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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-10 『Dear my prince』
114/173

Section-6

更新履歴 21/10/20 文章のレイアウト変更・表現の修正


 目の前で視界を潰すほどの光が瞬き、同時に猛烈な爆風が発生する。



 その直撃を受けた俺は、勢い良く後方へと吹き飛ばされた。

 まるで突風に煽られた木の葉のように、抵抗もできずあっさりと。


(くっ……!)


 ただし機体への被害は、それほど深刻なものではない。

 直撃を受けたわけではなく、あくまでも爆発の余波に巻き込まれただけだったから。

 なので武器を手放さぬよう抱え込みつつ、何とかその猛威に耐えて、必死に体勢を立て直した。


 そしてそれに成功した後、すかさず前方に目を向ける。

 今の爆発の原因になったのであろう、長距離移動用ブースターの様子を確かめるために。

 自分達の命綱とも言えるあれが、どうか無事であって欲しい、と切に願いながら。


 しかし直後、視界に飛び込んできたのは、そんな期待とは裏腹の――


(あ……あ……!)


 跡形もなく粉砕された、ブースターの残骸のみだった。

 それが辺り一帯に散らばって、まさしく宇宙の藻屑という雰囲気で漂っていたのだ。

 まるで俺達の末路も同じ、と暗に指し示すかのように。


 そのあまりの惨状に、俺の頭は真っ白になる。

 目の前の事態が何を意味するのか、はっきりと理解したくなくて、思考停止に陥ってしまったのだ。


 しかしそんな現実逃避は許すまじ、とばかりに、そこへ雪子の声が届いた。


『ミツル君! 敵が……敵がこっちに来てる!』


 その必死の呼びかけで、すぐ我に返った俺が、レーダーに意識を向けると――


(本当だ……!)


 こちらに向けて進行してくる、小規模の敵集団が目に入った。

 どうやら知らぬ間に、こっそりと近づいてきていたらしい。

 先の攻撃もたぶん、そいつらから受けたものだったのだろう。


 それを見て俺は、否応なしに自分の愚かさを思い知らされる。


(これ……前回と同じじゃないか!)


 最初に少数の敵が奇襲を仕掛けてきて、それを撃退する頃には他の敵が迫っていた。

 その状況が前回の戦いにそっくり、という事実に気がついたからだ。

 おそらく敵は、また同じような作戦を使ってきたのだろう。


 要は戦闘前に、ここで迎撃を行う、と決めた俺の判断――あれが残念ながら、全くの間違いであったということだ。


 だってそれは、『他には敵がいない』という前提で下されたものだから。

 後続が存在するのなら、多少のリスクはあろうとも、さっさと離脱してしまう方が良かったはずである。

 その結果がこの惨状と考れば、何で気づかなかったんだよ、と己を罵倒せずにはいられない。


 そう歯噛みして悔しがる俺の耳に、次いで雪子の動揺した呟きが聞こえてくる。


『ど、どうしよう……ミツル君……』


 怯えているのがはっきりわかる、ひどく不安そうな声音だ。

 どうやら立て続けに変化する状況に、すっかり気持ちを呑み込まれてしまったらしい。


 当然俺は、そんな彼女を励まそうとしたのだが――


(えっ……と……)


 その意志とは裏腹に、口からはうまく言葉が出てこない。

 『大丈夫だ心配するな』と、迷わず告げられなかったのである。


 それは今の自分達が、極めて追い詰められた状態にある、とはっきり理解していたからだ。

 ブースターを破壊され、月まで行く手段を失った以上は、やはりそれが妥当な現状認識だろう。


 また無論、元の場所に戻るのも不可能である。

 もう母艦はレーダーの索敵圏外で、大まかな位置すらわからない状態だから。

 例え戻ろうとしても、広い宇宙をさまよった挙げ句、エネルギー切れになるのが関の山に違いない。


 いやそれ以前にまず、どの面下げて帰ればいいと言うのだ。

 裏切った上に脅しまでかけておいて、目論見が失敗したら仲間に戻ろうなんて。

 そんな勝手、どうあれ許されるはずがない。

 考えることすらおこがましい、非現実的な選択と言えよう。


 つまり状況は八方塞がり、安易な気休めなど口にできるはずもないのである。

 ゆえに俺はその後、雪子に声ひとつかけられぬまま、ただ無為に宇宙空間を漂うのみになってしまった。


 しかしそうして迷っている内にも、徐々に敵は近づいてきている。

 このままぼんやりしていたら、間違いなく一斉攻撃を受けて全滅だ。

 とにかくまずは、あいつらだけでも何とかしなければならない、ということである。


 そこでやむを得ず、俺は戦闘の開始を決断し、急ぎ雪子にその方針を告げた。

 無論この先どうしたらいいかわからない、という不安はいったん脇に置いてだ。


「……ユキコ! 今はあの連中を迎撃する!

 色々考えるのはその後だ!」


 それから再度、レーダーの方に意識を向け、敵の戦力を確認する。


 そこに見えたのは、中央に『アングラー』、その周囲に『ゴーレム』や『バグ』、脇には『サンフラワー』や『クロコダイル』が控える……という、比較的オーソドックスな編成の敵集団だった。


 まあ要するにいつものメンバー……と一瞬は思ったのだが。

 しかし次いで俺は、その中に見慣れぬ敵機を発見する。


(ん? あいつは……?)


 それは『サンフラワー』と似たサイズの、中型の敵機だ。

 形状は人間に近く、そこに翼を生やしたような見た目である。

 もし志藤がいれば、『フェアリー』とでも名付けたかもしれない。

 状況を鑑みるに、おそらくはあれが、先の奇襲を可能にした機体なのだろう。


 たぶんステルス機能のある障壁を、味方全体に対して展開し、それでこちらの目視やレーダーから姿を隠していたのだ。

 部隊単位での隠密行動可能とする支援機、というところか。

 今後のことを考えれば、あいつもここできっちり仕留めておかなければならない。


 もっとも幸い、目立った脅威はそれくらいで、他に警戒すべき相手は見当たらなかった。

 厄介極まる『ハウンド』の姿は無いし、『オベリスク』もすでに不在だから。

 数の方も普通だし、本来であれば楽勝の敵、ということである。


 ただし無論、それはクラスメイト全員が揃っている場合の話。

 俺と雪子の二人だけでは、戦力的にかなり厳しい戦いとなるはずだ。

 特に装甲の厚い敵が多く、俺の機体では対処が難しいので、苦戦は避けられないだろう。


 それでもやるしかない、と腹をくくってから、俺は雪子に指示を出す。


「すまん、いったん前に出てくれ!

 いつものように頼む!」


 彼女はそれに、わずかに動揺を覗かせながらもすぐ応じ――


『う……うん!』


 機体を前進させ、そこでバリアを展開した。

 雪子が敵を引き付けている間に、俺が狙撃で敵を落としていく、といういつものパターンに出たのだ。

 敵の編成を考慮すれば、やはりこれが最も妥当な戦術だろう。


 もちろん最初に叩くのは、凶悪な主砲を持つ『ゴーレム』だ。

 火力の高い敵を仕留めるのは、雪子を守るために欠かせない作業だから、何よりも最優先なのである。

 次いで遠距離攻撃が可能な、『サンフラワー』辺りを狙う、という順番で攻めていくとしよう。


 そう戦い方を決めた俺は、早速具体的な行動を開始する。

 後方に控えていた一機の『ゴーレム』へ、慎重に狙いを定めたのである。

 すぐ攻撃に移らなかったのは、奴の分厚い装甲を貫くため、弱い部分を正確に撃ち抜かなければならないからだ。


 とは言え幸い、動きがそう速くはないので、狙いをつけること自体は容易い。

 ゆえに手早く照準を定めてから、俺はスナイパーライフルのトリガーを引いた。


(行けっ!)


 その瞬間、わずかな手応えと共に、銃身の先から薄い黄色の光が放出される。

 次いでそいつは、宇宙空間をまっすぐ切り裂いて突き進み――


(……よし!)


 無事、目標としていた『ゴーレム』に命中し、狙い通り頭部を撃ち貫いた。

 当然その直後、当たった部位の周辺で巨大な爆発が発生、それに伴い敵機が崩壊していく。

 幸先良く一機撃墜、というわけだ。


 だがそれを確認してから、意気揚々と次に移ろうとしたところで――


(……チッ! 接近されたか!)


 突進してきた『バグ』の群れに、近距離でまとわりつかれてしまった。

 それこそ本当の羽虫が、体の周囲を飛び回ってでもいるかのように。


 もちろんそう大きな脅威ではないが、ただ無視するのも難しい。

 俺の機体の装甲では、こいつの脆弱な火力でも、受け止め続けるのは困難だから。


 なので俺は、すかさずその『バグ』どもを機関砲で迎撃する。

 そして慣れぬ接近戦に手こずりつつも、どうにか全ての撃退に成功した。


 しかしその直後、前方から苦しそうな雪子の声が聞こえてくる。


『つっ……うう……!』


 それに驚き、慌てて声の方へ目をやると、周りからの集中砲火に晒される彼女の姿が見えた。

 俺が自分の身を守ろうとした結果、敵への牽制が弱まり、そのしわ寄せを受けてしまったのだ。

 今のところ防げてはいるが、もちろん悠長に構えている暇など無い。


 そこで間を置かず、再度狙撃を開始――


(落ちろっ!)


 手当たり次第に撃ちまくり、矢継ぎ早に敵を落としていく。

 優先して叩くのは当然、雪子を狙ってくる、長距離射撃が可能な機体である。


 その間、再び付近に『バグ』が襲来するも、今度はそちらへの対処を最低限に抑制する。

 少々の被弾は覚悟の上で、敵主力への攻撃を継続したのだ。

 まずは雪子を守ることこそ、何よりも先決だったから。


 するとそのリスキーな対応を、しばらく必死で続けた結果――


(よし……これで終わりだ!)


 見事、『ゴーレム』の最後の一機を仕留めることに成功した。

 これで大火力の砲撃が可能な敵は、後方に控えたままの『アングラー』だけ。

 『サンフラワー』もだいぶ減らしたし、後は接近戦型の『クロコダイル』や、周囲を飛び交う『バグ』くらいしかいない。


 もちろん例の新型支援機、仮称『フェアリー』も撃墜済みだ。

 そいつに関しては、装甲機動性ともに『バグ』以下だったので、ほとんど苦もなく倒せてしまったが。

 要はこれで、とりあえずの安全は確保された、ということである。


 おかげで何とか、この調子なら切り抜けられるかもしれない、という希望のようなものが見えてくる。

 先のことはともかくとして、目前の死は無事回避できそうなのだ。

 今は現状のペースを維持し、一気に敵を押し切るべきだろう。


 そう戦況に強い手応えを得た俺は、その勢いを殺さぬよう、すかさずライフルのトリガーを引いた……のだが。


 しかし次の瞬間、ひどく不可解な、ただある意味では当然のトラブルが俺を襲った。


(……え?)


 なんと引き金を引いたにも関わらず、ライフルがほとんど反応しなかったのだ。

 銃口をわずかに光らせたくらいで、後は音もなく静まり返るのみ、という状態なのである。

 その初めての現象に、俺は当然、訳もわからず戸惑うしかない。


 ただそうして一瞬だけ呆けた後、ふと以前に聞いた、斉川の言葉を思い出したことにより――


『物資が不足してるんだよ』


 俺は否応なく、残酷な現実を突きつけられる。


(弾切れか……!)


 この現象はおそらく、攻撃のためのエネルギーが枯渇したことにより起きたのだ。

 自動車でいうところのガス欠、人間なら空腹で動けなくなった、と例えればわかりやすいか。

 いずれにしても、もうこの武器で戦いを継続するのは不可能だろう。


 その事実に動揺し、思わず硬直する俺へ、さらに追い討ちをかけるような雪子の声が届いた。


『ミツル君……! これ……!』


 不安がにじみ出たその声に応じて、すぐそちらを見ると、バリアを解除した彼女の機体が目に入る。

 どうやら向こうも俺と同じく、稼働のためのエネルギーが切れてしまったらしい。

 当然あの状態では、敵の攻撃を受ければひとたまりもない。


 つまり俺達は、この危険な戦場で――


(嘘……だろ……)



 なんと二人揃って、無防備な状態に追い込まれてしまったのだ――








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