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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-12 『Moon watcher』
137/173

Section-3

更新履歴 21/10/27 文章のレイアウト変更・表現の修正


 縦横無尽と言うか、自由闊達と言うか、あるいは勝手気ままと言うべきなのか。


 戦場における春日井真那には、いつだってそんな印象があった。



 なぜならその戦いぶりが、捕まえようとする人の手をすり抜けて、優雅に空を舞う蝶のようだから。

 自らに群がる敵の攻撃を、寸前で華麗に避けていく様がそう見えるのだ。

 追い回す相手に対し、少し滑稽さを感じてしまうほどの回避能力である。


 しかもそうして翻弄され、体勢を崩した敵へ、あいつは即座に反撃を叩き込む。

 今度は凶暴な蜂のような鋭さで、攻撃した後の隙を的確に突き、致命的な一発を放つのである。

 結果ほとんどの相手は、その直撃を受け、あえなく宇宙の藻屑となるのだ。


 もちろん今もまた、それは繰り返されている。

 あいつは集中する敵の攻撃を巧みに避けた後、すかさず反撃に移り、敵を次々に撃墜していっているのだ。

 ほぼ孤立状態で、ほとんど支援を受けていないというのに。


 眼前で展開される、その一方的な光景に、俺は状況も忘れて釘付けになった。


(やっぱ……すげえな)


 だって踊るようなその戦いぶりが、あまりにも美しかったから。

 華やかな劇場で踊るプリマドンナと言うか、戦場に舞い降りた凛々しい死神と言うか、とにかくそんな雰囲気なのだ。

 見惚れている、と表現したっていいかもしれない。


 まああまりに圧倒的過ぎて、正直ちょっとだけ、敵に同情を感じなくもないのだが。

 散々醜態を晒した挙げ句、あっさりと撃墜されるその姿に、何となく哀れな印象を抱いてしまうのである。

 本当にあいつが味方で良かった、と胸を撫で下ろすばかりだ。


 ただそうして浮つく自分を、俺はすぐさま戒める。


(いかん……ぼんやりしてる場合じゃない)


 なぜなら春日井とて、後頭部に目が付いてるわけではないから。

 いくら素早かろうとも、囲まれて死角から攻撃されれば、当然被弾もあり得るのだ。

 あいつの機体は装甲が薄く、ちょっとしたダメージでも影響が大きいし、やはりフォローは必要だろう。


 ゆえにすぐ意識を戦いへ戻し、間を置かず春日井の支援に取りかかった。


(まったく……ホント、世話の焼けるやつだよな!)


 そこでまず優先したのは、あいつの付近に展開している敵機、特に『ゴーレム』の掃討だ。

 理由はもちろん、回避の難しい攻撃を行うあれを、春日井が苦手としているから。

 例の光弾の嵐が放たれる前に、必ず対処をしておかなくてはならない、ということである。


 一応他にも敵はいるが、『バグ』はあいつの敵ではないし、『ハウンド』もよほど数が多くなければ問題無し。

 『ビッグアイ』や『サンフラワー』は弾幕を張るものの、対応は余裕ができてからで十分だろう。

 とりあえず『ゴーレム』さえ落とせれば良い、というわけだ。


 その見込みを胸に、俺は早速一機の『ゴーレム』に照準を合わせ、牽制の砲撃を仕掛ける。

 奴が左右に大きく広げている、二枚の翼の部分を狙い、両肩の大型プラズマキャノンを放ったのだ。

 春日井にとって脅威となり得る、例の光弾の嵐を防ぐために。


 まあ俺の機体に精密射撃は不可能だから、一発で黙らせる、なんて芸当はできないわけだが。

 ただ相手が巨体ゆえ、雨あられと浴びせかければ、自然とどれかは当たってくれる。

 それでしっかり妨害になるし、仕掛ける価値は十分と言っていいだろう。


 案の定、そうして俺が砲撃を仕掛けた直後、それを食らった『ゴーレム』に顕著な反応があった。

 飛び回る春日井を無視して、こちらへ向き直るような素振りを見せたのだ。

 攻撃を受けたことで、ターゲットの優先順位を変更したに違いない。


 となれば当然、最も危険な相手への注意は、自然と疎かになるので――


(……よし、成功だ!)


 その好機を逃さず、待ってましたとばかりに春日井が行動を開始、瞬く間に目標の『ゴーレム』へと肉薄する。

 さらにそこで、脚部のブレードを一閃し、あっさり敵の巨体を両断してしまった。

 いつものことだが、相変わらずの鮮やかな手並みである。


 ただそうして暴れた結果、春日井はちょっとした危機に陥る。

 攻撃の際、わずかに動きが止まったところを突かれ、全方位から集中砲火されたのだ。

 敵側としても、強敵に生まれた隙を逃すまいとしたのだろう。


 しかしそれさえも、全くと言っていいほど問題にせぬまま、あいつは戦闘を継続した。

 華麗に全ての攻撃を回避した上で、虎視眈々と次の攻撃機会をうかがっているのだ。

 本当に恐ろしいやつだ、改めてと舌を巻くより他はない。


 実際その活躍のおかげで、ともすれば窮地に追い込まれかねない、この苦しい戦況が支えられている。

 戦い方はかなり危険だが、今のところはうまくいっているわけだし、とりあえずこのまま続けるとしよう。


 なのでその後も、俺は春日井と連携して、『ゴーレム』を次々と撃墜していった。

 まず俺が牽制して動きを止め、そこをあいつが狙う、といういつものパターンを何度も繰り返したのである。

 慣れた戦い方ゆえの、極めてスムーズな連携をとりながら。


 またそれと並行して、機を見て周りの小物の排除も行う。

 春日井の死角に回り込もうとする敵を、『ゴーレム』への牽制が緩まぬよう留意しながら、適度に掃討していったのだ。

 現状まだ春日井は被弾していないし、敵の足止めもできているので、首尾としては上々というところである。


 するとそんな戦いを、しばし続けたところで――


(ん……? 押してる、のか……?)


 不意に、前方の敵の陣形が崩れてきた。

 今までずっと綺麗に整っていたものが、急に不規則に動き出し、一目見てわかるほどバラバラになったのだ。

 春日井の大暴れに、奴らも手こずっている、ということだろうか。


 もしそうであれば、非常に良い傾向である。

 こちらを物量で押し潰そうとした、敵の目論見が崩れつつある、ということなのだから。

 これなら何とか、志藤達が母艦のコントロールを掌握するまで、時間を稼げるかもしれない。


 もちろんここまでの戦いで、ずいぶん弾薬類は消耗したし、機体の残り稼働時間も心許なくなっているのだが。

 それでも彼我の戦力差を思えば、十分な健闘と言えるだろう。

 その手応えは俺の心に、このままであれば必ず行けるぞ、という前向きな感情をもたらしてくれた。


 だがそうやって、淡い期待を抱いたのも束の間――


(いや……違うのか。

 何だ? 何かおかしいぞ……)


 不意に、猛烈な既視感を覚える。

 眼前の崩れた敵の配置に、突然見覚えのようなものを感じたのだ。

 まるで以前にどこかで、同じものを目にしていたかのように。


 その感覚に首を傾げつつ、俺は念のため、もう一度敵陣の観察を行うことにした。

 何か見落としていることがないか、春日井の支援は継続しながらも、慎重かつ丁寧なチェックを行ったのである。


 結果として、バラバラに思える敵の配置に、若干ながら規則性を発見する。

 一見乱雑なように見えて、実のところその隙間が、妙に整然としているのに気づいたのだ。

 さも後ろから来る何かに対し、揃って道を空けているかのように。


 俺はその光景に対して、やはりどこかで見たことがあるな、という感想を抱いていたのだが――


(……ぬああ!)


 次の瞬間、唐突に閃く。

 いつどこでこれを目にしたのか、はっきりと思い出したのだ。

 心の底にまで刻まれた、決して拭い去れぬ恐怖と共に。


 ゆえにすかさず、味方へと警告を発した。

 忌まわしきその名を、大声で叫びながら。


「全員気をつけろ! 『オベリスク』の砲撃が来るぞっ!」


 するとその直後、眼前に広がる漆黒の空間を――


(くそっ……結局来てやがったのか!)



 どこからともなく現れた、いくつもの巨大な光の束が貫いた――








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