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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-12 『Moon watcher』
139/173

Section-5

更新履歴 21/10/27 文章のレイアウト変更・表現の修正


『ハッハッハ、志藤ちゃんだと思ったかい? 

 でも違うんだな~、俺なんだな~。

 いやいやさすがのお前でも、これには驚いただろ!

 どうだ斉川、ハッハッハ!』



 そうやたらと自慢げな口調で、明るくこちらを煽ってくる、柳井満の声。

 俺はそれを聞きながら、瞬時に考えを巡らし、その摩訶不思議な事態への解答を導き出した。


「……そうか、なるほど。

 お前にはもう使う機体が無いから、母艦のコントロールを預けたわけか。

 きっちり人員を使い切ったってことだな、さすが志藤」


 要は母艦の制御を掌握した志藤が、その操縦を柳井に一任したのである。

 きっと自分がそれを担当してしまうと、彼女の機体を動かす者がいなくなり、せっかくの戦力が余るからだろう。

 だから機体を失ったこいつに、艦のコントロールを託したのだ。


 実際柳井からは、慌てふためいた様子で、その推測を肯定する言葉が返ってくる。


『いやいや! もうちょっと驚いてくれよ! 

 せっかく志藤ちゃんに言われて、一生懸命準備したんだからさあ!


 それとすぐ事情を察して解説するのもやめろ!

 意外な登場で格好つけるところだったのに!』


 またその発言からして、どうやら俺のことを驚かせたかったらしい。

 自分が艦を動かしている、という事実へのリアクションを欲していたわけだ。

 重要な役割を任されたことが、こいつなりによほど嬉しかったのだろう。


 とは言えそんな話は、正直どうでも良かった。

 なのでそのまま柳井を無視して、俺は今後の戦い方についての思考を再開する。


(これで逃げる準備は整った、か)


 状況を鑑みるに、とりあえず母艦は完全に制御できているようだ。

 そうでなければ、いくら柳井であっても、あそこまでふざけたりはしないはずだから。

 どうやら今はもう、その気になればすぐにでも撤退可能な状態らしい。


 ただしだからと言って、ここで逃げを選択するわけにはいかない。

 味方と分断された状態の春日井を、このまま捨て置いていくなんて言語道断だから。

 どうにかして敵陣を突破し、必ずあいつとの合流を果たさなければならぬのだ。


 しかし現状、その回収には大きな障害が立ちはだかっている。

 もちろんあの厄介で危険なステルス砲撃機、『オベリスク』群の存在だ。

 あれがいる限り、俺達は自由に動けないから、事態の打開を図る術が無いのである。


 一応柳井の機体が使えれば、狙撃で奴らに対応ができて、その問題も解決するのだが。

 すでに失われた今となっては、それは決して叶わぬ願いだ。

 両手両足を縛られているのにも似た、非常に苦しい状況と言えるだろう。


 ただそうして、俺が高い壁に突き当たった直後、不意に予想外の事態が発生した。

 母艦に関する作業を終え、出撃してきたらしい志藤が接近してきて、何とも意外な物を差し出してきたのだ。


『斉川君! これを使ってください!』


 渡されたその、機体の全長ほどもあるかというくらいに長大な物体を見て、俺は驚愕する。


(これ……柳井の機体のスナイパーライフルじゃないか!)


 なんとそれが、柳井の使っていたスナイパーライフルと、全く同じ物だったから。

 色もサイズもデザインも、何もかも一致していたのである。

 これはあいつの一件で失われたはずだし、予備があるという話も聞かなかったというのに、なぜここで出てきたのだろうか。


 当然俺は、その経緯に疑問を持ち、急ぎ彼女に事情を確かめた……のだが。


「どういうことだ? 何でこれがここに?

 予備の武装なんてどこから調達してきたんだ?」


 しかし話もそこそこに、すぐ戦いへ戻るよう急かされてしまった。


『その話は後に! とにかくそれで敵を何とかしてください!

 機体に狙撃向きのシステムが無くても、止まってる相手になら当たるはずですから!』


 確かに言われた通り、今はそんな事を気にしていられる状況じゃない。

 事情なんて後でいくらでも聞けるわけだし、ここは眼前の敵に集中すべきだろう。


 ゆえに俺は、すぐさま気持ちを切り替え、彼女の依頼に応じる。


「り、了解!」


 そして渡されたスナイパーライフルを構え、早速自身の火器管制システムと連動させた。

 もちろん狙撃に適したものでは無いが、志藤の言う通り、静止している敵を狙うだけなら十分だろう。

 母艦の支援で位置は把握できているし、落ち着いて戦えば、必ず撃ち落とせるはずなのだ。


 そこで俺は、早速レーダーを頼りに、一機の『オベリスク』へと照準を合わせる。

 次いで初めての作業に緊張しながらも、それを振り払って、ひと息にトリガーを引き絞った。


 すると直後、スナイパーライフルの銃口から、黄金色に輝く光が放出される。

 それは狙い通り、目標として定めた地点にまっすぐ突き進み――


(よし!)


 その先の空間で何かに接触、同時に大きな爆発を引き起こした。

 そこに潜んでいたのだろう『オベリスク』を撃ち抜き、見事撃墜することに成功したのである。


 しかもこの短時間の内に、大した苦労もなくあっさりとだ。

 情報と武器が揃った以上、もはやあいつは敵じゃない、ということだろう。

 そう自信を持った俺は、そのままスナイパーライフルを連射し、居並ぶ『オベリスク』を片っ端から落としていく。


 するとそれに伴って、味方が自由な動きを取り戻し始めた。

 砲撃の頻度が減ったことで、攻めに転じる余裕が生まれ、徐々に敵を押し返せるようになったのである。

 戦力として志藤も加わったし、客観的に見れば、状況は確実に好転していると言っていい。


 ただしその一方で、内心の焦りはますます募っていく。


(くそっ、急がないと……!)


 なぜなら肝心の春日井との距離が、未だにかなり開いたままだから。

 互いの間に展開する敵が、ほとんど減っていないせいだ。

 これほど『オベリスク』を仕留め、相手側の戦力を削ったのにである。


 それはおそらく、普段は前衛を務める橘が被弾したせいで、部隊全体の突破力が低下したからだろう。

 また他の皆も、補給を気にして全力では戦えていない印象がある。

 これではどう考えても、一気に敵陣を突き抜けるなんてのは難しい。


 しかもそう手を出しあぐねている内に、どんどん春日井への攻勢が強まっていく。

 戦況が変わりつつあることに危機感を持ったのか、敵がより積極的に包囲を狭め始めたのだ。

 遠からずその輪が閉じられ、あいつが捕捉されるのは必定、という雰囲気だ。


 実際、俺がそんな危惧を抱いた瞬間――


(……あ!)


 変わらず暴れ回る春日井に向けて、一機の『ゴーレム』が主砲を放った。

 しかもその頭上、ちょうど死角に当たる場所から。

 きっと包囲が狭まっていたせいで、全方位に気を配りきれず、厄介な位置に回り込まれてしまったのだろう。


 それでも一応、あいつはその不意の攻撃にもしっかりと対処、軽くかすめるくらいで回避したのだが。

 しかし結果として体勢が崩れ、立て直すために一瞬だけ動きを止めてしまう。

 それは完全に包囲されたこの状況において、致命的な隙と呼ぶに十分なものであった。


 ゆえにそんな春日井の元へは、当然のように――


(あ……ああああ!)


 次いで大量の光の束が、とてつもない密度で降り注いでくる。

 残った『オベリスク』が、ここぞとばかりに集中砲火を仕掛けてきたのだ。

 言うまでもなく、足を止めていたあいつに、それを回避する手段は無い。


 その状況に絶望し、叫びを上げた俺の目前で、春日井真那は――


「春日井ーっ!」



 視界を埋め尽くすほどの光の中へ、溶けるようにして消えていった……








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