Section-3
更新履歴 21/10/23 文章のレイアウト変更・表現の修正
急な敵の襲来に対応するため、私は慌ててレクリエーションルームから出撃し、程なく母艦の格納庫に到着した。
そしてお馴染みのその場所で、先の疑問に答えを出す、恐ろしいものに遭遇する。
(これは……穴?)
なんと格納庫の内壁に、ぽっかりと大穴が空いているのを見つけたのだ。
その向こうには当然、茫漠とした漆黒の宇宙空間が広がっている。
おそらくは外から敵の攻撃を受けた際、それが内部まで貫通することで生じたものだろう。
その雰囲気は何となくだが、先ほどの廊下の穴と酷似していた。
どうやらあの奇妙な現象は、この一撃の影響が、形となって現れたものらしい。
母艦にできた損傷が、校舎の破壊という方法で表現された、というところか。
無論なぜそんな事が起きたのか、その詳しい理由は不明なままだし、非常に気になるところでもあるのだが。
しかし言うまでもなく、今ここで考えるようなことではない。
こんな損傷が生じている以上、事態が切羽詰まっているのは明白だから。
喫緊の問題は、穴そのものではなく、穴を開けた連中をどうするかなのである。
そこでいったん、その空洞を無視して、私は周囲の状況確認に入る。
(さて、みんなは……と)
もっとも格納庫内を見回しても、味方の機体はほぼ見当たらなかった。
私と斉川君の機体だけが、ひっそりと取り残されている状態なのだ。
すでに全員が出撃を済ませ、外で戦闘中ということだろう。
なら自分もその一員に加わらねば、と即断した私は、次いで迷わず移動を開始する。
まっすぐ格納庫のハッチへと向かい、素早くそれを通り抜けた後、そのまま宇宙空間へ飛び出したのだ。
すぐにでも始まるであろう戦闘に備え、臨戦態勢を整えながら。
ただしその直後、不意に私の元へ、通信越しに橘君からの警告が届いた。
『春日井っ! 後ろだ、避けろ!』
それに応じて後方を振り返ると、こちらへ猛然と突進を行う、一機の『ハウンド』が目に入ってくる。
すでにそいつとの距離はわずかで、間もなく接触する、という状態だ。
もちろんこのまま激突されれば、多大な被害は免れないだろう。
その重大な危機に際して、私は――
(よっ……と!)
特に動揺もなく瞬時に対応、軽やかに身を翻して、例の『ハウンド』の突撃を回避した。
さながら猛牛の突進をかわす、華麗なマタドールのようにあっさりと。
そして間を置かず、素早く前腕部のショットガンを撃ち放つ。
私という目標を見失い、為す術なく通り過ぎるだけの『ハウンド』に、背中から浴びせかけたのだ。
結果として敵は、それを避けることができず、銃弾の雨を注がれて瞬時に爆砕した。
要は敵の奇襲を、さして苦労することもなく片づけられたわけだ。
一応不意は突かれたが、このくらいであればまあ楽勝、というところである。
そんな私の姿を見て、橘君が少し拍子抜けしたような感想を述べる。
『……余計なお世話だったか』
どうやら私が簡単に迎撃したのを見て、警告は要らぬ気づかいだった、と思ったらしい。
もちろんそんな事はないので、すぐ彼にはお礼を言っておいた。
「そんなことないよ。ありがとう、橘君」
ただその返事が来るよりも早く、今度は志藤さんから声がかかる。
「春日井さん!」
きっと出撃してきた私を見つけ、すぐ戦いに加わってもらおうと考えたのだろう。
なのでこちらもその意図を汲み、まずはと状況確認から行った。
「志藤さん! 状況は?」
彼女はそれに対し、かなり焦った様子で詳細を伝えてくる。
「すでに完全に包囲された状態です!
母艦も敵に接近され、直接攻撃を受けています!」
実際その言葉通り、レーダーには母艦を取り囲む敵軍の姿が映っていた。
距離も総じてすぐそこ、と言えそうなくらいに近い。
この状態が続けば、間違いなく母艦にもうひとつ穴が空くことになるだろう。
とは言え一方で、敵の数はそう多くない。
普通に戦えば、十分に退けられる規模なのだ。
戦況は苦しくとも、戦力的には問題無い、みたいな状態らしい。
そう私が現状を把握し、対処を決めると同時に、志藤さんからも同じ指示が届いた。
「すぐ迎撃に移ってください!
春日井さんは艦後方の敵をお願いします!」
私はそれに、力強い答えを返してから――
「了解っ!」
即座に機体を旋回させ、指定された方向――艦の後部へと向かう。
戦闘に集中するため、『なぜこんな事になっているのか』という疑問を、強引に胸の奥へ押し込めながら。
すると少し進んだところで、目前に『バグ』の大群が立ちはだかった。
後方から母艦に接近していた連中が、私の動きを見て一斉に転進、こちらへ襲いかかってきたのだ。
私の機体の装甲だと、『バグ』の低火力でも無視し難いダメージを受けるので、本来ならまずい状況ではある。
だがこいつらにはいずれも、最大射程が短く、しかも正面にしか攻撃できないという欠点がある。
また動きそのものは速いが、旋回性能の方はそれほど優れているわけでもない。
一定の距離にまで近づいてから、上下や側面に回り込んでしまえば、それですぐ攻撃不能となるのだ。
ゆえに私は、迫る『バグ』群の動きを見て、常にそいつらの死角へ入るように移動し続けた。
その過程で自らの攻撃範囲に入った奴を、腕部のショットガンで、手当たり次第に叩き落としながら。
反撃を受けぬ位置取りをしつつ、一方的な攻撃を加えたのである。
そんなこちらの猛攻に、敵軍は瞬く間に数を減らしていく。
このペースであれば、脚部のブレードを使わずとも片付くだろう。
そうちょっとした余裕すら感じつつ、私は鼻歌交じりに『バグ』の殲滅を続けた。
もっともさすがに、敵もそれだけで終わってはくれない。
次いで周囲に、何機かの『サンフラワー』が出現し、搭載火器をフル稼働させ攻撃してきたのだ。
無論ここまで密度の濃い弾幕だと、『バグ』殲滅の片手間に回避、というのはかなり難しい。
なのでいったん、その新たな敵への対応に専念するため、私はスラスターを最大稼働させて回避運動を行った。
付近の『バグ』群を置き去りに、可能な限りの速度で、方向を変えながら不規則に動き回ったのだ。
なぜならあいつは、砲撃の精度もミサイルの誘導性能も、さほど高くはないから。
実はこうして動き回っているだけで、容易く追尾を振り切れてしまうのである。
おそらく命中率を犠牲に、火力の方を高めたタイプなのだろう。
であれば当然、選択すべき戦術は、その弱点を突くことのみ。
その目算に従って、私は回避運動を継続、雨あられと放たれる攻撃をひとつ残らずかわしていく。
そしてある程度それを繰り返し、敵に隙ができたところで反撃に移った。
まず一機の『サンフラワー』へ狙いを定め、死角から格闘の間合いにまで肉薄し、脚部のブレードで瞬時に両断したのだ。
こいつは装甲も薄いので、ほとんど一撃必殺という状態である。
そこからさらに、付近に展開している別の『サンフラワー』へも接近、同じようなパターンで次から次へと斬り捨てる。
あたかも時代劇の殺陣で、主役が大立ち回りを演じる時のように。
そうやって私は、たった一人、ひたすら周囲の敵を片付けていった。
群がる『バグ』や『ビッグアイ』を撃ち落とし、砲撃を放つ『サンフラワー』を切り刻み、迫り来る『ハウンド』を吹き飛ばし続けたのだ。
現状ではほぼ被弾も無し、調子はいつも通りと言っていい。
しかし残念ながら、迎撃がスムーズに進行していたのもそこまで。
次いで私は、自らが苦手とする敵に突き当たり、完全に勢いを止められてしまった。
(ん……まあ、そう簡単にはいかないか)
今まで戦っていた敵集団の後方、そう遠くない距離に、『ゴーレム』が二機現れたのだ。
アレが放つ光弾の嵐は、回避するのが非常に困難なので、私は特に苦手としている。
薄い装甲を高機動で補う、という私の戦闘スタイルとは相性最悪なのである。
それでも一機だけならば、まだいくらか対処のしようもあるのだが。
さすがに二機同時となると、相当に分が悪い。
まだ周囲には他の敵機も残っているし、迎撃するには何か策が必要だろう。
そんな風に私は、立ちはだかる高い壁を前に、さてどうするか……と一人考え込んでいたのだが。
そこへ不意に後ろから、ちょっとばかりからかうような調子の声が届いた。
『よお、苦戦してるみたいじゃないか』




