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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-11 『Moon jumper』
131/173

Section-9

更新履歴 21/10/23 文章のレイアウト変更・表現の修正


「見捨てられた……?」



 その発言の意図を十分に掴めず、呆然と聞き返した私へ、志藤さんは一度頷いてから――


「物資の補充をしなかったのは、これ以上生き残らせる気が無かったから。

 その状態で反転攻勢を命じたのは、どうなっても構わないと考えていたから。

 つまりは、捨て石も同然の扱いということです」


 淡々と、そして整然と、自身の推論を告げてくる。


「おそらく本部の方で、他星系への移住準備が完全に整ったのでしょう。

 そうなれば当然、本拠地である月を守る必要もなくなります。

 だから不要になった私達を、時間稼ぎのため突撃させようと……」


 ただ私は、それを決して許さなかった。

 自分でもわかるほど刺々しい声で、彼女の話を遮ったのだ。


「待って……それってつまり、倉田先生が逃げたって言いたいの?」


 志藤さんはその私の剣幕に怯んだのか、一転して自信なさげな雰囲気になる。


「ええと……あくまで推測ではありますが、現時点ではそうとしか……」


 私はそんな彼女を、次いで思わず、大声で怒鳴りつけてしまった。

 提示されたその可能性が、あまりに腹立たしくて、自制ができなかったのである。


「そんな事はあり得ない! 絶対に!

 おかしな事を言わないでっ!」


 すると斉川君が、ひどく慌てた様子で割って入ってくる。

 私が荒れているのを見て、すぐ止めなければと思ったのだろう。


「待て! 落ち着けよ春日井!」


 もちろん気が収まらない私は、すかさずそれをはねつけたのだが――


「落ち着いていられるわけないでしょ!

 倉田先生が逃げただなんて……」


 そこへ志藤さんが、まさしく火に油、という感じの言葉をかけてきた。


「私も、そう考えたくはないのですが……

 今の状況から判断するとどうしても……」


 私は彼女の、その諭すような口調に神経を逆撫でされ、さらに気色ばむ。


「だから! あの先生がそんな事するわけない!」


 結果斉川君も、場を収めようとしてか、ますます必死な口調になった。


「いいから少し冷静になれって!

 志藤を責めたってどうしようもないだろうが!」


 そうして私達は、しばし激しい言い争い――厳密に言うと、荒れていたのは私だけ――を繰り広げていたのだが。

 ただ次いで、それを尻目に、一人らしくもなく物思いに耽っていた柳井君が――


「……そうだな、俺も春日井ちゃんと同意見だわ」


 突然そう宣言したかと思うと、冷静に自らの意見を述べてくる。


「本部とかの考えはわからないけど、少なくとも倉田の方は、ここから逃げたりしてないと思う。

 志藤ちゃんの意見は、ちょっと違うって感じだなあ」


 私はその意外な振る舞いに驚いて、思わず動きを止めた。

 彼に喧嘩の仲裁をされる、という思ってもみない事態に動揺し、つい呆気に取られてしまったのだ。

 もちろん他の二人も、私と似たような表情で固まっている。


 その反応がショックだったのか、柳井君は不満そうに顔をしかめた。

 俺が真面目なこと言っちゃ悪いのかよ、とでも言いたげな表情である。


 しかし今はそんな場合じゃない、と気づいたのか、すぐに顔を引き締める。

 そして頭を掻きながら、状況の分析を始めた。


「あ~いや、あくまで憶測の話なんだけどさ。

 たぶんあいつにはもう、ここから逃げる手段が無いと思うんだよな。

 俺がこの前、それを完璧にぶっ壊しちゃったから」


 さらにそれを聞いて、何かに気づいた顔の志藤さんへ、自身の考えを伝えていく。


「うん……まあ、例の長距離移動用ブースターってやつだ。

 あいつがあれを、どういうつもりで用意したのかはわからないけど……


 まあどっちにしても、無くなった以上はどこにも逃げられない。

 俺が知る限りでは、予備も用意してなかったみたいだし。

 ……違うかな?」


 そんな彼の主張は、どうやら志藤さんの考え方を大きく変えたらしい。

 その証拠に彼女は、柳井君の問いかけに対して、すっかり納得した様子で返答し――


「そう……ですね。言われてみれば、その通りです」


 次いで即座にこちらへ向き直り、丁寧な謝罪をしてくる。


「申し訳ありません、春日井さん。

 考えが足りず、軽率な発言をしてしまったようです」


 結果私の胸に、強い罪悪感が芽生えた。

 冷静に状況を読もうとした彼女に対し、自分は感情的に対処してしまっていた、という事実を痛感したから。

 志藤さんは責任を果たそうとしただけなんだし、本来謝る必要など全く無いのだ。


 ゆえに慌てて、私も彼女に謝罪を返す。


「あ……いや……私も、大声出したりして……

 ごめんなさい」


 おかげで自然に、殺伐としていた場の雰囲気が落ち着いた。

 みんな一様に、ホッとしたような表情を浮かべている。

 そんなにも自分が空気を壊していたのか、と思うと、ちょっとばかり居心地が悪い。


 そういう私の心理を気遣ったのか、あるいはまた暴れ出さない内にと思ったのか。

 次いで斉川君が、冷静な口調で話題を切り替えた。


「よし、じゃあここで話を整理しとくか」


 続けてその言葉通りに、私達の現状についての話を始める。


「まず俺達が、わりと最悪な状況に置かれてる、ってことはわかった。

 倉田の行方もわからないし、母艦の制御も不可能なまま、おまけに本部からの援軍も期待できないんだからな。

 まあそっちは、最初から大して当てにはしてなかったわけだが」


 ただその途中で、少々意外なことを言い出した。


「それでもいくつか、重要な情報が得られたのは確かだ。

 特に本部がこっちを見捨てたかも、って言うのはかなりの朗報だな」


 当然それには、柳井君が驚いた風の反応を返したのだが――


「へ? なんでだよ?」


 斉川君は渋い顔をしてから、その問いに整然と答えていく。


「その分、警戒が緩くなるからだよ。

 今なら月に逃げ込んでも、こっちに構ってる余裕が無くなってるかもしれない。

 倉田の不在も合わせて、独自行動がしやすい状況になった、ってわけだ。


 ……と言うかそもそも、お前だってそう考えたから行動を起こしたんだろ?

 違うのか?」


 的確かつ容赦ないその指摘には、柳井君も肩をすくめて、決まり悪そうに肯定するのみだった。


「仰る通りで……」


 こういう風に、悪気なく厳しいことを言ってしまうのも、彼が敬遠される要因のひとつである。

 本人としてはあくまで、合理的に説明しているだけなのだとは思うが、やはり言い方が悪すぎる。

 もう少し優しくオブラートに包んで言えば、他人からの評判も変わってくる、という事実を理解するのはいつのことだろうか……


 ……なんて余計な心配をする私の前で、斉川君はそれに全く気づかぬ様子で、自説を総括してから志藤さんに話を振った。


「つまりは追い込まれた代わりに、希望も見えてきたんだよ。

 となれば後は、それを掴み取ればいいわけだが……

 志藤、考えられる手立ては何だ?」


 彼女はその問いかけに、少しだけ考える時間をとってから、妥当な予測を返す。


「……やはり、例のパスワードが設定されているデータですかね。

 厳重に隠すということは、重要な情報が含まれています、と告白しているに等しいわけですから。


 実際母艦の制御に関するシステムは、先生にとって最高機密に近いものですし、やはりそこに手がかりがある見込みは大きいと思います。

 今のところは、その調査が最優先課題でしょう」


 それには一同、納得した様子で頷くのみだったのだが。

 しかしその直後、柳井君が突然、何か思い出したような声を上げた。


「あ……!」


 そして何事かと注目した私達へ、勢い込んで新しい情報を告げる。


「いや今その、パスワードの話を聞いて思い出したんだが……

 実はちょっと前、母艦の倉庫の一角に、自分でも入れないエリアがある……って倉田が言ってたんだ。

 知らないパスワードでロックされてるから開かない、とかいう話だったな。

 ひょっとしたら、そこに何かあるのかも……」


 斉川君はそれに対し、怪訝そうな呟きを返しつつ――


「倉田でも入れないエリア……?」


 解答を求めるように、志藤さんへ目線を送った。

 彼女はその無言の問いかけを受けて、また少し考えてから、自らの推論を披露する。


「……本部から立ち入りを禁止されていた場所、ということでしょうか。

 さすがに詳しい理由はわかりませんが、確かに何かある可能性は十分ですね」


 そう言われて納得したのか、斉川君は軽く頷いてから、少し満足げに話をまとめた。


「つまりはパスワードの解除と、謎の区画の調査、そのふたつが当面の目標ってことか。

 よし、やるべき事ははっきりしてきたな」


 そういう会話を聞いていると、何となくだが、視界が開けたような気分になってくる。

 前向きに事態が動き始めた、という感触があるのだ。

 おかげでちょっとだけ、先生のことで荒れていた気持ちも、普段の穏やかさを取り戻していった。


 しかしそうやって、私が気分を良くした直後――


「そうですね……では――」


 指示を出そうとした志藤さんの声を遮って、突然誰かが職員室に飛び込んでくる。

 それはなんと、先ほど交代要員として、橘君達のところへ向かった望月さんだった。

 要は戦場にいるはずの彼女が、なぜだかこちらへ舞い戻ってきたわけだ。


 その急な登場に驚き、揃って視線を向けた私達に対し、彼女は息を切らしながら告げる。

 いつか必ず来るであろう、しかし今であって欲しくはなかった、新たな戦いの幕開けを――



「また敵が来ました! 今度は、すごい数です!」








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