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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-01 『Missing』
12/173

Section-10

更新履歴 21/9/8 文章のレイアウト変更・表現の修正


「あーあ……ホント、しょうがない奴だな!」



 そう悪態めいた言葉を発した後、喜び勇んで悟の頼みを承諾した。

 彼に対する疑問やら疑念やらの、余計で面倒な感情を、残らず遥か彼方に吹き飛ばしながら。


「だがまあ、そこまで言われちゃあ断れない。

 ここはひとつ、頼りない親友のため、もうひと踏ん張りしてやりますか!」


 それは事を難しく捉えず、もっとシンプルに考えよう、と決めたから。

 悟のおかしな行動にどんな理由があろうとも、親友が困っているのなら助ければいいじゃないか、と割り切ったから。

 それでこうして、瞬時に真逆の態度をとったのだ。


 まあ我ながら、おそろしく態度が現金な上、言い方がやたらと恩着せがましいぞ、とか。

 そもそも助けてもらうのは自分だってのに、何を偉そうに喋ってるんだ、とか。

 正直ちょっと、そんな風に思わなくもないのだが。


 しかしまあ、頼られているのも事実なんだし、きっとこのくらいの勝手は許されるに違いない。

 代わりにしっかり、相手の注文には応じてやるとしよう。


 俺はその考え方に従い、とことん相棒に付き合ってやろう、と腹を決める。



(よしっ! やってやりますか!)


 ただしそれに続いて、あえて彼に、ちょっと無茶な要求を突きつけた。

 『お前についていく』と直接言うのが、かなり気恥ずかしかったからである。


「でも代わりに、お前の方にもきちんと仕事をしてもらうぞ!

 俺が母艦に戻るまで、一匹も敵を近づけるなよ!」


 すると彼の苦笑いしたような、あるいは安堵したような吐息が、通信越しに漏れ聞こえてくる。

 それはさすがに厳しい、あんまり無理を言うなよ、と呆れているのだろう。


 ただおふざけの類いと理解してはいるのか、悟はすぐ態度を切り替えて、迷わず俺の依頼に応じた。

 すっかり明るさを取り戻した、いつも通りの彼の口調で。


『了解っ!』


 そして独り勇敢に、迫り来る敵機の迎撃へと戻っていく。

 俺はそれを見届けつつ、心の中でエールを送ってから――


(頼むぜ、相棒!)


 すかさず意識を己が機体へと集中、今の自分にできる唯一の努力として、損傷した機体を軽量化する作業に取りかかった。

 もちろん少しでも速度を上げて、撤退の成功率を高めるためにだ。


 そこでまずは、搭載している武装の内、左手のプラズマソード以外を全て投棄する。

 さらに激しく損傷している右半身を、その残した武器で、思い切って根こそぎ切り落とした。

 ちょっと乱暴だが、これでかなり機体が軽くなるだろう。


 またその際、ついでに健在な左足も容赦なくぶった斬っておく。

 撃墜されるかどうかの瀬戸際で、足など惜しんではいられないからだ。

 それから最後、そのプラズマソードをも捨てて、ひと通りの軽量化作業を完了した。


 結果として、俺の機体は――


(こんな感じか……まあ、ずいぶんひどい姿になったもんだ)


 食べ残しの魚の骨みたいな、たいへんみすぼらしい姿へと成り果てる。

 本来備わっているはずのパーツを、大部分削ぎ落とされたからだ。

 言うまでもないことだが、本来なら誰にも見られたくない醜態である。


 しかしもちろん、今は体裁なんて考慮の外。

 とにかくこの苦境を脱するため、思いつく限りの手段を、可能な限り実行するのみだ。

 そう再度決意を新たにしてから、俺はすっかり軽くなった機体を操り、祈るような気持ちでスラスターを全開にした。


 すると、幸いにも――


(……よし! いいぞ!)


 先ほどまでと比べて、機体の動き出しがずいぶんスムーズになり、ある程度は速度が上昇してくれる。

 この調子なら何とか、作戦時間内に母艦へ帰り着けるかもしれない。


 その希望を胸に、俺は可能な限り急いで、星の海を進んでいった。

 後ろでたった一人、全ての敵を引き受けて戦う悟に、内心絶え間なくエールを送りながら。


 するとそのまま、相棒を信じてひたすらに後退を続け、それによる負担で機体が悲鳴を上げ始めた頃――


(……見えたっ!)


 ようやく帰還予定の母艦が、はっきりと見える位置にまで到達する。

 そいつは現在、格納庫のハッチを開放して、俺達の帰還を今や遅しと待ち構えていた。

 後はあそこに飛び込めば、万事が解決である。


 だが当然のごとく、事はそう簡単に運んでなどくれない。


(くそっ、やっぱり数が多すぎるか……!)


 敵がますますその数を増やしながら、すでに各自の武器の射程に捉えようか、というところまで迫っていたから。

 そのせいで視界に浮かぶレーダーは、敵機を示す赤い表示で埋め尽くされている。

 このままでは遠からず追いつかれ、俺はあえなく撃墜されてしまうだろう。


 つまりは再び、絶体絶命の窮地へと陥ってしまったわけだ。

 生還までは、本当にもうあと一歩というところだと言うのに。


 そんな現状に焦る俺へ、いっそう追い討ちをかけるかのように、突然悟からの警告が届いた。


『ごめん、カイト! 一機そっちに行った!

 左からだ、気をつけて!』


 俺は当然、素早くそれに反応し、言われた方へと視線を向ける。

 その先に見えたのは――


(……もう追いつかれたのか!)


 主砲をこちらに向けて、じっと狙いを定める、一機の『ビッグアイ』の姿であった。

 やはりさすがの悟でも、あれだけの数の敵の追撃を、一人で全て阻むことはできなかったらしい。


 しかもそいつは、すぐさまその砲口に、攻撃の前兆らしき光を溢れさせる。

 このまま何もしなければ、至近距離からあれの直撃を受けてしまう、というわけだ。


 だが今の俺には、それに対抗できる手段が何ひとつ残っていない。

 武器は全部捨ててしまったし、機体はのろのろと前進するだけで精一杯、という有り様だったから。

 戦うことも逃げることも、すでに不可能となっていたのである。


 ゆえに俺は、まな板の鯉と言うより他はない状態で、そのまま為す術なく撃墜――


(ここまでなのかよ……!)


 ――されるのみだと、思っていたのだが。


(……あっ)


 しかしその寸前で、突如母艦の方向から青白い光線が出現、例の『ビッグアイ』を撃ち貫いて爆散させた。

 どうやら誰かが、絶妙なタイミングで加勢してくれたらしい。


 その予想外の事態に驚く俺へ、次いでひどく焦った様子の、こちらを急き立てるような通信が届く。


『二人とも早く! もう時間が無いよ!』


 先ほど支援を申し出てくれた、久保擁介が発する呼びかけだ。

 それに誘われて母艦の方を振り向くと、格納庫のハッチのすぐ側で、大きな武器を構える彼の機体が見えた。

 おそらくあそこから、先ほどの『ビッグアイ』を狙い撃ったのだろう。


 しかもその言葉に続いて、今度は指揮官役の志藤明が、皆に指示を出す声も聞こえる。


『射程の長い武装がある人は、彼らの援護を!

 敵を近づけさせないで!』


 直後、そいつに呼応して、何本もの光の束が目の前を通り過ぎていった。

 部隊の仲間達が放った、俺達への援護射撃である。


 結果としてその攻撃は、追いすがる敵集団に次々と命中し、一時的にだが連中の勢いを弱めてくれる。

 きっと被弾により陣形を崩した敵が、それを立て直そうとしているからだろう。

 これならどうにか、連中を振り切り母艦へ到達できるかもしれない。


 そこで素直に、皆へお礼を言ってから――


「すまん! 助かる!」


 俺は最後の力を振り絞って、帰り着くべき母艦を目指し、一心不乱に突き進んでいった。

 恥も外聞も捨て去り、ただ自身の生存のみを考えながら。


 そして一気に残りの距離を詰め切ると、勢い任せに格納庫のハッチをくぐり抜け、無事内部へと進入する。

 そして最後は倒れ込むように、床へと衝突しつつ着艦を果たした。


(……着いた!)


 またそれと時を同じくして、母艦の周囲に展開していた仲間達も、役目は終わりとばかりに続々と戻ってくる。

 これでほぼ、撤退は完了というわけだ。


 しかし残念ながら、そうして帰還を果たした機体の中に――


(くっ……サトルがまだ外に!)


 我が友、結城悟は含まれていない。

 彼だけは未だ、外の宇宙空間に取り残された状態なのだ。

 たぶん俺の後ろを守っていたせいで、皆と一緒には戻ってこれなかったのだろう。


 しかも間の悪いことに、ちょうど俺の帰艦と前後して、母艦が動きを見せた。


(……まずい! もう時間切れなのか!)


 体の芯に響くほどの、非常に重苦しい音を立てながら、ゆっくりと前に進み出したのだ。

 どうやら作戦のタイムリミットを迎えたことで、予定通り撤退が始まったらしい。


 また次いで、その証明であるかのように、格納庫のハッチが徐々に閉鎖されていく。

 これではそう遠くない内に、そもそも帰艦自体が不可能になってしまう。

 もはや一刻の猶予も残されていない、と言っていい状況であろう。


 ゆえに俺は、床に倒れていた自分の機体を起こしながら、外にいる親友を目一杯に急かした。


「サトル! 早くしろ! 置いてかれるぞ!」


 するとそれを聞いた悟が、さらに機体の速度を上げて、一気にこちらへと近づいてきた。

 閉じていくハッチの隙間を、何とかすり抜けようとするみたいに。

 今も降り注ぐ敵の猛攻を、巧みに回避し続けながら。



 それは一見、無茶な試みのようにも思えたのだが。

 しかし機体の機動性のおかげか、互いの距離はあっという間に縮まっていく。

 これならほどなく、彼も無事に艦へと帰り着けることだろう。


 それを自らの目で確認して、俺は自分のせいで悟が犠牲にならなくて良かった……と、胸を撫で下ろしていたのだが。


(……ん?)


 しかしその穏やかな感情は、次いで視界に飛び込んできたもののせいで、跡形もなく引き裂かれてしまった。


(あれは!)


 それは悟の後方に広がる宇宙空間、その一点に生じたとある変化――そこに浮かぶ星々の瞬きが、微妙に揺らいでいるように見えたことだ。

 まるで先ほど目にした、不自然に歪む地球のように。

 その現象が示す事実は、間違いなくひとつしかない。


 だから俺は、それを見つけると同時に、素早く悟に警告を放とうとする。


「サ……」


 しかし俺がそれを告げ終わるよりも早く、例の歪みがその揺らぎを強めて、そこから巨大な光線を放出した。

 そしてそいつは、こちらへ向かう悟の機体を――


「サトルーっ!」


 後ろから丸ごと呑み込み、目視できなくなるくらい完全に覆い尽くす。

 漆黒の宇宙へ、眩しいほどに輝く軌跡を刻み続けながら。


 結果として数秒後、その光が途絶えた時、俺の目の前に現れたのは――


「あ、あ……うわあああっ!」


 残っているのは頭と胸周りだけ、という見るも無惨な状態で、宇宙を漂う悟の機体だった。

 今の俺なんかよりも、ずっとずっとひどい損傷である。

 あれではどう考えても、こちらへ向かうことなど不可能だろう。


 そんな友の惨憺たる有り様が、俺の心に激しい後悔を生み出す。


(くそっ、くそっ! なんでもっと早く知らせなかったんだ……!)


 もっと早く警告していれば、あいつを救えたかもしれない。

 自分が同じ攻撃を受けた時、彼がそうしてくれたように。

 そう激しい後悔を覚え、己を強く責め立てたのだ。

 悟にしてもらったことを、俺の方はしてやれなかったことが、何より無念でならなかったから。


 だが、今はもちろん――


(いや……まだだ!)


 胸を埋め尽くすその激情に囚われて、何ひとつ行動を起こさぬまま、というわけにはいかない。


 だって悟がまだ、目の前で生きているから。

 どんなにボロボロであっても、完全に撃墜されたわけではないから。

 ならば後悔はいったん捨て置き、最後まで彼の救出に向け尽力すべきだろう。


 その思いを支えに、俺は壊れかけの機体を必死で操作し、ようやく帰り着いた母艦から再度彼の元へ向かおうとする。


「待ってろ! 今……」


 だがその無謀すぎる試みは、他の誰よりも強く、本人から拒絶されてしまった。


『駄目だ!』


 当然俺は、そんな悟に反論を行ったが――


「いや、だけどよ! このままじゃ……」


 彼は即座にそれを遮り、否定できない事実を告げてくる。


『もう時間が無い! 今そこを出たら、二人とも死んでしまう!

 カイトはそのまま逃げてくれ!』


 もちろんそんな事は、俺だって十分に承知済みである。

 状況を的確に分析すれば、きっとここで母艦の外に出たとしても、二人仲良く置き去りにされるだけだろう。

 要は救援ではなく、単なる自殺行為に過ぎない、というわけだ。


 ただしそれがわかっていても、やはり俺の決断は変わらなかった。


「……そういうわけにいくか!」


 自分を救ってくれた親友が、逃れられぬ窮地に陥っている以上、それを見捨てて逃げ出すことなどできなかったから。

 ゆえに覚悟を決めて、俺は機体に残った最後のエネルギーを使い、限界寸前のスラスターを再起動――


(今いくぞ、サトル……!)


 そのまま母艦の格納庫から、果敢に戦場へ舞い戻ろうと……して、いたのだが。


(…………あれ?)


 そこで突如、自らの行動に対する根本的な疑問が芽生えてきた。


(俺……なんで必死になってんだ?)


 なぜ自分は、こんなに焦っているのだろう、と。

 どうしてこれほどまでに、無我夢中なのだろう、と。

 そう己の心理状態に、拭いようのない不審さを感じたのである。


 だってこれは、所詮ゲームの中の出来事でしかない。

 撃墜されたところで、単に今までのデータを失うだけ。

 また作り直すことも可能なんだし、ここまで熱くなる必要なんて無いはずなのだ。


 それなのにこの、異常に大げさな反応。

 明らかに入れ込みすぎで、いささか滑稽な振る舞いとさえ言えるだろう。

 どうやら俺も、いつの間にかゲームの雰囲気に吞まれていたらしい。

 落ち着いてから思い返すと、何とも気恥ずかしいという印象しかない。


 だがそんな風に、冷静さを取り戻してなお――


(でも……だけど!)


 未だ気持ちの高ぶりは、一向に治まる気配を見せない。

 なぜだか胸の内から、このまま未来永劫悟と会えなくなるのでは、という不安が消えぬのだ。

 そんな馬鹿な話があるものか、とはっきり理解しているにも関わらず。


 それが原因で俺は、出所不明の憂いと常識的な判断の板挟みになり、しばしその場で凍りついたように固まってしまう。


 結果としてその、わずかな迷いのせいで――


(……あっ)


 肝心な場面で、致命的に出遅れることとなった。


(ハッチが……閉じる!)


 俺がそうして、動揺から静止している内に、格納庫のハッチがほぼ閉ざされてしまったのだ。

 その隙間はもう、腕を入れられる程度にしか残っていない。


 こうなってしまえば無論、友の元へ馳せ参じるのは不可能だ。

 できるのはせいぜい、その最期の姿を目に焼き付けることくらい。

 つまり俺は、またしても悟の助けになれなかったのである。


 そんな現実を突きつけられ、絶望で溺れそうになる俺へ、次いで悟から途切れ途切れの声が届く。

 あたかもそれが、彼自身の遺言であるかのように。


『頼む……あの……カメラ……』


 ただ通信の状態が悪く、あまりはっきり聞き取れなかったので、内容の方は見当もつかない。

 いったいあいつは、俺に何を伝えようとしたのだろう。


 もっともその言葉について、俺が彼に聞き返すよりも早く、格納庫のハッチが閉め切られた。

 たいへん重苦しい響きを残して、隙間なくぴったりと。

 さらにそれと前後して、ゲーム終了時のガイドアナウンスまで聞こえてくる。


『作戦終了

 機体をスリープモードに移行します』


 当然それに伴って、機体の動作は停止、視界が徐々に暗くなっていく。

 その流れに逆らう手段を、残念ながら今の俺は持ち合わせていない。


 ゆえに続けて、俺はゲームからログアウトし、現実へと帰還することになった。

 その直前に聞こえてきた、味方機の収容を完了した母艦が、撤退を開始する際の音と震動に対し――


(サ……ト……ル……)



 まるで運命の扉が閉ざされているようだ、という不吉な印象を抱きながら……








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