Section-5
更新履歴 21/10/20 文章のレイアウト変更・表現の修正
前触れなく眼前に出現した、視界を覆い尽くさんばかりに輝く、巨大な光の束――
無論その正体は、どこからともなく放たれた、敵からの攻撃だ。
相手はおそらく、あの厄介な『オベリスク』だろう。
どうやら知らぬ間に、奴の警戒網に引っかかり、これ幸いにと狙い撃ちされてしまったらしい。
当然このまま進めば、それにまっすぐ突っ込むことになる。
末路は言うまでもなく、機体を丸ごと呑み込まれての消滅だ。
ここはすぐにでも方向転換し、その恐ろしい未来を回避せねばならない。
そこでとっさに、俺は掴んでいたブースターを操作し、進路の変更を試みた。
(くそっ!)
すると猛烈な負荷と共に、ブースターが急激に方向転換し、例の光の柱を避けるように移動する。
おかげでどうにか、ほんのわずかにかすめる程度で、その脇をすり抜けることに成功した。
飛んで火に入る夏の虫、という結末だけは免れたわけだ。
しかしその代償として、次いで俺は、深刻なトラブルに見舞われる。
『あっ……!』
それは回避がうまくいったその直後、不意に横から、驚きと動揺に満ちた声が響き――
(しまった……ユキコ!)
雪子の機体の手が、ブースターの取っ手から離れてしまったことだ。
結果彼女は、移動中の車から投げ出された乗客のように、ものすごい勢いで後方へと流れていった。
きっと急な方向転換に対応できず、手を滑らせてしまったのだろう。
これでは無論、みるみる互いの距離は開いていくばかり。
一緒に逃げるはずが、完全に置き去りにした状態、というわけだ。
即刻対処をしなければ、これまでの努力が全て水の泡である。
そこで俺は、やむなくブースターを急制動し、その速度が落ちて静止するのを待つ。
それからそいつを手放し、いったん放置して雪子の元へ向かった。
無論、ブースターを置いていくのはかなり危険だが、しかし今は他に選択肢も無い。
彼女の方を置いていくなんてのは、それこそ本末転倒なのだから。
そうリスク承知でブースターから離れた後、俺は急いで雪子に接近し、その無事を確かめるため呼びかける。
『ユキコ! 大丈夫か!』
彼女はそれに、ひどく申し訳なさそうな口調で応じた。
『ご、ごめんなさい……私……』
自分のせいでトラブルが起きた、と責任を感じているのだろう。
全くそんな必要はないし、むしろあの状況では当然の事なのだが、まあ今はその辺もどうだっていい。
とにかく、彼女が無事であればそれで十分なのだ。
ゆえにその事を伝えつつも、同時に早口で行動を促す。
何にせよ、一刻も早くここを離れなければならない、ということだけは確かだから。
『いいから! 大丈夫、気にするな!
それより早くこっちへ!』
しかし、ちょうどその瞬間――
(くそっ! またか!)
またも宇宙のどこかから、巨大な光の束が到来し、俺達のすぐ側を猛烈な勢いで通り過ぎていった。
距離的に言えば、先ほどよりもずいぶんと近い。
こちらが動きを止めた分、狙いが正確になってきているわけだ。
そんな現状を認識した瞬間、心の中に強い迷いが生じる。
(ど……どうする?)
自分がこれからどうすべきか、すぐには決められなかったのだ。
逃げた方がいいのか、戦った方がいいのか、判断がつかなかったから。
まあそんな重い決断、今までずっと人任せだったわけだし、逡巡するのも当然だろう。
それでも今は、自分以外にその役割をこなせる人間はいない。
なので必死に無い知恵を絞り、俺は自身が次に取るべき行動について考えていった。
そこでまず思いついたのは、即刻この場からの逃走を図ること。
今すぐ置いてきたブースターのところまで戻り、それを使って一気に離脱するのだ。
敵の機動性が極めて低いから、全速力なら必ず振り切れるはずだし、そこそこ有力な手ではある。
しかし当然のことながら、撃ち落とされる危険も大きい。
ブースターは細かい動きができないので、満足な回避運動は難しいのである。
一応さっきはうまくいったが、次も同じように成功するとは限らないので、安全とは言い難いだろう。
もっともだから言って、このまま迎え撃つというのも難しい。
母艦の支援を受けられない現状では、例の志藤が発案したシステムを使えず、敵機の正確な位置を掴みづらいから。
反撃がうまくいかず、先にこちらが撃墜されてしまう、という可能性も否定できないのだ。
また戦っている最中、ブースターを放置しなければならぬのも問題である。
先にそちらを狙われ、破壊されるようなことがあれば元も子もないから。
双方とも、無視できぬリスクを抱えた選択肢、と言えるだろう。
そう現状へ思いを巡らした結果、どちらも苦しいのだと理解してしまった俺は、そのまま迷いに迷い倒した挙げ句――
(……くそっ! いいさ、やってやる!)
結局、迎撃の実行を決心する。
どれほどリスクがあろうとも、奴をここで仕留めてやる、と腹をくくったのである。
俺がそういう決断を下した理由は、まずひとつに敵の性質――『最も近い敵を自動的に狙う』という、単純な行動パターンに着目したから。
具体的に言えば、その性質のおかげで、とりあえずブースターの方が先に破壊される心配は無い……という事実に気づいたのである。
今は自機の方が、置いてきたそちらよりも敵に近いから。
他の敵が現れる兆しもないし、とりあえずは放置でも安全、と言っていいだろう。
また機体特性的にも、遠距離精密狙撃が可能な俺の機体は、『オベリスク』に対して大幅有利だ。
仮に位置が掴めていなくとも、勝てる見込みは十分にある。
やはりここは、攻めの一手が最善に違いない。
そう方針を定めた俺は、すかさずその内容を雪子に伝達した。
『ユキコ! 俺が奴を落とす!
それまで敵に狙われないよう、回避運動をしていてくれ!』
そしてそれに対する、戸惑い気味の彼女の返事を聞いてから――
『う……うん』
二人同時に、回避運動を開始する。
敵に狙い撃ちをされないよう、それぞれ別の方向へ移動し、そこでランダムに動き回ったのだ。
もちろんブースターが巻き込まれぬよう、念のため徐々に距離をとりながら。
すると直後、ほぼ間髪入れずにそこへ――
(……来た!)
再度、『オベリスク』からの砲撃が降り注いできた。
俺はそれを何とか回避しつつ、同時に目視で攻撃が放たれた地点を確認、そこに対してスナイパーライフルで反撃を行う。
あえて相手に攻撃させ、その位置を探り出す作戦に出たわけだ。
しかし、その試みも空しく――
(くそっ……手応え無しか!)
俺の撃ち放った一射は、何の現象も引き起こすことなく、宇宙の彼方へと消えていった。
火力的には一撃で仕留められるはずだから、単純に外れてしまったということだろう。
やはり正確な位置を掴めないと、即座に撃墜というのは難しいらしい。
そこでやむを得ず、再びライフルを構え直し――
(こうなりゃ、下手な鉄砲何とやらだ……!)
先の攻撃が見えた地点に向け、闇雲に連射する。
だいたいの位置を掴めている以上、多少雑なやり方でも何とかなるはず、と思ったから。
一発当ててしまえば勝ちなわけだし、十分に見込みのある戦術であろう。
しかしそんな目算とは裏腹に、中々その作戦はうまくいかず、すぐ敵からの反撃を受けてしまった。
『きゃっ……!』
今度は奴の砲撃が、雪子の機体をかすめたのだ。
一応ダメージはなかったが、いつまでそれが続くかはわからない。
もちろんそうなったが最後、俺達は破滅である。
その恐ろしい未来に、心底怯えた俺は――
(くそっ! くそっ! 当たれ! 当たれっ!)
いっそう攻撃の頻度を増して、ただひたすらに狙撃を行う。
焦りで頭を一杯にしながら、相手を仕留めるということ以外は何も考えずに。
まさしく死に物狂いで、携える武器のトリガーを引き続けたのだ。
結果として、疲労すら感じてくるほど、それを繰り返した頃合いに――
(……仕留めた!)
射線の先で、大規模な爆発が起こった。
ようやく努力が実り、あの厄介な敵を仕留められたわけだ。
これでもう、この場に俺達の命を脅かす敵はいない。
胸に湧き上がってくるのは、怒濤のような達成感のみである。
またそういう気持ちになったのは、ユキコの方も同じだったのか。
次いで耳には、珍しくはしゃいだ様子の彼女の声が届く。
『ミツル君! やったね!』
こちらも当然、ますますテンションの上がった口調でそれに応じた。
「ああ! これでもう大丈夫だ!
さあ、行こう!」
そしてすぐさま反転、置き去りにしたブースターの元へ向かう。
これで邪魔者は全て消えた、後は迷わず逃げるだけだ、と胸を撫で下ろしながら。
そう、俺はすっかり、問題を解決した気になっていたのだ。
今のこの状況――妙に少数の敵の奇襲を受けた――が、先の戦いと良く似ている、という事実に気づかぬままに……
ゆえにそのまま、ブースターへ後一歩のところまで接近した、次の瞬間――
(なっ……! うわあああっ!)
突如、目前に迫ったそれが大爆発を起こした――




