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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-12 『Moon watcher』
143/173

Section-8

更新履歴 21/10/27 文章のレイアウト変更・表現の修正


 大小様々なミサイルに、目を焼く輝きを放つプラズマキャノンの砲火。


 それらが津波のごとく、大量にこちらへ向け殺到してきている。



 その迫り来る死神の行列を前に、俺は猛烈に自身の過ちを悔いていた。


(油断した……!)


 自分の警戒が緩かったせいで、危機的状況に追い込まれてしまった、という現実を認識したから。

 これは間違いなく、例の何もない空間に潜んでいた敵が、こちらの接近に合わせて放ったものである。

 『そこにだけ何もいなかった』のではなく、『そこに敵が隠れていた』ということなのだ。


 原因はもちろん、『フェアリー』が展開する、例のステルス領域だ。

 おそらく母艦の方に奇襲を仕掛けるため、密かに接近してきていた敵と、運悪く衝突してしまったのだろう。

 用心していれば避けられたはずなのに、なぜもっと慎重に行動しなかったんだ、と自らの迂闊さを責めずにはいられない。


 そして当然、有効な対処法も思いつかない。

 あまりにも敵と距離が近く、俺の機体の運動性では、回避が極めて困難だから。

 もはや末路は、このままサンドバッグのように袋叩きにされるのみ、ということである。


 そう現状を把握した俺は、すかさず機体を反転させ、押し寄せる砲火に背を向ける。

 敵の攻撃を自分が受け止め、春日井だけでも守り抜こうとしたのだ。

 今の状況でできることが、もうそのくらいしか残っていなかったから。


 だが言うまでもなく、そんな抵抗は全て無駄でしかない。

 実際俺の機体は、敵の砲撃に晒された瞬間、即座に崩壊を始めた。

 ここまでにも激しい攻撃を受けていたせいで、改めての集中砲火には耐えられなかったのだ。


 また春日井の機体も、それに巻き込まれ、ただでさえひどかった損傷がさらに拡大していく。

 要は二人して、波にさらわれる砂の城のように、為す術なく破壊されていったのである。


 結果として、その攻撃が止んだ時にはもう――


(これは……駄目だな)


 俺も春日井も、動くことすら不可能な状態に追い込まれていた。

 四肢を余さずもぎ取られ、残るは大半を砕かれた頭部と胴体のみ、という無惨な有り様に成り果ててしまったのだ。

 車に何度も轢き潰された人形のよう、とでも例えればわかりやすいか。


 もちろんこんな状態では、後方で待つ母艦への帰還など不可能である。

 このまま敵の波に呑み込まれ、無様に蹂躙されるのが関の山だ。

 すでに生還の見込みは欠片も無い、と言い切ってしまっていいだろう。


 つまり俺は、春日井を助け出すどころか、その盾にさえなれなかったのだ。

 どれだけ自分を殴っても足りぬほどに悔しく、そしてただひたすらに無念な結末であった。


 そう状況が絶望的であることを、同じく理解したのだろう。

 次いで春日井が、いかにもあいつらしい、あまりにも割り切った呼びかけを志藤に放つ。


『志藤さん! 早くここから逃げて!

 私達に構っている暇はもう無いでしょ!』


 ただそれに対して、すぐに志藤からの返事は無かった。

 加えて他の皆も口を挟まなかったので、そこに突然、ひどく不自然な無言の時間が生じる。

 未だ激しい戦闘の音が響き渡る中で、俺達の間にだけ静寂が広がったわけだ。


 とは言えそれも、一瞬のこと。

 そのわずかな沈黙の後、まるで首を絞められているかのように苦しげな志藤の声が、通信越しに聞こえてきた。


『……撤退します! 全員、すぐ母艦に帰投してください!』


 戦場にいるクラスメイト全員に、撤退の指示を出したのだ。

 もう俺達を救うのは不可能、と判断しての決定だろう。

 その声音からすれば、それこそ自分の身をも引き裂くような思いでいるに違いない。


 そんな志藤の振る舞いに影響されたのか、いつもなら続くはずの、『了解』という皆の返事も聞こえなかった。

 誰もが言葉を発すること、それ自体を恐れているかのように、一切声を上げなかったのだ。


 しかしその一方で、全員が後退を始め、続々と母艦の方へ向かっていく。

 敵だけでなく、何か別のものからも逃れようとしているみたいに。

 俺と春日井はただ、その後ろ姿をじっと眺めるのみである。


 その光景にはもちろん、恐怖やら怒りやら寂しさやらの、様々な感情が芽生えてくるも――


(いや……正しい判断だ)


 俺はそうして波打つ心を、無言のまま力任せに抑えた。

 すでに俺達が助かる道は無い、だからこれが最善の選択なんだ、と己に言い聞かせながら。

 救えぬ人間のために無理をして、わざわざ巻き添えになることなんてないのだ……


 ただ俺が、そうして全てを受け入れたその瞬間、突然柳井からの呼びかけが届く。


『二人とも! 聞こえるか!』


 そしてなぜか、妙に必死な声音で、やたらと脈絡の無い話を開始した。


『さっきの予備の武装、新しいスナイパーライフルの話だけど!

 あれ実は、例の倉庫にあったんだ!

 倉田が俺達のために物資を用意した、って言ってたところ!』


 それから興奮気味に、これまた不思議な報告をしてきた後――


『そこには他にも色々置いてあってさ!

 他の機体の装備とか、補修用の資材とか、あの長距離移動用のブースターもあった!

 すげえたくさん……全部で十二機分あったんだよ!

 それって、つまり――』


 俺と春日井にとって、大きな救いとなる、意外な推論を告げる。


『全員分の物資を用意してた、ってことだよな!

 倉田が俺達を、みんな生き残らせるつもりだった、ってことなんだよな!

 これ、これってすごいことだよな!』


 それは倉田が、本当に俺達を救おうとしていた、という事実の客観的な証明であった。

 だって残されたメッセージの通り、月へ帰還するための物資が、きちんと用意されていたのだから。

 使い捨ての駒のために、わざわざそんな面倒をするはずはないし、そう解釈するのが妥当だろう。


 しかもその量から考えて、どうやらクラスメイト全員を、一人残らず生還させるつもりだったらしい。

 いかにも倉田らしいというか、見た目に似合わず本当に熱い男である。

 改めてその意志の強さを実感し、心を揺さぶられずにはいられない。


 そうして知らされた真実により、独り胸を熱くする俺へ――


『いやもちろん、あいつが何を考えてたのか、本当のところはわからないんだけど!

 断言できることなんて、ひとつも無いんだけど!

 でも、でも、たぶん倉田は、倉田はさ――』


 柳井は繰り返し、らしくもなく熱を込めて、自らの思いをぶつけてくる。


『倉田は絶対、いい先生だったぞ!

 絶対、本当にいい先生だったよ!

 俺は、俺はそう思うっ!』


 その絶叫の後、またも俺達の間には、静寂の時間が生まれたのだが。

 今度それを破ったのは、感情の高ぶりがはっきりわかるほど震えている、春日井のか細い声だった。


『……ありがとう、柳井君』


 柳井はそれに対し、小さな呻き声を漏らす。

 このくらいしかしてやれることが無い、という己の非力さを悔やむかのように。

 同じく反応は無いが、他の皆も似たような心持ちかと思うと、ひどく胸が痛む。


 ただそんな話をしている内にも、事態は着々と進行していた。

 今までレーダー上に散在していた味方の表示が、ひとつの場所に寄り集まったのだ。

 ついに俺達以外の全員が、無事に艦への帰還を完了してしまった、ということである。


 結果としてその直後、母艦が移動を開始し、どんどん俺達のいる場所から離れていく。

 敵の攻撃に晒されながら、決して速度を緩めることなしに。

 要は別れの言葉ひとつなく、この戦場を去ろうとしているわけだ。


 もっとも今、その冷たさを責めるのは酷だろう。

 後は死が待つのみの俺達に、かける言葉などあるはずないのだから。

 最後の置き土産に、倉田のことを教えてくれただけありがたい、というところか。

 まあ俺の方がそれに対し、感謝を伝えられずじまいなのは心残りだが。


 またそうして逃走を図るこちらに反応し、急激に敵の動きも変化した。

 より近くにいる俺達に構わず、逃げゆく母艦を追撃し始めたのだ。

 すでに無力化された敵は無視して、健在な方へ狙いを絞った、ということだろう。 


 ゆえに俺達は、そのままあっさりと置き去りにされる。

 遊び疲れた子どもが、飽きた玩具を投げ捨てていく時のように。

 実際先ほどまで戦場にいた全員が、目視で捉えられぬ距離まで去って行くのに、そう時間はかからなかった。


 要するに、俺と春日井は――


(……静か、だな)


 この広い宇宙空間に、たった二人で寂しく取り残されたわけだ。

 帰るべき場所も、助けてくれる仲間も、ひとつ残らず失った状態で。

 側にあるのはもはや、空虚を形にしたような漆黒の宇宙のみだ。


 それを認識したせいで、死が間近に迫っているという感覚が、避けられず全身を支配していく。

 湧き上がる恐怖が、徐々に体と心を蝕み、確実に食い尽くしていくのがわかった。

 このままだと精神が限界を迎え、みっともなく叫び出してしまうかもしれない。


 ただ俺が、その這い寄る悪寒に潰されそうになった瞬間、不意に――


『斉川君』


 春日井真那が、今までに聞いたこともないくらい弱々しい声音で、俺に話しかけてきた……



『なんか……ごめんね』








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