Epilogue
更新履歴 21/9/8 文章のレイアウト変更・表現の修正
『以上で、本日のミッションは終了です。
お疲れ様でした』
そうゲームの終了を告げる、いつもの合成音声をバックに、俺は自分の頭から乱暴にゲーム用のヘッドセットを剥ぎ取った。
色々あって、いつも以上に疲れたな……と、らしくもなく肩凝りなんかを感じながら。
それからふと思い立って、軽く周囲に視線を巡らせ、辺りの様子を把握しようとする。
ここがゲームの中でないことを、なぜだか急に確かめたくなったから。
結果として、目に入ってきたのは――
(……いつも通り、か)
毎度お馴染みの古いレクリエーションルームと、その中に設置されたゲーム用の各種設備、そしてそこに集うクラスメイト達の姿だ。
要はきちんとゲームからログアウト済み、ということである。
それがしっかり確定したことで、俺は不思議とひどく安心した。
(良かった……)
ゲームを無事終えられた、というごくごく当たり前の事実に、奇妙とも言えるほどの大きな安らぎを覚えたからだ。
あたかもつい先ほどまで、何か強烈なプレッシャーでも感じていたかのように。
ただもちろん、単にゲームをしていただけで、どうしてそういう感覚を抱いたのかはわからない。
自分のことだと言うのに、どうにもおかしな話である。
(……んん?)
などと、独り首を傾げる俺に対して――
「よっ、キッハー。今回はずいぶんピンチだったじゃ~ん」
そんないかにも軽薄、と言ったセリフと共に、突然柳井満が声をかけてきた。
しかもたいへん馴れ馴れしく、こちらの肩へと手を載せながら。
その調子のいい口ぶりから察するに、どうやらこの男、今回の俺の醜態をイジっているようだ。
正直に言えば鬱陶しいし、ここはひとつ、適当にあしらっておきたいところである。
とは言え一応、先のピンチの際には、間違いなく彼にも援護してもらったはずである。
いくら面倒臭かろうとも、それについてはしっかり感謝しておく必要があるだろう。
そこでとりあえず、お礼はしっかり言った後――
「ああ……うん、いやホントに助かったよ。
でもその呼び方はやめてくれ」
話の流れを切るために、その妙な呼び方について抗議をしておく。
まあ彼はたびたび、他人にこういう変なあだ名を付けるので、最初に釘を刺しておきたかった……という目的もあるのだが。
そうしたこちらの反応に、当の柳井は――
「あれ、気に入らなかった~?
俺はいいと思うんだけどな~」
やはりそんな風に軽々しく応じてから、何かごまかすように、脈絡のない笑い声を上げた。
「ハハハ、まあ次は頑張ろうぜ~」
そして激励のような言葉を残して、俺から離れていく。
一応、面倒なイジりと変なあだ名は回避できたらしい。
無事に任務完了、と表現していいだろう。
俺がその戦果に、独り満足していると、次いで久保擁介と目が合った。
(……お?)
少し物憂げな表情で、こちらをじっと見つめる彼と、偶然視線が交わったのだ。
雰囲気からしておそらく、苦戦していた俺の状態を心配しているのだろう。
それを見てようやく、彼こそが今回の本当の恩人である、ということを思い出した俺は――
(ありがとう。それと俺は大丈夫)
助力に対する感謝の意と、自分はもう心配要らないということを示すため、無言のまま軽く片手を掲げてみせる。
すると久保は、『どういたしまして』とでも言うかのように、同じく片手を軽く振り返してきた。
心配そうだった顔に、穏やかな微笑みを浮かべながら。
次いでそのまま、隣にいた志藤明と連れ立って、静かに部屋を退出していく。
柳井のやつとは違って、非常にさっぱりした対応である。
いやはや、実にありがたい。
そう温厚なクラスメイト殿に感謝しつつ、俺は固くなっている体に力を込め、自分用のシートから立ち上がった。
(さて、と。俺も行くか)
ゲームが終了した今、もうこの部屋に留まっている理由も無かったから。
実際みんな、続々と帰り始めているみたいだし、このままその流れに乗るとしよう。
しかしそう今後の方針を決めて、早速歩き出そうとした……まさにその瞬間――
(ん? なんだ……?)
突然心に、強烈な違和感が芽生えてくる。
自分を取り巻く全てのものに対し、これはどこかおかしい、正常じゃないぞという印象を受けたのだ。
まるで魂の内側から、何かが必死でそう訴えかけているみたいに。
しかもそいつは、時が経つにつれ、胸の内で際限なく膨れ上がっていった。
何やら少々、恐怖すら感じるほどの猛烈さである。
ゆえに俺は、その謎めいた感覚に押されて、再び部屋の中を見回す。
(……何か、変なところあったかな?)
記憶を呼び起こしながら、部屋の各所を丁寧に、ひとつひとつ検分していったのだ。
今までと変化している箇所が無いかを、もう一度しっかりと確認するために。
だが、結局――
(んー……変わらない、よな)
どれほど観察しても、部屋の様子に変わったところは見つからなかった。
そこにはゲーム用のシートが、等間隔で『人数分』並べられている、いつもの風景があるだけだったのだ。
どうやらこの違和感は、単なる自分の勘違いだったらしい。
そう判断を下した俺は、さっさと気持ちを切り替えると――
(……帰るか)
すでに退出していたクラスメイト達に続き、自分もレクリエーションルームの外へ出た。
ホントに何やってんだ、と改めて己の変調を訝しみながら。
ただしそのまま歩いて校舎の廊下を抜け、玄関から校庭へ出た頃、俺はまたしてもおかしな状態に陥っていた。
(うーん……何なんだろうなこの感じ)
具体的に言うと、心のひどく奥まった部分に、自分は何か大切な忘れ物をしているのではないか……という感覚が生じていたのだ。
おまけにいくら否定しようとも、決して打ち消すことができないほどに強く。
それが原因で、ゲームのやりすぎで頭が変になったのだろうか、なんて疑いさえ芽生えてしまう。
だからそこで、俺はいったん後ろを振り返ると、眼前に建つ我らが学び舎をじっと見つめる。
その詳細について、改めて思い返しながら。
自分の記憶や認識が、揺るぎなく正常であることを確かめるために。
ここは、県立芦原高等学校第二分校。
その周りに広がるのは、見渡す限りの緑深き森。
それを取り囲むのは、平坦な尾根の連なるなだらかな山地。
そこには校舎の他に、人が造った物の気配は皆無であり、もちろん街の灯火や喧騒も届かない。
そんな僻地と呼ぶに相応しい場所に建つ、全校生徒合わせて――
たったの『十一人』しかいない、片田舎の小さな高校である。
そうして自分の置かれた状況について、全て思い返してみても――
(……うん、特に問題無し)
結局、何ひとつ間違ったところは無かった。
つまりおかしいのは自分の頭ではなく、この違和感の方と考えるのが妥当だ。
きっと色々あったせいで、知らぬ間に疲れが溜まっており、結果こんな訳のわからない思い込みをしてしまったのだろう。
俺はそんな風に、半ば無理やり結論を出すと、躊躇なくその違和感を投げ捨てる。
そして迷うことなく踵を返し、そのままいつものように――
(今日も終わったか……)
学校を後にして、『一人』で帰宅の途についた……
インターミッション
第147特殊騎兵小隊戦闘記録
本日発生した、第七次防衛戦闘について報告。
第四防衛ラインに侵攻してきた、中規模の敵性集団と交戦。
所定の時間戦闘を行った後、戦場を離脱。
その際、隊員一名を損失。
以下に、各員の戦果と評価を記述。
ID 147265A
登録名 カイト・キハラ
機体タイプ A-1アサルト
総撃墜数 301
撃墜スコア 5009pt
貢献度評価 B+
ID 147266A
登録名 *******
機体タイプ B-1アーチャー
総撃墜数 ***
撃墜スコア *****
貢献度評価 *
※MIAによりデータ抹消
ID 147267A
登録名 スズ・ミヤマ
機体タイプ D-1トルーパー
総撃墜数 171
撃墜スコア 5322pt
貢献度評価 B
ID 147268A
登録名 ノドカ・モチヅキ
機体タイプ E-2サテライトリンカー
総撃墜数 104
撃墜スコア 3643pt
貢献度評価 D
ID 147332B
登録名 アキラ・シドウ
機体タイプ E-1コマンダー
総撃墜数 36
撃墜スコア 1671pt
貢献度評価 A+
ID 147333B
登録名 ヨウスケ・クボ
機体タイプ B-3ブラスター
総撃墜数 187
撃墜スコア 4691pt
貢献度評価 B
ID 147464B
登録名 マサユキ・サイカワ
機体タイプ C-2タンク
総撃墜数 265
撃墜スコア 5168pt
貢献度評価 C+
ID 147465B
登録名 マナ・カスガイ
機体タイプ A-3アサシン
総撃墜数 304
撃墜スコア 6316pt
貢献度評価 A
ID 147818C
登録名 マキ・クリハラ
機体タイプ D-2ストライカー
総撃墜数 229
撃墜スコア 4971pt
貢献度評価 C+
ID 147819C
登録名 ミキヤ・タチバナ
機体タイプ A-2グラディエーター
総撃墜数 126
撃墜スコア 6390pt
貢献度評価 A
ID 147930C
登録名 ミツル・ヤナイ
機体タイプ B-2スナイパー
総撃墜数 169
撃墜スコア 4901pt
貢献度評価 C
ID 147931C
登録名 ユキコ・アサクラ
機体タイプ C-1ガーディアン
総撃墜数 160
撃墜スコア 4236pt
貢献度評価 D+
また当戦闘において発生した隊員の損失は、敵の新兵器によるものであり、現状その対処法は未発見。
情報を求む。
ただし現状、戦闘の継続には支障なし。
よって引き続き、第四防衛ラインの守備に当たります。




