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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-12 『Moon watcher』
136/173

Section-2

更新履歴 21/10/27 文章のレイアウト変更・表現の修正


 母艦の問題に一定の区切りをつけた後、俺は即座にレクリエーションルームへ移動し、いつものように出撃した。


 春日井や望月と共に、橘と栗原、それから襲来した敵の待つ戦場へと赴いたのだ。



 ただし勇んで向かったその宇宙空間で、敵軍と相対した瞬間、早々に出鼻を挫かれてしまう。


(これは……厳しいな)


 なぜなら実際に敵の姿を目にして、非常にマズい状況だ、ということが強く実感できたから。


 その最大の理由は、敵軍の数である。

 なんと視界を埋め尽くすほどの敵機が、それこそ雲霞のごとく押し寄せてきていたのだ。

 それは正面からまともにぶつかれば、瞬く間に蹴散らされるだろう、と確信が持てるほどの威容だった。

 幸いまだ距離はあるので、本格的な衝突には時間がかかりそうだが、やはり強いプレッシャーを感じずにはいられない。


 ただし俺は、そういう光景を前にしながらも――


(……ま、自分の仕事をするだけだな)


 慌てず騒がず、手早く自らの機体をチェックし、各種武装の状態確認を行う。

 腕部のミサイルポッドや、肩と腹部のプラズマキャノン、それから機体を覆うほどの大型シールドなどを、ひとつひとつ調べていったのである。

 要は特別動揺することもなく、平常通りの戦闘準備をこなしたわけだ。


 なぜそんなに落ち着いているのかと言えば、それは不利やら劣勢やらが、基本的にいつものことだから。

 ここに来てからも、そして来る前の日常生活においても。

 むしろ人生を通じて、有利な立場だった試しなど一度も無い、とさえ言えるかもしれない。


 だから今もこうして、普段と同じような行動ができている。

 どんなに苦しい状況であっても、自分としてはやるべき事をやるだけだし、駄目ならまあその時はその時……と割り切れてしまうわけだ。

 ずっとそういう生き方だったし、これからも同じようにしていけば十分だろう。


 するとそう冷静に状況を見ながら、滞りなく準備を終えたところで、志藤からの呼びかけが届く。


『聞こえますか、みなさん』


 どうやら職員室経由で、こちらに通信を入れてきたらしい。

 彼女はそのまま、代表してそれに応じた、橘の答えを合図に――


『ああ、問題ない』


 いつものように淀みなく、作戦の説明を始めた。


『では、作戦を説明します。

 まず目的は、母艦の制御を掌握するまでの時間を稼ぐこと。

 そしてそれに成功した後、戦場から無事に離脱すること。

 基本はこの二点になります。

 母艦の防衛が最優先なので、必ずしも敵を撃退する必要はありません』


 要はもうすでに、今回の作戦を立案し終わっているらしい。

 敵の数や編成を把握し、迎撃を決めたのはついさっきだというのに。

 改めて思うが、相も変わらず仕事が早い。


 そう感心する俺をよそに、志藤は矢継ぎ早に指示を繰り出していく。


『また戦闘の際は、母艦から一定の距離を保ってください。

 これは現在無防備な状態にあるこの艦を、確実に守るための措置です。

 具体的な位置はこちらで指示しますので、それに従ってください。


 ただしあまり遠くに行ってしまうと、すぐには帰還できなくなるおそれがあります。

 撤退する際の支障にならないよう、指定した場所からは、できるだけ離れないようにお願いします』


 しかもそれを終えると同時に、すかさず配置に関するデータが送られてきた。

 母艦のコントロール掌握作業と並行して、こんな事までやり遂げてしまったらしい。

 頼りになるのは確かなのだが、さすがにここまで行くと、ハイスペック過ぎてちょっと引く。


 ……という少々複雑な気分を抱いている内に、志藤の作戦指示はスムーズに終わった。


『作戦については以上です。

 繰り返しになりますが、敵を追い払う必要は無いので、各自安全を意識して行動してください。

 ……では、状況を開始します!』


 となればもちろん、余計なことを考えている暇は無い。

 なのですかさず、他のクラスメイト達と共に、迷わず返事をした後――


『『了解!』』


 同時に機体のスラスターを起動、味方と足並みを揃えて前進していく。

 迫る敵の迎撃を行うため、指示された位置への移動を開始したのだ。


 ちなみに今回の戦闘における俺のポジションは、前衛の中央付近――敵の攻撃を受け止めながら、同時に反撃を叩き込む役だ。

 要は正面から突撃し、後は手当たり次第にぶっ放せばいい、というわかりやすい役割である。


 そう自らの任務を確認しながら、指示された持ち場に到着した俺は、そこでレーダーを使い付近の敵の編成を調べた。

 戦端を開く前の準備として、改めてその詳細を掴んでおくために。


 結果、判明したのは――


(厄介だな……)


 数が多いだけでなく、編成も厄介という事実だ。

 いつも以上に『ゴーレム』の比率が高く、やたらとその姿が目につくのである。

 あいつの火力を考えれば、これだけの数と正面から撃ち合うのは、間違いなく自殺行為だろう。


 ただ幸い、『ゴーレム』は足が遅い。

 現在の距離であれば、到達までにはまだ間があるはずなのだ。

 さすがにその全機と接触する前には、志藤の方の作業も終わるだろうし、意外にまずまずの状況と言えるかもしれない。


 加えてもうひとつ幸運なのが、付近に『オベリスク』の姿は見えない、という点である。

 ステルス能力持ちゆえ、どこかに潜んでいる可能性もあるが、今のところ攻撃の気配は無いのだ。

 であれば当然、この機を逃さず、少しでも敵の数を減らしておくべきだろう。


 ゆえに俺は、素早く戦闘の開始を決断――


(よし……行くか!)


 まずは正面から来ていた、中規模の敵集団に照準を合わせる。

 そして自機に搭載された武装――肩のプラズマキャノンや腕のミサイルポッド――を全て起動して、挨拶代わりの一斉射撃を仕掛けた。

 細かな狙いはつけないまま、適当かつ乱雑に。


 言うまでもないことだが、本当にいい加減に攻撃したわけではない。

 単に敵が極度に密集していて、撃てば当たる状態だからそうしただけだ。

 まさに下手な鉄砲なんとやら、というやつである。


 それでもその攻撃に晒されて、目の前で『バグ』やら『ビッグアイ』やらが、次々と落ちていく。

 距離があるから大物は仕留められていないが、露払いとしては十分だろう。

 戦術の選択は間違っていない、と言えるはずだ。


 まあ本来であれば、今は基本、弾薬の無駄遣いを避けるべき状況である。

 前回の戦いの後、補給をほとんど行わぬまま挑んでいるのだから。

 基本は無駄の出やすい攻め方をせず、物資の節約を心がけるべきだろう。


 しかし今回の作戦は、撤退までの時間を稼ぐのが目的だ。

 つまりはどうあれ短期戦になるはずなので、補給についてはさほど考慮しなくても良いのである。

 消耗を気にして、敵に押し込まれたら元も子もないし、今は全力で攻め込むとしよう。


 そこで俺は、さらにその派手な戦い方を続けた。

 まさに湯水のごとく、と例えるに相応しい勢いで、惜しむことなく弾薬を注ぎ込んでいったのである。


 また同時に、反撃として放たれる敵の攻撃を、ほぼ真正面から受け止める。

 大型のシールドを展開し、集中する敵の砲火を防いでいったのだ。

 その奮闘のおかげで、味方を守りつつ、ある程度敵の数を減らすことに成功した。


 一応それは、普段であれば、戦況を変えるのに十分な働きだったのだが――


(キリがないな……)


 たいへん残念なことに、現状敵の陣容にはほとんど変化が無い。

 あまりにも数が多くて、ちょっとばかり落としたくらいでは、ほぼ焼け石に水状態なのだ。

 このままでは早晩、強引に物量で押し潰されてしまうに違いない。


 たださっぱり手応えの無いその状況に、俺がどうすべきか悩んでいると――


(……ん?)


 不意に視界の端を、何か大きなものがかすめ、そのまま前方へ移動していく。

 どうやら誰かの機体が、横を通り過ぎていったようなのだ。

 俺の担当しているこの空域は、すでに最前線に近い位置であるはずなのに。


 当然俺は、誰がそんな事を、とすぐその正体を確認したのだが。

 結果として、思わず声を上げそうになるほど驚く羽目になった。


(……え? あいつ、何やってんだ!)


 なぜなら春日井が、味方から大きく離れつつ、敵陣にまっすぐ突撃をかけていたから。

 しかも大した支援も無いまま、ほとんど単独という状態で。


 無論それは、おそろしく向こう見ずと言うか、あまりに軽率な行動である。

 いくらあいつでも、この数相手に支援なしで挑むのは、どう考えても危険すぎるのだ。


 ゆえに慌てて、俺は春日井に声をかける。


「おい! 春日井!」


 そしてその呼びかけに対し、状況に似合わぬとぼけた口調で、平然と答えてきたあいつに――


『ん? 何?』


 すかさずきつい口調で、その猪突猛進ぶりを注意した。

 まさか倉田の件で落ち込み、自暴自棄になっているわけではあるまいな、と内心で密かに危惧しながら。


「突出し過ぎだ! 持ち場から離れるなって言われただろ! 下がれ!」


 ただそんなこちらの心配をよそに、春日井はやたらと軽い調子で、その忠告を受け流してしまう。


『大丈夫大丈夫! そんなに遠くまでは行かないから!』


 次いでさらに加速し、そのまま敵に突っ込んでいってしまった。

 何というか、いつも以上に自由奔放な振る舞いである。

 きっと今までのフラストレーションを発散しているか、あるいは変にテンションが上がってしまっているのだろう。


 となればいずれにせよ、フォローは必要となるに違いない。

 そう判断を下した俺は、やむなく予定を変更し――


(まったく、世話の焼けるやつだよ……!)



 心の中で悪態をつきつつ、春日井の支援ができるよう、自分も持ち場を離れて移動を開始した。








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