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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-10 『Dear my prince』
111/173

Section-4

更新履歴 21/10/20 文章のレイアウト変更・表現の修正


 暗い回想に囚われながらも、休まず足を動かし続けた俺は、しばしの後にレクリエーションルームへと到着した。



 そして乱暴にそのドアを開け放ち、倒れるようにして中へ飛び込むと――


(鍵……鍵!)


 すぐさまくぐり抜けたドアを閉め切り、内側から鍵をかける。

 容易には開かないよう、急ぎながらも念入りに。


 これならもし、斉川達が追ってきたとしても、すぐには入って来れない。

 ドアをぶち破るにせよ、鍵を用意するにせよ、多少は時間が稼げるだろう。


 それは当然、俺達がここを離れるのに十分な時間である。

 要はある程度だが、安全が確保されたというわけだ。


 とは言え本来であれば、このくらいだと大した足止めにはならない。

 斉川達が鍵を入手するため、職員室へと向かった時点で、この一件は倉田の知るところとなるのだから。

 基本はそこで、奴からの妨害を受け、俺の計画は頓挫してしまう……はずなのだが。


 しかし有り難いことに、現状その心配は無い。

 仮にあいつらが職員室に行ったとしても、倉田と接触することが決してないからだ。

 奴が今、そこには不在なせいで。


 実は倉田の奴、ちょくちょくそうして職員室から姿を消すのだ。

 しかも一度いなくなれば、結構な時間戻ってこない。

 それを確認してから行動を起こしたので、あの男に邪魔をされる恐れは無いのである。


 もちろんその理由は不明だし、どこに行っているのかもわからないのだが。


 ただ何にせよ、千載一遇の好機であることだけは確か。

 それを知っていたからこそ、俺はこうして大胆な行動を起こせたのだ。

 クラスメイトを裏切ってまで、スパイの真似事をした甲斐はあった、というところだろう。


 ひと区切りつけた安堵感から、そう自虐交じりの思索を巡らす俺に、次いで雪子が声をかけてくる。

 少し息を切らしながら、先ほどまでと変わらぬ、ひどく不安そうな声音で。


「ミツル君……本当に行くの?

 せめてもうちょっと、みんなと話をしてから……」


 その儚さに罪悪感を刺激され、決意を一瞬だけ揺らされてしまう。

 しかし今の俺にはもう、そうやって迷うことさえ許されてはいない。

 後戻りする道は、すでに断絶された後なのだ。


 ゆえに彼女の話を最後までは聞かず、わざとらしく声を張って、無理やりにその言葉を遮った。


「……時間が無い! 早く準備を!」


 そしてそのまま、繋いだ手を引いて、部屋の中央に移動する。

 さらにそこで、雪子を彼女用のシートに腰かけさせた後、自分もまた自らのシートに座り――


「さあ、行くぞ!」


 まともな会話を交わすこともないまま、迷わずヘッドセットを被り、そいつを起動した。

 『自分はここに残る』、なんて彼女が言い出す前に、どうにか事を終わらせてしまいたかったから。

 今この場で重要なのは、ただただ勢いのみなのである。


 そう冷静にならぬよう、必死で自分を急き立てながら、俺は今後に備えて集中力を高める。

 そしてしばしの暗転の後、視界が明るくなると同時に、素早く周囲を見回した。


 そこに見えたのは、格納庫内にズラリと並ぶ、クラスメイト達の機体だ。

 皆スタートを待つレース前の競走馬のように、じっと持ち場に佇んでいる。

 指揮官の号令が下り、戦場へと赴く時に備えて。

 まあ今の状況ならば、その標的となるのは間違いなく俺達である。


 そんな認識からふと、だったら追跡を防ぐため、ここで破壊しておいた方がいいのかな……なんて、無茶な発想を抱きもしたのだが――


(……何考えてんだよ、馬鹿)


 当然のことながら、さすがにそこまで冷酷にはなれなかった。

 どんな悪にも染まってやる覚悟だが、不要な悪事を働くつもりは無かったのだ。

 時間は十分に稼げているはずだし、ここは放置で構わないだろう。


 俺がそんな風に、皆の機体を複雑な思いで見つめていると、ふとその中のひとつが動き出す。

 言うまでもなく、雪子の操縦する機体だ。

 彼女はそのまま、こちらに近寄って来ながら、不安そうに声をかけてきた。


『ミツル君……』


 一応後については来たが、まだまだ割り切れていない、というところらしい。

 なので俺は、そんな彼女を押し切るため、間髪入れず指示を出し――


「ここで待っててくれ! すぐ戻る!」


 外に出るハッチとは逆側の、機体の修理や補給を行うエリアに向かう。

 そしてさらにその奥、普段は使っていない倉庫の扉に取り付き、脇に備え付けられている制御盤を操作した。


(確か……こうして……)


 結果苦もなく、ロックされていた扉が開く。

 これもまた、倉田に取り入って、あらかじめ艦の構造や操作方法を調べておいた成果である。

 ……その代償は、極めて大きかったわけだが。


 そう心に重荷を感じながらも、俺はそのわだかまりを振り払って倉庫に突入し、そこで首尾良く目的の物を発見した。


(あった! 調べた通り!)


 それはやや太めのミサイルに、大きな取っ手を付けたような形状の物体だ。

 これこそ俺達が生き延びるための鍵、例の長距離移動用ブースターである。

 余計な邪魔が入らぬ内に、早速利用させてもらうとしよう。


 そう決めた俺は、素早くそれを持ち上げると――無重力なので抵抗は感じない――慎重に抱えて格納庫の方へ戻る。

 そしてそこで、周りに視線を走らせ――


(……よし! まだ動いてない!)


 斉川や橘の機体が、未だに動き出していないことを確認した。

 ひょっとしたら戦闘になるかも、と考えていただけにありがたい。

 これでまたひとつ、障害が取り除かれたわけだ。


 そう安堵しつつ、今度は雪子に声をかけ、進むべき方向――外部へ続くハッチの方へ誘導する。


「ユキコ! こっちだ!」


 次いで先ほどと同じように、備え付けの制御盤を操作してハッチを開放し、二人一緒に宇宙空間へと飛び出した。

 またそれと同時に、改めて雪子へ、ブースターに掴まるよう指示する。


「この取っ手に掴まれ!」


 彼女がそれに従い、取っ手部分を握るのを確認してから、俺はブースターを起動した。

 直後、ブースターの尾部から大量の推進剤が噴射、徐々に本体ともども加速していく。


 その進む先にあるのは、例の『アヴァロン』とかいう月面都市だ。

 こいつには予め、そこだけが目的地としてセットされているので、自動的に連れて行ってくれるはずである。


 もちろん自分でも、ある程度の操作は可能なのだが、まあその必要も無いだろう。

 後は目的地まで一本道、何も考えなくてよい旅なのだから。

 そうわずかにプレッシャーから解放されつつ、俺は体へかかる強烈な加速に身を任せた。


 するとみるみる内に、母艦が遠ざかっていく。

 あっという間に距離が開き、目に見えるその姿が急激に小さくなっていったのだ。

 まるでそこへは二度と戻れぬ、という現実を突きつけてくるように。


 そして次第に、目視では捉え切れなくなり、果てはレーダーの索敵圏外にも到達した。

 母艦を認識する手段自体が、完全に無くなったわけだ。

 周囲にも何もないので、もはやこの広い宇宙に二人きり、と言った雰囲気である。


 当然その孤独感には、内心かなりの不安をかき立てられたが、しかし表に出すわけにはいかない。

 なのでそいつを打ち消すため、俺はあえて力強く、隣の雪子を励ます。

 それによって、自分自身をも鼓舞するために。


「これで後は月まで一直線だ!

 もう大丈夫、心配はいらないからな!」


 そんな俺に、雪子は訴えかけるような声で、何か言おうと……していたのだが。


『ねえ、ミツル君……』


 なんとその瞬間、俺達の行く手を遮るように、進行方向で異変が発生した。


(なっ……これは!)



 すぐ目と鼻の先の空間を、巨大な光の束が撃ち貫いたのだ――








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