Section-4
更新履歴 21/10/23 文章のレイアウト変更・表現の修正
『なるほどなるほど……さすがのお前でも、敵がそれだけいると荷が重いのか~。
だよな、相性が悪いからな、無理もないよな。
よしよし、じゃあひとつ、この俺が支援してやるとしますかね!』
激しい戦いが続く中、ようやく戦場へと現れた斉川君が、私にそう煽るようなセリフをぶつけてくる。
しかも意気揚々、と呼ぶに相応しい調子の良さで。
どうやら彼、先ほどレクリエーションルームでからかわれたことを、まだ根に持っているようだ。
それゆえ私が苦戦しているのを見て、自分なりの逆襲に出てみた、ということらしい。
そうして状況を把握した私は、すぐさま脳内で考えを巡らし――
(……ふむ)
間を置かず、そんな斉川君への対応を決定した。
そしてその方針に従い、しっかり真心を込めて……いる風を装った口調で、素直にお礼を述べる。
「うん、ありがとう。助かるよ、斉川君」
そしてその返事を聞いて、呆気に取られたような反応をした彼へ――
『……は?』
立て続けに、感謝の言葉を重ねていった。
同じく誠心誠意、可能な限り丁寧に。
もちろん、まず間違いなく彼が照れるだろう、と期待しての行為だが。
「だってこんな状況、絶対に私一人じゃ無理だったから。
斉川君が来てくれて、本当に助かったよ。
やっぱり私、斉川君がいてくれないと……」
その内容だけは殊勝だが、明らかにからかいの交じる発言に対し、斉川君はいったん沈黙する。
しかしすぐ正気を取り戻すと、焦った風に大声を上げて、無理やり私の話を打ち切った。
『……ああはいはい! 黙って支援してりゃいいんですよね俺は!
すぐやりますよ! すぐにねっ!
ああ、くそっ!』
その声音からは、動揺と気恥ずかしさがはっきりとにじみ出ている。
きっとこんなにまっすぐ――含むところが大量にあるとは言え――お礼を言われた経験が無いからだろう。
要は彼、悪意にはどこまでも強いが、善意にはからきし弱い人なのである。
例えそこに、真剣味というものが一切なくとも。
ちょっかいを出す相手としては、ずば抜けた逸材と言うしかない。
そんなお気に入りの玩具……いや大切な友人の反応に、私はすっかり満足――
(うむうむ……素直でよろしい)
内心でそう何度も頷きつつ、次いで打って変わった軽い口調で声をかけた。
「そう? 良かった~。
じゃ、支援よろしくっ!」
そして返事も聞かぬまま、敵軍に突撃をかける。
先ほど現れた『ゴーレム』に対し、まっすぐ突き進んでいったのだ。
照れ悶える斉川君のことは、いつも通り放置したままで。
もちろんそれは、本来であれば避けるべき無謀な行為である。
味方をわざわざ動揺させた上で、単独の突撃を仕掛けているのだから。
どんな状態であれ支援はしてくれるはず、という彼への信頼があって、初めてできることなのだ。
実際そうやって前進した私を、例の『ゴーレム』達が、即座に光弾の嵐で迎撃してきたのだが――
(おっ……相変わらず的確~)
後方から放たれる砲火が、その反撃をきっちり抑えてくれた。
斉川君が敵機の翼部分を狙い、牽制射撃を叩き込んだのだ。
おかげでその攻勢が緩くなり、私の行動の自由度は大きく増す。
さすがの嫌らしさと言うか、他人を妨害することに関しては、相変わらず飛び抜けて巧みである。
そう斉川君を、きっと本人は嬉しくないだろう観点から賞賛しつつ、私は『ゴーレム』に接近した。
彼の支援により生じた、弾幕の薄いところを通って、素早くその真上に回り込んだのだ。
そしてこちらの動きに合わせ、旋回しようとした相手に――
(遅いっ!)
ひと息の内に肉薄し、その頭部を脚のブレードで貫く。
次いでそこへ、一瞬の間すら置かず、内蔵されているプラズマキャノンも撃ち込んだ。
自分で言うのも嫌いじゃないが、目にも留まらぬ連続攻撃、というやつである。
その猛攻を受けた敵は、直後に激しく爆発、内側から連鎖的に崩壊していった。
図体のわりにあっさりと、ほぼ木っ端微塵になるまで。
これでとりあえずは一機撃墜、自機の損傷が皆無という点を考慮すれば、上々の戦果と言えるだろう。
しかしすぐ、それを見たもう一機が反撃を仕掛けてくる。
こちらへ向き直り、翼を大きく広げて光弾の嵐を放ってきたのだ。
互いの距離はかなり近いので、このままであれば当然、被弾は避けられない。
なので私は、いったんその『ゴーレム』から距離をとり、再び回避運動を開始した。
機動性を活かし、相手の死角へ回り込むように移動しながら。
こうしておけば一応、敵の攻撃を受けることはないから。
ただしこのままでは当然、無意味な追いかけっこを繰り返しながら、一方的に撃たれるだけ。
反撃は元より、近づくことさえままならない。
母艦を守るためには、奴を落とす必要があるわけだし、何か突破口を見出さないとまずいのだが――
(……おっ、さすがにいい働きですな)
タイミング良くそこに、斉川君からの支援砲撃が届く。
敵が私へと集中している隙に、左側面から雨あられと砲火を浴びせかけたのだ。
当然その砲撃によって、『ゴーレム』は大きく体勢を崩した。
おかげで敵の攻勢は鈍化し、特に左翼側の弾幕がはっきりと薄くなる。
待ちかねていた好機の到来、というわけである。
ゆえにそれを逃すまいと、私はすかさず同じパターンで『ゴーレム』へ肉薄、今度は敵の胴体に横から蹴りを入れた。
熟練のバレエダンサーのごとく優雅に、それでいて獰猛な猛禽類のように激しく。
結果その一撃は、狙い違わず『ゴーレム』の胴体にめり込んだ。
さらに私は、そこを狙ってプラズマキャノンも発射、その心臓部を撃ち貫く。
敵はそれに耐えられず、あっという間に爆砕し、機体の破片を撒き散らしながら果てていった。
これで無事に、二機とも仕留められたわけだ。
そうして主力が撃墜されたことにより、自陣営の敗北を悟ったのか。
直後に周囲の敵が散開し、先を争うように撤退していく。
もう他に母艦へ近づく機影も無いし、これにて見事に任務完了、ということである。
その十分な戦果に、私が大いに満足していると、そこへちょうど志藤さんからの報告が届いた。
『敵軍が撤退を開始しました。付近に他の敵反応もありません。
よって現時刻をもって、状況を終了いたします。
みなさん、お疲れ様でした』
どうやら私の担当空域だけでなく、他の場所でも戦いが終わったらしい。
いつもと比べると、ずいぶん時間的に短いな、という印象である。
要は慌てさせられた割に、結局は肩慣らし程度の小規模な襲撃に過ぎなかった、ということだ。
だが、確かにそうして、困難な戦いではなかったはずなのに――
(その程度の相手に……これだったんだよね)
私の目には、外壁に大穴の空いた、痛々しい母艦の姿が映っている。
帰還するためそちらへ向き直った際に、自然と視界に飛び込んできたのだ。
言うまでもなく、かつてない深刻な被害である。
その無惨な光景は、先ほどまで高揚していた私の胸に、避けようもなく心許なさを募らせた。
あれだけの損傷があって、果たしてまともな航行は可能なのか。
あるいは今後の戦いに、どんな影響があるのか。
それらの予測できぬ憂いに、どうしても心がざわついてしまうのだ。
そこで頭に浮かぶのは、なぜこんな事になったのだろう、という疑問。
次によぎるのは、これから自分達はどうなるのだろう、という不安。
そして、何より――
(……倉田先生)
先生はどうなったのだろう、という気がかりだ。
それが他のあらゆる事柄を超えて、猛烈に私の精神を責め苛んでいた。
心配で心配で、居ても立ってもいられなくなるくらいに。
だってもし倉田先生が万全ならば、あの程度の規模の敵に、奇襲なんて受けないはずだから。
それなのにこういう事故が起きたのは、あの人の身に何かあったからではないのか。
そんな恐怖に囚われ、激しく動揺せずにはいられなかったのだ。
ゆえにその真相を確かめるため、私は急ぎ――
(……戻ろう! 学校へ!)
機体のスラスターを全開にして、母艦への帰投を開始した。




