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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-11 『Moon jumper』
127/173

Section-5

更新履歴 21/10/23 文章のレイアウト変更・表現の修正


「おっ……どうだった?」



 教室へ現れたふたつの人影に向け、すかさず斉川君がそう質問した。


 彼が声をかけた相手は、柳井君と橘君の二人――先の戦闘終了後、姿の見えぬ倉田先生を探して、校舎の外へと向かったチームだ。

 斉川君はその成果に期待して、彼らへ調査の首尾を尋ねたのである。


 なぜならすでに、他のチームが行った別の場所の調査は、残らず空振りに終わっているから。

 後は校舎の外くらいしか、可能性が残っていないのである。

 実際教室に集うクラスメイト達も、同じく例の二人に、期待を込めた眼差しを向けている。


 しかし、たいへん残念なことに――


「すまん……空振りだ」


 柳井君はそう答えながら目を伏せ、橘君も静かに首を振るのみだった。

 どうやら彼らも、倉田先生を見つけることはできなかったらしい。

 調査自体が無駄だった、ということである。


 その報告を受けた志藤さんは、まず教壇から二人に労いの声をかける。


「そうですか……ありがとうございました。

 遠くまでの捜索、お疲れ様です。

 なので本来なら、ここは休憩を挟んで……と言いたいところなのですが」


 しかしその配慮もそこそこに、すぐ彼女は別の提案を行った。


「もう少し、私の話に付き合っていただけますか?」


 彼らはそれに神妙な顔で頷いてから、足早に自分の席へと向かう。

 動きに迷いも緩みも無いのは、事態の緊急性を理解しているからだろう。


 そうして全員が着席し、聞く姿勢が整ったのを確認してから、志藤さんは話を再開――


「では全ての報告が出揃いましたので、ここでいったん、これまでの状況を整理してみましょう」


 宣言通り、先に起きた奇妙な一件の経緯を振り返っていった。


「まず事の発端は、突然地震が起きたことです。

 簡単には立っていられなくなるほどの強烈なものが、仮想空間内に作られているはずのこの学校に。

 もちろん今までにない、極めて不自然な事態です」


 最初にされたその説明に、私は内心で大きく頷く。

 確かにあれは、ものすごく不自然な現象だ。

 だって本来、作り物であるこの空間に、地震なんて起こるはずがないのだから。

 みんなもきっと、同じ思いを抱いていることだろう。


 そう同意する私の前で、志藤さんはさらに話を続けつつ、それとは別の疑問についても述べた。


「それから次は、校舎に『穴』が空きました。

 底が見えないほどの深い穴が、学校中の様々な場所にです。

 まあ掘り返されたと言うよりは、そこだけデータが失われた、という雰囲気でしたが。

 そしてその穴は、戦闘から帰還した際、全て跡形もなく消え去っていました」


 あの不気味な穴が、学校へ戻った時には、もうどこにも見当たらなかった……という点だ。

 なんと何もかも元通りになっていて、いつもの穏やかな風景のみが広がっていたのである。

 ここで思い返してみても、本当にあれは何だったのだろう、と首を傾げずにはいられない。


 しかしその疑問は、続く志藤さんの話により、瞬く間に解決されることとなる。


「この不思議な現象の原因は、敵の攻撃でした。

 知らぬ間に受けた襲撃により、母艦が大きく損傷し、その影響が校舎の異変となって現れたようです。

 ひょっとしたら元々、中の人間に損害を知らせるため、こういうシステムが組まれていたのかもしれません」


 なるほど言われてみれば、と思わず頷いてしまう仮説だ。

 あれは例えるなら、エマージェンシーコール――危険を知らせる警報のようなものだったらしい。

 なぜわざわざ地震にしたのかは不明だが、それなら戦闘後に修復されたことにも説明がつくし、とりあえずは納得である。


 とは言えそれでも、まだ疑問は残る……と私は状況を憂いていたのだが。

 まるでその内心を察したかのように、早速志藤さんがその話題を出してきた。


「ただそれならそれで、なぜそんなトラブルが起こったのか、という疑問が生じます。

 だって周辺の敵の動向は、倉田先生が監視を行っているはずなのですから。

 奇襲を受けること自体がおかしい、というわけです」


 そう、そもそもどうしてあんな不意打ちを受けたのか、という問題だ。

 実際過去の戦いにおいて、これほどはっきり虚を突かれたことは無かった。

 志藤さんも言っている通り、倉田先生が敵の監視を行い、常に私達へ警告していたから。


 もちろん以前に一度、完全に包囲されることはあったわけだが。

 ただあの時の敵には、隠密行動専門の機体、『フェアリー』が含まれていた。

 奇襲をかけられても仕方のない相手だった、と言えるだろう。


 一方今回は、そいつが不在だったにも関わらず、非常に大きな被害を出してしまっている。

 たいへん不可解な事態、という以外に表現のしようはない。


 現状で考えられるその原因は、倉田先生の身に何か異変が起きたから、というものだ。

 それで周囲の警戒がおろそかになり、敵の奇襲を許すという事態に繋がった、との予測である。


 だからこそ、私達は――


「ですから私達は、先の戦闘から帰還した後、すぐ先生に会いに行こうとしました。

 どうして敵の奇襲を受けることになったのか、その際に先生は何をしていたのか。

 それを直接、本人に聞くために」


 みんなで手分けして、探しに行ったのだ。

 事情を誰より良く知るであろう、倉田先生のことを。

 学校内のみならず、校舎の外も含めた、行ける空間の全てを網羅して。


 だがその首尾は、先ほど確かめた通り、到底満足のいくものではなかった。


「しかし、見つからなかった。

 校舎中をくまなく探しても、校舎の外まで足を伸ばしても、どこにも先生の姿は無かった。

 突如、この学校から忽然と消え去ってしまった、ということです」


 校舎の外、裏山まで出向いたチームであっても、倉田先生を見つけることはできなかったのだ。

 志藤さんの言葉を借りれば、『忽然と消え去ってしまった』のである。


 そう、まるで――


(……今までにいなくなった、もう名前もわからないクラスメイト達みたいに)


 その恐ろしすぎる想像に、私が激しく身を震わせた直後、志藤さんがいったん話を締め括る。


「その原因は、今もって不明ですが……

 斉川君の話によれば、実は事件の少し前から、姿が見えなくなっていたそうです。

 やはり先生は、戦闘が発生した時点で失踪していた、と考えるべきでしょう。


 ……以上が、ここまでの経緯になります。

 何か質問はありますか?」


 私はそれを聞いて、慌てて脳内の不吉な考えを振り払った。

 まだ確定していることは何もないんだし、変な先入観を持つのは良くない、と思ったから。

 とにかく今は、これからどうするかに意識を集中すべきだろう。


 そんな私の考えを見通した、というわけではないはずだが――


「では、これからのことに話を移します。

 次に考えるべきはもちろん、今後私達がどう行動するのか、と言うことです」


 次いで志藤さんが、先に進んでも大丈夫と判断したのか、話を再開する。


「なぜならこれだけ探しても見つからない以上、先生はもうこの学校にはいない、と判断するのが妥当だからです。

 指揮官が不在であれば当然、成すべきことは自分達で決めることになります。

 そこでその、具体的な方針についてですが……」


 そして今後の方針について、丁寧に語り始めた。


「まず最優先に取りかかるべきは、母艦を動かす方法の獲得です。

 私達自身が、あの艦をコントロールする手段の構築、と言い換えてもいいでしょう。

 理由はもちろん、それが無ければ、有事の際に逃げることすらできないからです」


 そこでまず提示されたのは、母艦のコントロールについての問題だ。


 確かに倉田先生が不在の現状では、私達が艦を動かすことは不可能である。

 今の母艦は、ほとんど置物のような状態なのだ。

 これでは敵襲があった時に対処できないし、その掌握が何よりも優先、というのはその通りだろう。


 そう自らの置かれた状況に、私が強い危機感を覚えているところへ、志藤さんがさらに深刻な問題を提示してくる。


「それに今まではずっと、機体の整備や補給を先生任せにしていましたが、そういう作業も自分達で行う必要が出てきました。

 当面の問題としては、そちらの方がより深刻でしょうし、すぐ対処しなければなりません」


 彼女がその懸念を告げると同時に、教室の中の空気が一気に張り詰めた。

 皆が状況を理解し、それが危機的なものである、と実感したからだろう。

 今はまさしく、一刻を争う事態なのだ。


 場に漂い始めた、その緊張感みなぎる雰囲気を感じてか、志藤さんはより口調の厳しさを強め――


「つまりはどちらにせよ、速やかな母艦の制御系の掌握が必須、ということです。

 私達はこれから、全員でその作業に取りかかります。

 もちろん油断なく、新たな敵の襲撃にも備えながら。

 以上が、今後の具体的な行動の方針です」


 問題を簡単に総括してから、いつも通り明瞭かつ迅速に、クラスメイト達へ指示を出していく。


「それでは最後に、実際の作業の分担を行います。

 まず橘君と栗原さんは、哨戒任務の担当です。

 これからすぐ宇宙空間に戻り、周辺の警戒に当たってもらいます。

 そこで何かあったら、すぐこちらに知らせてください」


 母艦の警戒システムが使えないので、代わりに見張りを立てようというわけだ。

 また奇襲を受けたら致命傷になりかねないわけだし、そこを最初に決めるのは当然だろう。

 相変わらず的確な判断、ということである。


 そんな彼女が次に指定したのは、情報収集に関する担当の割り振りだった。


「次に私と斉川君、それと柳井君は、職員室の調査を担当します。

 先生の残した機器などを調べて、母艦の制御方法を見つけるのが目的です」


 どうやら母艦の制御についての情報は、職員室で探すつもりらしい。

 確かにそこは、手がかりが残されている見込みが最も大きい場所だし、これも妥当な選択と言えるだろう。


 となれば残るは……と自身の役割を予想した私に、すぐその通りの指示が出される。


「春日井さんと望月さんは、もう一度校舎の中を捜索してください。

 今度は先生本人ではなく、その痕跡を探す方向で。

 姿を消す直前、彼がどこで何をしていたかわかれば、謎を解く鍵になるかもしれませんから」


 一度探した場所を、改めて捜索して欲しい、というものだ。

 きっと本人は見つからずとも、どこかにその痕跡が残されていれば、先生に何があったかわかるかもしれない……と期待しての指示だろう。


 要は失踪原因の究明担当、というわけだ。

 それが現状の突破口となる可能性もあるし、先生のためにも自分達のためにも、必ずやり遂げなければならない。


 そうして皆に指示が行き届いたところで、志藤さんから最後の確認が届いた。


「分担は以上です。何か質問はありますか?」


 その問いかけに答えを返す者は、誰一人としていない。

 すでに全員が、こちらは準備万端だからいつでも行けるぞ、という雰囲気なのだ。


 そんな様子を見て取った志藤さんは、次いで軽くひと呼吸置いてから、鋭くクラスメイト達に号令をかける。


「では、状況を開始します!」



 その瞬間、皆が一斉に動き始めた――








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