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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-12 『Moon watcher』
138/173

Section-4

更新履歴 21/10/27 文章のレイアウト変更・表現の修正


 見覚えのある巨大な光の束が、次々と虚空から出現し、そのまま漆黒の空間を切り裂いていく。


 遅れてこの戦場に到着したらしい、多数の『オベリスク』が放った砲撃だ。


 その密度は常軌を逸しており、土砂降りの雨を思わせるほどの濃さだった。



 そいつの脅威を肌で感じて、俺は思わず内心で悪態をつく。


(くそっ、こんな時に……!)


 当然だろう、ただでさえ危機的状況なのに、その上とんでもない強敵が増えたのだから。

 攻撃の激しさから考えて、数もかなりいるはずだし、これでは本当に部隊が瓦解しかねない。

 即刻何らかの対処が必要、ということである。


 なので俺は、慌ててレーダーに目をやり、その姿を確認しようとしたのだが――


(チッ……やっぱり捉えられないか!)


 敵のステルス機能に阻まれて、正確な位置を特定することはできなかった。

 以前志藤の作った、例の索敵用システムが稼働していないせいである。

 まあ母艦を満足に動かせぬ現状では、それも致し方ないことなのだが。


 こうなると無論、初接触時のように、ほぼ一方的に攻撃されてしまうはずだ。

 一気に戦局を覆され、極めて厳しい状況に追い込まれた、と表現するべきであろう。


 しかもその苦境へ、さらなる追い討ちをかけるように――


『ぐ……くそっ!』


 不意に橘が発したらしい、悔しそうな声が聞こえてくる。

 その珍しく感情を露わにした口調に驚き、すぐそちらを確認すると、右上半身が溶融しているグラディエーターの姿が見えた。

 どうやら先の『オベリスク』の砲撃を、完全には回避できなかったらしい。


 加えてその攻撃に巻き込まれたのか、本来の主武装である大型ブレードを失っている。

 今は予備の武装らしき小型のブレードを使っているが、あれでは大型機の相手はできまい。

 要は大幅な戦力ダウンを招いた、というわけで、何ともやつらしからぬ失態である。


 ただその原因はおそらく、重要な目標として集中攻撃されたせいだろう。

 あいつの機体は戦闘能力が高いので、敵も優先的に狙ったのである。

 俺の方にはあまり砲撃が来なかった、という事実を考えれば、そう解釈するのが正しいはずだ。


 それでいて橘の機体には、春日井の機体ほどの機動性が無い。

 だから狙い撃ちされた際、その全てを避けることができなかったのだ。

 これでますます、押し切られる見込みが大きくなったと言っていいだろう。


 俺はその焦りから、『オベリスク』への対策を欲し、思わず志藤を急かしたのだが――


「志藤! 何とか例のシステムは使えないのか?

 奴らの位置が掴めないとまずいぞ!」


 結果珍しく声を荒げた彼女から、強めに発言を遮られることになってしまった。


『今やっています! もう少し待ってください!』


 余裕の無いその口調から考えて、作業の終了までにはまだ時間がかかりそうだ。

 もう少しこのまま耐えるしかない、ということである。


 そこでいったん敵への攻撃を諦め、全力で回避運動を行う。

 降り注ぐ砲撃の嵐を避けるため、可能な限り不規則に、辺りをちょこまかと動き回ったのだ。

 それが運任せだとわかっていても、今はそのくらいしかできることがなかったから。


 しかし今回厄介なのは、以前と違い、そこに他の敵が群がってくること。

 『バグ』やら『ハウンド』やらが、容赦なく距離を詰めてくるのだ。

 『オベリスク』からの砲撃に、自分が巻き込まれることもお構いなしに。


 無論、こうなってくるとかなり苦しい。

 こちらは回避で手一杯なのに、向こうは好き放題攻撃が可能、という状況を作られてしまうから。

 もちろんその分、巻き添えで敵の数は減っていくのだが、脅威の方がずっと大きいのは確かだ。


 実際『オベリスク』の登場以降、味方はどんどん追い詰められていった。

 反撃がほぼ不可能な状態ゆえ、誰もが後退せざるを得ず、結果として一気に戦線を押し下げられてしまったのだ。

 そのせいで作戦は完全に破綻、もはや母艦はすぐ後方という状態である。


 しかもその状況にますます焦り、打開策を求めて周りを見回した俺の目に、次いでとんでもないものが飛び込んでくる。


(……またかよ! あの馬鹿!)


 なんと春日井のやつが、先ほどよりもさらに突出していたのだ。

 いや味方が下がったのに、あいつだけ敵の近くに居座った分、距離が遠くなってしまったと言うべきか。

 おそらくあれだと、これまで以上の集中砲火を受けることになるだろう。


 当然俺は、すぐ通信を入れ、かなり厳しい口調でその動きを咎めた。


「おい、お前何やってんだよ! さすがに離れすぎだろ!

 さっきとは状況が違うんだし、すぐ戻れ!」


 しかし春日井は、変わらぬ口調でそれを受け流してしまう。


『大丈夫大丈夫! まだまだ耐えられるから!』


 自信なのか強がりなのかわからぬが、どうやらあいつ、退くつもりはさらさらないようだ。

 支援を受けるのが難しいほど味方から離れ、ほぼ孤立無援の状態だと言うのに。

 あまりにも無謀な、そして危険極まりない行動である。


 案の定その危惧通りに、春日井は次の瞬間、『オベリスク』の集中砲火に見舞われた。

 孤立したあいつを狙い、敵が一斉攻撃を仕掛けてきたのだ。

 俺の目にその光景は、どこにも逃げ場の無い絶望的なものに見えた。


 しかし春日井は、その網の目のように張り巡らされた砲撃でさえ、見事に回避していく。

 素早く小刻みに機体を移動させて、残らず寸前でくぐり抜けてしまったのである。

 降り注ぐ雨粒すら当たらないのでは、と思ってしまうほどの正確性と反応速度だ。


 またそうして春日井が囮になってくれているおかげで、こちらへの砲火はだいぶ弱まった。

 味方が体勢を立て直し、どうにか敵の攻勢を止めることができたのだ。

 あいつの動きが戦況を変えた、とも言えるだろう。


 ただしあんな戦い方、やはりいつまでも続くものではあるまい。

 人間の集中力は無限ではないし、また補給の問題もある。

 いつかは被弾し、致命的な損害を被るのが必定、というわけである。

 何とかその前に、あいつを支援する方法を考えなければならない。


 だがその目的を達するため、再度前進しようとした俺の前へ――


(くっ……分断する気か!)


 まるでその行く手を塞ぐかのように、続々と他の敵が群がってきた。

 見た感じ、明らかにこちらの連携を断とうとしている動きだ。

 敵としても、厄介な相手を分断したまま仕留めてしまいたいらしい。


 無論、そんな妨害を許すわけにはいかぬのだが、しかし現状では有効な手立ても無い。

 戦力の圧倒的な不足から、敵陣を突破するのが困難なのだ。

 それゆえ俺は、その場で為す術なく立ち往生してしまう。


 これでは当然、春日井を助けに行くなど夢のまた夢である。

 あいつが疲労から動きを鈍らせ、『オベリスク』の砲撃で撃ち落とされるところを、指を咥えて眺めているしかないわけだ。

 その相変わらずの己の無力さが、今は罵倒したくなるほどに腹立たしい。


 ただそうして、俺が一人地団駄を踏む中、ふとレーダーに――


(ん? これは……!)


 突然今までに無かった、いくつかの大きな光の点が現れた。

 その距離と配置から考えて、おそらく『オベリスク』のものだろう。

 ここに来てなぜか、重要な敵の位置が正確に表示された、ということである。


 もちろん、考えられる原因はひとつしかない。


(志藤……! やったのか!)


 志藤が母艦のコントロールを掌握し、例の探知システムを起動させたのだ。

 でなければ決してあり得ぬ事態だし、そう考えて間違いはないだろう。


 実際その推測通り、出し抜けに後方で母艦が動き出す。

 電池の切れた玩具のように静かだったものが、急に見てわかるほど鳴動し始めたのである。

 ついにこれまでの時間稼ぎが実を結び、撤退の準備が整ったわけだ。


 俺はその事実に歓喜しつつ、すかさず労をねぎらうため、志藤に声をかけた。


「志藤!」


 だがそれに返ってきたのは、かなり意外な人物の声だった――



『おおっと残念! 俺でしたっ!』








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