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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-11 『Moon jumper』
130/173

Section-8

更新履歴 21/10/23 文章のレイアウト変更・表現の修正


「では、中身を確認してみましょう」



 その志藤さんの呼びかけに応じて頷いたのは、斉川君と柳井君、そして私の三人。

 集っている場所は、倉田先生のいない職員室だ。

 先の国語準備室での探索を終えた後、即座にここへ移動し、志藤さんと合流したのである。


 目的は無論、例の黒いUSBメモリーを詳しく調べるため。

 職員室にある倉田先生のPCで、これから中身を閲覧するつもりなのだ。

 そこに収められているであろう、事態打開のヒントを求めて。


 ちなみに学校にいたもう一人――望月さんは、交代要員として橘君達の所へ向かった。

 『そろそろ二人とも疲れているだろうから』と、彼女らしく気を利かせてのことだ。

 おかげで私達は、こうして憂いなく調査に取り組めている。


 そう現状確認を終えた私の前で、志藤さんが例のメモリーをPCに挿入し、その中身をディスプレイに映し出す。


 結果として、そこに――


「これは……作戦指令と、それから報告書ですかね」


 画面を埋め尽くすくらいの、大量の文書が表示された。

 その内訳は、『本部』からの作戦指令書と思われるものや、倉田先生が記したらしい報告書などだ。

 それらが時系列順に、整然と並んでいたのである。


 そんな光景を前に、志藤さんが冷静に自らの予想を述べる。


「……たぶんこれらは、とても機密性の高い文書なのでしょう。

 それを私達に知られてしまう、という万が一の事態を避けるため、別に保存しておいたのだと思われます。

 つまりは、重要な情報が収められている見込みも大きい、ということです」


 すると私達の間に、ひどく複雑な空気が漂った。

 おそらく『これで希望が見えた』という期待感と、『これからいったい何が起こるのか』という不安感が、同時に押し寄せてきたからだろう。

 まあいずれにせよ、避けては通れぬ問題なので、今はただ突き進むのみなのだが。


 そういう気持ちは同じだったのか、志藤さんも迷わず行動に移る。


「中にはいくつか、パスワードが設定されている文書もありますが……

 とりあえずは緊急度の高そうな、作戦指令の方から確認してみましょうか」


 そしてまたPCを操作し、手頃なファイルをひとつ開いた。

 それをその場にいた全員が、緊張した表情で一斉に覗き込む。


 そこで最初に、目に入ってきたのは――


「これは……え? ……どういうことでしょうか」


 志藤さんのそんな呟きが示す通りの、驚愕すべき文章であった。


『現時刻をもって、即時反転攻勢を行い、第四防衛ラインを奪取せよ。

 尚、撤退は不可とし、また作戦については現場責任者に一任する』


 内容の重大さのわりに簡潔な、何とも不可解な指令が記されていたのだ。

 言葉通りに受け取れば、守るのではなく攻めに転じろ、という命令なわけだが。

 しかし倉田先生からは、一度も聞いたことがない話なので、こちらとしてはただ戸惑うばかりである。


 私同様その文書に疑問を抱いたのか、すぐに斉川君が、少なからず事情を知ってそうな相手――柳井君に情報を求める。


「……聞いたことの無い話だな。お前はどうだ?」


 しかし残念ながら、柳井君にも心当たりは無いようだった。


「すまん。これは俺にもわからない。

 俺は倉田のやつにとって、あくまで使いっ走りみたいなもんだったからな。

 重要な情報に関しては、全然知らされてないんだ」


 そう二人がやり取りを交わす横で、志藤さんはさらに文書の調査を継続し、その収穫を報告してくる。


「これ以外は全て、似た内容ですね。

 基本は、『事前の作戦案通りに行動せよ』とだけ記されています。


 また古いものになるほど詳細で、新しいものほど内容が簡潔です。

 徐々に本部からの指示が少なくなっていった、というところでしょうか」


 次いでその最後に、ちょっと思案顔をしながら、妥当な提案を行った。


「ただ情報がこれだけですと、正確な判断を下すのは難しいですね。

 では次に、報告書の方を見てみましょうか」


 確かにその通り、といった感じの判断である。

 なので早速、私は彼女の言葉に従い、再びPCのディスプレイを覗き込む。


 結果として見えたのは、そこに映し出されている報告書の内容だ。

 私達の戦闘データや、斉川君が企てたクーデター計画についての、細々とした記述である。

 おそらくは倉田先生が、逐一本部に伝えていたのだろう。


 志藤さんはその意味合いについて、色々と考えを巡らしている様子で、一人言のように感想を漏らす。


「倉田先生から本部への報告が、時間の経過と共に少なくなっていますね。

 いくら報告をしても、それに対する反応が薄いので諦めた、ということなのでしょうか。


 ああ、それに物資や人員の不足などについても記述があります。

 結局、その要求に本部が応じた形跡はありませんが……」


 するとその呟きに、柳井君が意外な反応を示した。


「あれ? それは俺も知ってるぞ?

 物資の不足とかのことだよな?」


 そしてそれに驚き、慌てて聞き返した斉川君へ――


「本当か? どこでだ?」


 ちょっと困ったような雰囲気で、説明を始める。


「どこでっていうか……このPCでだよ。

 倉田に頼まれた作業をしてる時に、偶然見つけたんだ。

 そもそもそれを知ったから、ここから逃げ出そうなんて思ったわけだし。

 まあ別に俺だけじゃなくて、みんなわかってたことみたいだけど……」


 斉川君はその話を聞いて、早速状況を整理……しようとしていたのだが。


「つまり本来なら隠したかった情報を、ミスでお前に知られたってことか。

 でもさっき職員室を調べた時は見つからなかったわけだし、その後で隠したってことになるが……


 ……ん? だとしたら、何で最初から隠しておかなかったんだ、って話になるか。

 柳井に手伝いをさせると決めた時点で、情報漏洩の可能性は把握できたはずだからな。

 ずいぶん行動に一貫性が無いが……あいついったい、何を考えてたんだ?」


 その途中で、大きな壁にぶち当たってしまった。

 倉田先生の行動が不可解で、うまく説明がつかなかったらしい。


 実際それを言った柳井君の方も、困った顔をして頭を掻いている。

 当然私にも状況はわからないので、二人と共に首を傾げるのみだ。


 そんな私達を横目に、志藤さんはしばらく考え込んだ後――


「……いったん、ここまでにわかったことをまとめてみましょうか」


 込み入ってきた情報を整理するためか、ここまでの経緯を振り返り始めた。


「まず倉田先生は最初、本部と緊密に連携を取りながら、私達に戦争をさせていた。

 この世界の秘密に気づいた時や、クーデターを企てた後も変わらずに。

 彼に対する『順化調整』――洗脳は、きちんと機能していたと考えるべきでしょう」


 『順化調整』――その単語を聞いた瞬間、胸がひどく痛んだ。

 自分がそれにより苦しんでいたであろう先生の心を、少しも理解してあげられなかったことを思い出したから。

 本当に、不甲斐ないと言うより他は無い。


 そう落ち込む私をよそに、志藤さんは淡々と話を続けていく。


「ただしこの文書からも読み取れる通り、時間の経過と共に、本部からの指示は滞りがちになっていった。

 情報や物資を送らぬまま、単純な命令のみを繰り返す、という状態になったわけです。

 きっと戦況の悪化や、他星系への脱出作業の本格化が原因でしょう」


 要は自分の仕事が忙しくなったから、部下への指示が疎かになった、というわけだ。

 直属の上司がその有り様では、きっと倉田先生も苦労したことだろう。


 ……などと私は一人、倉田先生に同情を寄せていたのだが。

 ただそんな私に、次いで変わらぬ冷静な口調のまま、志藤さんが告げてきたのは――


「そしてその果てに、不自然な命令が届いた。

 戦力の補充を行わぬまま、反転攻勢に出るよう指示されたのです。


 またそれと同時に、倉田先生はこの学校からいなくなった。

 それらの事実から、導き出される結論は――」


(……え?)


 決して認めることができぬ、恐ろしい推測だった。



「私達は見捨てられた、ということではないでしょうか」









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