Section-4
更新履歴 21/10/27 文章のレイアウト変更・表現の修正
見覚えのある巨大な光の束が、次々と虚空から出現し、そのまま漆黒の空間を切り裂いていく。
遅れてこの戦場に到着したらしい、多数の『オベリスク』が放った砲撃だ。
その密度は常軌を逸しており、土砂降りの雨を思わせるほどの濃さだった。
そいつの脅威を肌で感じて、俺は思わず内心で悪態をつく。
(くそっ、こんな時に……!)
当然だろう、ただでさえ危機的状況なのに、その上とんでもない強敵が増えたのだから。
攻撃の激しさから考えて、数もかなりいるはずだし、これでは本当に部隊が瓦解しかねない。
即刻何らかの対処が必要、ということである。
なので俺は、慌ててレーダーに目をやり、その姿を確認しようとしたのだが――
(チッ……やっぱり捉えられないか!)
敵のステルス機能に阻まれて、正確な位置を特定することはできなかった。
以前志藤の作った、例の索敵用システムが稼働していないせいである。
まあ母艦を満足に動かせぬ現状では、それも致し方ないことなのだが。
こうなると無論、初接触時のように、ほぼ一方的に攻撃されてしまうはずだ。
一気に戦局を覆され、極めて厳しい状況に追い込まれた、と表現するべきであろう。
しかもその苦境へ、さらなる追い討ちをかけるように――
『ぐ……くそっ!』
不意に橘が発したらしい、悔しそうな声が聞こえてくる。
その珍しく感情を露わにした口調に驚き、すぐそちらを確認すると、右上半身が溶融しているグラディエーターの姿が見えた。
どうやら先の『オベリスク』の砲撃を、完全には回避できなかったらしい。
加えてその攻撃に巻き込まれたのか、本来の主武装である大型ブレードを失っている。
今は予備の武装らしき小型のブレードを使っているが、あれでは大型機の相手はできまい。
要は大幅な戦力ダウンを招いた、というわけで、何ともやつらしからぬ失態である。
ただその原因はおそらく、重要な目標として集中攻撃されたせいだろう。
あいつの機体は戦闘能力が高いので、敵も優先的に狙ったのである。
俺の方にはあまり砲撃が来なかった、という事実を考えれば、そう解釈するのが正しいはずだ。
それでいて橘の機体には、春日井の機体ほどの機動性が無い。
だから狙い撃ちされた際、その全てを避けることができなかったのだ。
これでますます、押し切られる見込みが大きくなったと言っていいだろう。
俺はその焦りから、『オベリスク』への対策を欲し、思わず志藤を急かしたのだが――
「志藤! 何とか例のシステムは使えないのか?
奴らの位置が掴めないとまずいぞ!」
結果珍しく声を荒げた彼女から、強めに発言を遮られることになってしまった。
『今やっています! もう少し待ってください!』
余裕の無いその口調から考えて、作業の終了までにはまだ時間がかかりそうだ。
もう少しこのまま耐えるしかない、ということである。
そこでいったん敵への攻撃を諦め、全力で回避運動を行う。
降り注ぐ砲撃の嵐を避けるため、可能な限り不規則に、辺りをちょこまかと動き回ったのだ。
それが運任せだとわかっていても、今はそのくらいしかできることがなかったから。
しかし今回厄介なのは、以前と違い、そこに他の敵が群がってくること。
『バグ』やら『ハウンド』やらが、容赦なく距離を詰めてくるのだ。
『オベリスク』からの砲撃に、自分が巻き込まれることもお構いなしに。
無論、こうなってくるとかなり苦しい。
こちらは回避で手一杯なのに、向こうは好き放題攻撃が可能、という状況を作られてしまうから。
もちろんその分、巻き添えで敵の数は減っていくのだが、脅威の方がずっと大きいのは確かだ。
実際『オベリスク』の登場以降、味方はどんどん追い詰められていった。
反撃がほぼ不可能な状態ゆえ、誰もが後退せざるを得ず、結果として一気に戦線を押し下げられてしまったのだ。
そのせいで作戦は完全に破綻、もはや母艦はすぐ後方という状態である。
しかもその状況にますます焦り、打開策を求めて周りを見回した俺の目に、次いでとんでもないものが飛び込んでくる。
(……またかよ! あの馬鹿!)
なんと春日井のやつが、先ほどよりもさらに突出していたのだ。
いや味方が下がったのに、あいつだけ敵の近くに居座った分、距離が遠くなってしまったと言うべきか。
おそらくあれだと、これまで以上の集中砲火を受けることになるだろう。
当然俺は、すぐ通信を入れ、かなり厳しい口調でその動きを咎めた。
「おい、お前何やってんだよ! さすがに離れすぎだろ!
さっきとは状況が違うんだし、すぐ戻れ!」
しかし春日井は、変わらぬ口調でそれを受け流してしまう。
『大丈夫大丈夫! まだまだ耐えられるから!』
自信なのか強がりなのかわからぬが、どうやらあいつ、退くつもりはさらさらないようだ。
支援を受けるのが難しいほど味方から離れ、ほぼ孤立無援の状態だと言うのに。
あまりにも無謀な、そして危険極まりない行動である。
案の定その危惧通りに、春日井は次の瞬間、『オベリスク』の集中砲火に見舞われた。
孤立したあいつを狙い、敵が一斉攻撃を仕掛けてきたのだ。
俺の目にその光景は、どこにも逃げ場の無い絶望的なものに見えた。
しかし春日井は、その網の目のように張り巡らされた砲撃でさえ、見事に回避していく。
素早く小刻みに機体を移動させて、残らず寸前でくぐり抜けてしまったのである。
降り注ぐ雨粒すら当たらないのでは、と思ってしまうほどの正確性と反応速度だ。
またそうして春日井が囮になってくれているおかげで、こちらへの砲火はだいぶ弱まった。
味方が体勢を立て直し、どうにか敵の攻勢を止めることができたのだ。
あいつの動きが戦況を変えた、とも言えるだろう。
ただしあんな戦い方、やはりいつまでも続くものではあるまい。
人間の集中力は無限ではないし、また補給の問題もある。
いつかは被弾し、致命的な損害を被るのが必定、というわけである。
何とかその前に、あいつを支援する方法を考えなければならない。
だがその目的を達するため、再度前進しようとした俺の前へ――
(くっ……分断する気か!)
まるでその行く手を塞ぐかのように、続々と他の敵が群がってきた。
見た感じ、明らかにこちらの連携を断とうとしている動きだ。
敵としても、厄介な相手を分断したまま仕留めてしまいたいらしい。
無論、そんな妨害を許すわけにはいかぬのだが、しかし現状では有効な手立ても無い。
戦力の圧倒的な不足から、敵陣を突破するのが困難なのだ。
それゆえ俺は、その場で為す術なく立ち往生してしまう。
これでは当然、春日井を助けに行くなど夢のまた夢である。
あいつが疲労から動きを鈍らせ、『オベリスク』の砲撃で撃ち落とされるところを、指を咥えて眺めているしかないわけだ。
その相変わらずの己の無力さが、今は罵倒したくなるほどに腹立たしい。
ただそうして、俺が一人地団駄を踏む中、ふとレーダーに――
(ん? これは……!)
突然今までに無かった、いくつかの大きな光の点が現れた。
その距離と配置から考えて、おそらく『オベリスク』のものだろう。
ここに来てなぜか、重要な敵の位置が正確に表示された、ということである。
もちろん、考えられる原因はひとつしかない。
(志藤……! やったのか!)
志藤が母艦のコントロールを掌握し、例の探知システムを起動させたのだ。
でなければ決してあり得ぬ事態だし、そう考えて間違いはないだろう。
実際その推測通り、出し抜けに後方で母艦が動き出す。
電池の切れた玩具のように静かだったものが、急に見てわかるほど鳴動し始めたのである。
ついにこれまでの時間稼ぎが実を結び、撤退の準備が整ったわけだ。
俺はその事実に歓喜しつつ、すかさず労をねぎらうため、志藤に声をかけた。
「志藤!」
だがそれに返ってきたのは、かなり意外な人物の声だった――
『おおっと残念! 俺でしたっ!』




