表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-11 『Moon jumper』
124/173

Section-3

更新履歴 21/10/23 文章のレイアウト変更・表現の修正


 急な敵の襲来に対応するため、私は慌ててレクリエーションルームから出撃し、程なく母艦の格納庫に到着した。



 そしてお馴染みのその場所で、先の疑問に答えを出す、恐ろしいものに遭遇する。


(これは……穴?)


 なんと格納庫の内壁に、ぽっかりと大穴が空いているのを見つけたのだ。

 その向こうには当然、茫漠とした漆黒の宇宙空間が広がっている。

 おそらくは外から敵の攻撃を受けた際、それが内部まで貫通することで生じたものだろう。


 その雰囲気は何となくだが、先ほどの廊下の穴と酷似していた。

 どうやらあの奇妙な現象は、この一撃の影響が、形となって現れたものらしい。

 母艦にできた損傷が、校舎の破壊という方法で表現された、というところか。


 無論なぜそんな事が起きたのか、その詳しい理由は不明なままだし、非常に気になるところでもあるのだが。


 しかし言うまでもなく、今ここで考えるようなことではない。

 こんな損傷が生じている以上、事態が切羽詰まっているのは明白だから。

 喫緊の問題は、穴そのものではなく、穴を開けた連中をどうするかなのである。


 そこでいったん、その空洞を無視して、私は周囲の状況確認に入る。


(さて、みんなは……と)


 もっとも格納庫内を見回しても、味方の機体はほぼ見当たらなかった。

 私と斉川君の機体だけが、ひっそりと取り残されている状態なのだ。

 すでに全員が出撃を済ませ、外で戦闘中ということだろう。


 なら自分もその一員に加わらねば、と即断した私は、次いで迷わず移動を開始する。

 まっすぐ格納庫のハッチへと向かい、素早くそれを通り抜けた後、そのまま宇宙空間へ飛び出したのだ。

 すぐにでも始まるであろう戦闘に備え、臨戦態勢を整えながら。


 ただしその直後、不意に私の元へ、通信越しに橘君からの警告が届いた。


『春日井っ! 後ろだ、避けろ!』


 それに応じて後方を振り返ると、こちらへ猛然と突進を行う、一機の『ハウンド』が目に入ってくる。

 すでにそいつとの距離はわずかで、間もなく接触する、という状態だ。

 もちろんこのまま激突されれば、多大な被害は免れないだろう。


 その重大な危機に際して、私は――


(よっ……と!)


 特に動揺もなく瞬時に対応、軽やかに身を翻して、例の『ハウンド』の突撃を回避した。

 さながら猛牛の突進をかわす、華麗なマタドールのようにあっさりと。


 そして間を置かず、素早く前腕部のショットガンを撃ち放つ。

 私という目標を見失い、為す術なく通り過ぎるだけの『ハウンド』に、背中から浴びせかけたのだ。

 結果として敵は、それを避けることができず、銃弾の雨を注がれて瞬時に爆砕した。

 

 要は敵の奇襲を、さして苦労することもなく片づけられたわけだ。

 一応不意は突かれたが、このくらいであればまあ楽勝、というところである。


 そんな私の姿を見て、橘君が少し拍子抜けしたような感想を述べる。


『……余計なお世話だったか』


 どうやら私が簡単に迎撃したのを見て、警告は要らぬ気づかいだった、と思ったらしい。

 もちろんそんな事はないので、すぐ彼にはお礼を言っておいた。


「そんなことないよ。ありがとう、橘君」


 ただその返事が来るよりも早く、今度は志藤さんから声がかかる。


「春日井さん!」


 きっと出撃してきた私を見つけ、すぐ戦いに加わってもらおうと考えたのだろう。

 なのでこちらもその意図を汲み、まずはと状況確認から行った。


「志藤さん! 状況は?」


 彼女はそれに対し、かなり焦った様子で詳細を伝えてくる。


「すでに完全に包囲された状態です!

 母艦も敵に接近され、直接攻撃を受けています!」


 実際その言葉通り、レーダーには母艦を取り囲む敵軍の姿が映っていた。

 距離も総じてすぐそこ、と言えそうなくらいに近い。

 この状態が続けば、間違いなく母艦にもうひとつ穴が空くことになるだろう。


 とは言え一方で、敵の数はそう多くない。

 普通に戦えば、十分に退けられる規模なのだ。

 戦況は苦しくとも、戦力的には問題無い、みたいな状態らしい。


 そう私が現状を把握し、対処を決めると同時に、志藤さんからも同じ指示が届いた。


「すぐ迎撃に移ってください!

 春日井さんは艦後方の敵をお願いします!」


 私はそれに、力強い答えを返してから――


「了解っ!」


 即座に機体を旋回させ、指定された方向――艦の後部へと向かう。

 戦闘に集中するため、『なぜこんな事になっているのか』という疑問を、強引に胸の奥へ押し込めながら。


 すると少し進んだところで、目前に『バグ』の大群が立ちはだかった。

 後方から母艦に接近していた連中が、私の動きを見て一斉に転進、こちらへ襲いかかってきたのだ。

 私の機体の装甲だと、『バグ』の低火力でも無視し難いダメージを受けるので、本来ならまずい状況ではある。


 だがこいつらにはいずれも、最大射程が短く、しかも正面にしか攻撃できないという欠点がある。

 また動きそのものは速いが、旋回性能の方はそれほど優れているわけでもない。

 一定の距離にまで近づいてから、上下や側面に回り込んでしまえば、それですぐ攻撃不能となるのだ。


 ゆえに私は、迫る『バグ』群の動きを見て、常にそいつらの死角へ入るように移動し続けた。

 その過程で自らの攻撃範囲に入った奴を、腕部のショットガンで、手当たり次第に叩き落としながら。

 反撃を受けぬ位置取りをしつつ、一方的な攻撃を加えたのである。


 そんなこちらの猛攻に、敵軍は瞬く間に数を減らしていく。

 このペースであれば、脚部のブレードを使わずとも片付くだろう。

 そうちょっとした余裕すら感じつつ、私は鼻歌交じりに『バグ』の殲滅を続けた。


 もっともさすがに、敵もそれだけで終わってはくれない。

 次いで周囲に、何機かの『サンフラワー』が出現し、搭載火器をフル稼働させ攻撃してきたのだ。

 無論ここまで密度の濃い弾幕だと、『バグ』殲滅の片手間に回避、というのはかなり難しい。


 なのでいったん、その新たな敵への対応に専念するため、私はスラスターを最大稼働させて回避運動を行った。

 付近の『バグ』群を置き去りに、可能な限りの速度で、方向を変えながら不規則に動き回ったのだ。


 なぜならあいつは、砲撃の精度もミサイルの誘導性能も、さほど高くはないから。

 実はこうして動き回っているだけで、容易く追尾を振り切れてしまうのである。

 おそらく命中率を犠牲に、火力の方を高めたタイプなのだろう。


 であれば当然、選択すべき戦術は、その弱点を突くことのみ。

 その目算に従って、私は回避運動を継続、雨あられと放たれる攻撃をひとつ残らずかわしていく。


 そしてある程度それを繰り返し、敵に隙ができたところで反撃に移った。

 まず一機の『サンフラワー』へ狙いを定め、死角から格闘の間合いにまで肉薄し、脚部のブレードで瞬時に両断したのだ。

 こいつは装甲も薄いので、ほとんど一撃必殺という状態である。


 そこからさらに、付近に展開している別の『サンフラワー』へも接近、同じようなパターンで次から次へと斬り捨てる。

 あたかも時代劇の殺陣で、主役が大立ち回りを演じる時のように。


 そうやって私は、たった一人、ひたすら周囲の敵を片付けていった。

 群がる『バグ』や『ビッグアイ』を撃ち落とし、砲撃を放つ『サンフラワー』を切り刻み、迫り来る『ハウンド』を吹き飛ばし続けたのだ。

 現状ではほぼ被弾も無し、調子はいつも通りと言っていい。


 しかし残念ながら、迎撃がスムーズに進行していたのもそこまで。

 次いで私は、自らが苦手とする敵に突き当たり、完全に勢いを止められてしまった。


(ん……まあ、そう簡単にはいかないか)


 今まで戦っていた敵集団の後方、そう遠くない距離に、『ゴーレム』が二機現れたのだ。

 アレが放つ光弾の嵐は、回避するのが非常に困難なので、私は特に苦手としている。

 薄い装甲を高機動で補う、という私の戦闘スタイルとは相性最悪なのである。


 それでも一機だけならば、まだいくらか対処のしようもあるのだが。

 さすがに二機同時となると、相当に分が悪い。

 まだ周囲には他の敵機も残っているし、迎撃するには何か策が必要だろう。


 そんな風に私は、立ちはだかる高い壁を前に、さてどうするか……と一人考え込んでいたのだが。

 そこへ不意に後ろから、ちょっとばかりからかうような調子の声が届いた。



『よお、苦戦してるみたいじゃないか』








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ