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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-10 『Dear my prince』
117/173

Section-8

更新履歴 21/10/20 文章のレイアウト変更・表現の修正


 海に浮かぶクジラを彷彿とさせる、親しみあるデザインの宇宙用輸送艦が、確かにこちらへと向かってきていた。



 見慣れたその姿を、自らの目で捉えた瞬間、俺は即座に決断を下す。


(帰る!)


 今すぐ迷わず、あの場所に戻ろう、と。

 恥も外聞も捨て去り、強がりもやせ我慢も中止して、皆の待つあの学校に帰るのだ、と。

 そう改めて、腹を決めたのである。


 ゆえに早速、その意志を雪子に知らせる。


「ユキコ! 一緒に帰ろう!」


 すると彼女はそれに、今まで聞いたこともないくらいの、最高に嬉しそうな声で応じた。


「うん!」


 おかげで胸の奥から、溢れんばかりのやる気が湧いてくる。

 もはやためらいはどこにも無く、あるのは彼女と共に、安全な場所へ帰り着きたいという意志ひとつ。

 後はただ、それに従って行動するのみだ。


 しかしそうして気持ちも新たに、具体的な行動へ移ろうとしたところへ――


(くっ……仕掛けてきたか!)


 当然と言えば当然ながら、相次いで敵の後続が到着、一斉にこちらへと襲いかかってきた。

 内訳は『バグ』や『サンフラワー』、それに『クロコダイル』などだ。

 大物こそ不在だが、現状の俺に退けられる相手ではない。

 すぐにでも逃げなければ、あっという間に撃墜されてしまうだろう。


 そんな焦燥感に追い立てられつつ、俺は雪子に指示を飛ばす。

 まず何よりも、彼女の安全を確保しておくために。


「ユキコ! まだ動けるなら先に行ってくれ!

 俺もすぐに行くから!」


 彼女はそれに、動揺した声音で応じてから――


『う……うん!』


 すかさず後方へと反転し、まっすぐ母艦への撤退を始めた。

 とりあえずこれで、襲撃してきた敵とは距離がとれるはずだ。


 ただ元々の機動力が劣る上、エネルギーも尽きかけているせいなのか、十分なスピードは出ていない。

 まさしく亀の歩みと言うか、見ていて焦れてくるような速度なのだ。

 このままでは遠からず、あっさりと追いつかれてしまうだろう。


 そこですかさず、俺はそんな彼女の後ろに回り――


(やらせるかよ……!)


 敵の行く手を塞ぎながら、機関砲での応戦を開始する。

 無論撃墜するつもりはなく、あくまでも時間稼ぎが目的だ。

 あえて目立つことで、自分に攻撃を引きつけようという魂胆である。


 まあそのせいで自然と、自機の被弾は重なっていくのだが、これはやむを得ない。

 無防備な雪子が背中から攻撃されるよりはマシ、と割り切るのみだ。

 そうやって俺は、釣りの際に用いるルアーにでもなったような気分で、攻め寄せる敵を必死に抑え込んでいった。


 するとそれがしばらく続いて、『そろそろ支えきれないかも』という不安が芽生えてきた頃、ふと天の助けにしては刺々しい声が聞こえてくる。


『おい! 柳井! 聞こえるか!』


 不機嫌さがありありとにじみ出ている、斉川からの呼びかけだ。

 俺は即、それに応じてから――


「斉川か!」


 いったん敵から意識を逸らし、レーダーの方へと向けた。

 ようやく現れた救援との距離が、現状どのくらいなのかを確かめるために。


 結果として、だいぶ母艦が近づいて来ている、ということがわかった。

 無論まだまだ距離はあるが、気が遠くなるほどのものではない。

 ここに来てようやく、はっきりと生還への道筋が見えてきたわけだ。


 だがそう高揚した俺へ、まるで冷水でも浴びせかけるように、再び斉川の声が届く。


『お前こんなところで何やってんだ!

 月に行ったんじゃないのか!

 例のブースターとやらはどうした!』


 怒りや苛立ちが、疑いようもなく明確に汲み取れる声音だ。

 当たり前のことだが、俺のしでかした事に対し、まだ現在進行形で憤っているのだろう。


 その詰問口調は、はっきりと俺に思い出させる。

 自分のやらかした行いと、それに対する彼の反応を。


『無理やりにでも、押し通るしかないな!』


『倉田の差し金か……!

 さてはお前、元からあいつのスパイだったな!』


『だったら何だ! それがどうした!』


『要はずっと騙してたってわけだ……やってくれたなこの野郎!』


 それゆえについ、俺は精神的に怯んでしまった。

 この場を切り抜けられるうまい言い訳はないかな、むしろ嘘をついてごまかした方が楽なのかな。

 そんなつまらぬ発想を、再び胸の奥へと芽生えさせてしまうほどに。


 しかし俺は、その弱気で意気地の無い考えを――


(……そんな事、気にしてる場合かよ!)


 定めた決意を支えに、思い切って振り払う。

 今の俺は以前と違う、もう恐れるものなど何も無いんだ、と必死で自分に言い聞かせながら。


 その思いが揺らがぬ内に、俺は先手を打って斉川に声をかけた。

 土下座でもするような気持ちで、恥じも外聞も無い懇願をしたのだ。


「すまんっ、斉川! 助けてくれっ!」


 そしてそれに驚いてか、呆けたような答えを返してきた彼に――


『………………は?』


 見栄や羞恥心を残らず投げ捨て、薄っぺらいプライドなんてくそ食らえという気持ちで、さらに繰り返し頼み込む。

 そんなくだらないものより、自分が守るべき大切なもののためにだけ頑張ろう、との熱い意志だけを胸に秘めて。


「後で何でもするから! 土下座して謝るから! もう逃げたりしないから! お前の言うことも全部聞くから!

 だから……頼む、助けてくれ! 助けてくれっ!」


 そんな俺の、全てを投げ打った叫びに対し、斉川から返ってきたのは――


『お……うお……あ……?』


 完全に面食らった様子の、ほとんど意味不明な呟きのみだった。

 あまりにも予想外の展開に、どうやら目を白黒させながら混乱しているらしい。


 おそらく俺が謝るなんて可能性、頭の片隅にも思い描いていなかったのだろう。

 それですっかり、思考停止に陥ってしまったわけだ。

 初めてこいつをやり込めたような気がして、そんな状況でないのはわかっているが、ちょっとだけいい気分である。


 だが当然、これでは満足に会話が成立しない。

 すぐに救援が欲しいこの状況で、それは何より困ることだし、さていったいどうすべきなのだろう。


 ただそう俺が悩んでいるところへ、不意に低い声が割り込んでくる。


『ああ、いいぞ』


 今までのやり取りを聞いていたらしい、橘幹也から告げられた返事である。

 先の懇願に応えて、俺達の受け入れを承諾してくれたわけだ。


 もちろん無条件ではなく、次いで『そんなに甘くないぞ』と言わんばかりに、しっかりと釘も刺してきたのだが――


『だけどその言葉、忘れるなよ?

 こっちに帰ってきたら、斉川からたっぷり嫌味と説教を食らうだろうからな。

 せいぜい覚悟して戻って来い』


 しかしその口調には、どこか冗談のような印象も感じられる。

 どうやらこいつの方は、斉川ほど俺に対して怒ってはいないらしい。

 無論本心の方は見通せないが、とにかく今はそれで十分である。


 ゆえに俺は、力強くその要求に応じた。


「ああ! 当然だな!」


 すると橘は、俺の答えにかすかな笑い声を漏らした後、突如シリアスに戻って指示を伝えてくる。


『できるだけ急いでそっちに行く。

 それまで何とか耐えてくれ』


 それと前後して、母艦からは複数の光が飛び出してきた。

 救援に向かうため発進した、クラスメイト達の機体だろう。

 あれが到着するまで粘れば、生還の望みは無事に叶う、というわけだ。


 ただし当然、即時救出というわけにもいかない。

 今しがた橘が言っていた通り、みんなが駆け付けてくれるまで、もう少しだけ耐えなくてはならぬのである。


 なのでその時間を稼ぐため、俺はまた後方へと向き直って、迫る敵の迎撃を続けたのだが――


(くそ……あとちょっとだってのに!)


 結局は火力不足が原因で、敵の攻勢を抑えることができず、徐々に押し込まれてしまう。

 現状はもうすでに、ほとんどの敵から射程に捉えられている、という有り様だ。


 中でも特に厄介なのは、鈍重ながらも確実に接近してくる『クロコダイル』だ。

 装甲が厚く、今の火力では足止めすら不可能だからである。

 このままではきっと、近い内にさらなる肉薄を許し、奴の顎で捕らえられてしまうに違いない。


 そんな現状に焦った俺は、ひどく追い詰められた気持ちで、再び味方に意識を向けたのだが――


(まだか……!)


 残念ながらと言うか当然のようにと言うか、互いの距離はまだまだ遠い。

 あまりに間が開きすぎていて、援護射撃すら難しい状態なのだ。

 まあ先ほどの通信から大して時間は経っていないわけだし、これも無理からぬことだろう。


 しかもその際、雪子との距離が先ほどと変わっていない、ということもわかった。

 俺が押し込まれたせいで、あまり敵を引き離せなかったのだ。

 これだと雪子が背中から撃たれてしまう、という危険な状況に、胸の内では焦りが募るばかりである。


 ただそうして、周りに気をとられた結果――


(ぐっ……!)


 不覚にもそこで、『サンフラワー』の砲撃をまともに食らってしまった。

 そちらへの注意を疎かにしていたせいで、回避がわずかに間に合わなかったのだ。

 当然それにより機体は大きく揺らぎ、俺は一瞬だけコントロールを失う。


 するとその隙を突いて、周りにいた『バグ』達が一気に殺到、俺はそいつらから袋叩きにされてしまった。


(うわああああ!)


 まるでハチの大群に襲いかかられたよう、とでも例えればいいのだろうか。

 あらゆる方位の、しかも至近距離から、次々と砲火を浴びせられたのだ。

 いかに低火力の敵機とは言え、こうも攻撃を集中されては、さすがに末路はひとつしかない。


 ゆえに俺は、慌てて機関砲を闇雲に乱射し、押し寄せる『バグ』どもに反撃する。

 またそれと同時に、その場から逃れるため機体を後退させた。

 群がる虫を振り払うため、必死で暴れ回る人間のように。


(くそっ! 離れろ! 離れろよっ!)


 そうした俺の状況を見かねてか、雪子が心配そうに声をかけてくる。


『ミツル君!』


 しかしもちろん、答えている暇など無い。

 自分の命を守るため、目前の脅威を排除するだけで精一杯だったから。


 一応その抵抗のおかげで、ある程度敵の数を減らすことに成功し、『バグ』の集団から一定の距離をとれた……のだが――


(あ……)


 なんとその先で、俺は大きく口を開く『クロコダイル』に遭遇してしまった。

 『バグ』にかまけている間に、すぐそこまで接近されていたのだ。


 しかも動きが鈍いとは言え、相手は最高速度で突進してきている。

 翻ってこちらは、敵の包囲を抜け出た直後であり、回避運動が可能な状態ではなかった。


 要はこのまま、文字通り奴の餌食となるのみ、という状況なのである。

 俺は直面したその事実に、もう駄目かと絶望し、つい動きを止め硬直してしまう。


 ただそんな風に俺が、為す術なく奴の顎に捕らわれそうになった、次の瞬間――


(え?)


 ふと視界が、別の何かで塞がった。

 俺と『クロコダイル』の間に、横から突然、大きな物体が割って入ってきたのだ。

 それは黒と紫を基調とした色合いの、全体に尖ったフォルムをした、人型のロボット……


 つまり――


(あ……あ……)


 ついさっきまで、俺の後ろで母艦に向かっていたはずの――


「ユキコーっ!」



 朝倉雪子の搭乗する、C-1ガーディアンだったのだ……








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