって漆黒の宇宙を漂う、数えきれぬほど大量の敵の姿だった……








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