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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-13 『Last mission』
145/173

Prologue

更新履歴 21/10/30 文章のレイアウト変更・表現の修正


 橘幹也は、独りしみじみと思い返していた。


 今この瞬間に至るまで、本当に色々なことがあったな、と。


 良くぞその全てを乗り越え、こうして生き残れたものだ、と。


 そう改めて、自分と仲間達が駆け抜けてきた、激動の時間を噛み締めていたのだ。



 思えば最初は、この小さな田舎の学校で、ただゲームをしているだけだった。

 毎日毎日、代わり映えのない日常を過ごしながら、ひたすらに楽しく遊んでいたのだ。

 そこは本来、あらゆる異常を内包した、奇妙で不自然な空間だったと言うのに。


 もちろん心のどこかでは、自分の置かれた状況に対し、強い違和感を覚えていたのだが。

 しかし危機感が薄かった上に、生きることそのものを諦めていたせいもあって、特別何かしたりはしなかった。

 大きな流れに身を任せ、ずっと怠惰に生活していたわけである。


 だからそんな日々の中で、誰かが消えていくことに気づかなかった。

 ゲームで死んだ仲間が、そのまま帰らぬ人になっていることがわからなかった。

 いくら洗脳されていたとは言え、あまりにも鈍感で間抜け、と己を評するより他はない。


 だがそんな俺を嘲笑うかのように、その偽りだらけの平和は、ひどく唐突に終わりを告げた。

 志藤が類い稀な知性と洞察により、この世界の真実を暴き、皆にそれを伝えてくれたから。

 そこで初めて、俺は自分が戦争をしていると知ったのだ。


 それから先は、ずっと戦いの日々だった。

 命じられて赴いた戦場で、必死に与えられた機体を操り、絶え間なく襲い来る敵を倒し続けたのだ。

 失いたくないものを守り抜く、というただひとつの想いだけを胸に。


 さらにその途中では、戦いだけではない、様々な紆余曲折があった。

 倉田の洗脳の件もそうだし、斉川のクーデター計画もそうだし、もちろん柳井の離脱事件もそう。

 いずれも選択を誤っていれば、部隊そのものの壊滅に繋がったかもしれない、深刻なトラブルである。


 しかしそれもまた、皆で無事に乗り越えることができた。

 時に反目しながらも、最終的には協力し合うことで。

 事の経緯を思えば、よくぞこんなにも結束できたものだ、と感心せざるを得ない。

 柄でもない表現にはなるが、俺達は絆の力でここまで来た、なんて言ったっていいのだろう。


 ただしそうして進む中で、仲間は一人、また一人と減っていった。

 繰り返される敵の攻撃により、次々と犠牲になってしまったからだ。

 同時にその存在自体を、残された者達に忘れ去られながら。

 今となってはもう、名前や顔は元より、本当にこのクラスにいたかどうかすら定かではない。


 つまり俺達は、失った仲間を置き去りに、ここまで突き進んできたわけだ。

 自らが生き延びるため、大切だったかもしれない思い出をかなぐり捨て、ただただ一心不乱に。

 全て仕方がなかったこととは言え、犠牲になった連中の気持ちを思うと、やはり胸は痛む。


 それでもその努力のおかげで、俺達はあらゆる困難をくぐり抜けることができた。

 失くした仲間の命と引き換えに、これなら本当に生き延びられるかも、という希望を掴むことができた。

 本当に良くやったよ、と頑張ってきた自分と仲間達を、手放しで称賛するばかりである。


 それでもずっと、心の底では思っていた。


 これから自分達は、いったいどうなっていくのだろう、と。


 戦いばかりのこの宇宙で、今後も生き残ることができるのだろうか、と。


 胸の奥にこびりつくそんな不安を、どうしても拭うことができなかったのだ。


 だってそうだろう、一応倉田のおかげで、どうにか月への道は開けたわけだが。

 しかし仮にそこへ到達できたとしても、その先がどうなっているのかは、未だにほとんどわかっていないのだから。


 例えばそう、月の本部の現状である。

 連絡を取る手段が無い今、そちらがどんな状態にあるかは知りようがない。

 本当にそこに倉田の仲間がいるのか、仮にいたとしても俺達を救う余力はあるのか、全て不明なままなのだ。


 極端な話、すでに本部は壊滅した後、という可能性さえある。

 戦局の悪さを鑑みれば、そういうケースも完全に否定はしきれないからだ。

 必死でたどり着いた希望の地が、すでに廃墟となっていました、なんて想像するだけでも恐ろしい。


 また敵の動向についても、不明瞭な点は多い。

 仮に首尾良く月へ到着し、新天地に向け出発できても、そこからさらに追いかけてくるのではないか。

 そうなれば結局、逃げ切れずに全滅するのではないか。

 そういう無惨な結末だって、十分にあり得てしまうのである。


 いやそれどころか、見事に敵から逃げ切って、新天地へたどり着けたとしても安心はできない。

 その新しい惑星とやらがどんな場所なのか、全くといっていいほど情報が無いからだ。


 例えばそこが、具体的にどのくらいの大きさで、どんな環境をしているのか。

 どういう生き物が住み着いていて、そいつらから襲われた場合に撃退できるのか。

 水や食料は十分に確保可能なのか、持ち込んだ資源が尽きたら何で補うのか。

 そもそも本来の計画に含まれていない俺達を、先行しているはずの本隊が受け入れてくれるのか……


 その程度の基本的な知識さえ、俺達は持ち合わせていないのだ。

 人跡未踏のジャングルに、何の準備も無いまま放り出されるようなものだろう。

 自らの現状を危惧し、重圧を感じるのはごく自然な反応である。


 そしてその不安は、きっとそう的外れなものではない。

 だって例の計画は、追い詰められた状態でひねり出された、まさしく窮余の一策なのだから。

 完璧さを求めるのは酷というか、綻びがあってむしろ当然とさえ言えよう。


 であれば無論、計画成功の見込みは相応に低くなってくる。

 今の苦境を乗り切ったところで、どちらにせよ希望など無いのでは、と本気で憂慮してしまうくらいに。

 その『これまでの努力が全て無駄になるかも』という最悪の想像は、俺の体を芯から震え上がらせた。


 でも例えそんな風に、己の進むべき道が、曖昧で不確かなものだったとしても――


(ま……やるしかないんだがな)


 結局のところそれは、立ち止まっていい理由にはならない。

 生存の可能性がわずかであろうとも、俺はためらうことなく、そこを目指して進まなければならぬのだ。

 諦めるという選択肢は、最初からどこにも無い、ということである。


 なぜなら俺には、必ず守り抜くと誓った、大切な相手がいるから。

 自分の命を諦めれば、自然とそいつの命も諦めなければならなくなるから。

 それはどうしたって受け入れがたいので、見込みがどれだけ薄かろうとも、己の全てを懸けて奮闘するのみなのだ。


 加えて何より忘れてはならぬのが、その選択肢さえ与えられなかった者達がいる、という事実である。

 俺達がここで歩みを止めたら、そいつらの尊い犠牲も無駄になってしまうわけだ。

 それはどんな事情があろうとも、決して許される行いではないだろう。


 だからこそ、俺は行くのだ。


 迷わずまっすぐ、己が進むと決めた道を。


 いつか定めた決意の通りに、誰よりも力強く。


 例え自らの死が、すでに確定したものなのだとしても。


 ただそれだけが、今の俺の生きる目的であり、果たさねばならぬ使命である。


 ……ああ、でも。

 それでもひとつ、心に思うことがあるとすれば。

 もし何かの奇跡が起きて、ひとつだけ願い事が叶うとするのならば。


 俺は、たどり着いたその新天地で――


(お前らしく、元気に生きていけよ……)



 あいつが幸せになって欲しい、と心の底から願っている……








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