Section-5
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『ハッハッハ、志藤ちゃんだと思ったかい?
でも違うんだな~、俺なんだな~。
いやいやさすがのお前でも、これには驚いただろ!
どうだ斉川、ハッハッハ!』
そうやたらと自慢げな口調で、明るくこちらを煽ってくる、柳井満の声。
俺はそれを聞きながら、瞬時に考えを巡らし、その摩訶不思議な事態への解答を導き出した。
「……そうか、なるほど。
お前にはもう使う機体が無いから、母艦のコントロールを預けたわけか。
きっちり人員を使い切ったってことだな、さすが志藤」
要は母艦の制御を掌握した志藤が、その操縦を柳井に一任したのである。
きっと自分がそれを担当してしまうと、彼女の機体を動かす者がいなくなり、せっかくの戦力が余るからだろう。
だから機体を失ったこいつに、艦のコントロールを託したのだ。
実際柳井からは、慌てふためいた様子で、その推測を肯定する言葉が返ってくる。
『いやいや! もうちょっと驚いてくれよ!
せっかく志藤ちゃんに言われて、一生懸命準備したんだからさあ!
それとすぐ事情を察して解説するのもやめろ!
意外な登場で格好つけるところだったのに!』
またその発言からして、どうやら俺のことを驚かせたかったらしい。
自分が艦を動かしている、という事実へのリアクションを欲していたわけだ。
重要な役割を任されたことが、こいつなりによほど嬉しかったのだろう。
とは言えそんな話は、正直どうでも良かった。
なのでそのまま柳井を無視して、俺は今後の戦い方についての思考を再開する。
(これで逃げる準備は整った、か)
状況を鑑みるに、とりあえず母艦は完全に制御できているようだ。
そうでなければ、いくら柳井であっても、あそこまでふざけたりはしないはずだから。
どうやら今はもう、その気になればすぐにでも撤退可能な状態らしい。
ただしだからと言って、ここで逃げを選択するわけにはいかない。
味方と分断された状態の春日井を、このまま捨て置いていくなんて言語道断だから。
どうにかして敵陣を突破し、必ずあいつとの合流を果たさなければならぬのだ。
しかし現状、その回収には大きな障害が立ちはだかっている。
もちろんあの厄介で危険なステルス砲撃機、『オベリスク』群の存在だ。
あれがいる限り、俺達は自由に動けないから、事態の打開を図る術が無いのである。
一応柳井の機体が使えれば、狙撃で奴らに対応ができて、その問題も解決するのだが。
すでに失われた今となっては、それは決して叶わぬ願いだ。
両手両足を縛られているのにも似た、非常に苦しい状況と言えるだろう。
ただそうして、俺が高い壁に突き当たった直後、不意に予想外の事態が発生した。
母艦に関する作業を終え、出撃してきたらしい志藤が接近してきて、何とも意外な物を差し出してきたのだ。
『斉川君! これを使ってください!』
渡されたその、機体の全長ほどもあるかというくらいに長大な物体を見て、俺は驚愕する。
(これ……柳井の機体のスナイパーライフルじゃないか!)
なんとそれが、柳井の使っていたスナイパーライフルと、全く同じ物だったから。
色もサイズもデザインも、何もかも一致していたのである。
これはあいつの一件で失われたはずだし、予備があるという話も聞かなかったというのに、なぜここで出てきたのだろうか。
当然俺は、その経緯に疑問を持ち、急ぎ彼女に事情を確かめた……のだが。
「どういうことだ? 何でこれがここに?
予備の武装なんてどこから調達してきたんだ?」
しかし話もそこそこに、すぐ戦いへ戻るよう急かされてしまった。
『その話は後に! とにかくそれで敵を何とかしてください!
機体に狙撃向きのシステムが無くても、止まってる相手になら当たるはずですから!』
確かに言われた通り、今はそんな事を気にしていられる状況じゃない。
事情なんて後でいくらでも聞けるわけだし、ここは眼前の敵に集中すべきだろう。
ゆえに俺は、すぐさま気持ちを切り替え、彼女の依頼に応じる。
「り、了解!」
そして渡されたスナイパーライフルを構え、早速自身の火器管制システムと連動させた。
もちろん狙撃に適したものでは無いが、志藤の言う通り、静止している敵を狙うだけなら十分だろう。
母艦の支援で位置は把握できているし、落ち着いて戦えば、必ず撃ち落とせるはずなのだ。
そこで俺は、早速レーダーを頼りに、一機の『オベリスク』へと照準を合わせる。
次いで初めての作業に緊張しながらも、それを振り払って、ひと息にトリガーを引き絞った。
すると直後、スナイパーライフルの銃口から、黄金色に輝く光が放出される。
それは狙い通り、目標として定めた地点にまっすぐ突き進み――
(よし!)
その先の空間で何かに接触、同時に大きな爆発を引き起こした。
そこに潜んでいたのだろう『オベリスク』を撃ち抜き、見事撃墜することに成功したのである。
しかもこの短時間の内に、大した苦労もなくあっさりとだ。
情報と武器が揃った以上、もはやあいつは敵じゃない、ということだろう。
そう自信を持った俺は、そのままスナイパーライフルを連射し、居並ぶ『オベリスク』を片っ端から落としていく。
するとそれに伴って、味方が自由な動きを取り戻し始めた。
砲撃の頻度が減ったことで、攻めに転じる余裕が生まれ、徐々に敵を押し返せるようになったのである。
戦力として志藤も加わったし、客観的に見れば、状況は確実に好転していると言っていい。
ただしその一方で、内心の焦りはますます募っていく。
(くそっ、急がないと……!)
なぜなら肝心の春日井との距離が、未だにかなり開いたままだから。
互いの間に展開する敵が、ほとんど減っていないせいだ。
これほど『オベリスク』を仕留め、相手側の戦力を削ったのにである。
それはおそらく、普段は前衛を務める橘が被弾したせいで、部隊全体の突破力が低下したからだろう。
また他の皆も、補給を気にして全力では戦えていない印象がある。
これではどう考えても、一気に敵陣を突き抜けるなんてのは難しい。
しかもそう手を出しあぐねている内に、どんどん春日井への攻勢が強まっていく。
戦況が変わりつつあることに危機感を持ったのか、敵がより積極的に包囲を狭め始めたのだ。
遠からずその輪が閉じられ、あいつが捕捉されるのは必定、という雰囲気だ。
実際、俺がそんな危惧を抱いた瞬間――
(……あ!)
変わらず暴れ回る春日井に向けて、一機の『ゴーレム』が主砲を放った。
しかもその頭上、ちょうど死角に当たる場所から。
きっと包囲が狭まっていたせいで、全方位に気を配りきれず、厄介な位置に回り込まれてしまったのだろう。
それでも一応、あいつはその不意の攻撃にもしっかりと対処、軽くかすめるくらいで回避したのだが。
しかし結果として体勢が崩れ、立て直すために一瞬だけ動きを止めてしまう。
それは完全に包囲されたこの状況において、致命的な隙と呼ぶに十分なものであった。
ゆえにそんな春日井の元へは、当然のように――
(あ……ああああ!)
次いで大量の光の束が、とてつもない密度で降り注いでくる。
残った『オベリスク』が、ここぞとばかりに集中砲火を仕掛けてきたのだ。
言うまでもなく、足を止めていたあいつに、それを回避する手段は無い。
その状況に絶望し、叫びを上げた俺の目前で、春日井真那は――
「春日井ーっ!」
視界を埋め尽くすほどの光の中へ、溶けるようにして消えていった……




