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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-11 『Moon jumper』
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Section-4

更新履歴 21/10/23 文章のレイアウト変更・表現の修正


『なるほどなるほど……さすがのお前でも、敵がそれだけいると荷が重いのか~。


 だよな、相性が悪いからな、無理もないよな。


 よしよし、じゃあひとつ、この俺が支援してやるとしますかね!』



 激しい戦いが続く中、ようやく戦場へと現れた斉川君が、私にそう煽るようなセリフをぶつけてくる。

 しかも意気揚々、と呼ぶに相応しい調子の良さで。


 どうやら彼、先ほどレクリエーションルームでからかわれたことを、まだ根に持っているようだ。

 それゆえ私が苦戦しているのを見て、自分なりの逆襲に出てみた、ということらしい。


 そうして状況を把握した私は、すぐさま脳内で考えを巡らし――


(……ふむ)


 間を置かず、そんな斉川君への対応を決定した。

 そしてその方針に従い、しっかり真心を込めて……いる風を装った口調で、素直にお礼を述べる。


「うん、ありがとう。助かるよ、斉川君」


 そしてその返事を聞いて、呆気に取られたような反応をした彼へ――


『……は?』


 立て続けに、感謝の言葉を重ねていった。

 同じく誠心誠意、可能な限り丁寧に。

 もちろん、まず間違いなく彼が照れるだろう、と期待しての行為だが。


「だってこんな状況、絶対に私一人じゃ無理だったから。

 斉川君が来てくれて、本当に助かったよ。

 やっぱり私、斉川君がいてくれないと……」


 その内容だけは殊勝だが、明らかにからかいの交じる発言に対し、斉川君はいったん沈黙する。

 しかしすぐ正気を取り戻すと、焦った風に大声を上げて、無理やり私の話を打ち切った。


『……ああはいはい! 黙って支援してりゃいいんですよね俺は!

 すぐやりますよ! すぐにねっ!

 ああ、くそっ!』


 その声音からは、動揺と気恥ずかしさがはっきりとにじみ出ている。

 きっとこんなにまっすぐ――含むところが大量にあるとは言え――お礼を言われた経験が無いからだろう。


 要は彼、悪意にはどこまでも強いが、善意にはからきし弱い人なのである。

 例えそこに、真剣味というものが一切なくとも。

 ちょっかいを出す相手としては、ずば抜けた逸材と言うしかない。


 そんなお気に入りの玩具……いや大切な友人の反応に、私はすっかり満足――


(うむうむ……素直でよろしい)


 内心でそう何度も頷きつつ、次いで打って変わった軽い口調で声をかけた。


「そう? 良かった~。

 じゃ、支援よろしくっ!」


 そして返事も聞かぬまま、敵軍に突撃をかける。

 先ほど現れた『ゴーレム』に対し、まっすぐ突き進んでいったのだ。

 照れ悶える斉川君のことは、いつも通り放置したままで。


 もちろんそれは、本来であれば避けるべき無謀な行為である。

 味方をわざわざ動揺させた上で、単独の突撃を仕掛けているのだから。

 どんな状態であれ支援はしてくれるはず、という彼への信頼があって、初めてできることなのだ。


 実際そうやって前進した私を、例の『ゴーレム』達が、即座に光弾の嵐で迎撃してきたのだが――


(おっ……相変わらず的確~)


 後方から放たれる砲火が、その反撃をきっちり抑えてくれた。

 斉川君が敵機の翼部分を狙い、牽制射撃を叩き込んだのだ。

 おかげでその攻勢が緩くなり、私の行動の自由度は大きく増す。

 さすがの嫌らしさと言うか、他人を妨害することに関しては、相変わらず飛び抜けて巧みである。


 そう斉川君を、きっと本人は嬉しくないだろう観点から賞賛しつつ、私は『ゴーレム』に接近した。

 彼の支援により生じた、弾幕の薄いところを通って、素早くその真上に回り込んだのだ。


 そしてこちらの動きに合わせ、旋回しようとした相手に――


(遅いっ!)


 ひと息の内に肉薄し、その頭部を脚のブレードで貫く。

 次いでそこへ、一瞬の間すら置かず、内蔵されているプラズマキャノンも撃ち込んだ。

 自分で言うのも嫌いじゃないが、目にも留まらぬ連続攻撃、というやつである。


 その猛攻を受けた敵は、直後に激しく爆発、内側から連鎖的に崩壊していった。

 図体のわりにあっさりと、ほぼ木っ端微塵になるまで。

 これでとりあえずは一機撃墜、自機の損傷が皆無という点を考慮すれば、上々の戦果と言えるだろう。


 しかしすぐ、それを見たもう一機が反撃を仕掛けてくる。

 こちらへ向き直り、翼を大きく広げて光弾の嵐を放ってきたのだ。

 互いの距離はかなり近いので、このままであれば当然、被弾は避けられない。


 なので私は、いったんその『ゴーレム』から距離をとり、再び回避運動を開始した。

 機動性を活かし、相手の死角へ回り込むように移動しながら。

 こうしておけば一応、敵の攻撃を受けることはないから。


 ただしこのままでは当然、無意味な追いかけっこを繰り返しながら、一方的に撃たれるだけ。

 反撃は元より、近づくことさえままならない。

 母艦を守るためには、奴を落とす必要があるわけだし、何か突破口を見出さないとまずいのだが――


(……おっ、さすがにいい働きですな)


 タイミング良くそこに、斉川君からの支援砲撃が届く。

 敵が私へと集中している隙に、左側面から雨あられと砲火を浴びせかけたのだ。


 当然その砲撃によって、『ゴーレム』は大きく体勢を崩した。

 おかげで敵の攻勢は鈍化し、特に左翼側の弾幕がはっきりと薄くなる。

 待ちかねていた好機の到来、というわけである。


 ゆえにそれを逃すまいと、私はすかさず同じパターンで『ゴーレム』へ肉薄、今度は敵の胴体に横から蹴りを入れた。

 熟練のバレエダンサーのごとく優雅に、それでいて獰猛な猛禽類のように激しく。


 結果その一撃は、狙い違わず『ゴーレム』の胴体にめり込んだ。

 さらに私は、そこを狙ってプラズマキャノンも発射、その心臓部を撃ち貫く。


 敵はそれに耐えられず、あっという間に爆砕し、機体の破片を撒き散らしながら果てていった。

 これで無事に、二機とも仕留められたわけだ。


 そうして主力が撃墜されたことにより、自陣営の敗北を悟ったのか。

 直後に周囲の敵が散開し、先を争うように撤退していく。

 もう他に母艦へ近づく機影も無いし、これにて見事に任務完了、ということである。


 その十分な戦果に、私が大いに満足していると、そこへちょうど志藤さんからの報告が届いた。


『敵軍が撤退を開始しました。付近に他の敵反応もありません。

 よって現時刻をもって、状況を終了いたします。

 みなさん、お疲れ様でした』


 どうやら私の担当空域だけでなく、他の場所でも戦いが終わったらしい。

 いつもと比べると、ずいぶん時間的に短いな、という印象である。

 要は慌てさせられた割に、結局は肩慣らし程度の小規模な襲撃に過ぎなかった、ということだ。


 だが、確かにそうして、困難な戦いではなかったはずなのに――


(その程度の相手に……これだったんだよね)


 私の目には、外壁に大穴の空いた、痛々しい母艦の姿が映っている。

 帰還するためそちらへ向き直った際に、自然と視界に飛び込んできたのだ。

 言うまでもなく、かつてない深刻な被害である。


 その無惨な光景は、先ほどまで高揚していた私の胸に、避けようもなく心許なさを募らせた。

 あれだけの損傷があって、果たしてまともな航行は可能なのか。

 あるいは今後の戦いに、どんな影響があるのか。

 それらの予測できぬ憂いに、どうしても心がざわついてしまうのだ。


 そこで頭に浮かぶのは、なぜこんな事になったのだろう、という疑問。

 次によぎるのは、これから自分達はどうなるのだろう、という不安。


 そして、何より――


(……倉田先生)


 先生はどうなったのだろう、という気がかりだ。

 それが他のあらゆる事柄を超えて、猛烈に私の精神を責め苛んでいた。

 心配で心配で、居ても立ってもいられなくなるくらいに。


 だってもし倉田先生が万全ならば、あの程度の規模の敵に、奇襲なんて受けないはずだから。

 それなのにこういう事故が起きたのは、あの人の身に何かあったからではないのか。

 そんな恐怖に囚われ、激しく動揺せずにはいられなかったのだ。


 ゆえにその真相を確かめるため、私は急ぎ――


(……戻ろう! 学校へ!)



 機体のスラスターを全開にして、母艦への帰投を開始した。








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