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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-12 『Moon watcher』
141/173

Section-6

更新履歴 21/10/27 文章のレイアウト変更・表現の修正


 スポットライトと呼ぶには、あまりに暴力的な光の集合体――それが次々と、体勢を崩した春日井へと降り注いでいく。

 まるで自らの内側に取り込み、完全に同化しようとするかのように。


 俺はその絶望的な光景を前に、声を限りに叫びを上げた。

 決して失いたくないものが失われる、という恐怖に激しく身を震わせながら。


「春日井ーっ!」


 空しく響くその絶叫をバックに、あいつは自身の元に寄り集まった、まばゆい輝きの中に呑み込まれ――


(……え?)


 ――る、かと思われたのだが。

 しかしその予想とは裏腹に、次いで俺の耳には、やたらと呑気な呟きが聞こえてくる。


『あー……失敗、失敗。ちょっとやられちゃった』


 おまけにそれと前後して、例の光がようやく消え去り、代わりに同じ場所から春日井が現れた。

 どうやら見事、あの猛烈な攻撃を回避していたらしい。

 あれだけの集中砲火をやり過ごすなんて、本当に大したやつである。


 ただその無事な姿に、全身の力が抜けそうなくらい安堵した直後――


(いや、待て……無茶苦茶やられてるじゃないか!)


 すぐさま俺は、その機体がかなり損傷していることに気づく。

 光が弱まったことで、あいつの姿がはっきり見えて、今どういう状態にあるか把握できたのだ。


 具体的にはまず、下半身がほぼ消失している。

 左の腰辺りがわずかに残る程度、というほどに大きく削り取られていたのだ。

 きっと避けきれなかった敵の攻撃で、丸ごと持って行かれたに違いない。


 またその影響か、上半身の方も、右の脇の下から腹部中央にかけてが溶け落ちていた。

 例えるならば、胴体を猛獣に噛み千切られたかのような雰囲気だ。

 要は致命傷にこそならなかったものの、被害は極めて甚大だった、ということである。


 当然あれでは、もうまともには動けまい。

 一応スラスターは残っているらしく、多少なりとも移動は可能なようだが、敵の攻撃を回避できるほどではない。

 絶体絶命の危機、と呼ぶに相応しい状態であろう。


 俺はその光景にショックを受け、しばし呆然としてしまっていたのだが。

 そんなこちらを見かねてか、志藤からの強い叱咤が届く。


『斉川君! 早く残りの敵を!』


 いつになく厳しいその口調が、俺の心に冷静さを戻してくれる。

 危機的状況なのは確かだが、だからこそ行動が必要、と気付けたのだ。

 心配している暇があったら何かしろ、ということである。


 ゆえに志藤のその指示に応じて、俺は慌てて攻撃を再開した。

 残りの『オベリスク』を、今までと同じパターンで狙い撃ちしていったのである。

 すぐにでも終わらせなければ、今度こそ春日井が危ない、という状況に焦りを覚えながら。


 結果どうにか、敵が次の行動へ移る前に、目標の殲滅に成功する。

 少し時間はかかったが、これで『オベリスク』は全て片付いたし、あいつの救出もだいぶ楽になってくれるだろう。


 ……などと考え、俺は気を抜いていたのだが。

 しかし次いで、それが死ぬほど甘い認識である、と痛烈に思い知らされることになった。


『うあ……いててて! まずい、これまずいって!

 お前ら早く帰還してくれ! こっち結構攻撃されてるから!』


 母艦を操作している柳井から、急にそんな騒々しい報告が届いたのだ。

 実際レーダーには、こちらの守りを突破した敵の一部が、艦に肉薄する様子が映し出されている。

 口調の間抜けさとは真逆の、たいへんに厳しい状況である。


 つまりはもう、時間の猶予はあまり残されていないということだ。

 なので本来ならば、すぐ春日井の救出に向かうところ……なのだが――


(くそっ、どうすればいい……?)


 しかし残念ながら、事はそう簡単にはいかない。

 なぜなら橘が深刻なダメージを負っている上、栗原もそろそろ弾切れになる頃合いだから。

 母艦をきちんと防衛しつつ、春日井の元へ送る人員が確保できない、ということだ。


 おまけに互いの間には、未だに大量の敵が、まるで壁のように立ちはだかっている。

 こちらが戦力不足なのに、あちらはしっかりと充実しているのだ。

 志藤がすぐ指示を出してこないのも、その辺りの厳しさを認識し、対応を迷っているからだろう。


 ただし先ほど確認した通り、今は迷うことすら許されない状況だ。

 そこで俺は、思い切ってある決断を下すと、即座に志藤へその内容を告げた。


「志藤! 俺を春日井のところに行かせてくれ!」


 他の誰でもない、自分が春日井の元へ赴こう、と考えたのである。

 戦力が限られているからには、誰かが強引に突破を図るしかない上、今まともに動けるのは自分だけだったから。

 他に選択肢が無くてやむを得ず、というわけだ。


 もちろんそれは、機体が重装型の俺にとって、本来極めて不向きな役割である。

 だが現状を鑑みるに、贅沢を言っている余裕など無いはずだし、ここはリスク覚悟で挑むより他はない。


 ただそんなこちらの意気込みとは裏腹に、志藤からの返事は、ひどくためらいがちなものだった。


『しかし……現状だと、救出役への十分な支援は難しいですし……

 母艦の防衛の方も……』


 おそらく彼女としては、無謀な作戦にゴーサインを出したくないのだろう。

 責任感の強い志藤らしい、確実性の高い考え方ではある。


 しかし言うまでもなく、こちらも簡単に引けはしないので、やや強引に自らの意見を押し込んでいく。


「必ずやり遂げてみせる!

 だから頼む! 頼むから行かせてくれ!」


 結果そのまま、志藤との間で押し問答に――


『ですが……』


 ――なる、という俺の予測は、次いであっさり回避されることになった。

 そこへ突如、意外な人物の助け船が出されたからだ。


『えーと……まだちょっとなら大丈夫だよ~。

 だから遠慮せず、春日井ちゃんのところ行ってくれ~。

 まあ正直厳しいんで、なるべく早くしてくれると助かりますけどね!』


 驚くべきことに、柳井が俺の提案に賛同してくれたのだ。

 今はあいつも敵の攻撃を受け、かなり苦しい状況へ追い込まれているはずなのに。


 しかもさらに、他のクラスメイト達までもが、同じように後押ししてくれる。


『……俺もまだやれる。母艦を守るくらいならやってみせるさ』 


『私も! 私もまだまだ大丈夫だよ!』


 その心強い言葉に感謝しつつ、俺は志藤に最後のひと押しを放った。

 頼むから俺の太陽を見捨てないでくれよ、と密かに内心で懇願しながら。


『志藤! 頼む!』


 すると志藤が、わずかに間を置いてから、俺の提案に沿う指示を出してくる。


『……五分だけ! 五分だけ待ちます!

 必ずそれまでに戻ってください!』


 その口調からして、あちらも腹を決めた、ということだろう。

 ならばと俺も、それに合わせて、勢い良く了承の返事をした。


「了解!」


 それから改めて、春日井の方へ視線を送り、詳しい状況を確認する。


 そこで目に入ってきたのは、ますます数を増やしつつある敵の集団だ。

 危険な存在が大量に群れるその様は、何となく警戒中のスズメバチの巣、という印象である。

 真っ正面から突撃するのは、きっと自殺行為に近い暴挙だろう。


 でも俺はこれから、そこを一気に突破して春日井を救出し、その上で母艦まで戻らなくてはならないのだ。

 しかもたったの五分、というごく限られた時間の内に。

 考えるまでもなく、かなり困難で成功率の低い作戦である。


 しかし当然、どれほどの障害が立ちはだかっていようとも、必ずやり遂げなければならない。

 勇気を振り絞って突き進み、絶対にこの作戦を成功させなければならない。

 例え失敗した時に、自分の命まで失われるとしても。


 だってそうでなければ、俺はあいつを永遠に失うことになるのだから。

 太陽なき世界で、これからずっと生き続けなければならなくなるのだから。

 その暗い運命を否定し、明るい未来を掴み取るためには、迷わず行動あるのみなのだ。


 ゆえに覚悟を決めるように、すでに不要となったスナイパーライフルを投棄すると――


(やってやるさ……!)



 内心で気合いを入れ直してから、即座に前進を開始した。








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